ARMORED CORE VI 外典 ~猟犬の追憶~(凍結) 作:DX鶏がらスープ
あ、ちなみにうちの618は黒髪ロングな(何がとは言いませんが)でっかいお姉さんです
それと最初少しだけグロ描写があるので注意
――偽善者め
ふりしきる雨の中、ウォルターに目の前でそう吐き捨てたのは、いつだったか使い捨てた強化人間で
――誰かの大切だったものを守るために別の誰かを犠牲にする
あまつ積み上げた屍の山の上で、その犠牲ための祈りを捧げる
声が増える
ウォルターが振り向くと、そこにはまた別のかつて使っていた強化人間がいた。
――これを偽善と言わずしてなんと言おうか
気が付くとウォルターは無数の強化人間に囲まれていた。
しかもそのどの顔にも彼は見覚えがある。
何故なら彼らは今まで他ならぬウォルター自身が使い潰してきた強化人間達だから。
悲願を果たす、友との約束を守る
ただそれだけの為に駆け抜けてきた人生
その中で戦場に送り出し、疲弊していく様を、傷だらけになっていく様を、そして最終的にその死に様を見届け続けた無数の強化人間達だったからで
――ご主人様、私達はあなたの猟犬です
だからそう言ってウォルターの目の前に進み出た女性もまた、彼の知っている人物で
――それだけは、忘れないでくださいね
ニッコリとそう微笑む彼女の頭はしかし、半分吹き飛んでいて
止めどなく流れる血が、その体をべっとりと染め上げていて
「…」
雨が降る
止まらない雨は、まるで罪人に罰を与える鞭のようにウォルターを容赦なく打ち付ける
傘すらさしていない彼の体を無遠慮に塗らしていく
そしてその様子をウォルターを取り囲む強化人間達は皆音もなく見つめていて
「……」
雨が降る
止まない雨はないと言う。だが、今降っている雨が明日止むのか明後日止むのか、はたまた100年後に止むのかは分からない
いつか止む雨が、しかしいつ止むのかまでは誰も知らない
だからこそ雨は降る。降り続ける。
いつかは止むとしても、それでも今この瞬間確かに雨は降っていて
「………」
雨が、降る
「おやご主人。こんなところで出会うなんて奇遇だね?」
「…」
背後からかけられた声にウォルターは振り返る
すると意外な人物との邂逅に少しばかり目を丸くしている617がいて
「何をしているんだい?
...なんて聞くのは、流石に野暮か」
そうどこか気まずげに笑う617に、しかしウォルターは何も答えない
617を一瞥した彼は、少しするとその視線を目の前のモノに移す
「…」
「...隣、良いかい?」
返ってくるのは沈黙
しかし、拒絶の反応をしなかったウォルターのそれを肯定だと解釈した617は、静かに彼の隣へと歩み寄る。
そして手に持っていた花をそっと目の前の墓石に――618のお墓へと供え、手を合わせた
あれから――618が死んでから一ヶ月が経った
ルビコン3潜入への準備も遂に大詰め。
もう少し、あと少しでウォルターの人生を捧げた悲願への第一歩を踏み出す事ができる
ようやくスタートラインに立つことができる
その矢先の出来事だった
ルビコン3周辺星系のとある星
誰もいない丘の上にひっそりと建てられた質素な石の墓標の前でウォルターと617は暫し死者を悼む
二人とも何も話さない
沈黙に包まれた墓石の周辺にはただ風が吹くだけ
そんな中
「…それにしても、彼女が逝ってしまうとはね...」
なんだか現実味がないね
そうどこか寂しそうに617が切り出す
その表情はいつも喧しい彼女には珍しく、少しばかり憂いを帯びていて
「………617」
「?」
それを見たウォルターはようやく重い口を開いた
「…お前は、俺を恨んでいないのか?」
その言葉に617はキョトンとした顔をウォルターに向ける
「どうして僕がご主人を恨まなければならないんだい?」
心底不思議そうに返す617に、ウォルターは続けた
「...618に単独任務を与えたのは俺だ」
ウォルターが言うように、あの日彼は618を他の3人とは違う任務に回していた。
理由はその時ハウンズ部隊が担当していた任務が比較的簡単な部類のものであり、かつ急遽入ってきた任務も急ぎではあってもそれほど難しくないものだったからだ。
暫くハウンズ部隊を運用し、個々人の実力を概ね把握していたウォルターは、その時ハウンズ部隊が担当していた任務が4人全員いなくても十分以上に達成できるものだと判断、同時に急遽入ってきたそれもAC単騎で完遂出来るものだと踏み、ハウンズ部隊の中でも最も状況対応能力に長けた618にその任務を回したのだ。
結論として、ウォルターの分析自体は間違っていなかった。
急な任務をそれでも618は単騎で完遂し、残りのハウンズ部隊の方もまた同様。
どちらの任務も成功し、後は帰投するだけ。
だがそんなタイミングで突如618は予期せぬ襲撃を受ける事になったのだ。
「...スッラ
アイツの動向を読めなかったのは俺のミスだ...」
呻くようにウォルターの口から絞り出された男の名はとある独立傭兵のもの。
それは《アイビスの火》が起こる前からルビコン3周辺の星系で活動していた筋金入りの老兵のものだ。
オールマインド傭兵ランキング15位
スッラ
第一世代強化人間に該当し、当時から「狩り」の任務だけを請け負い、戦場を彷徨い続けてきた死神のような男。
何年も前から何かとウォルターに絡み続けてきた彼だったが、ここ数年は動きが大人しく、また彼の行動圏とは重ならない場所での任務だっただけに、まさかあんなところまで出張ってくるとはさしものウォルターも予想できなかった。
その時の通信を、618との通信越しに聞こえてきたあのねっとりとした悪意に満ちた声を、ウォルターは未だに忘れることが出来ずにいて...
~~~~~~
『あ...ぐ...』
「618!しっかりしろ618!!」
通信機越しに聞こえる618の苦しそうな声にウォルターは必死で呼び掛ける
だが遥か遠い宇宙にいる618に対して彼ができる事など何もない
ウォルターに出来る事は死にかけの618の心が折れないように励ます事くらいだ
だが
『ご、ご主人...様...私...もう...』
「諦めるな618!
今617達が救援へ向かっている!!
耐えろ618!!」
根気強く呼び掛け続けるウォルター
しかし当の618は既に自分の死期を悟ったかのような事を言い始めていて
『61...7達の事...よろ...しく...』
「待て!あと少し、あと少しなんだ61...――!!」
ウォルターが言い終わる前に何かが爆ぜるような音がする。
それと同時にロストする618の生体反応
途中で途切れた通信に思わず黙り込むウォルター
そして聞こえてくるのは聞きなれた男の声
直接見ずともニヤニヤと嫌らしい笑顔をしているのが分かる程に悪意にあふれた嘲笑で
『...ふぅ、やれやれ。
思ったよりは手こずったな
流石はハンドラー、手駒の調教はお手の物というところか?』
「...スッラ!」
『どうだ?
お前のせいでまた1人、未来ある若造が犬のように死んだぞ?
...尤も名は体を現すと言う
部隊名がハウンズというのなら、あるいは身の丈にあった死に様かもしれんがな』
「!?、貴様!」
『...覚えておくが良いウォルター
如何に高尚なお題目を掲げようと、お前は偽善者だ
こうして誰かの未来を使い潰すことでしか自身の正義を成せない無力な人間だ』
せいぜい足掻くが良い
どこぞの神話の英雄のように
己が体を燃やしながら叶わぬ理想を求めて燃え尽きるが良い
それが、618のACから受信した最後の通信で...
~~~~~~
「...だからこそ、お前には俺を恨む権利がある」
ウォルターは語る
「俺を憎む権利がある」
そう言いながらウォルターは内心苦笑する
自分は何をやっているのだろうかと
冷静になって自分の行動を振り返って彼は呆れる
何故なら彼の言動は究極的には自己満足でしかないから
徹頭徹尾自分の事しか考えていないから
これまで積み重ね、見ないふりをしていた罪の意識に遂に耐えきれなくなったというだけだからだ
(恨む権利がある?
憎む権利がある?)
そんなことわざわざウォルターが言うまでもない事だし、では死んでくれと言われても彼は死ねない。
何故なら彼にもその人生を賭して成し遂げなければならない悲願があるから
だからこそ、内心どんなことを思っていたとしても、それを成し遂げるまでは彼とて死ねない。
そして何より、一度失った命はもう戻らない
例えウォルターが贖罪の為に命を捧たとしても、それでも彼が犠牲にした者達が帰ってくることは絶対にないのだ。
(偽善者...か...)
あの時スッラがウォルターに言った事を、彼はふと思い出す
それは確かに今考えてみれば的を射た言葉。
今まさに罰を求めて頭を垂れるどうしようもない卑怯者の有り様を形容するに相応しい言葉で...
「――だからご主人。
それでどうして僕がご主人を恨む必要があるんだい?」
ウォルターの話を全部聞いた上で、改めて同じことを繰り返す617に、流石に振り向くウォルター
しかし、そこには変わらず不思議そうな顔で佇む617がいて
「何故って...」
「まず、そもそも彼女は任務自体はちゃんと成功させたと僕は聞いているよ」
これは事実かな?
と聞いてくる617にウォルターは首肯する
「あ、あぁ...」
「次にご主人、君に618を殺そうという意図はなかった。
スッラという傭兵についてはあの後僕も少し調べたけど、ここ数年の活動記録を見る限り、あの日あの場所に彼がいるという予測はそこからは立てられなかった
あれは予期できない遭遇戦だった
違うかい?」
頷くウォルターに617は、それならやっぱり僕がご主人を恨む理由なんてないじゃないか、と少し呆れたように続ける。
その語りはあまりにも理路整然とした簡潔なもので
「まず、ご主人の采配自体に間違いはなかった。
ご主人はハウンズのメンバーの能力と任務の難易度を加味した上で、単騎でも確実にそれを遂行できる戦力として618を選び、実際彼女はそれを達成した」
これは事実だと前置きした上で617は続ける
「ご主人はご主人の、618は618のすべき事をちゃんとこなしたんだ。
であればそのことに関して僕から言うことは何もない
ご主人は依頼に見合う人材を身繕い、618は期待された通りの働きをした。
それ以上でもそれ以下でもないことに、どうして僕が恨み言を言わなきゃならないんだい?」
いつものふざけた態度が嘘のように淡々と述べる617は、しかしまるでそれが当然であると言わんばかりに堂々としていて
「そしてスッラのことに関しても同様だ。
素人の僕でも、彼の行動パターン的にあの日あの場所に現れるという出現予測は立てなれなかった。
実際に情報を集め、作戦を立案するご主人なら尚更だったはずだ
であればこの点に関しても特に言うことはない」
まぁ、まったく何も思うところがないわけではないけど...
そう少しだけ言い淀む617だったが、それでも彼女は発言を訂正することはない
ハウンズの同僚としての感情と事実を天秤にかけた上で、彼女はあくまでも客観的な意見を述べる
「618とスッラの交戦は偶発的なもので、そこにご主人の意図は一切なかった。
...初めから罠にかけるつもりだったならともかく、そうでないなら僕にご主人を責める理由はない」
「だが...」
「それに僕達はハウンズ...キミの猟犬さ
戦いの中で死ぬ覚悟はみんなとうに出来てるし、それは618も同じ
きっとご主人に恨みなんてないはずだよ」
当然僕もそうさ
そう何ともないように自然体で話す617の様子にウォルターは戸惑う
だがそれも当然だ
ある日いきなり手術を施され、戦場に放り込まれた
気が付けばまともな人間とはかけ離れた場所で無理矢理殺しあいを強要させられた
それが客観的に見た617...いや、ハウンズ部隊の境遇であり、あまつその中で彼らはかけがえないの仲間を一人失っているのだ
そんな悲惨な境遇で、運命を呪い自暴自棄になってもおかしくないような状況で、どうしてそんなにも平然としていられるのか、ウォルターにはまったく理解ができなくて
「...誤解しないように言っておくけど、別に怒りや悲しみが全く無いというわけではないよ?」
そんなウォルターの内心を見越したかのように617は付け足す
しかし
「618を殺したスッラへの恨みと憎しみは当然ある
この境遇に思うところがまったく無いと言うなら流石に嘘になる」
それでもと続ける617の語り口は、ウォルターにとって、いつかどこかで聞いたことのあるのもので
――それだけは、忘れないでくださいね
...どうしてなんだ618
どうしてなんだ617
どうしてお前達はそんなにも強い?
どうしてそんなにも真っ直ぐでいられる?
どうして、どうしてお前達は――
「それでも、そうさ!
僕らはご主人のもとで死ぬと決めているからね!!」
――どうして、そんなにも俺を信じられるんだ?
当初は619が出てくる予定だったのですが、書いてる内にどっか行っちゃったのでメンバー紹介は今回はなしです