ミコトSide9 バイナリースター-AM6
遊園地で茜と遊び尽くした1日を終え、眠りについた。私は何も考えず、ただただ楽しかったという感想と、オーナーとの会食を憂鬱に思う心だけだった。大切な感情が、この時の私には欠けていたのかもしれない。 …かもしれない、ではないな。欠けていたんだ。
翌朝、いつものように目を覚ます。少し前まで暑い夏だったにも関わらず、少しだけ寒くなってきた秋。窓の外に咲き乱れる梅の花を見ながら、朝の日差しを浴びる。さぁ、新しい1日の始まりだ。時計を見れば朝6時、まだ
リビングに行くと、そこは真っ暗。カーテンも閉まったままで、ヒメはまだ起きていないということだろう。お茶を淹れ、1人静かに飲む。今日は何をしようか、創作料理の開発にしようかな。ハロウィンも近い、お菓子作りの準備も進めないと。
スマホをつけ、ネットニュースを読む。大して面白いとは思わないが、昨日のニュースは何も知らない。多少、情報を頭に入れておこう。時代に遅れてしまうのは嫌だからね、1度遅れると中々追いつけなくなるものだ。
天気は晴れが続く、スポーツは何か盛り上がっていたらしいがあまり興味がない。芸能関係は見てもわからないし、クリスマスに向けたケーキの宣伝も惹かれない。事件は… いつも通り、と言ったところか。スキャンダルも無くならなければ、犯罪も無くならない。だが、極端に増えるわけでもない。真新しいニュースはないようだ、そりゃ大事件が起きたら遊園地にいても周りの人の声で知ることになるだろう。
お茶を飲み干し、私は炊飯器を開く。夜に炊いておいたお米で、梅干しのおにぎりを作るか。作るのも楽だし、食べるのも片手間にできる。料理部の人間として最低な発言をするが、真面目に作るのは面倒なんだ。寝起きで魚を捌いて焼いて、卵を焼いて、味噌汁を作って、野菜を盛り付けて和定食。なんて、毎朝やるのは面倒だ…
食べながら、ヒメの様子でも見に行こう。まだ6時半だが、前に気付いたら家を出てどっかに行ってたことがあったからね。置き手紙はなかったから寝てるんだろうが、少しだけ不安になってしまう。多少の時間をかけてでも安心は買いたいもの、私はそう思う。
さてさて、寝顔を覗いてやろう。扉を開き中を見るが、人影はない。きっと布団でぬくぬくしているのだろうとベッドに近づくが、いない。おや? この前はここで焦って色んな人に助けを求めて痛い目を見た、冷静になろう。
まずはヒメからメールが来てないことを確認。机に置き手紙はなし、扉に貼り付けられてるわけでもない。よし、ヒメに電話をしよう。私は学んだんだ、とりあえず電話をかける。家出でもない限りは、基本的に電話に出てくれるはずだ。忙しくて出れない場合でも、1時間以内にメールが送られてくるはず。
さて、電話をかけた。ぷるるる、ぷるるる、ぷるるる… 出ないな、かけたまま机において着替えよう。向こうから切られないなら、ずっとかけたままで問題はない。動きやすいように青いシャツと黒いハーフパンツにして、上から青黒いジャケットを羽織ってこれで行こう。
ヒメを探しに行くんじゃない、散歩に行くんだ。これでヒメが急用で出かけてるだけだったら恥ずかしいからね。スポーツ帽を被って、運動靴履いて、これでいいね。ヒメが家出するとは思えないし、クラスメイトに『妹が好きだからってすぐに家出だと思うのはやめたほうがいいよ』って言われることになる気がするけど、不安なものは不安なんだ。散歩と言い訳をつける準備もした、行こう。
ヒメが行く場所なんて限られるから、私は先ず学校に行った。土日でも部活があるから普通に入れはする。料理部は今日予定がないから、先生に会ったら何をしているか聞かれるだろうけど… 私の妹愛は先生も知ってるからいいか、気にせず探そう。
2年の教室には誰もいない。ヒメの机にも何も置かれていないし、ここには来ていなさそうだ。職員室には先生がいるだろうけど、それならすぐにヒメから連絡が返ってくるはず。どこかで何か作業でもしているんだと思うんだよね、メールの返信がない時って。電話の折り返しもないし、未だにメールも読まれてなさそう。教室の時計を見たら7時を回って既に7時半。流石に心配になってくるな。
嫌われて無視されてる、ならまだいい。よくはないけど、嫌われただけならね。家出とか、何か事件に巻き込まれてるのであればそのレベルではなくなってしまう。ヒメが部活をしてる話を聞いたことないから、何部かわからないな… 帰宅部だったりするのかな? まぁ、部活で居ないんだとしたら電話には出てくれるだろうし違うか。
学校を出て、次に行くべきは… 喫茶マキに行こう、学校の近くだからすぐに行ける。呼吸を整えて、家から普通に歩いてきたふうに落ち着いて入ろう。他のお客さんもいるんだ、私が駆け込んでしまっては迷惑だからね。
「いらっしゃいませー。お好きな席にお座りくださーい」
「カウンター席に座らせてもらうよ。マスターさん、コーヒーを1杯」
「砂糖とミルクは」
「無しで」
「へい、おまち。マキ、お前の知り合いだろう。店は大丈夫だから話してきな」
「はーい。ミコト、何かあった? コーヒー飲みに来ただけ?」
「ヒメが消えた、置き手紙もない」
「探してるの?」
「うん、電話も繋がらないしメールも読まれない。1人で探してるよ、部長は見なかった?」
「見てない、私も探すの手伝おうか?」
「いや、探すのは私1人でいい。一息ついたし、また行くよ。お代、置いてくね」
「頑張ってねー」
部長も知らないなら、どこにいるか手がかりはなしってことだ。まだ8時、1日かけて探すことになってもいい。いそうな場所を手当たり次第に巡るしかないね。琴葉家に行こう、まぁ… あそこにいて、私の電話を無視してるとは思えないけどさ。他にいそうな場所がないんだよね、本当に。どこかのレストランにいるだけだったらいいけど、そうじゃなかったら… やめよう、悪い想定は。
琴葉家に向かって少し歩いた頃だった。見知った顔が、横を通り過ぎていった。思わず振り返ると、相手も同じように振り返った。長い白髪と黄色い髪飾り、間違うはずがない。あかり君だ。
「ミコトさん、おはようございます」
「おはよう、あかり君。どこか向かってるのかい?」
「あ〜、はい。特に何か用事があるわけじゃないですけどね。ミコトさんはどちらに?」
「ヒメを探しているんだ。会わなかった?」
「ヒメさん、ですか… すれ違ったら覚えてるでしょうし、会ってないですね。何かあったんですか?」
「朝から行方不明なんだよ、どこかで遊んでるだけだとは思うけどね… 何かあったら困るし、暇だから探しているんだ。あかり君も、どこに行くのか知らないけど、気をつけるんだよ」
「はい、ミコトさんもお気をつけて!」
あかり君は走って去っていった。彼がどこに向かってるのかも気になるが、今はヒメを探そう。ゆっくり歩いていたら、もう8時半だ。今日はきっと、長い1日になる。気を引き締めて、行こうか。