夢
2018年 サッカーW杯 日本代表 ベスト16敗退。
新聞やテレビなどのメディアが一斉に日本の敗北を報じたその日、日本フットボール協会の理事たちは会議室で今後の協議を行っていた。
「えー・・・またしても、我らが日本代表は、世界の壁を痛感する結果となってしまいました。これを受けて、また次のW杯に向けた強化策が必要かと思いますが・・・・いかがですか、会長?」
発言するのは司会進行役を務めている女性の新入社員・帝襟アンリ。
「え?儲かったからいいじゃーん。今回は監督交代でドラマも生まれ、パス回しの時間稼ぎに加え、あのベルギー相手にあそこまで健闘したんだよ、話題だらけで最高じゃん。結局、サッカーはビジネスだよ。」
意見を求められた会長の不乱蔦宏俊はやる気のない声で答える。
不乱蔦は、つるりとハゲたおでこにお腹の飛び出した中年男性。だらしなく椅子に腰掛け、そもそもこの議題に興味がないようだ。
「それに、ほっといても日本代表っていうブランドは上がり続けるんだしさー、
最近は若いのが良いらしいじゃん?ますますウチは儲かるんだよ。とりあえずいい感じの外国人監督呼んできてダメだったらそいつのせいにしてクビにしたらいいのよ。」
「・・・・・・」
「にしても最近のU18世代はすごい。糸師冴に九条和也、彼らが選手として成熟したらベスト8はもう夢ではなくすぐそこにあるようなもんですな!」
年老いた理事が言い、周りも賛同したようにうんうんと頷く。
「彼らを筆頭にここ最近の下の世代はレベルが高い。何もせずともワールドカップベスト8と言わず優勝!その影響でウチは大儲け!だはははははは」
会長の笑い声に周りの理事たちも満足げに笑う。
しかし、一人、声を押し殺して発言を我慢していた女性がいた。
「・・・たしかに、現在の日本サッカーは、この25年で成長を遂げ、W杯常連国となり、ひとつの成功基準を満たしていると言っていいでしょう。」
次にアンリは冷静に続けた。
「しかし、ハッキリ申し上げます!このままでは、彼らがいても日本サッカーは未来永劫──W杯優勝は不可能かと。」
睨みつけるような鋭い視線で告げたアンリに、会議は一瞬、静まり返る。
「・・・え?もしかして、アンリちゃん、本気で信じてんの?日本がW杯優勝できるって!?」
不乱蔦は彼女を煽るような口調で、あざけるような笑みを浮かべた。
「当たり前だろ、銭ゲバ狸。W杯優勝が私の夢だっつーの。」
彼女は思わず本音が漏れたのかあっと少し口元を覆い隠す。それと同時に理事たちは彼女のあまりの口の悪さに、お互いの顔を見合わせ騒つく。
「『自分たちのサッカーはすれば勝てる』?『日本のパスサッカーは通用する』?
そんなこと言ってっから、いつまで経ってもベスト16止まりなんだよ。FWは日本の永遠の課題、パスばっかできても上に行けるわけねぇーだろが!!」
弟のように仲が良く、怒ると口が悪くなるところを注意してもらった彼に内心謝りつつ、もうここまできたらやけくそだと自分の性質に身を任せながら発言する。
それを聞いた不乱蔦は、呆れたように腕を組んだ。
「そんなに言うならアンリちゃん・・・・・何か策はあんのけ?」
「誕生させます。この国をW杯優勝に導く、
◆◇◆
俺たちは今取材を受けている。
クラブチームには18歳以下の海外選手のプロ契約を禁止するという規定により帰国を余儀なくされ、日本のクラブでプレーするかしないかの決断をしている期間を過ごしている、と言っても隣のこいつの答えは1択
「──死んでも嫌っすね。」
あー言っちゃった。絶対、記者の・・・武藤さんだっけ?(やりづれぇ・・・)って思ってるよ。冴のこーいうところはマネージャーさんも困ってたからどうにかしたい。
「あ、あはは。九条君の方は日本でプレーすることにどう思っていますか?」
「・・・そうですね。実戦積んでもっとゲームメイク能力とか試合勘を高めたいけど、ここだとやっぱり周りに合わせないといけないのでーじっくり考えないといけないですね。」
めっちゃ隣でこいつ何言ってんだ?って顔してる。
他国の大学生の方がマシとか思ってるんだろうなぁ、
実際そうかもしんないけど。
「ありがとうございます。最後に、ゆくゆくは日の丸を背負って日本代表としてプレーすることに何か抱負や期待はあるかな?」
冴がその質問を聞いて呆れたかのように席を立つ。
「全く興味ないですね。こんな弱小国の代表チームじゃ絶対世界一になれないし、
「冴はああ言ってますけど、僕はW杯で優勝して自国を盛り上げることが夢です。もちろんCLの決勝という大舞台でお互いレギュラーとしてあいつのレアールと僕のバルチャで戦ってみたいっていうのもあります。冴のこと嫌いにならないでくださいね!」
最後にお疲れ様です!と言って先に出て行った冴を追いかける。
少し歩いて前方にあいつを発見すると、マネージャーさんと立ち止まって少し騒ついてる部屋を眺めているようだった。気になって小走りで近づいて覗いてみると、日本フットボール協会が会見を開いていた。
アンリさんが言ってた会見ってここでやってたのか・・・・あっ居た。
「──人生が台無し?・・・その通りです!!日本サッカーが先に進むためにはこのイカれたプロジェクトが必要なんです!!」
大方、記者に変な質問してされたのだろうか熱くなってるなぁ。物怖じしないのはいいけど肩に力が入って周りが見えなくなってる気がする。
そんな思考は置いといて、周りを見渡すと席に座っている記者たちや隣にいる会長が動揺してボソボソと喋っている。隣を見ると冴も彼女を凝視してる。
そんな戯言をもろともせずアンリさんは続ける。
「・・・見てみたくないんですか?日本サッカー界に英雄が誕生する瞬間を」
心を揺さぶられる言葉に会場は瞬く間に静まり返る。
そんな空気を一閃する様に俺は自然と口が開いた。
「俺も参加していいですか?