迷宮絶望譚(ダンジョンディストピア) 作:ゴリラズダンジョン
【ロキ・ファミリア】
迷宮都市の象徴でもあるダンジョン、それを攻略する冒険者として最前線に君臨する彼等彼女等は今、まるで時が止まったかのように静まり返っていた。
「……ラウル、被害は?」
重い空気の中、最初に口を開いたのはリヴェリアだ。
何時も毅然としている【ロキ・ファミリア】の柱でもあるエルフは、柳眉に深い影を落とす。
「被害、は……」
黒髪黒目の平凡なヒューマンは、それ以上の言葉を紡ぐ事は出来なかった。
それは彼が無能の証拠ではない。
裏を返せば、それは『万能』だと言えるだろう。
だからここに居るのが仮に
ベル・クラネルの策略、
組織として動いて来た冒険者達にとって、その柱が失われる事は崩壊を意味する。現に遂昨日も、複数人がファミリアから脱退した。
運良く生き残った第一級冒険者、ティオネも『片割れ』と『最愛』の喪失に、怒るどころか引き籠って部屋から出てこない。
現状、主な戦力として数えられるのは、リヴェリア、ガレス、ベート、アイズあたりと言った所か。
「……私達が招いたミスだ。これ以上被害が拡大する前に、終わらせる必要がある」
「ミス?はッ、笑わせやがる。アイツがやってんのは、只の八つ当たりだろうが。自らの意思でダンジョンに入った以上、責任はテメェのものだ。そもそも『謝罪』をいらねぇと突っぱねたって話だろ」
「それでもきっかけになってしまったのは事実だろう。ベート、苛立つのは分かるが――」
「逆にテメェどうして苛立たねぇ」
鋭い視線に、リヴェリアは押し黙る。
何時も牙を剥き出しにしているベートだが、今はどこか理知的に怒っている気がしたのだ。
「俺達が悪かったって、今更認めでどうなる。わかッだろ、もう餓鬼一人殺した位じゃどうにもならねぇ。だから俺は、俺達は怒る事しか出来ねぇ」
誰も口にはしないが、もう挽回できる
敵はベル・クラネルだけではなく、弱った【ロキ・ファミリア】を狙った他のファミリアもそうだ。
負けたのだ、完全敗北。
『ロキ・ファミリア』は、ベル・クラネルに敗北した。
それを認めない為にも、ベートは怒る事しか出来ないのだ。
「…………」
「アイズ、さっきから何をボーっと突っ立ってやがる。わかってンのか、元はテメェが――」
「辞めろベート、誰かに責任を咎めるな」
「大丈夫、リヴェリア。私があの時、助けられなかったのが悪い」
「なら何を迷ってンだ?」
壁際に重心を預けるアイズは、さっきから何も喋らない。そもそもファミリアの今後を左右する『軍議』に口を挟めるほど自分が賢くないと分かっているのもあるが、彼女は迷っていた。
仲間を、友を……沢山を失っても怒りではなく、『迷い』が勝った。
それはある疑問が原因だ。
「本当に、フィン達はやられたのかなって、思いました」
「ロキに刻まれている恩恵の数が減った。それだけで十分だろうが」
「そうですけど……何か違うと、思う」
「待て、アイズ。お前はもしかしてベル・クラネルが善人で、フィン達を生かしているとでも言いたいのか?」
アイズ自身にも良くわかっていないが、あの時、市壁で悪を語った少年は、どうしてもアイズの瞳に悪人に映らなかった。
あの日からずっと、迷っている。殺すべきなのか、殺すべきじゃないのか。
ただ、選択する時間すらも、アイズには与えらない。もう全てが、あの一匹狼の掌の上なのだから――。
「――何だ?」
始まりは只の揺れだった。
ダンジョンという未知を有する迷宮都市では、些細な地震など珍しくもない。だがそれは斬新的に大きくなって、遂に産声となって冒険者達の五感を刺激する。
何が起こっているのかと。明朝、リヴェリア達は外に飛び出した。
時期的に、まだ日が昇るには時間がある筈だ。だが迷宮都市の空には、太陽と比べても劣らない眩い光が広がっている。
「神の送還……?」
天を貫く光柱。
それはオラリオでは稀に起こる、神の送還の証。最近では歓楽街で同じ光、イシュタルが送還されたのはまだ記憶に新しい。
ただ、それと比べて余りにも"スケールが多すぎる"。
確かに神々が有する
だがそれは、本当に些細な差で気付かない程度。だがハッキリと誰の目にも今、明朝の薄暗い空を『蒼天の空』で塗り潰すその光柱は異質だった。
―大神の送還。
誰が送還されたのかなど知りもしない皆に、同じ言葉が過ぎる。
ロキか、ヘルメスか、ガネーシャか、それともフレイヤか。
いいや違う、皆名の通った神達ではあるが、今まで送還されて来た神達と比べても突出している訳ではない。
ならばダンジョンで祈祷を捧げる大神、ウラノスか。
それも又、否だ。そもそも光柱が昇っているのはダンジョンの方向ではなく、都市北西の市壁だ。あの神が意味もなく、お忍びでちょっとお散歩とは考えられない。
ならば姿を隠していたゼウスかヘラでも帰って来たか。
推測は多分にある。だが都市の誰一人として、正解を導き出せているものは居なかった。
なにせたった今送還されたのは、『名無しの神』なのだから――。
今日はもう一話投稿します!