「葵、見て!咲いてる! もう咲かないと思ってた!」
「おぉ、本当に咲いたんだ。雪みたいな白色で、綺麗だね」
「うちに感謝せえよ、あかりが忘れとる時はうちが水やってたんやからな?」
「ありがとう茜、僕と花の恩人だよ」
「お、おぅ…」
なんと今日は12月、それも22日。9月に葵と遊園地に行ってからは、特別なことはなく普通の日常を送ってた。僕が蕾からあかりに戻ることはなく、変な夢を見ることもなく、家族も帰ってこず、テストで赤点も取り、つい先日学期末を迎えた。ミコトさんの主催で料理部6人でお月見をしたり、ハロウィンに白い布かぶって幽霊に化けてお菓子貰ったり、敬老の日に電話しそうになって止められたり… 今の女の声で電話かけたらおじいちゃんもおばあちゃんも腰抜かしちゃうかもしれないからね。流石に、僕の声はわかると思うし、わかってくれると信じてるから。
後は… ないね、本当に普通の日常だったからさ。この3ヶ月はなんにも起きなかった、不思議なくらいね。不思議ではないか、普通なんだから。葵と2人で買い物に行ったり、ゆかり
さて、昔を振り返ったって何にも起こらないんですよ。未来を向きましょう、なんてったって今日は12月の22日ですよ! 1年に1度しかない僕の誕生日、つまり主役になる日です! ゆかり
「結局なんていう花なの?」
「それがわかんないんですよね、いつか咲くからちゃんと育てなさいってお母さんに種を渡されて育ててたんですけど、何の花か教えてもらってないので」
「結構前にもらったんやっけ? ちゃんと育ててたらその時に教えてくれてたんやろうなぁ… そうや、ミコトさんなら知っとるんちゃう? 梅だけやなくて、花にも詳しいやろあの人」
「そうだね、教えてもらおう」
花はそれでいいとして、今日は朝から晩まで遊び尽くす予定なんですから早く朝ご飯を作んないと。とりあえず味噌汁から… いや、今日は僕の誕生日なんですし、作ってもらおうかな。葵に。
「花もええけど、ご飯も作るでー! あかり、何が食べたい?」
「愛のこもったおにぎりがいいな」
「お姉ちゃん、任せて」
「おう、うちも作るけどな。うちと葵の分もいるんやから」
「よろしく、あかり君の分しか作らないから」
「ありがと、葵」
「ゲームしながら楽しみに待ってなよ」
今日は僕が主役なんですから、楽しみに待っててもいいんですけど… 自分が特別扱いされるのって、やっぱりなんか慣れないんですよね。 …そうだ、親からメールが来てるから返さないと。ふむふむ、うんうん。おめでとう、直接会えなくてごめんね、いつになるかわからないけど、皆でお祝いしようね、みたいな感じ。最後に、育ったあかりの写真を送って欲し、ぃ…
やばい、確かに親なら子供の成長を見たいよね。どうしよう、『葵に無理やり着せられた…』って今の写真送ればいいかな? いやいや、身長が縮んでたらわかるよね。足を写さないようにして撮れば、いやでも濡れ衣着せたら葵に悪いか。う〜ん、後回し。
「はい、できたよ」
「何味?」
「塩と鮭、ミントじゃないよ」
「梅はないのかい?」
「梅はな… ミコトさん? いつからそこに?」
びっくりした… 葵と仲良く話していたら、玄関の方向からミコトさんが歩いてきました。奥から茜も歩いてきたので、僕がメールをチェックしてる間にピンポンが鳴ってたのかな。
「今来たところだよ、まだ来ないほうがよかったかな?」
「いえ、大丈夫ですよ! ミコトさんは朝ご飯食べちゃいました?」
「食べてきたけど… 食べてこないほうがよかったのかな?」
「折角なら、皆で食べたいなって思っただけです」
「なるほど、それは悪いことをしたな… 朝6時に食べてそのまま走ってきたんだ。おにぎりだろう? 1つだけ貰えるかな」
「お姉ちゃんが作ったのを貰ってください、これはあかり君用なので」
「あ〜、うん。茜、貰うね」
「はいよー」
美味しかったです、ですけど… おにぎりは間違いでした、すぐに食べ切れちゃいます。もうちょっとボリューム感のあるものを作ってもらえばよかったですね、お昼はそうしよう。でも、4人で机の周りに座って顔を見合わせながらのおにぎり、不思議な感じで面白かったです。おにぎりを滅多に作らないですし、作ったとしても皆で食べることはないですからね…
これでも全員料理部ですからね、包丁持ったりフライパン握ってるのが楽しいんですよ。 …僕だけだったらどうしよ、僕はとても楽しいと思ってますよ。おにぎりを悪く言う気はないですけど、お米を握ってると食べたくなってきちゃいますし。
脱線してきたな、今日は誕生日を楽しむんですから余計なことを考えるのはよしましょう。
「そう言えば、綺麗に咲いたんだってね。アラセイトウかな?」
「そうなんですね… 花言葉とかってわかりますか?」
「…愛の絆、かな」
「なるほど…」
「良い言葉だね、来年も咲かせよっか」
「今度種を取らないとね」
「はい、その時はお願いします」
「花のことだけやなくて、遊ぼうや。遊びながらでも話せるで〜?」
そうでした、話すのも楽しいですけど遊ぶために集まったんですからね。でも、何しましょうかね… 僕は特別、やりたいこととかないんですよね。
「それであかり君、今日は何するの?」
「う〜ん… 好きに遊べば良いんじゃないですか?」
「したいこととかないんか〜?」
「ないよ、普段から好きにさせてもらってるもん。適当にゲームして過ごそうよ」
「あかり君らしくていいじゃないか。さぁ、遊び尽くそうか」
僕達はそれぞれに手を伸ばして、ゲームのコントローラーを掴んだ。何をするかも、いつまでするかも決まってない。だけど僕達のすることは1つだけ。