あかりとゆかりさんの誕生祭が終わった翌日、ちょっと寝すぎたかもしれん。カーテンのすき間から日が差し込んどる、もう8時くらいになってもうたかな。まぁもう冬休みなんやし、のんびり行こかー。葵がご飯作ってくれとるやろうし、食べに行こっと。
「おはよー」
…暗いな、誰も起きてへんのかな。葵もあかりも、昨日はしゃぎすぎたんか? しゃーない、お姉ちゃんが料理作ったりますかぁ! いつもみたいにお魚焼いて… ちゃうな、昨日の残飯があるんやった。すき焼き、朝ごはんはこれでええか。お米も炊くだけの状態にしとったはずやし、炊きながらゲームしてよ。すき焼きにうどんとか入れても美味しかったかもなぁ。
「おはよー、寝過ぎちゃった」
「疲れてたんやろ? 休みなんやから、もっと寝ててもええんよ?」
「いやいや、起きるよ。やけに目覚めがよくてね、本当にいい夢が見れたのかも」
「おー、あのお守り本当やったんか! どんな夢か覚えとるん?」
「それが覚えてないんだよ、憎いよねぇ… こんなに目覚めがいいことなんて滅多にないし、絶対にいい夢見れたんだと思うんだけどさ、それがわかんないっていうのが、憎いんだよねぇ…」
「…おはよ」
あかりはドタドタ楽しそうに降りてきたんに、葵は妙に疲れてそうな声やなぁ。葵は悪夢でも見たんかな、老けたようにも見えるで。ミコトさんに頼んでメイクとか教えてもらったほうがええんやないかな、今はええけど学校ある日にしてたら心配されるような顔やし。本当は毎日あかりと話す前にしたほうがええんやけど、同じ部屋やしな…
実はうちが知らんだけで葵って普段からメイクしとるんかな。葵は元からええ顔やし、うちの妹なんやからメイクしとらんもんだと思ってたんやけど、部屋に入ることなんて滅多にあらへんしメイク道具なんて見てもどれかわからんからな… うちはせーへんよ、面倒やし。
「葵は大丈夫なんか? もうちょっと寝てたほうがええんやないか? 目が虚ろやで?」
「大丈夫、元気だよ」
「そうか? ならええんやけど、後でうちの部屋来てな」
「ん、わかった」
「お米、もう炊きあがってるんだ。盛り付けちゃうよ」
「頼んだ、うちはすき焼き持ってくな」
「私は何すればいい?」
「葵は待っててな、うちらがやってまうから」
「本当に元気だから、変に気、使わないでよ」
そんな事言われても、心配なものは心配やんなぁ? 夕立に打たれて雨宿りしてる人みたいな、もうどうしようもないって感じの顔なんやもん。ほんまに心配や、後で部屋できっちり話してもらわんとな。聞かれたないことかもしれんけど、お姉ちゃんとして絶対に聞かな。
すき焼きは勿論、美味かったで。1日置くと更に美味くなるんよなぁ、凄い。でも葵は置いといたら不味そうやから首根っこ引っ掴んででも部屋に連れてくか。葵も食べ終わったみたいやし、行くか。
「葵、行くで」
「あ、うん、わかった…」
「葵、大丈夫なの? 辛いことがあったら僕にも言ってよ?」
「大丈夫だよ、心配いらないから」
…よかった、あかりの前で笑えるくらいには余裕はあるみたいや。あかりに対して作り笑いもできんくらいに追い詰められとるわけやないんなら、ちゃんと話聞いたらなんとか出来るやろ。
階段を登って、部屋の扉を開ける。いつも何度もしとることなんに、嫌に重い気がした。建て付けでも悪くなった、わけあらへんよな。うちが不安になっちゃいかん、ちゃんとせーへんと。
「葵ちゃん、そこ座りや」
「うん…」
「なんかあったんかいな? うちには何でも言ってくれてええんやで?」
「大したことじゃないよ、現実のことじゃないから」
現実のことじゃない? わけわからんけど、うちやあかりが悪いわけやないってことなんかな? 現実、英語で言ったらリアル、やんなぁ…
「ゲームでやらかしたんか?」
「違う違う、夢ってこと」
「あぁ、そないなことか。なんや、夢で鬼にでもあったんか?」
「怖い夢とか、悪い夢じゃないよ。どちらかといえば、凄い幸せな夢だった」
…ふむぅ、わからへん。難しい話は苦手なんや、幸せな夢なんに顔が引きつることなんてあるん? ブラック企業に勤めるサラリーマンとかならわかるんよ、夢から覚めたくないって。でもうちらは冬休みの学生やで? 1番、現実が楽しいときやろ、なぁ? 冬休みが明ける際とかでもなく、まだ年をまたぐ前なんやで?
「…どんな夢なん?」
「あかり君と4人で、街を歩いたんだ。あかり君とあかりちゃんと、私と葵さん、か」
「わ、わからん… なんにもわからんよ…」
「ごめん、わかりづらかった。私の夢の中の私とあかりちゃん、それとあかりくんの夢の中の私とあかり君。わかった?」
「…もう一回言ってくれるか?」
「もっとわかりやすくすると、私とあかり君が同じ夢を見て、それぞれの夢の私達にも会った、オーケー?」
「わかった、多分わかった」
…わかってるよな、あってるよな? 大事なんはここやあらへんのやろうし、もう考えるのはやめよう。
…大丈夫よな、うちが思ってるんで正しい、よな?
「それで、なんで苦しそうな顔しとったん?」
「…あかり君は、夢のことを何も覚えていないんだ」
「そうなんか、それで虚しいというか、悲しいんやな?」
「…唇、奪ったくせにさ」
「なるほど、なぁ… っなぁ…」
夢の中で、奪われてもうたんか… そんな重大なことをしでかしておきながら、あかりは忘れおったんか、なぁ? あかりは大事な友達やし葵のことは頼むつもりやけど、これは許せへんよなぁ、なぁ?
お姉ちゃんとして、落ち着きのある行動をしようとは思っとるけど、これはもう早く動かなあかん。お姉ちゃんとして、落ち着かずに動かなあかんこともあるんや!
「行ってくるわ、待っとれよ」
「どこ行くの?」
「殴ってでもあのアホに思い出させたる」
「あかり君に何もしないで、私も許せない気持ちはあるけど、絶対に傷はつけないで、お姉ちゃん。それに、私が一人で夢を見てただけかもしれないんだから。ほら、あかり君も同じ夢を見てるって思ってただけなんだよ、多分さ」
そんなわけあらへん、リビングに来て開口一番にいい夢見れた気がするって言うとったもん! それに葵が同じ夢を見たって思ったんやろ? うちは確信しとる、あかりが忘れただけや。絶対に思い出させて責任取らせたる…
「間違いならうちが悪いで済むやろ、行ってくる」
「あかり君に傷つけたら、お姉ちゃんを許さないよ」
「っ、葵の気持ちはわかる、でもな、何が何でもあかりに思い出させなあかん! 葵の唇は忘れさせたらあかん!」
「さっきも言ったけど夢の話だから! 夢なんだよ、現実じゃないんだよ。たとえ現実のあかり君と、だったとしても、現実じゃない。だから気にするようなことじゃないんだよ」
「でも、葵の唇を奪ったことにも、忘れたことにも変わりあらへん!」
「夢のことなんだから、現実でやり直せる。忘れてるってわかった時は確かに悲しかったよ、でもそれでいいんだよ。現実で、しっかりファーストキスができるって考えたら、忘れてたほうがいいんだよ」
…
…
…
「葵がそこまで言うなら、うちは何も言わん。でもな、次に何かあったらもう止まらんから。それだけは言っとくで」
「次があっても、殴らないでよ。あかり君の体に傷はつけないで、絶対。殴るなら、もうお姉ちゃんには何も相談しないから」
「……わかった、でもな。葵は、うちが守る。何かあったらすぐに言うんやで」