蛮族の訪問販売
歌う林檎亭というワーカー達の宿屋兼酒場。その酒場のテーブルで2人の男女が話していた。
「で、ヘッケラン……パーティメンバーは見つかった?」
「てんでダメだな……風貌からそれらしい奴らには声を掛けたが、全員先にスカウトされてたりワーカーにはならないとか言って断られた。イミーナは?」
ヘッケランと呼ばれた金髪の男がため息混じりにそう言う。
「ま、そりゃそうよね……こっちも同じ感じ。」
イミーナと呼ばれた少し長い耳を持つ女性が言う。
そう、ワーカーという仕事はあまり良い印象を持たれない。ワーカーというのは冒険者のドロップアウト組。
本来、法的にグレーや完全にアウトと思われるような仕事を生業としているのだ。
もちろん、金の面でのメリットもあるがその分危険であるというデメリットがある。
誰もが命と金を天秤にかければ命を取るに決まっている。
それでもワーカーになるという事はワーカーにならざるを得なかった理由があるのか、どうしても金を稼がなければならない理由があるか、そしてもしくは余程の物好きか。
周りはそんな彼らを嘲笑と警戒の意味を込めて
「昨日、面白い奴というか…個人的に仲間に入れたいと思った奴が居たんだが……どうやら振られちまったらしい。」
「へぇ……どんな奴だったの?」
イミーナはヘッケランに言う。
「前、道端で半裸で鳥頭の男が叫んでたって話しただろ?」
「あぁ……前言ってた亜人もどきの新人ワーカーね?」
イミーナは前ヘッケランが話していたことを思い出す。
「そうそう。それでだな……」
ヘッケランは昨日の出来事を話す。
「…………ってな感じで誘ってはみたんだが…まぁ、さっき言った通り振られたな。」
「……ぶん殴って土に埋めたって本当?」
「あぁ、本当だ。アレは傑作だったぜ?お前にも見せてやりたかった!」
ヘッケランは笑いながら言う。
「確かにあの屑野郎が無様に土に埋まってる姿を想像すると…………」
イミーナも少し笑いだす。
ひとしきり笑い終わったヘッケランは目に浮かんだ涙を手で拭き取りながら
「まぁ、そんな事より早くメンバー見つけないとだな。」
「そうね。そろそろデカい依頼も受けないと宿に泊まることも出来なくなるわよ?」
「そうなんだよなぁ……一応カッツェ平野でアンデッド狩りってのもまぁまぁ金になるんだが……俺達3人で行くにはあまりにもリスキーだよな…………」
そんな話を2人でしていると
「お2人とも、そんな暗い話ばかりしているといつか神にも見放されますよ。」
横から鎧を着て聖印を首から下げた男が話しかけてきた。
男は持っていた袋を机の上に置く。
「お、帰ったかロバー。随分遅かったな?また道端に倒れていた御老人でも助けていたか?」
ロバーと呼ばれた男、ロバーデイクは頼まれていた物品を袋から取り出し机に置いて整理する。
「いえ、今回は違いますよ。少し外で面白い方々と出会いましてね……。」
ヘッケランとイミーナは面白い方々?と少し疑問に思いロバーに話を続けさせる。
「こちらに来てください。」
ロバーは誰かに話しかけるようにそう促す。
すると男1人女2人がこちらの席へと歩いてきた。
「あ、お前……!」
「よ、ヘッケラン。昨日ぶり」
そこには昨日も見た半裸で鳥頭の男が立っていた。
――――――――――――――――――――
「で、ここに来たって事は…まさか俺に会いたくなったとか、もちろんそういう理由じゃあないんだろ?」
ヘッケランは対面に座るサンラクに対して言う。
「あぁ、もちろん。ここに来たって事は昨日、お前に頼まれた件の事だ」
「って事は……」
「あぁ、お前のチームに入りたいって奴を連れてきたぜ?」
サンラクの言葉によってイミーナとヘッケランは2人目を合わせて少し笑みがこぼれる。
「じゃ、後は……アルシェ」
サンラクはそう言って横に居たアルシェへと視線を送る。
アルシェは席から立ち上がり一礼した後
「アルシェ・イーブ・リイル・フルトです。職業はマジックキャスター。サンラクから話を聞いています。どうか私をあなた方のチームに入れては貰えないでしょうか?」
アルシェは端的に自己紹介をした後、要件を簡潔に言う。
「…………」
「………………」
アルシェの自己紹介の後、ヘッケランは沈黙したままで言葉が詰まっているようにも見えた。
ヘッケランが喋らない為、アルシェも気まづそうに少し目を泳がせていた。
そんな空気を見かねたサンラクがヘッケランへと話を振る。
「…………ヘッケラン、どうかしたか?」
はて?何かアルシェに問題があったのだろうか?
「あ……いやぁー…………なんていうかよ…………」
ヘッケランはサンラクへとこっちへ来い、と手でアピールしてきた。
サンラクは少し疑問に思いながらもヘッケランの近くへと行く。
そしてヘッケランはサンラク以外に声が聞こえないようにと小さな声で喋る。
「なぁ……あの子って昨日お前が話してた同じパーティの子だよな?」
ヘッケランは昨日の騒動の後に談笑の中で出てきたパーティを組んでいるマジックキャスターの話を思い出す。
「ん?そうだが……?」
そしてサンラクは当然といった表情でかえす。
「いやそうだがって…………お前……まさか、パーティメンバーを売るような事をしようとしてないよな……?」
「……は?!」
「いやお前、最近パーティを組み始めたとか何とか言ってたよな?最近組み始めた奴をいきなり他チームに渡すって何か裏があるとしか思えんぞ!まさか力不足だからとか厄介だからとかそういう理由で…………」
「いやいや!何勘違いしてやがんだ!!最近パーティを組み始めたってのは飽くまで臨時パーティ!!色々事情があって短期間の臨時パーティを組んでたってだけの話だよ!」
「……本当か?」
「本当だっつーの!なんなら本人にも聞いた上でお前のチームに入りたいって本人の口から言質も取ってんだよ!」
「…………」
ヘッケランはジト目でサンラクを見て、今度はアルシェの方を向いてちょいちょいとこっちへ来いのアピールをする。
そしてアルシェは不思議がりながらヘッケランとサンラクの近くへと行く。
「お前は少し離れてろ。本人から聞いてみるから」
ヘッケランはそう言ってサンラクを離れさせる。
サンラクは不満ながらも誤解が解けるならとヘッケランとアルシェから遠のいて2人を見守る。
2人はゴニョゴニョとひとしきり喋り、お互い話が終わったのかとアルシェを席に戻す。
「…………よし……話は分かった!」
ヘッケランは少し考えた後に切り替えるように喋り出す。
どうやら誤解は解けたらしい。
「じゃ、誤解は溶けたみたいだしこれでアルシェは正式加入という事で……」
サンラクがそう言って話を終わらそうとしたが
「……そうだなって言いたいとこなんだが…………」
ヘッケランが被せるように喋り出す。
「んだよまだ文句があんのか?」
「さっきは俺が先走って勘違いをしてしまったが……今回は真面目な話だ。」
ヘッケランがそう言うのでサンラクも文句を垂れずに話を促す。
「えっと…………アルシェちゃんの……」
「
横からアルシェの鋭い声がヘッケランを突き刺す。
「…………ゴホン……アルシェを正式にウチのチームに入れたいのは山々なんだが……なにしろ今会ったばっかでお互いの実力が分からない。そんな状態でチームを組めば……分かるよな?」
なるほどそこが問題だったか……。完全に頭から抜け落ちていたな。
「そこでだ……カッツェ平野はもちろん知ってるよな?」
ヘッケランは確認するように言う。
カッツェ平野…………特に聞いた事はないな。ここは聞いた方がいいのだろうか?
サンラクがそう思っていると、アルシェの発言によってその必要は無くなった。
「もちろんです……」
「敬語は辞めてくれ。お堅いのは苦手なんだ。」
ヘッケランはさっきのお返しだといわんばかりに釘を刺す。
「分かった。カッツェ平野……実際に行ったことはないけれど……学校で習った事がある。
いつも霧に覆われておりアンデッドの多発地域。協力なアンデッドが跋扈している……とか。確かある1日だけ霧が晴れ、その日は帝国と王国の戦争が行われる日だとか……。」
へぇーそんな場所があったのか…………
「……学校とか言ったか…………?……まぁ、いい。プライベートには深く追求しないさ。
まぁ、大体あってるな。でだ……とりあえずはお前のチームの加入を認めよう……ただし……!……これから予定が合えば俺達はカッツェ平野に向かう。もちろんお前も同行しろ。そしてそこでの実力を見てチームの正式加入を認める。どうだ?」
「分かった。私はいつでもいい、大丈夫。」
「だとよ……お前らもそれでいいか?」
ヘッケランは横に居たイミーナやロバーに目を向ける。
2人ももちろんと言った表情で頷く。
「よし……決まりだな……」
お……やっと終わったか…………じゃ、俺達は……
「おっと待った……」
サンラクとサイナは2人立ち上がろうとするがヘッケランに止められる。
「お前も来いサンラク。危険な場所だからな……お前の実力はハッキリしてないがあの野郎をぶっ飛ばしたんなら充分だろ。もちろん、そこのお嬢ちゃんも…………」
ヘッケランはサンラクを見たあとにサイナも見る。
…………まぁ、いいか。聞いた感じ、カッツェ平野っていうのも気になってたし、きっといつかは行くだろうしな。
「俺は行くつもりだが、サイナ。お前はどうする?」
「無論:
「らしいぜ?」
「決まりだな!じゃ、予定の擦り合わせをするぞ。」
そうしてサンラク達はカッツェ平野へと向かう事になった。