私は夢の中で街を歩いていた。中々ない経験な気がする、ずっと街を歩くのって。話したり、止まったり、自販機で飲み物を買ったり、現実みたい。でも現実じゃない、現実ならありえないでしょ? はたから見たらドッペルゲンガーのランデブーだからね。
あかり君とあかりちゃんのことはよくわかってる。あかり君とは10年以上の付き合いだから全部知ってるし、あかりちゃんと夢の中で話すのは3回目だからなんとなく性格も関係もわかった。心優しい恋人だからね、2人とも。
問題はもう1人の私だよ。あかり君に教えてもらわないと何も分からない、質問してもはぐらかされてるしさ。少なくとも、普通の人じゃない。死んだ人の魂を電子世界に閉じ込める技術を自分で作ったんでしょ? あかり君の中で私は天才なんだろうね、自分でも賢いとは思うけどそこまでは無理だよ。
そうそう、あかり君が死んでることも、葵さんが天才ってことも黙っておかないとね。盗聴だから、良い物がポケットに入ってたんだよ。あの謎の部屋を出るまではパジャマだった気がしたんだけど、高校の制服になってたみたいでね。ちっちゃな盗聴器があったからあかり君につけておいたんだ。どうやって聞くのかわからずにつけたけど、ポケットにワイヤレスのイヤホンが片耳だけあったからそれで聞いてる。夢の中の私はなんでこんな物を持ってるのか知らないけど、ミコトさんが現実で見せてくれた型と同じ気がする。私達が遊園地に行った時にあかり君の服に仕込んでたらしい盗聴器、現実じゃこんなに簡単に使えないんだろうな。
今はイヤホンを外してるよ。葵さんと話しながらあかり君達の会話まで聞いてられないからね。私は聖徳太子じゃないんだから、話し始めた時には外したんだ。話しながら外すのって不自然だし、中途半端に向こうの話を聞くのも嫌だし。
「そうだ、アオイさんはあかりさんと仲がとてもいいようですが、どのような関係なのですか?」
「恋人です、それ以上でも以下でもないですよ。そちらはあのAIさんとどんな関係なんですか?」
「えっと、難しいな… あれは私が作ったAIなので、親子ということもできなくはないですが、厳密に言えば主従関係になりますかね」
「他にもAIって作ってるんですか?」
「いえ、あれが唯一です」
「そうですか…」
「浮かない顔ですが、何か作っていてほしい理由でも?」
「私も、彼女に似たAIが欲しいなと思いまして」
「…彼女がいるんですから、AIではなく本物を見てください。その方が幸せですよ」
「ですね、そのとおりです。すいません」
「私に謝られても…」
現実の冬とは反対に温かい夢の中で、葵さんの声だけは冷たく感じる。少し前までは優しさも感じる温かい声だったのに、今では氷よりも冷たく、氷のように鋭い。なんとなくはわかる、この人もきっとあかり君のことが好きなんだろう。だからあかり君が死んだ時は酷く傷ついただろうし、本当に心が凍ったような感覚だったんだと思う。それなのに私が、AIが欲しいなんて言ったから、あかり君が生きていた頃を思い出させちゃった… 多分、そういうことだと思う。
葵さんにとってAIって、あかり君が生きてたら要らないものだったんだろう。だから、私に今彼女が生きている幸せを感じるように促した。夢の中の人なのに、葵さんは現実の私達よりも長い物語がありそう。なんというか、本当に生きてる人なんじゃないかって思ってしまう。
…あかり君は私を天才だと思っているようだし、葵さんに色々聞いてみるか。生きてるように感じるけど、結局あかり君の夢の人間なんだし、あかり君の心の内側が見れるかもしれない。あかり君より言語化が得意そう。少し悪口になっちゃうけど、あかり君は自分で考えてることさえ理解してなさそうだもん。お姉ちゃんも同じだけど。
そういえば、夢の中でお姉ちゃんに会ってないや。どっかにいるのかな? 保健室と寝室しか夢で見てなかったし、会えてなかったのは当然だけど、今回は会えるかな。会えないでくれって思ってるけどね。
「あの2人に合流しますか? もう話すことはなさそうですから」
「そうしましょう。あかりちゃん、止まって!」
「はーい、なんでしょうか?」「びっくりした…」
「そろそろ、AI君を貰ってもいいかな」
「…どうぞ」「どうも〜」
「じゃ、こっちで話そっか、あかりちゃん」
「はいっ、お願いします」
「…少し走るよ」
「わかった」
葵さんに怪しまれないように、少し前のめりになって歩いてる感じで、距離を広げて… よし、お店2つ分は距離を開けられたし、もう聞かれないで話せるかな。あかり君に葵さんのこととか、聞かないと。
「あかり君、あっちの私ってどんな人なの?」
「何か仕事してるっていうのと、頭良くて散歩が好きなことは覚えてるよ。他はわかんない、それより言わなきゃいけないことがあるんだよ」
「あかり君は元人間で何故か死んで魂だけのAIになったって話でしょ、知ってる」
「知ってるんだ… そうだ、葵って夢で茜に会った? 僕は夢の中の昔に会った覚えがあるんだけど」
「会ってない、何ならあかりちゃん以外の誰にも会ってない」
「そっか… 止まって、赤だよ」
「ん、ありがと」
赤信号に突っ込むところだった… 夢の中だしいいんだけどね、車も殆ど通ってないし。それにしてもあかり君もお姉ちゃんを気にしてるんだね、そりゃそうか。多分、現実のお姉ちゃんはこの夢にはいないと思うけど、お姉ちゃんが2人はいると思うし、探すのもあり、なのかな? 探しても意味はないし無駄な気もするけど、理由なく生きるよりは人間らしくていいと思う、私はね。効率とか生産性を求めるなら、そもそも夢自体が無駄なものだし…
「行こう、青になったよ」
「だね、行こう。このあたりにあるレストランって次を右に曲がればあったよね?」
「確かそうだったはず、だけど… ねぇ、僕には海に見えるんだけど」
「…さっき、ここを右に曲がった車があったはずだよ。海に飛び込んだとは思えないけど、私にも海に見える」
「急に立ち止まって、どうかしましたか?」
「少し道を間違えただけです、レストランってどこでしたっけ」
「あそこですよ」「正面にあるじゃないですか」
「そう、だったね」
交差点を曲がろうと思ったら海だったんだけど、どういうことなんだろう。海に行きたいと思ったから海になった、にしても唐突すぎるよね。でも交差点を曲がったら海に突っ込むような道路は普通じゃない…
海には行かず、レストランに入る。賑やかな店内、席に座りメニューをみ
「あれ… 夢が、覚め、た?」
「んあー、よく寝た… あおいー? おはよー」
「お、おはよう…」
夢って、こんなに突然に覚めるものなんだっけ。