「んーっ、あさ… は?」
いつもと違って、あまりにもわかりやすい夢だった。これまでの夢は普通の現実の中って雰囲気だったし、ちゃんと寝た場所と関係した場所で起きてた。学校で倒れたら保健室だったし、現実とリンクしてるのかなとも思ってた。私は昨日真っ白な部屋の中で寝た、わけないよ。牢獄か何かに移送されたのかな。
頭もフル回転できる、そう言えば夢の中だと寝起きから頭がスッキリしてるんだね。私だけなのかな、夢って人によって違うらしいからわからないか。汚れ一つない真っ白で、おそらく完全な正方形の床、壁も天井も明暗の違いすらない真っ白な部屋。照明はどこについてるんだ、この部屋。私がとんでもない夜目を手に入れた結果光による明暗の差がわからない、なんて夢だとも思えないし、雑なだけだと思っておこうかな。誰が夢を作ってるのかなんて知らないけど、私の脳でしょ、多分。疲れて雑になった結果この虚無な部屋、ってわけ。誰か私を叩き起こしてくれ…
都合の良いことに携帯がポケットに入ってたから取り出して、都合の良いことに夢の中の紲星あかりさんの電話番号が登録されてたので電話をかける。 …圏外。なんでここだけ都合が悪いのか、私ってそんな嫌がらせみたいなことしない性格なのに。
「誰かー、助けてくださーい」
返事なし、取り敢えず部屋を調べますか。私が寝てたベッドの他には何もない部屋、調べることない、かも。床も壁も天井も、完全な白一色で模様もないから何も分からない。ベッドを調べるか、扉を開けて外に出るのは嫌だし。 …扉なんてあったっけ、壁って一面白で何もなかった気がするんだけど。ホラーな夢とか嫌だよ、今日は幸せな気分なんだから。
怖いけどベッドを調べよう、何かあっても何もなくても怖いけど、何もせずにこの部屋にいるのも怖い。布団をめくっても何もないと思うけど、めくって… そりゃないよね、さっきまで入ってたんだもん。枕の下とか… え、あるんだけど。
これは、これは… 見なかったことにするか、凝視してしっかり記憶するか、どっちにしようか。今と同じ女の子姿のあかり君とお姉ちゃんが水着を着て海で泳いでる写真、誰が撮ったんだろう。夢の中だし私の妄想? そこまで人として落ちぶれてないと思いたいけどね… あ、内容をしっかり考えられるくらいには見たよ、この夢と私の頭について考察するためだからね?
…いや、私の妄想で確定だったね。あかり君が女の子になってから海になんて行ってない、水着も買ってない。ま、まぁ、私の妄想なら幾ら見たって良いよね? …枕の下に戻しとこう、持ち歩くのは色々まずい気がする。ベッドの下とか、脱出ゲームならよく何か隠してあるけど、どうかな?
はい、本がありました… 見るまでもないけど一応、表紙だけチェックしとこう。えー、うん。女の子姿のあかり君とお姉ちゃんの写真集だね、エッチな本じゃなかったし中も見てみよっか。ふむ、やっぱり記憶にない写真ばっかりだ。山頂で叫んでる写真とか、神社でお祈りしてる写真とか、これも妄想だね。私の写真が1枚もないのが私の妄想なんだなって感じさせてくるよ。自分の写真なんて見たくないから、嫌ってわけじゃないけど面白くないし。これも元の場所に戻しとこう。
これで調べる場所はなくなったかな、扉の先に行きますか。誰かいませんかーって、返事はないと思いながら扉を開けたんだけど… そこにはあかり“ちゃん”がいた。夢の中だから思わずあかりちゃんって呼んじゃったんだけど、あってたっぽいからよかった。少しだけ反応が悪かったけど、あかりちゃんも混乱してるんだと思う。こんな状況だし、確か鈍感で素直な子だったはずだからね。突然謎の部屋で目が覚めたら混乱するはずだよ。
それで少し話してたんだけど、気付いたら私の通った扉が消えてた。こうなるなら、さっきの写真集持ってくればよかったな。結果的に私はあかりちゃんと2人きりで、木の板を貼り付けて作ったような部屋にいる状況になった。床も壁も天井も全部同じ模様の木の板っていう絶妙に違和感を感じる部屋だけど、特に気になるのはソファーだけあることだね。何があったらソファーだけの部屋なんて作られるんだ?
それと、あかりちゃんに近況を教えてもらおうと思ったんだけど覚えてないんだってさ。私は3ヶ月くらい夢を見た覚えがないから教えて欲しかったんだけど、あかりちゃんも覚えてないとなると困るよね… というか、少しあかりちゃんの話し方が違うような? 偽物だったら嫌だし少し試してみるか。
「…ちょっと、抱き締めて貰っていい?」
「えっ? 別に、良いですけど… 急にどうしたんですか?」
「…なるほど、少しわかったかもしれない 」
「なにかわかったんですか!?」
「うん、大事なことに気付いた気がする」
触れた感覚でわかった、偽物じゃない。でも話した感じあかりちゃんでもない。あかりちゃんは私が病気の時にずっと抱き締めてくれたし、ファーストキスのやり直しを約束するくらいには良い関係だった。あの時は動揺しちゃったけど後から考えたらわかったんだ、夢の私とあかりちゃんは恋人で現実の私達よりも進んだ関係だったんだよ。なのに今あかりちゃんは驚いた素振り見せたし
つまりだよ、私はこう考えた。目の前にいるのはあかりちゃんじゃなくて、あかり君なんだ。今日誕生日を迎えて、私が寝る少し前にすぅすぅ寝息を立てていたあかり君。私とあかり君が同じ夢を見てるって考えるのが1番自然と思うんだよ、私はね。起きてる時より頭でちゃんと考えられてる気がする、寝てるからかな。
それに、私は寝る前に枕の横にお守りを置いたんだ。あかり君がゆかりちゃんに2個もらった、いい夢を見るお守りだよ。『2個も貰っちゃったな…』って言ってたから片方貰ったんだ。棚にしまおうとしてたし、放置するよりは使ったほうがいいと思ってたんだけど… あのお守りのせいでこの謎の夢に入ったなら良かったとも悪かったとも言えないな。あかり君と同じ夢を見れるって楽しそうだけどね、謎の夢じゃなければ。
本当はこの部屋も調べたいんだけど、あかり君はもう次の部屋に行きたいみたいだから調べるのは諦めよう。あかり君は私が本物だって気付いてないみたいだから、自分が調べたかどうかだけで考えてる、と思う。私のことを夢の中だけのキャラクターだと思ってるんだろうね、私には沢山聞いてくるけど自分からは何も言わないしさ。まぁ、主人公気分にさせてあげるけどね。私は脇役に徹しますよっと。
でも、ちょっとだけからかってみようかな。現実のあかり君は絶対にキスとか恥ずかしがってしてくれないけど、夢の中ならしてくれるんじゃないかって思ったんだよ。一緒にお風呂に入るのさえ渋々だけど、本心は違うんじゃないかって試してみたい思いもあるし、折角の夢で何もしないのは面白くないでしょ?
…なんて軽い気持ちで挑発したのが過ちだったな。まさかあかり君が本当にキスしてくるとは思わなかった。しかもだよ、私が本物だって気付いた上でキスしてきたんだよ。あかり君がやっばり偽物であかりちゃんなんじゃないか、って考えもよぎったくらいには驚いた。落ち着け私、取りあえず隣の部屋に行ってみよう。透明な壁があるらしいしぶつかって落ち着こう、頭でもぶつけたら落ち着くはず。
ぶつから、ないんだけど。変なテンションで変な事しそうになってた自分がちょっと恐ろしいけど、急に頭が現実に戻ってきた感覚。夢だけどね、まだ目覚めるような感覚はしない。行こう、隣の部屋に。あかり君と2人、そろそろ普通の世界に行って遊びたいけど、ずっと謎の部屋が繋がってるだけなんだろうね。
「扉、また1個あるね。私が開けるよ」
「この部屋は調べないんですか?」
「調べなくていいよ、多分」
「じゃあ行きますか」
「はーい、開けまーす」
スルッと流したけど、この部屋もさっきの部屋と全く同じ見た目なんだね。ソファーだけの謎の部屋、家にこういう部屋があったらリラックスできそうだけど、2つあったら謎の部屋なんだよ。次の部屋も同じじゃないといいな…
…外だ、外ってこの世界にあったんだ。それに手も通る、外に出れる! よーし、これなら夢の中であかり君と好きに遊べるってことでしょ? お守りの通りのいい夢になってきた、謎の部屋だけの地獄みたいな夢じゃなかったのか…
「あかり君! 外だ… あかり、くん?」
…いない、どこ行った。扉を開けてたうちに、壁の中とかに吸い込まれた? ここからホラー、嫌だよ、本当に。頼む、ソファーの裏に隠れてるだけであってくれ、お願いだから。
「葵! 下、下見て! 潰れた!」
「はっ、えっ、あかり君!? スマホみたいになってるけど、あかり君、なの?」
「そうなってるの? 拾って、僕動けない」
「う、うん… 急に何かあったの?」
「わかんない、葵が扉を開けたら急に… あ、ありがとう。外、そうなってるんだ」
比喩とかじゃなくて、本当にあかり君がスマホの中に入ってる。外を見れる位置に持ってきたけど、これからどうしようか… あかり君を持ちながら外を歩くしかないのかな、どうしよ…
「葵、僕にそっくりな人が外を歩いてるんだけど…」
「本当だ、あの子… ちょっと待って、話しかけていい?」
「いいけど… ドッペルゲンガーみたいで怖いから、僕は後ろに隠して」
「うん、わかった」
外にいた、あかり君にそっくりな人。わかる、あの人を知ってる。この謎の家から出て、話しかけよう。絶対に、あの子だ。
「あかり、ちゃん?」
「葵ちゃん! 探したんだよ! 朝起きたら、いなかったから、本当に探したんだよ!」
「ごめん、勝手に外出しちゃって」
「いいよ、でもどこ行ってたの?」
「え? あーっ、ちょっと散歩してただけだよ」
「…葵、もしかして、夢の中の僕?」
「葵ちゃん、誰かと電話してたりする? すぐ近くから、声が聞こえたんだけど…」
「い、いやぁ? あかりちゃん、家に帰ろう」
やっぱり、あかりちゃんだった。てことは、私の夢の世界にあかり君が入ってきてるのかな。思わず話しかけちゃったけど、まずかったかもしれない。あかり君がそばにいる状況で、あかりちゃんに何かされたらどうしよう。前の夢から関係が進んでるかもしれないし、またキスされたら頭
「はい、ついてきてくださいね」
「うん、ちゃんとついてくよ」
「すみません、そこの青髪の人。私のスマホ知りませんか? 女の子がずっと映ってるスマホなんですけど」
…私?