どうも、葵です。私は今どこにいるかって? あかり君の家の、あかり君の部屋の、ベッドです。布団でぬくぬくと気持ちいい8時前、でした。スマホでソーシャルゲームをしながら、時間は過ぎていった。あまりゲームに時間はかけないんだけど、可愛いキャラクターが広告で出てきてさ。ちょっとだけやってる、多分少ししたらやめる。
そんなこんなで8時半。ガチャ、という音が聞こえた。玄関の扉が開いた音だ、まずい。誰かが来た、おそらくあかり君だろう。靴を見られたら私が来てるのがバレる、というか玄関の靴を回収できないと窓から外に出るわけにもいかない。あかり君が去ってくれないと、逃げられないな。大丈夫、あかり君は怖がりだから入ってこないはず。警察呼ばれたら、まぁ… 飛び出して謝ろう。
けれど、私の希望的観測は裏切られる。バタン、という音が何度も聞こえてくる。何かを開けて、閉めて、また開けて。力が入っているのか、足音もはっきりと聞こえる。どうしようかね… 音が近づいてきてるし、この部屋にもじきに入ってくる。とりあえず布団の中に隠れて、考えよう。まだ少しは時間があるはず。
…全然入ってこない。30分経ったよ、前にお姉ちゃんが話してた土下座のコツを思い出してたらもう30分だよ? 足音も静かになったし、どこか行ったのかな。
「うぉー! 誰かいるのかー!」
あ、いた。よし、あかり君が布団をめくったら流れでいこう。
「隠れてるのは誰じゃー!」
「…やぁ」
「…葵?」
「…気まずいね、これ」
…本当に気まずい、弱くあたって後は流れでって考えてたけど、だめだった。どうしようか。とりあえず、ベッドを降りて土下座かな? お姉ちゃんを見て学んだ琴葉家に語り継がれる伝家の宝刀を使おう。多分ご先祖様も使ってた。
「勝手に入って、申し訳ありませんでしたー!」
「…いいよ、葵でよかったって思ってる。本当に、怖かったからさ…」
「怖がらせてごめんね、本当にごめん。勝手に家に入って、勝手に部屋に入って、勝手にベッドで寝て、ごめんなさい」
「いいよ、怒ってない。でも、葵って鍵持ってたんだね。渡した覚えがなかったから、葵がいるなんて思ってなかった」
…まずい。自分でも忘れてた、私が鍵持ってるのあかり君には秘密なんだった。あかり君のお母さんから、出張で居なくなる時にもらったんだけど、言っていい、のかな。一応、あかり君の私生活が乱れてきたら叩き起こして欲しいって言われてもらったんだけど… 余程じゃない限りは使わないでって言われてた、気がする。何も考えずに使っちゃったけど。
これ、私が鍵を使ったことをあかり君のお母さんに知られちゃまずいんだよね。よし、正直に話して、お母さんには言わないでって念を押そう。これで行くぞ。
「これ、あかり君のお母さんに貰ったんだけど、秘密にして欲しいんだ。お母さんから、あかり君に何かあった時だけ使うように言われてたから… お願い、秘密にして」
「いいけど… それじゃあ、どうして今日は使ったの?」
「…好奇心、かな」
「…そっか。わかった、誰にも言わない。 …そうだ、その代わりに、付き合ってほしい事があるんだけど、いいかな?」
「わかった、どこへでも行くし、何でもするよ」
あかり君のお母さんに嫌われるのは困るんだ、この家に自由に入れなくなるし、恋人関係を認めてもらえなくなるかもしれない。放任的な人だから、大丈夫だとは思うけどね… 私に鍵を渡すくらいだし、大丈夫なはず。
それに、あかり君は秘密にしてくれるみたいだし、問題なし。何でもするって言っちゃったけど、あかり君は変なことはさせてこない、はず。私だったら何をしてもらうか小一時間は考えるけど、あかり君にはそんな下心はないだろうし、もう何をするか決めてるんだろうからね。言うだけ得だよね、これで『やっぱりあれにしよう』みたいに言われたらどうしようもないんだけどさ。
あかり君について行って、街の時計は10時過ぎ。曲がって曲がって、途中でコンビニのおにぎりを買って食べながら進む。左に曲がって、左に曲がって、左に曲がって… ねぇ、迷ってない?
「どこに向かってるの?」
「…学校。あれ、どの道だっけ?」
「家から行くの久しぶりだもんね、それにコンビニに寄っちゃったし… スマホで地図見よう、そしたらわかる」
「いや待って、この道は通ったはずなんだよ。ついてきて、絶対行ける」
「もう10時半だよ? 結構歩いてるけど、学校見えないよ?」
「…あのマンションだ、あの奥にある! 思い出した、行ける!」
「あ、うん…」
信用ならなかったけど、本当に学校に着いた。学校に着いてからも、私はあかり君の後ろについて歩くだけ。教室に入ったけど、何をするんだろう?
「よし、葵。ずっと忘れてたんだけど、部活に入りたいと思って入部用の紙を先生に貰ってたんだよ。書かずに机に入れっぱだったんだけど、葵を見てたら思い出したんだ」
「紙、ぐしゃぐしゃだけど。それに私を見てたら思い出すって、なんで?」
「葵と同じ部活に入りたいって思っててさ。葵って、入ってなかった、よね?」
「うん、入ってない。執拗に勧誘されて入ったこともあったけど、入部届と退部届を同時に出した」
「だよね、葵から部活の話を聞かないしそうだろうなって。2人で見に行こうよ、今やってる部活」
「ついてくよ、どこへでも」
「それじゃ、行こー!」
それから私はあかり君に連れられて学校を巡りに巡った。職員室に行って先生に部活見学の許可を貰って、校庭に行って、理科室に行って、また校庭に行って、音楽室に行って、美術室に行って、また校庭に行って… あかり君、何回校庭に行くのかな。頼むから、運動部はまとめて見てほしいな。五十音順に巡るのもいいけどさ…
巡り終わった時にはもう正午。休みながらとは言え、疲れた… こんなに歩いているのに、なんであかり君は疲れてないんだろうか。実験見たり音楽聴いたりはまだしも、ボールも蹴ったし叩いたし投げたし転がしたよ? 私も体力はあると思ってたんだけど、楽しくなって止まらないあかり君の体力には敵わないな。足の疲労とか関係ないんだろうね、私は辛いけど。私は、辛いけど…
「葵、何部にする?」
「どこでもいいよ、暇な時しか行かないだろうし」
「じゃあ、料理部に入部しよう」
「体験の意味は?」
「…なかったかも」
無駄に歩かされた、ってことか。色んな部活の人に体験させてもらって、結構な手を煩わせてしまったけど、まぁいいか。あかり君が満足したならいいや、私は関係ないし。
入部届を書いて、職員室に持っていく。自分のクラスの担任が、部活の顧問だと楽でいいね。入部届を渡した時、ニッコニコだったよ。あかり君は食べる専門だろうし、私も作るのが好きなわけではないんだけど… 食べてる人の笑顔が好き、なんてカッコつけた言葉を言っておこうかな。
それと、面白い話を聞いたんだ。私達が入部届を出す少し前に、ヒメさんも来てたんだって。それで、私達と同じように入部届を出していったらしい。職員室を出たら、あかり君が慌てて誰かに電話をかけてた。話を聞いてたけど、ミコトさんがヒメさんを探してるのかな? すぐに見つかりそうだね、迷子でも夜逃げでも事件でもないってことだし。というか、入部届を出しに来たなら家に帰ってるんじゃ? 私はそう思ったけど、言わなくていいか。ミコトさんが走り回ってるところ、見てみたいし。
私達が学校を出て、近くにある食べ放題の焼肉屋に入ったのはもうお昼を過ぎた13時頃のことだった。