チョコミントの唐揚げは、まぁ、うん。なんとも言えない味だった。ミントが苦手だから、あんまり美味しく感じなかったけど、料理としては良いのかもしれない。思った程変なものじゃなかった。
晩ごはんを食べきって、お風呂の時間になった。茜は部長に電話しながらコーヒーを淹れてみるらしい。葵は、「後から入る」って。最初に入るのは僕みたいだ。
買ったばかりの下着と寝間着を脱衣所まで持ってきて、今着ている服を脱いで洗濯籠に入れる。山盛りに積んであるタオルから1つを取り、体を隠しながら浴室に入った。
でも、隠していると洗えない。覚悟を決めてタオルを体から外し、浴槽のふちに乗せる。シャワーを手に取り、絶対に下を向かないという気持ちで体を洗い始めた。
ボディーソープを手に付け、ソレに触れないように体を泡まみれにしていく。背中を洗い、腕を洗い、脚を洗い。だけど、洗わないわけにはいかない。心を無にして洗う。感触はあるけど、絶対に意識しない。
そして、シャワーで泡を流す。上手く洗えたかはわからないけど、上手く洗えたと思いたい。どこか失敗してても、もう1回洗うのは、嫌、かな。
そこからは楽な気持ち。シャワーとシャンプーで髪を洗い流す。髪は少し伸びたけど、それだけ。細かい手入れとかはわかんないから、今度調べよう。
一通り済ませたら、タオルで顔を拭いて、浴槽に入る。出来るだけ隠すように、全身をお湯に浸けた。温かな、というか熱い。夏にすっぽり浸かったら、そりゃ熱いか。少し水を加えて、ぬるめの温度にする。
その時だった。浴室の外から、人が歩く音がする。「ふぅ」と声がする。まさかとは思う。そして、違っていてくれと願う。だけど現実は残酷で。
「あかり君、私も入るね」
「……」
取り敢えず、扉とは反対の壁に目を向ける。何があろうと、何を思おうと、振り向いてはならない。扉が開く。葵が今お風呂に来る理由がわからないけど、そんなこと重要じゃない。
「あかり君、温度大丈夫? お姉ちゃん、熱いのが好きだから、いつも熱めにするんだけど」
「みみ、水を入れて、ぬるくしたから… ダイジョウブ、ダイジョウブ」
「そっか。なんか緊張してる?」
「…緊張しない人、いないでしょ」
「普通しないんじゃない? 昔はこうやって一緒に入ってたし」
「それとは、違う、でしょ?」
「ふ〜ん? 今は女の子同士だし、なんも気にしなくていいと思うけど〜?」
確かに、昔は一緒にお風呂に入った。確かに、今は女の子同士。だけど、元とは言え、男と女が一緒に入るのは不味いんじゃないかな、葵さん?
葵が体を洗っている間、何度か話しかけられたけど、何を話したか覚えていない。会話を短く終わらせて、別の、なんの関係も脈絡もない、適当なことを考える。所謂、現実逃避。
髪を洗っている間は静かで、その間にお風呂から出てしまおうかとも思った。だけど、もし振り向いた時に、丁度見てしまったら。葵は気にしなくても僕は気にしてしまう。いや、葵も流石に気にするだろう。
そんなことを考えるうちにシャワーは止まり、葵がまた話しかけてくる。
「あかり君、どっちかに寄ってくれない? 真ん中だと、私の入るスペースがなくて… あ、あかり君の上に座るのは、流石に、さ〜すがに困るでしょ?」
「右による! 右によるから!」
「う、うん。左側、入らせてもらうね」
葵が浴槽に足を入れた音がして、ゆっくりと視線を扉の方に向ける。体は見ないように気をつけながら、横を見ると葵の顔があった。熱さからか、真っ赤に見えた。
「なんか、私まで恥ずかしくなってきた」
「そうでしょ? 僕、もう出るね」
「待って。話したいことがあってね。今、お姉ちゃんがリビングで電話してるんだけど、男かもしれない」
「…え? 普通に部長さんなんじゃないの?」
「部長さんは高い声の女の人。だけど、電話から聞こえてきたのはちょっと低い声。女の人かもしれないけど、男だと思う」
葵の声は、低く重かった。僕は、茜に男がいるということを、信じられなかった。そんな噂も聞いたことないし、茜は昔から「葵さえ居ればいい」って繰り返してた。
「声が低い女の人なんじゃないの?」
「でも、部長に電話するって言って、部長以外の人に電話をしてる。それに、会話が怪しい」
「…葵、電話の相手の声とか会話って、そんなにはっきり聞こえたの?」
「お姉ちゃん、コーヒーを淹れながらスピーカーモードで話してるから全部丸聞こえだよ」
「隠したい相手なら、スピーカーモードにしないんじゃないかな…」
僕なら、スピーカーモードには絶対にしない。葵に聞こえる状態で話してるなら、ちょっと声が低い女の人だと思うんだけどなぁ…
「それに、それにね? 電話で、『茜、あの呼び方で呼んでくれないの?』『妹も部屋にいるんで、流石に恥ずかしいです』『…そっか』って話してるんだよ? 私の前じゃできない呼び方ってさぁ!」
「…確かに、怪しい。ごめん、本当に男かもしれない」
茜は、なんでも葵に話していた。よっぽとプライベートな事以外はペラペラと喋っていた。葵に聞かれたら不味い事、つまり、プライベートなこと? 前に僕の誕生日のとき、サプライズで用意したものを話してしまうほど口の軽い茜が?
「……もし、もし男だったとして、葵はどうするの?」
「家に来てもらって、見定める」
「葵に認めてもらうの、大変だろうな〜」
「…うん。お姉ちゃん、ちょっと押されたらキュンってなっちゃいそうだし。相手がいい人か、悪い人か、私が見極めないと」
「確かにね。あ、僕もその電話の人の声が聞いてみたいから、お風呂出るね」
駆けるようにお風呂を出て、すぐに寝間着を着る。下着の着け方は頭で何度もデモンストレーションした。全部着終わって、音を立てないようにリビングに戻る。
「おぉ! 美味しいで!」
『よかった。茜に喜んでもらえて、嬉しいよ』
「ありがとなぁ、ミコトお姉ちゃん!」
あぁ、男じゃない。女の人だ。他の人をお姉ちゃん呼びしてるのを、葵に隠したかったんだなぁ。確かに、葵がお姉ちゃん呼びを聞いたら、その相手に嫉妬というか、怒りそうだ。
「…お風呂上がったよ」
「は〜い。葵も出たら、うちも入るわ」
『あ、こんばんは。はじめましてかな? 茜の、妹さんだよね?』
「違います、ただの居候です。あの、よければなんですけど、近いうちに琴葉家に遊びに来てもらえませんか?」
『なにか用事でもあるのかな?』
「あおい… 茜の妹が、あなたのことを男だと思っていて、お姉ちゃんに男が出来たって発狂してるというか、なんというか」
『…わかった。茜、明日の朝7時頃に、学校まで迎えに来てもらえないかな? 葵さんと、私も話したい』
「わかったで〜」
葵の誤解をとかないと、明日からも風呂に乱入されそうだし… 電話を切ってから茜が小さな声で話しかけてきた。
「あかり、覚悟を決めるんやで。いい人やけど、ガチの変な人やからな、どうなってもしらんで」
「…え?」
どのキャラの話が気になりますか
-
あかり(黄色)
-
あおい(水色)
-
あかね(赤色)
-
マキ(黄土色)
-
ミコト(青色)
-
ヒメ(ピンク)
-
ゆかり(紫色)