Part肆拾参 妙なリアリティ
「んぅー…」
…おはようございます。眠い… もうちょっと寝ようかな… まだそんな時間じゃないでしょ…
「…どこだここ」
寝ぼけたかな、ちょっと顔叩いて… 痛い、けど夢だねこれ目がはっきりしたからよくわかった。本当にどこ、僕の人生の中で見たことない場所なんですけど… 壁も床も天井も真っ白な部屋なんです。僕が寝てるベッドと扉、以外になんにもない本当に謎な部屋なんですよ、とりあえず扉を開けてみます?
「お、おじゃましま〜す」
怖いのでゆっくり扉を開けたんですけど、扉の向こうには木の壁と床と天井が見えますし、普通な感じの部屋ですね。起きた部屋が異質だったので化け物でもいるんじゃないかと思ってたんですけど、平気そうなので入ってみますか。
「誰かいませんかー!」
返事なし、だからって安心はできないですけどね。前に見た夢と違って他に誰もいないっていうのも怖いですし… いつもは家だったのに変な部屋でしたし前までの夢とは違うのかな。いい夢見るお守りのせい? あれも変な人にもらったって言ってましたし、呪いのお守りなのかな。
この部屋にはソファーとベッドと扉2個、正面と右ですね。 …あれ? 僕が通ってきた扉、どこ行きました? 後ろ、普通に木の壁なんですけど… もしかして壁に擬態してるんですか、これ。向こうからなら普通に開けられるけど、こっちの部屋に入っちゃうと壁と同じ柄だからどれが壁かわからない、みたいな。いや、そもそも扉閉めてないんですけど。
いつもは夢から覚めないでくれ、なんて思いますけど今だけは夢から覚めてくれって本気で思ってます。意識ははっきりしてますけど、覚める雰囲気はないですし、僕を逃がしてくれないタイプの悪夢なのでは、とさえ思ってしまってます。僕のいい夢、どこ…
「はー、ふーっ… よしっ、右の扉開けよう」
もう一度覚悟を決め直して、次の扉に手をかけた時でした。僕が触っていない、入って正面の扉がギーッと突然にゆっくりと開いたんです、よぉ… 怖いなぁ、誰かいるのかな。頼む、風で開いただけであってくれ… 怪異のたぐいはやめて、お願いだから…
「すみません、誰か… あかり、ちゃん?」
「あっ、葵! 会いたかった、怖かったよぉ…」
「私も会いたかった。大好きなあかりちゃんに会えて嬉しいよ」
「うん、ぼ… 私も、本当に嬉しい」
危ない、僕って言いかけた。なんでかわからないけど、葵にちゃん付けで呼ばれてるって事はこの夢の中の僕は女の子、なんだよね? ただでさえ訳が分からない夢なのになんで更に難しくするんだ、現実と同じで男にしてくれたら良かったのに… いや、現実でも女の子か、今は。
「…あかりちゃんはどこから来たの? 私は気付いたらこっちの部屋にい… たんだけど、扉、あれ?」
「私も気付いたら白い部屋にいて、扉を開けてここに来たんだけど、この部屋に入ったら扉が消えちゃったんだよね」
「私が牢獄スタートはわかるけどあかりちゃんまで…」
「ろ、牢獄?」
「気にしないで。それより、最近なにか変なこととかあった? こうなる心当たりとか」
「…何もなかったと思います。あんまり覚えてなくて… 葵は?」
「…私も特には覚えてない」
夢なんだから覚えてないって言うしかじゃん! 葵も心当たりがないみたいですし、夢のこととは言え無茶苦茶だなぁ、今回は。それに葵は葵で変なこと言ってましたし、牢獄とか。ここは確かに牢獄と言われたらそうかも、と思いますけど、何の脈絡もなく言ってくるのは変です。この夢、どこまで僕を困らせるつもりなんだろう…
「…ちょっと、抱き締めて貰っていい?」
「えっ? 別に、良いですけど… 急にどうしたんですか?」
「…なるほど、少しわかったかもしれない 」
「なにかわかったんですか!?」
「うん、大事なことに気付いた気がする」
葵は何かに気付いたみたいですけど、あんまりあてにしない方が良さそうですよね。色々考えてるみたいですけど、結局は夢の世界の存在ですし。さ、僕は次の部屋に行きますか。開けないと何もできませんし、夢から覚めないかもしれませんから。扉は1個だけになっちゃいましたし、勢いよく開けちゃいますか。
「開けますね、ちょっとだけ離れててください」
「待って、あかりはもうこの部屋を調べたの?」
「調べてないですけど、調べなくて良いんじゃないかなって思うんです。早く先の部屋に行って、こんな変な場所から脱出しましょうよ」
「…わかった、あかりに従うよ」
…あかりちゃんって呼ばれてたのに呼び捨てになってますね。やっぱり葵も変な人なのかもしれません。別にいっか、声と見た目は現実の葵と同じですから。安心させてもらえれば十分ですよ、ひとりぼっちの時よりだいぶ心は穏やかです。
「開けまーす、えいやっ!」
「かけ声、いる? それに扉の奥にあるの、ここと全く同じ部屋っぽいけど」
「入ってみますか」
「うん、私が先に入ろうか?」
「いや、私が行きます。入りま… あれ、入れない」
「パントマイムしてるわけじゃないもんね、見えない壁? 夢って本当にやりたい放題だね…」
「…夢、ってわかってるんですか?」
「そりゃ、うん」
やばい、こんがらがってきた。夢の中の葵はここが夢だってわかってるんですよね? つまりここは、夢の中の葵の夢の中? いや、僕の夢の中にいる葵が、ここは葵の夢の中だって言ってるだけなので、僕の夢の中ってだけでいい、んですよ。よし、理解できた。賢くてよかった。
「それで、ここからどうする? 次の部屋には行けなくて、元いた部屋にも戻れないけど。この部屋、調べ終わってるんでしょ?」
「うん… 葵、どうしよう。私は何をすればいいのかな」
「まず私の顔見て」
「えっ… わかった、見てるよ」
「近付いてきて、くっついちゃうくらい」
「ええっ!? それはだめだよ、キスしちゃうじゃん」
「嫌なの? 恋人なのに」
え、恋人なの? そこだけは現実と同じ… この夢、本当に訳わかんないから、次は入り口に手紙でも置いといてくれないかな。もう考えるの辛くなってきたよ…
…現実と同じ? そう言えば少し前から、葵が僕のことをちゃん付けで呼ばなくなってたよね… ふむ、なるほど? ここは僕の夢の中で、葵も夢の中だって言ってる。わかった! そういうことか、さっきの僕全然賢くなかったじゃん!
「わかった葵、行くよ」
「えっ!? ちょっ、冗談だよ?」
「冗談ってわかってるよ。でも葵がしたいなら、好きなだけどうぞ?」
「そりゃしたいけど… って、ちょっと止まって、むぐっ…」
「どう? あ、夢の中でもファーストキスって言うのかな、どう思う」
「しら、しらないよ、しらない。はーっ、びっくりした…」
「あ… ごめん、嫌だった?」
「嫌じゃない、でも初めてがこんなのって…」
「こういうことしたら扉が開く漫画とかあるらしいじゃん。それに、夢の中の葵にキスするのは申し訳ない気がするけど、現実の葵ならいいかなって」
「わかっててやったの、へぇ…」
やっちゃったな… 夢の中とは言え、急にするもんじゃないよね。でも煽るのが悪いんだよ、煽るのが。 …やっぱ、申し訳ないことしたな、葵だって本当は嫌だったかも。嫌われないといいなぁ。夢のことって起きたら忘れてることが多いらしいし、そうなったりしないかな。2人で同じ夢を見てるって変な状況だし起きたら2人とも忘れてたらいいなぁ。
…ちょっとだけど、恥ずかしいな。僕、初めてだし。でも葵も初めてだったんだよね、多分。本当に、悪いことをしちゃったかもな…
「ほら、扉の先に行くよ。通れるみたいだしさ」
「本当に通れるんだ…」