乙女ゲーの悪役令嬢に転生したけど家が笑えない悪だった   作:ぐらさん

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夢と希望に満ちた入学式、聖女ちゃんとの邂逅

血と臓物が空中で踊り狂う。

信仰と暴力、そして麻薬を焼いた煙が満ちるこの空間はあまりにも凄惨であった。

「ボス、例の裏切り者の始末、完了しました。」

5つ分の死体を傍らに息を切らしながら通信用の魔石で連絡を取る男が淡々と続ける。片手には黒曜石を割って作られた刃渡りの大きなナイフ。

黒い布で顔の下半分を覆い目にサングラスをかけた男は組織のボスが直々に育てた殺し屋の一人であった。

 

この国では麻薬は明確に禁止されている。

それでも蔓延る現状を変えようとした一部の領主は愚かなことに内偵を組織に送り込み捜査と麻薬の処分をさせていた。

薬と莫大なカネの誘惑に負けて寝返るものが大多数であった。

しかしそれでも国を憂い行動に移す者は圧倒的な暴力に屈服するのだ。

 

「しかし大丈夫なんですかい?今回はかなり大量に焼かれちまいましたよ。連中のマヌケ、その煙にアテられて半分くらいはキマってましたぜ。」

 

「何の問題もない。焼かれたところで原産地はまだ突き止められていない。身元を突き止め次第雇い主もろとも皆殺しにしろ。儀式は怠るなよ。」

 

「了解っと」返事を返し魔石を懐にしまう。

まずは首を切り落とし頭の皮をはぐ。次に手足を切り落とす。最後に胸骨をナイフと拳で叩き割り、無理やり心臓をえぐり取る。これを5人分は骨が折れる。邪魔な頭はよけて切り取った手足と胴体を並べ血の滴る生きた心臓両手に取り虚空に捧げる。

 

「ああ 偉大で 恐ろしくて 強き神よ 贄をお受け取り下さい」先ほどとは打って変わって厳かに、敬意を最大限込めた呼びかけであった。

すると冷たい風が吹き、いつの間にか頭と神に呼びかけた者以外は消えていた。

 

「しっかし…こりゃあ何回やっても慣れないねえ…」

男はボヤキながら闇の中に姿を消していった。

 

###

 

「ねえねえ聞いた?ルタ領の領主さん一家、殺されたらしいよ」

この国、シャチヤオヨトル王国の西の島に小さな領土を構える貴族が殺されたというニュースだ。魔法使いの使い魔が売ってる動き絵新聞で知った。政権に関する派閥争いや個人の趣味に関する情報を発信する貴族はかなり多いのだ。俺のオススメはアルー領の騎竜レース。賭けることもできるし竜の種類が多いのも魅力だ。

良いよね、ドラゴン。

 

ただ今回のような事件が報道されるとやっぱり気が滅入るものだ。

定期的な戦争も相まって倫理観が養われてないこの世界の人たち的にはたまに見かける風景程度のものでしかないが俺からすると恐ろしくてたまらなかった。

 

乙女ゲームの世界に転生してしまった元男であり現悪役令嬢の俺、エニア=クレアは苦悩にさいなまれていた。

それは女になったからでもないし、主人公になれなかったからでもない。

実家が頭のおかしい犯罪に手を染めて国を乗っ取ろうとしてる犯罪貴族だからなのであった。授かった魔法もそこまで強力というわけでもない。

それなのに立場と見た目だけは立派な令嬢として生まれた俺は様々な思惑と魔法、そして甘酸っぱい恋が舞い踊る学園生活に足を踏み入れなければならないのだ。

まあ…家よりは安心できるかな…

お嬢様エミュ、できるか不安でやべーよ…

 

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わたし、リニア=マルタは困っていました。

わたしは魔法を使えますが貴族ではありません。アルー領の小さな農村で生まれ育ちました。「おてつき」をされた平民の家庭から魔法を使える子が生まれることはあります。

しかし教会で血の検査をしてもらってもハッキリと純平民と結果が出ますし、魔法の系統が似てるのも貴族の方と同じように神から人を癒す術だけを授かるという教会の方々としか似ていません。

教会の魔法は遺伝しないのです。

思わぬ家庭崩壊の危機も過ぎ安堵したのもつかの間、領主様からあるお達しが我が家に届いたのです。

「お前の魔法は非常に珍しく素晴らしいものだ。入学金や授業料は負担するので王都の学園で使い方や由来を学ぶべし。」

口調は厳しいですが領民に対して親身になって下さることで有名な方でした。

そして今日はその入学式の日なのですが…

 

「失礼ながら…あなたのこと…お茶会や舞踏会で見たことありませんわね。顔が広い自負はあったんですけれど。」

「もしかして例の一般家庭からいらっしゃった癒しの魔法に目覚めた方ではなくて?わたくし、はじめてお話を聞いた時から一度会ってみたかったんですの!」

 

眼鏡をかけた人と目をキラキラさせた縦巻きのお下げを二つ下げた人に話しかけられていました。

「あの…わたしは…そのぉ…」

どうか故郷の領主様の顔に泥を塗らないようにと思うとうまく言葉が紡げません。

横目で時計を確認するともう入場10分前。

何をすればいいか分からずに困っていました。

するとその時

 

「こらこら貴方たち。そこの彼女は困っていらっしゃいますわ。」

凛とした声が聞こえました。

声の主は腰まで伸びた長い黒髪に冷ややかな瞳の、一目で高貴な方だと分かるようなそんな女の人だった。

 

「まずは自己紹介からしないと失礼でしょうに…ごめんなさいねマルタさん」

 

 

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