オーバー×フロンティア   作:牡羊様

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語彙力が欲しいぃ!!


土に座して頭を垂れる。

 

「ふぅ……去勢完了。」

 

喪服少女の声が部屋に響く。

 

その声により固まっていた一同が正気に戻る。

 

そして我に返ったサキュロントは護衛対象であったコッコドールが倒れた事を咄嗟に理解して喪服少女を睨みつける。

 

「く、クソッ!!」

 

思わずそう吐き捨てるサキュロント

 

サキュロントは自身に強化を施し、幻術により何体にも分身する。

 

「ま、不味いッ!嬢ちゃん逃げろ!!」

 

ブレインがいち早くサキュロントの動きを見て喪服少女に危険が迫っている事を理解する。

 

しかし時既に遅し。

 

サキュロントの本体は分身に紛れ、分身達は喪服少女を取り囲んでいた。

 

くっ……そッ!この距離じゃ刀が届かない。

 

ブレインは喪服少女へと走り出す。

 

それを見たサキュロントは嘲笑うかのように言葉を吐き捨てる。

 

「もう遅いさ!一応アレでも護衛対象だからなッ!コイツには死んでもらうぜ?」

 

分身達が一斉に喪服少女へと飛び掛かる。

 

間に合わないッ……!

 

肝心の喪服少女を見ると不自然な動きで右手を左の腰へと動かし、何処から取り出したのかいつの間にか少女の手には身体よりもデカい大剣を握っていた。

 

そして腰を落とし、ある構えでピタッと静止している。

 

何を止まってるんだあの女……!早く逃げ……ろ…………?

 

ブレインの目に映るのは喪服少女のある構え。

 

それはブレインがよく知っている居合・抜刀の型。

 

いや、違う。喪服少女の構えはブレインの知っているものとは数段、いや、程遠いと言っていいほど洗練されかつ綺麗であり理想的であった。

 

ブレインの顔からは先程までの焦躁は無く、ただ無表情であった。

 

しかし目だけは違う。目だけはあるものを必死に捉えようと全てを呑み込まんばかりに、目の前の人物を見入っていた。

 

ブレインは喪服少女の命が今、脅かされているというのに喪服少女に見とれ、足を止めてしまっていた。

 

「死にやがれぇェッ!!!」

 

サキュロントが喪服少女へと剣を振りかざし剣が喪服少女に当たるという寸前……

 

「晴天流……斬風(きりかぜ)ッ!!!」

 

一瞬世界の時が止まったかのように、無音の世界で瞬足の大剣が振るわれる。

 

喪服少女の周りに居た分身は元々そこに居なかったかのように消え去り、本体であるサキュロント一人が白目を向いて残る。

 

そして世界に音が追い付いたかのように、後から取って付けたかのように、大剣の凄まじい抜刀音が部屋へと響き渡る。

 

「ガッッッ!!!??!」

 

斬られたサキュロントがドサっと地面に倒れる。

 

そしてシーンと辺りが静寂に包まれる。

 

「な、何が……起きたんだ……?」

 

クライムが頭に疑問符を浮かべてそう言う。

 

「………………」

 

しかしそれに答えれる程に余裕を持つ者はこの場にはいない。

 

ブレインは汗をダラダラとかき、しかしそれに気付かない程、思考の海に沈んでいた。

 

あ、あの居合斬り……威力もスピードも、明らかに俺の物とは比べ物にもならない程……いや、比べるのもおこがましいと思える程の…………一体どんな鍛錬を積めばあれ程の…………。

 

そんな事を考えていると喪服少女が、こちらを向く。

 

「……!!!?」

 

何故か目が合っただけで全身に悪寒を感じる。

 

それはまるで蛇に睨まれた蛙のよう。

 

喪服少女はゆっくりとこちらへと近付いてきて…………

 

「凄い顔色悪いですが、大丈夫ですか?」

 

喪服少女はにこやかにブレインに話し掛けた。

 

――――――――――――――――

 

フッフッフっ……

 

良い感じに漁夫の利っていうか手柄をかっさらう事が出来た。

 

良い顔してんじゃねぇか、青髪マッチョぉ!さっきは良くも爺とのファーストコンタクトを邪魔してくれたなぁ!

 

サンラクはヴェールの中でニヤける。

 

「?!」

 

サンラクが内心煽っていると突然、背後から殺気を感じる。

 

敵かッ……?!

 

サンラクがバっと振り向く。

 

サンラクが振り向くとそこには白髪の老紳士。セバスであった。

 

セバスがサンラクと目が合うとにこやかに笑顔を返す。

 

…………殺気を向けられた……?……いや、気のせいか。

 

サンラクが不思議に思っていると

 

「どうやらまた新しい御方が増えたようですね。」

 

聞こえる穏やかな低い声。

 

そしてゆっくりとサンラクに近付く。

 

「貴方は……私達の()() という事でよろしいですか?」

 

セバスがサンラクに質問をする。

 

……なんか、やけに含む言い方だな。

 

「……はい!私は味方です!!」

 

サンラクはなるべく元気に答える。

 

「そうでしたか……なるほど…………私はセバスと申します。」

 

セバスはサンラクに対してお辞儀をする。

 

「私はミラクです!こちらこそ!」

 

とサンラクも負けじとお辞儀をする。

 

まぁ、第一印象は大事だからな……猫を被ってでも印象は良くしとけ!元々猫は被ってるが……

 

「ブレイン君、クライム君、お身体は大丈夫でしょうか?」

 

セバスはサンラクとの挨拶が終わるとまた歩き出し、今度はブレインとクライムに問いかける。

 

「……俺は…失礼、私は大丈夫ですが、クライム君の傷が…………」

 

ブレインはクライムの方を向いて言う。

 

おっと?活躍の場面……?!

 

「分かりました。」

 

コクリと頷き、セバスはクライムへと近付く。

 

「回復ポーションなら私、ありますよ!」

 

サンラクが言う。

 

「いえ、結構です。」

 

………………。

 

サンラクがセバスの答えに不満そうにしていると、セバスが何やらクライムの傷口に手をかざす。

 

……!!…………傷が……治った?

 

セバスが手をかざすとクライムの腹にあった傷が跡形もなく消え去った。

 

「これで大丈夫です。気力を流し込む事で傷を直しました。」

 

「なるほど……修行僧か……」

 

………え、いやモンクってそんな事出来たのか……?初耳だぞ……!

 

「ありがとうございます、セバス様!……あとミラク様、と呼んでもよろしいでしょうか?」

 

クライムが言う。

 

「もちろんですよ。」

 

「本来であれば私がするべき仕事を代わりに担って頂きありがとうございます!」

 

クライムは礼儀正しくお辞儀する。

 

前から思っていた事だが、やっぱコイツは馬鹿が付くほどの馬鹿真面目だな。

 

「……頭を上げてください!私も一応冒険者ですので。」

 

「やはり……という事はエ・ランテルで出来た新しいアダマンタイト級冒険者というのは……」

 

クライムが伺うように言う。

 

ほう……やはり最高級冒険者ともなれば噂になってるのも不思議じゃないか……。

 

「あ、はい!私です……仇討人のミラクとは私の事です!」

 

「やはりそうでしたか……。改めてありがとうございます。」

 

「いえいえ。」

 

サンラクとクライムが話しているとブレインがサンラクに話しかけようとする。

 

「な、なぁアンt……」

 

しかしその声は途中で終わる。

 

「一体これはどういう状況だ!!」

 

ブレインが話しかけようとしたと同時に部屋に衛兵がズラズラと入ってきた。

 

――――――――――――――

 

「すいません。白髪の老人を見ませんでしたか?」

 

サンラクが作業をしている衛兵に聞く。

 

「……いえ、見ていません。」

 

衛兵が考えた素振りをして答えた。 

 

「そうですか……。」

 

サンラクは肩を落とす。 

 

………………どこ行きやがったあのクソ爺!!

 

あの後俺達はこの娼館が違法である証拠を手に入れ、捕まっていた人々を救出と、娼館を運営していたであろう犯罪者共を拘束、連行。

 

その他諸々死体処理など終えた俺達であった。

 

まぁ、本当の所は面倒な事をほとんど衛兵に任せてただ、ダラダラしてただけなんだが、今はそんな事どうでもいいのだ!!

 

あのクソ爺ッ!いつの間にか姿を消しやがった!!

 

何人かの衛兵に聞いても誰も見てないの一点張り!

 

何の為にガキを誘拐してまで接触したと思ってんだぁ?!

 

………………はぁ……クッソ、俺のブラザー(好敵手)に成りうるであろう爺だというのに…………。

 

サンラクがあからさまに肩をガックリと落として歩いていると

 

「お疲れ様です。」

 

声を掛けてきたのはクライム。

 

「あ、どうも〜。」

 

「……?……どうかしましたか?」 

 

クライムはサンラクの様子を訝しく思って問いかける。

 

「いえ、大したことでは…………ちなみにセバスさんが何処にいらっしゃるか分かりますか?」

 

「セバス様……ですか……。」

 

クライムが考えるような仕草をして

 

「申し訳ありません。セバス様から……セバス様自身の情報は内密に……と口止めをされていまして…………」

 

「…………。」

 

サンラクはヴェールの中で歯ぎしりして少し睨みつけるようにクライムを見る。

 

クライムはサンラクから放たれる圧を感じとってか

 

「た、ただ……私自身もセバス様が何処に行ったのかは分かりません。何分私も、セバス様とは先程あったばかりだったので…………。」

 

「…………ッ!!…………はぁ……分かりました。気を使って頂きありがとうございます。」

 

サンラクは納得出来ないという感情を抑えつつ、クライムに礼を言う。

 

「いえ……お力になれずすいません……。ブレイン様は何かご存知でありませんか?」

 

クライムは横を見る。

 

横には刀をじっと見つめ、木箱に座っているブレインが居た。

 

コイツ居たのか……。

 

ブレインはじっと刀を見つめたままで何も動かない。

 

「……どうかしたんですか?この方……」

 

サンラクが小さい声でクライムに話しかけると

 

「…実は先程からこの調子でして……」

 

クライムは小さい声で返す。

 

話が進まないと思ったサンラクはしゃがみ込み、ブレインの顔を見る。

 

「大丈夫ですかぁ?」

 

サンラクがブレインの視界でそう言うと

 

バタンッ!とブレインが木箱を蹴って動き出す。

 

うおっ?!

 

サンラクが突然動き出したブレインに驚き立ち上がると

 

「頼むッ!!俺に稽古を付けてくれッ!!」

 

ブレインは四つん這いで地面に頭を擦り付け、そう大声で言葉を叫んだ。

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