本物の葵と2人で夢の中を進んで行ったら、途中で急に体が潰されたような感覚がしたんです。痛くはないんですけど、今ギュって潰されたなってわかりました。それで葵に今の僕のことを教えてもらったんですけど… 前に夢を見た時と同じ状態になってるんだと思います。遊園地に行った日に見た、葵に首からぶら下げてもらって散歩したやつですね。
もしかして、ここって僕の夢の中だったりするのかな? だとしたら僕を首からぶら下げてた葵と、今話してる現実と同じ本物の葵が出会ったりしちゃうんじゃ… ドッペルゲンガーってやつだよね、死んじゃうんだっけ。現実には影響ないよね?
それから、葵に持ってもらって外に出たら、葵が知り合いと会ったみたいです。葵の知り合いがいるってことは葵の夢の中なのかな、でも僕の夢の中でもあると思うんだけど… この夢が変なんじゃなくて、僕達って普段から同じ夢を見てたりするのかな? まだ葵の夢って決まったわけじゃないですけどね。
…葵の知り合いは、僕だったみたいです。僕じゃなくて“あかりちゃん”か。あかりちゃんは葵の夢の中の人みたいですけど、葵はもしかしてこういう子が好きなのかな。僕が女の子だと嬉しい、みたいだとちょっと嫌かも? いつか男に戻りたいし…
そのまま葵のポケットに入って、あかりちゃんとの話を聞こう、そんなことを考えていた時でした。もう1人の葵の声が聞こえてきたんです。女の子が映ったスマホを探してる、ってことは僕を探してるんだ。もう会っちゃったか、2人の葵が。僕が喋ったらあかりちゃんを驚かせちゃうと思うし、黙っとこう。
「…あ、はい。これですかね?」
「ありがとうございます、命の恩人です」
「葵ちゃん、そんな凄いことしたの?」
「そう、かも?」
「…もしかして、あなたもアオイって言うんですか?」
「その言い方からして、同じ名前なんですか?」
「はい、葵と言います。あの、アオイさん。近くのレストランで少し話しませんか? スマホのお礼もしたいですし、話してもみたいんです」
「…私も一緒させてもらいますよ、私の葵を取られたくないので」
「どうぞ、取る気もありません」
あかりちゃんがいる間は黙ってようと思ったけど、喋らないといけなさそうだな。後1時間は喋れなくなっちゃいそうだもん、このままだと。それに1時間経ったら目が覚めちゃう、よね? でも気まずいというか、話しづらいというか… 葵はよく葵と上手く話せるなぁ、僕もあかりちゃんと上手く話せるかな。天気の話でもしようかな? 急に喋ると驚かせちゃうかもだし、腕振って葵にアピールしとこう。お店に向けて歩き始めちゃったけど、気付いてくれるかな。
「喋る?」
「アオイさん、どうかしました?」「……」
「うん、喋る」
「電話してるんですか? 音、結構漏れちゃってますよ」
「違うよあかりちゃん、自我を持つスマホだよ」
「…詳しいですね、ゲームか何かの知識ですか?」
「そうです。あってますか?」
「はい、あってます」
多分あってる、違ったとしても夢だしオーケーでしょ。そう、葵はいるけど夢なんだから緊張しない方がいいよね。夢のことは忘れるかもだし、忘れてくれるって信じてるから。次の夢に引き継がれるかもしれないけど、あのお守りの仕業だと思うし大丈夫、だと思う。
…そうだ、夢なんだしもっと楽しまないと。忘れるって信じてるんだからもっともっと楽しむべきだよね。忘れなくても夢の中の出来事で済む話なんだし。葵も、覚えてたとしても夢の中のことだから気にしないと思うし。よし、自分なりに夢を生きてみよう。葵が2人の方に僕を向けてくれたし、喋ろう。
「はじめまして、サポートAIのあかりと申します。マスターと外食をしてくださり、感謝いたします」
「もしかして、私と同じ名前なんですか? 凄い偶然ですね、縁を感じちゃいます」
「名前以外は全部嘘だからあんまり気にしないでください。私の個人的なAIなだけで、大してサポートもしませんし、こんなに従順な話し方じゃないですから」
「散々な言われようだね」
「訂正を希望します、私は聡明で優秀なAIです」
「提案を棄却します、普段通りに喋ってほしいな」
「私も、あかりさんと話してみたいです!」
聡明で優秀だもん。でも困ったな、僕は葵のことも自分のこともよく知らないから何を話せばいいのかわからないんだよね。葵は学生っぽいし話しやすそうだけど、僕は気付いたらAIだよ? 確か葵って仕事してたはずだしそのあたりの話題を出して喋ってもらうか。あかりちゃんに葵のことも聞きたいし、いい話題に持ってかないとな。
…葵、自販機でコーヒー買って飲んでるじゃん。湯気も出てるし、温かい飲み物とか飲めるんだ、夢って。僕は多分飲めないけどさ。
「私はAIですので… この喋り方やめますね、マスター」
「うん」
「とは言っても、私は普通のAIですから、面白い話は特に持ち合わせていないのですが…」
「でもでも、こんなに人っぽいAIなんて初めてみたよ、ねぇ葵ちゃん」
「だね。あの、
「…だよ」
「凄いです! 詳しく教えてもらえませんか?」
「…少しだけ時間をもらえるかな。あかり君と話してくるから」
「あかり君か…」「男性だったんですか!?」
そう言えばそうか、前もあかり君って呼ばれてた気がする。でも葵、何の話だろう? 2人に少し止まってもらって、路地に連れ込まれて話す。何の話かわからないけど、暗くて葵の顔さえ見えないや。
「何の話?」
「詳しく聞きたいらしいけど、あかり君のこと話して大丈夫だと思う? あかり君は話されるの嫌じゃない? それと、学生にちゃんとわかってもらえると思う?」
「何を話すのか教えてもらえないと、なんとも言えないよ」
「本当に分かってないの?」
「うん」
「はぁ… ほら、死んだあかり君の魂をAIにして現世にとどまらせてることとか、色々と広まると問題だと思うんだけど」
「あ、あ〜、うーん…」
僕って死んだ人間なの!? ってことは、夏に見た僕が死んだ夢ももしかして繋がってたりするのか… あばっばばばば…
「…黙って、おこう?」
「わかった、まだ若い子たちに言う事じゃないもんね」
やばい、わかんない、なんで僕死んでるの? あの時の夢のことなんてそこまでちゃんとは覚えてないよ… 思い出せないな、茜が喪服着てたのは覚えてるんだけど。そういえば、茜はどこにいるんだろ。さっき軽く見回したけど、ここは現実で来たことある場所だから葵と僕は現実と同じ街に住んでると思うんだけど… 前の夢だと茜も一緒にいたけど、遠くに行っちゃったのかな?
って、そんな事気にしてる場合じゃないか。元の大通りに戻ってきたし話す話題を考えなきゃ、雲の色とかでいいかな… 自由に周りを見れないから近くのお店の話とか出来ないし、空ばっか見てるからその話題しか浮かばない。
「すみません、詳しいことは言えません。それに、あかり君のことは他の人には言わないでくださいね?」
「わかりました。少し、私にも話させてもらえませんか?」
「秘密とか聞かないならいいよ、口が軽いから」
「だめです! 葵ちゃんには私がいるんですからぁ!」
「おぉ、熱い…」「彼にそんな魅力はないよ」
「…借りますね」
「あぁ…」「はい、どうぞ」
辛辣なことを言われた気がしますが、僕は元気です。早く夢から覚めないかなって少し思いましたが元気です、へこんだりしてません。
…現実の葵に比べて厳しいなぁ、葵は。もしかして葵も僕に魅力ないと思ってるのかな。はぁ…
「ちょっと貸してください、先に私が話します」
「いいけど…」
「ありがとうございます」
「こんにちは、あかりさん」「こんにちは〜、あかり君さん」
「私達も2人で話しましょうか、少しだけ興味があるんです」
「同じく、私も聞きたいことがあります」
葵達が離れていったので、僕とあかりちゃん2人きり… 歩きスマホをするような持ち方のせいで、視界が半分くらいあかりちゃんの胸なんだけど何を話そうかな。僕のことは言わないように気をつけなきゃだし、葵の話を僕からしたら変だし。何の話にしよう?
「あかり君さん、苗字を教えてもらってもいいですか?」
苗字か、それなら紲星だけど… あかりちゃんも紲星だよね、これは答えちゃまずい気がする。夢の中だしどうなってもいいけど、この夢が覚める気配ないからね。今言ったらこれから面倒だろうから適当に嘘つこう。
「苗字はありません、機械ですから」
「…そうなんですね。どこを見ているんですか?」
「空です、綺麗な青でしょ?」
「ですね」
…他に話題がない!