迷宮絶望譚(ダンジョンディストピア)   作:ゴリラズダンジョン

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主役は踊る

 明朝にしては明るい、おぼろげな蒼天の下で。

 

 市壁に腰を掛けるのは一人のヒューマン。そしてその悪の元に最初に辿り着いたのは、風を纏いし少女だった。

 

「やっぱり、貴方が最初に来ましたか」

 

 ここに彼が居る確証はなかった。

 

 だが光柱の出処がここだと分かった瞬間、気付けばアイズは魔法(テンペスト)を纏って走り出していたのだ。

 

「貴方は誰を……いや、何がしたいの?」

 

 募る疑問は、たった一つの問いかけで解決できる訳がない。だからアイズは根本的な質問、何がしたくてこれまで悪行を尽くして来たのは知りたかった。

 

「僕は英雄に成りたい」

 

 その返答に、思わず「は」とアイズは零す。

 

 そもそも真面な答えが返って来るとは思わなかったが、それは想定外の更に向こう。正しく、意味の分からない動機だった。

 多くを騙し、殺し、それで英雄に成る?

 

 後世に残るのは悪名だ、英雄ではなく汚名だ。

 

 なのにその陰りを灯す深紅の双眸には、まるでそれがたった一つの正解だと言わんばかりに微かな星の輝きを宿している。

 

 今やっと、アイズは理解した。

 

「やっぱり、私は貴方を受け入れられない」

 

 何か理由があるならと。少し、少しだけ彼の心に宿る善人の心を信じていた。だが今分かった、彼は善人のフリをしている狂人だ。

 アイズが許す事の出来ない、モンスターやクリーチャーと同じ類だ。

 

 それを生み出した一旦は自分にある。だから"その約束"を、あの日ここで交わした決別をここで果たそう。

 

「そろそろ、ギャラリーが集まって来ましたか」

 

 市壁の下には多くの冒険者が集まり始めている。中にはリヴェリアやベート【ロキ・ファミリア】の一員は勿論、【フレイヤ・ファミリア】の第一級冒険者もちらほら。

 

 来ていないのは、騒ぎに乗じて動こうとする勢力を危惧した【ガネーシャ・ファミリア】位だろうか。

 

 今は市壁の上に誰も登って来ていないのが、それも時間の問題か。だから速く、終わらせよう。

 

起動(テンペスト)――復讐姫(アヴェンジャー)

 

 この力を使うほど、目の前の少年は強くない。それにもう逃げ場は何処にもない。

 

 だがその常識をことごとく覆して来たのが、白髪の少年だ。だから絶対この手で仕留める為に、黒い意志を風に宿して、迸る憎悪を剣に乗せる。

 

 もう許さない、許せない。仲間の為、友の為、世界の為にアイズはこの怪物を倒す。

 

 照らされる市壁の上は壇上。踊るは少年、舞うのは少女、若き二人の花形を見上げるはこれ又、世界に名を轟かせる役者達。

 

 だが間違いなく、この場で一番輝いている――タレント的な意味ではなく、スポットライトを浴びるのはベル・クラネルという少年一人だ。

 

 彼は抱いて来た恐怖を、悲しみを、絶望を胸に。この『シナリオ』を、ベルにとっての大団円――英雄という終着点に進む為、最後の駒を進める。

 ベルは笑った。目を大きく見開き唇を曲げて、自分を絶望に落としながらも今こうして主役として立たせてしまった愚かな『世界』に。

 

「神々よ、ご照覧あれ!!僕がベル・クラネルだ!」

 

 これが立ち向かう事を諦めて、逃げる事を最良とするしかなかった少年の唯一のやり方。

 

 今からベルは死ぬだろう、その剣に命を蹂躙されるしかないだろう。だがそれでいい、時に英雄とは死して初めて価値を増すのだから――。

 

 

「――何だ?」

 

 アイズの剣はベルを貫き、少年はあっさり命を落とした。

 

 それが市壁の下から見上げていた冒険者達に映った真実。だがその結果に各々感情を抱く前に、『轟音』が鳴り響いた。

 さきほど凄まじい神の送還が起きたばかりの迷宮都市を襲ったそれは、さしずめ都市の鳴き声と言った所か。いや厳密には都市ではなく、地下の迷宮(ダンジョン)だ。

 

 それは不愉快で耳障りな爆発音、暗黒期からオラリオに居る冒険者でも聞いた事のない連鎖的な破壊の音。それは数十分にも渡って続いて、やがてピタリと止む。

 

 その意味を今は誰も知らない、いや分かるわけがない。唯一その意味を、それによって引き起こされる事を知っている少年は既に居なくなった。

 

 だから暫くして情報の整理が終わった後、皆知るだろう。自分達が追い立てて、殺してしまった少年は『英雄』だった事に。

 

「リ、リヴェリア様!た、たたたた大変です!!!」

 

 リヴェリアとて、まだ現状を理解出来ていない。そんな彼女の元にやけに慌てた様子で訪れたのは、同じファミリアでエルフのアリシアだ。

 王族の前では、エルフらしく毅然とあるのが当然。

 

 特に誠実なアリシアはそれに準じているが、今は慌てる処ではなくもはやパニックに陥っていた。証拠に呂律が回らずに何かを話そうとしても口がパクパクするだけで、しかも不遜にもリヴェリアの肩を持って揺らす始末。

 

「落ち着け、一体何があった」

 

「かかか、かえって――帰ってきました」

 

 驚愕の中に最初に侵入したのは、喜び。涙を浮かべる瞳は、心を感動で震わせている証拠。

 

「深呼吸だ。アリシア、一度言葉を纏めてから口を開いた方がいい」

 

「で、でも違います、駄目です!これは、早く言わなければ――」

 

 乱雑な心を、しかし無で落ち着ける事はなく、一刻も早く伝達したいという欲で克服する。そして次に、彼女は大きく息を吸って、

 

「レフィーヤが、団長が――皆が返ってきました!」

 

「……あァ?」

 

 その耳を疑う事実にリヴェリアは目を見開いたまま沈黙して、傍で聞いていたベートはもはや意味もなく怒りで眉を潜める始末だった。

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