地雷を踏み抜け
「お帰りなさいませミラク様……」
「どうもです」
サンラクは高級宿屋の受付嬢から預けていた部屋の鍵を貰う。
明日また話すとか言って別れた訳だが…………あっちから尋ねて来るのだろうか?
少なくとも金髪の主人は恐らくそこらの衛兵に指示を促せるぐらいには偉そうなんだろうが…………不敬罪とか面倒なことにはなんねぇよな?
貴族王族しかり、偉い地位に居るヤツらと関係を持つのは正直抵抗がある。
エ・ランテルで見た貴族は全員がとは言わんがまぁ、色々に面倒だったしな。
あと王国争乱も忘れちゃなんねぇ。
サンラクがそんなこんなで自分の部屋の前に着く。
サンラクは鍵を開け、ドアノブに手をかけようと手を伸ばし、そしてピタッとサンラクの動きが止まる。
そしてある事を思い出す。
…………そういえばあの暗殺者のガキ……監禁したままだった……。
…………何で誘拐したんだっけな?…
確か八本指関連の奴らって事が分かって爺の実力測るついでに情報源として誘拐したんだっけな?
………じゃぁつまり、金髪との交渉要らなくなかったか?
……………………
サンラクは無言でドアノブをひねり、ドアを開いた。
「おぉい、元気してるかぁ?」
………………返答は、無い……と。
寝てるのか?にしては寝息も聞こえないが……
とそこでサンラクは気付く。
椅子に縛ったはずの女の姿は無く、縛るために使っていた縄がただ乱雑に垂れていた。
「動くな……!」
後ろから声が聞こえた。恐らくそれはサンラクが誘拐した女の声であり、サンラクの首元にはひんやりと冷たいナイフが突きつけられていた。
……今日はやけにこんな感じで脅される事が多いな。
そんな呑気な事を考えながらサンラクは首をカタカタと小刻みに震わす。
「ッ……む、無駄だ!お前が冒険者で、ただの人間だという事はもう分かっている!!」
流石に駄目か……てか冒険者?
サンラクの首にぶら下がっているアダマンタイトのプレートが目に入る。
あぁ……なるほどこれでか……。受付の時に必要だからな……しまうのを忘れていた。
…もうこれ以上驚かしても無駄か。さてどうするか……
「何が目的だ?」
サンラクがそう言う。
最悪殺すか……下手に逃がして変な噂がたつのもよろしくは無いし
とそんな事を考えていると女から返答があった。
「私に協力しろ!」
協力……?ここから出せとかそういう事を言うのかと思ったんだが……
「お仲間の所に戻りたいという事か?」
サンラクが言う。
「仲間……?…まさか…………アレを仲間とも思った事は無い。」
ん?……イマイチ話が見えんな。
いや……待てよ……。そもそも縄を解けたのなら直ぐにここから脱出できたはず……鍵は掛けたが中からは簡単に出る事が出来る……
もし、俺を殺すつもりならばわざわざ後ろをとって話す必要もない…………
……わざわざ俺を待って脅す必要なんか無いはずだが…………
逃げる事も殺す事も目的では無い…………ならば俺に用がある?
「…………俺に何か用があんのか?」
サンラクがそう言うと女の腕がピクッと動く。
「率直に言う……冒険者!私を八本指から匿えッ!」
…………ほう?……そう来たか…………。
どうやらこのガキは色々深い事情を持ってそうという事は分かった。
だがしかし…………そうだな………………
サンラクは女のナイフを突き立てている方の腕をギュッと握る。
「いッ?!!」
女が思わず悶え、手に持っていたナイフを落とす。
そしてサンラクは腕を握ったまま女の片足を足払い。
体勢が崩れた女の背後へ回り込み絞技で女の動きを封じる。
態度が気に食わなんなぁ……それが年上にものを申す態度か?なぁガキィ?
「今のは命令か?」
サンラクはギチギチと絞技を強くする。
「いッ!、ち、違うッ!!これは取引だッ」
サンラクは少し力を弱める。
「ほう……?……ならば俺が協力すればお前は何をくれるんだ?」
「殺し以外なら何でもやる……ッ…金でも………お前が欲していた八本指の情報もッ!!」
またこのパターンか……
「そもそもだな……何故俺がお前の取引を受けねばならん?」
「…組織で聞いたんだ……新たなアダマンタイト級冒険者が生まれたと……喪服で大剣を持つ女……お前なんだろ?」
「答えになってないな」
サンラクは再び力を強める。
「いぃッ?!!、私は組織から抜け出したいんだけだ……!」
だからどうしたんだって話なんだよなぁ……俺には関係ないし興味も無い。
「…………。」
サンラクはまた力を加える。
「っッッ!!?!家に帰りたいんだッ!!!!」
女は思わず叫ぶ。
「……?」
……泣いてるのか?
サンラクが女の顔を見れば水のような物が頬を伝っていた。
サンラクは女から出た言葉に自然に少し耳を傾けていた。
「私は小さな村に居たッ!しかし村は貧しくて私は奴隷として親に売られた……ッ!…………私の
……最低限の不味い食事と厳しい訓練……訓練に付いていけなければ死ぬだけだ………生きる為に必死にもがいて…………でもッ!……行き着いた先はただの人殺し…………。
もう駄目なんだ……眠る度に殺した奴の顔が夢に出る……手を見る度に赤く染まっている…………死に際に聞こえた声が耳から離れない…………。
……このままじゃ壊れてしまう……頭が割れるんだ……手が痛いんだ……胸が…苦しい……身体が重い…………。」
気付けば女はまるで赤子のように嗚咽を漏らしながら泣いていた。
「……頼む………助けてくれ…………」
女はそう力無く言う。
………………………………
………………………………………………
…………………………………………………………え、ぇ?えっ?えぇ?
――――――――――――――――――
「……落ち着いたか?」
「……あぁ……すまない。」
サンラクがベッドに腰掛けた女に暖かいお茶を出す。
「えっとぉ……なんだろうなぁ…………思ったより重い過去をお持ちのようで…………」
「…………」
返答は無い。
女の目は少し腫れ、今は静かにお茶をすすっていた。
それをサンラクは貼り付けたような笑顔で見守る。
え?何か……俺が泣かしたみたいな雰囲気やめね?
俺が悪いみたいな雰囲気やめね?!
だって知らなかったんだよ、コイツがそんな過去持ってるとか……夜な夜な殺したやつの夢見るとか!!
そんなことを事前に知っていれば ホラゲーにおける分かってても怖い怪物の動き なんてふざけた事はやらなかったよ?
力に物を言わせて言う事を聞かせるみたいな事はしなかったよ?
…………………………
部屋は時計の音が響くほどとても静かだった。
あれぇ?何か部屋の電気暗くなぁい?!この部屋の照明壊れてんのかねぇ?!何か思いの外空気悪いしさァ?あれぇ?ここ最高級宿だよな?お通夜の会場じゃねぇよなぁ?!
……………………
相変わらず静かなままだった。
もう辞めてください。僕が悪かったのでもう許してください。どうか神様仏様、この気まずい雰囲気どうにかしてください。
サンラクは終始先程から笑顔で自身の汗を拭き取る。
あぁ、クッソ相手が子供の見た目してやがるから余計に罪悪感を感じる。
「すまない……年相応にもなく騒ぎ立ててしまった。」
女が落ち着いたのか喋り始めた。
「いや……まぁ、うん……俺もなんていうか……ほんの少ぉし、悪かったというか…………な?……お互い様だよな?うん。」
サンラクが気まづそうに返す。
「あんな過去持ってれば泣いてもしゃぁないっていうか……お前ぐらいの年だとそりゃ、な?」
「…………私はこう見えても20だ」
女が無表情で言う。
「………………あ、そうだよね?知ってる知ってるぅ……見える見えるぅ…………………。
……あ、そうだぁ……とりあえず話の前にお互い自己紹介しない?
俺はサ…………私はミラクです。知っての通り冒険者でぇす。」
サンラクが気を取り直すついでにミラクという仮面を被るが……
「敬語は止めてくれ。口調はさっきのままで大丈夫だ。」
却下された。
別に敬語という訳では無いのだが…………
「…………分かった……んで、アンタはなんというお名前で?」
「リリアだ。」