迷宮絶望譚(ダンジョンディストピア)   作:ゴリラズダンジョン

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隻腕の狼

「おいおい、聞いたか?昨晩はLv.3の冒険者が狩られたらしいぞ」

 

「マジかよ。最初『冒険者狩り』って言葉を聞いた時は【ガネーシャ・ファミリア】に直ぐとっちめられると思ってたが……こりゃあいよいよ本物だな」

 

 話題に事欠かない迷宮都市。その中でも最近話題になっているのは、『冒険者狩り』なる存在だった。

 

 だがその素性は全く分かっておらず、唯一の目撃情報が『義手』であったことから【隻腕の狼(ロストウルフ)】の二つ名でギルドの『ブラックリスト』に乗っている。

 

 闇派閥などと比べればまだ被害は少ないが、組織でもないただの一人が冒険者を狩るなど『ギルド』は愚か冒険者の面目の丸潰れだ。

 【ロキ・ファミリア】などの有力派閥にも依頼が出されているが、それでも粗が出てこない。

 

 それ故に、透明化するレアスキルを持っているのではないかとも噂されている始末。

 

「ま、お前も気を付けろよ。て言っても、たかだかLv.1のお前じゃ心配する必要もないと思うがな」

 

「あはは……」

 

 大柄な冒険者に背中を叩かれて、華奢な体がよろめく。

 

 白い髪に深紅(ルベライト)が特徴の少年。ベルも又、『冒険者狩り』の特徴である隻腕と一致している。

 

 だが駆け出しでヘマをして、それでも英雄願望に縋る彼を誰も疑わない。

 

 彼がその件の人物であるのにも関わらず、だ。

 

 冒険者を狩る。それが正当法からは逃げたベルが英雄に成る為に選択した『やり方』だった。勿論、ただ闇雲に殺している訳ではない。

 

「いやぁ、マジで最高の気分だ。良くやってくれたよ、【隻腕の狼(ロストウルフ)】は。昨日殺された冒険者、俺の弟をダンジョンに置き去りにした正真正銘の糞野郎だったからな」

 

「【ファミリア】っていう組織に入ってる事もあって、冒険者は中々罰せられない。冒険者を捌く奴が居たって、私もいいと思うわ」

 

 狙っているのは、あくまで過去に許容できない行いをして来た冒険者だけ。

 

 Lv.1のベルが、一体どうやって上級の冒険者を殺めているかはさておくとして、まずその冒険者の個人情報を如何に手に入れたのか。

 

 それは至極簡単だ。

 

「あっ、ベル君!!!」

 

 ギルド嬢として凛然としながらも、喜びを隠し切れない様子で目尻を下げているのは緑玉色(エメラルド)の瞳の持ち主。

 エイナ・チュール、冒険者としてのベルのアドバイザーを務めている。

 

「「チッ」」

 

 だが普通の冒険者とアドバイザーとしての関係ではないのは、周囲の反応からも明らかだった。

 

 彼女、エイナはベル・クラネルにだけやけに好意的なのだ。

 

 しかしそれも仕方のないこと。ベルとエイナの関係は、まぁ端的に言うと『恋人』だった。

 

 英雄に成ると語ったのに、恋路に現を抜かすなど何事かと言われても仕方が無い。実際、ベルにとっても彼女はとても素敵な女性だと思う。

 

 ただ逃げ続ける自分に、誰かと添い遂げる資格はない。

 

「こんにちは、エイナさん!!!」

 

 だからこの笑顔も、時折見せる男としての優しさも全部偽り。

 

 ベルにとってエイナは『情報源』だ。他でもない、彼女を通してベルは冒険者の情報を得ているのである。

 

 エイナは聡い。だが愛とは、人を愚かにする。

 

 

「この前見せてくれた冒険者の名簿、あれのおかげで助かりました。無理を言ってごめんなさい」

 

「いやいや、大丈夫だよ!探している知り合いが見付かって良かったね。それで今日もダンジョンに?」

 

「はい、この後すぐに」

 

 そう返すと、エイナは少し暗い顔をした。

 

 ―冒険者は冒険してはいけない。

 

 再三口に出す彼女は、多くの冒険者の死を見届けて来た。愛する人が最たる冒険の地であるダンジョンに行くとなると、それを心配するのは当然の感情だ。

 

「心配しないで下さい、絶対帰ってきますから。エイナさんを悲しませるなんてこと、絶対しない」

 

 下手な愛の告白を凌駕する熱い視線でエイナをしっかり見つめると、ボンと一気に頬が紅潮する。

 

 だが反して、ベルの心は冷たいままだった。

 

 周囲で木魂する舌打ちの主たちも、其処にいるのがオオカミ少年だとは気付かない。

 

 

「くっ!ふざ、けるな……ふざけるな!!!俺達がお前に一体何をした!?」

 

 

 ダンジョン23階層、ベルの足元に転がるのは魔石やドロップ品は勿論、二人の冒険者の死体だった。

 

「個人的な感情はないです。ただ、貴方達は酷い人だから。調べましたよ、上級冒険者を良い事に女性に対して性暴行を繰り返しているって」

 

「っ!あの糞女ども、喋りやがったのか!!!」

 

「責めないで上げて下さい。神様が勝手に調べただけですから」

 

「神様だぁ?」

 

 ベルの行動を、新しい主神のサタンは肯定している。むしろ、率先的に手を貸してきている。

 【ヘルメス・ファミリア】でも脅しているのではないかと疑ってしまうほど、ベルが必要とした『裏の情報』貼り付けた笑顔と共に持って来た。

 

「名無しの神です、気にしないで下さい」

 

 そう言って、ベルは右手に巻いている布を取り払った。

 

 露になるのは銀の光沢。

 

「はっ」

 

 男は嘲笑した。

 

「そのおもちゃで何が出来る?あいつらは後ろを取られて死んじまったが、俺はそうは行かない。こっちはLv.3だ。お前ベル・クラネルだろ?知ってるぞ、片腕を失ったどじな駆け出し。いくらかレベルを詐称してるらしいが、俺には勝てない」

 

 曲りなりにも、男は上級冒険者。仲間がやられてしまった状況でも、冷静にベルと対峙した。

 

 だがその前提が間違っている。

 

「僕は正真正銘のLv.1です」

 

「はっ、見え透いた嘘を。1ならまだしも、2の差は技術や道具で埋められる訳がない」

 

「そう言われても、実際1な訳で……」

 

「じゃあ死ねクソガキ」

 

 対人戦闘では、如何に相手の意識外を突くかが鍵になる。

 

 それを分かっている男は、ベルが悠長に話している最中で攻撃に移った。

 

 得物の両手斧を縦横無尽に振って、時には魔法も行使。Lv.3に偽りはない実力を発揮して、しかしダメージが蓄積されるのはダンジョンにだけだ。

 

「何て速さだ!?Lv.4……いやLv.5、それ以上か!?」

 

「僕は確かにLv.1です。ただ、スキルが少し特殊で……」

 

 ベルが格上相手に渡り合っている理由。

 

 改宗した時に発現したあるレアスキルのおかげだ。

 

 

 ―絶望一途(ブラックイン)

 

 

 それはスキルと呼ぶには歪な、一種の呪い。

 ただ逃げ続ける為だけに、敏律だけが突出する。力も耐久も器用も魔力も、あらゆる一切のステータスを捨てて、ただ『速さ』を追求するスキル。

 

 逃げるために発現したそれは、本来困難を乗り越えてこそランクアップするというシステムにそぐわない。

 

 故に恐らく、ベルは今後一生ランクアップする事はないだろう。

 

 だが突出した速さとは、それだけで脅威だ。瞬間的ではあるが、既にベルは本気を出せばLv.6相当の加速を実現する事が出来る。

 

 だがどれだけ速くても、相手を仕留める手段が無ければ意味がない。

 

 だからこその義手だ。それは無くなった腕をサポートするだけではなく、今のベルにとっての唯一の攻撃手段でもある。

 

 速さで間合いを詰めて、男の懐に到達したベルは呟いた。

 

「ファイア・ボルト」

 

 魔法が発現している訳でもなく、そもそも魔力の数値がベルは著しく低い。

 義手自体に、魔法が組まれているのだ。

 

 この銀の腕は一体どうやったのか、サタンが【へファイトス・ファミリア】の他ならない主神にオーダーメイドして貰った品だ。

 出力は十分。そしてゼロ距離の炎雷は、上級冒険者であっても簡単に灰燼へと化す。

 

 煙が晴れた後、其処にさっきの男の影はなかった。

 

「ほっ、疲れた」

 

 体の面ではなく、心労で。結果的には余裕で終わったが、どれだけ対策していても臆病なベルは完全に終わるまで心を落ち着かせる事は出来ない。

 それにまだ、後片付けが残っている。

 

 死体は燃やせるとしても、彼らが纏っていた防具などは痕跡になってしまう。

 

 持ち帰ろうにも、一人で多くの武具を抱えるのは不自然だ。だからこそのサポーターである。

 

「後は頼めるかな、リリ」

 

「――勿論です、ベル様」

 

 ベルの呼びかけに応じたのは、大きなバックパックを背負った小人族(パルゥム)の少女だった。

 




流石に闇落ちし過ぎじゃない!?との意見もあるでしょうが、一か月も四畳半の部屋で自分を食い殺そうとして来るヒロイン(ミノタウロス)とイチャイチャ生活を送ったらこうなるのも致し方なし……。
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