ARMORED CORE VI 外典 ~猟犬の追憶~(凍結) 作:DX鶏がらスープ
AC6の二次創作とか読んでると、621は最初は目も見えなかったみたいな解釈よくありますよね?
その解釈自体は良いんですけど、それならどうやってAC動かしてるんだろうとは思ってたんですよね
※今回は独自解釈独自設定多めです。
ご注意下さい
突然聞こえてきた声に、ウォルターは素早く振り返り、鋭く言葉を放った
「!
誰だ!?」
そう言って彼は自身の背後にサッと目を向ける
一体何者だ、と声が聞こえてきた方向に最大限の警戒を向ける
何故ならここは基地の地下にある秘密の空間
基本的にウォルター以外の誰かが利用することなど想定しておらず、故にそこで他者の声などするはずもない
だからこそ警戒する彼の視線を受け、扉の前、ちょうどウォルターの立ち位置からは影になっていた場所に潜んでいた下手人は姿を現す
だが、それをじっと見ていた彼の予想とは裏腹に、そこにいたのは彼がよく知る人物で
「…617?」
「やぁ、ご主人。驚かせてしまって悪かったね」
カツカツと靴底の音を響かせながらゆっくりと出てきたのは見慣れたショートカットの茶髪の少女
相変わらずいつも通り無駄に洗練された無駄に自信溢れる、無駄に威厳たっぷりな立ち振舞いを崩さない強化人間の少女で
「…どうしてここに?」
それを見たウォルターは、少なくとも敵ではない事を悟り警戒を緩める
…いや、相変わらずと言えば相変わらずな617の言動に警戒する事自体がバカらしくなってしまう。
それでも、ウォルターは最低限の警戒は未だ解かない
何故ならこの場所は先述した通りウォルターしか知らない場所であり、だからこそ彼以外の者が入れないようになっているからだ
声帯認証に指紋認証、虹彩認証にそれぞれ違う8桁のパスワードからなる三重の隔壁
その他様々な種類のセキュリティ
格納している物が物だけに今彼らがいる地下室は厳重に封鎖されており、だからこそそんな場所にウォルターに気付かれずに潜入した617を彼が警戒するのは当然の事だ
出自が出自なだけに、明確にどこの勢力とも繋がっていない事は間違いないのだが、それでも不可解ではある
故に未だに若干の不信感を持って617を見つめるウォルターだったが、当の617はと言うと実にあっけらかんとしていて
「いきなりご挨拶だな。
たまたまご主人を見かけたものだから追いかけてみた
それ以上でもそれ以下でもないよ」
「…ここまでの道のりには多数のセキュリティがあるはずだが?」
「どんなドアだって、潜り抜けたその瞬間に空間が閉鎖される訳ではないだろう?」
「…まぁ、そうだな」
暗にぴったり背後につけていただけだと言われたウォルターは、そのあまりにも原始的な手段にため息をつく
だが考えてみれば目の前の617は腐っても精鋭部隊ハウンズのリーダーだ
普段はACでの任務に従事させているわけだが、それでもその任務の中には時に敵地への潜入任務や要人の暗殺任務なども含まれる
それを考えるなら、例えACに乗っていなくても、監視の死角をすり抜け、ターゲットを尾行する事程度の事は彼女にとって別にそこまで難しい事ではないのかもしれない
もっとも
(ドアが開いた瞬間に入れる程近くにいたのなら、流石に気付きそうなものだが...)
それにここまでの道のりには単なる隔壁だけでなく侵入探知機のような何かの侵入自体を探知する設備もいくつか設置していた
それらにまったく反応がないというのも少し不自然なような...
些細な違和感を抱くウォルター
だがそんな彼のそれを知ってか知らずか、617はここにこんな場所があったなんてね、とのんきに周囲をキョロキョロと見渡している。
その物珍しげに周囲を見渡す姿は、普段から天上天下唯我独尊を地で行く彼女にしては珍しく、年相応であどけない少女らしい仕草であり
(…この少女も、子供なのだな)
そんな今更な感慨にふけるウォルターに見守られながら一通り周囲の様子を観察した617だったが、気が付くとその視線はウォルターの後ろへと向いていた
そして、そこに鎮座しているのは一体のAC
その事に気が付いたウォルターに、617は先の質問を繰り返した
「それでご主人、結局あれはキミのACなのかい?」
「…あぁ。一応な」
「へぇ!そうなのかい!!」
実に強そうな機体じゃないか、と心なしか目をキラキラさせる617
しかしそれとは対照的にウォルターの表情は暗くなる
「…カタログスペックで言うなら、確かに強いのだろうな」
「?ご主人の機体なのだろう?」
「あぁ、そうだ」
ただし自分で乗った事は一度もないがな、とウォルターは付け加える
「この杖を見て分かるだろう?
昔事故で障害を負ってな」
「?
618は盲目な上に足を動かすことができなかったし、619も隻腕だ
多少障害があったところでACの操縦は...」
「それはお前達が強化人間だからだ、617」
首を傾げる617に、しかしウォルターは首を横に降る
何故なら617が考える以上に強化人間とそうでない人間にはAC操作において天と地程の差があるからだ
そもそも強化人間とは、ACの操作の為だけに脳の機能を最適化する手術を受けた者の事だ
反射神経、知覚能力などの強化による高速三次元戦闘への適応から、パソコン並の演算能力の獲得による機体制御の最適化、着弾予測計算精度の向上などその恩恵は多くあるが、その中でも最たるものの一つはACへの神経接続機能である
これは言ってしまえば、搭乗者の脳を直接ACの制御機構に接続することで搭乗者そのものとACをリンクさせる機能であり、この機能を使うことで、強化人間達はACを本物の体と同じ感覚で扱うことができるようになる
この機能により、強化人間達は従来のようなコンソールやコントローラを介した操縦から解放され、文字通り直感的にACを操縦できるようになったのだが、逆に言えばこれは強化人間にしかできない操縦方法であり、故に当然の帰結としてそうでない者は未だにコクピットの中で操縦レバーを握るしかない
そしてそうなると強化人間でないウォルターもまた自身の手で操縦桿
を握らなければならず、こうなるとかつて負ってしまった運動機能障害がその首を締めてくると言うのが今の彼の状況なのだ
「…強化人間手術を受けるという手段も無くはなかったんだがな」
しかしウォルターには先天的なコーラルに対するアレルギー体質があった
それこそミールワームに含まれる極微量のコーラルさえ吐き戻してしまう程度には重篤な
只でさえ死亡率が高い危険な手術において、それはあまりにも致命的であり、その後の新世代手術に用いる代替物質でも同様にアレルギー反応が検出しそちらも断念
「結局、俺は手術を受ける事すら出来なかったんだ」
そう締めくくりながら、ウォルターは改めて目の前の機体を見上げる
IB-C03:HAL826
かつて技研によって作成された、『コーラルに関わる危機を未然に防ぐためのルビコンの安全装置』、アイビスシリーズ
その最終後継機であり最後の安全弁でもあるこの真紅の機体はしかし、製造されてから今日に至るまで、未だその役割を果たした事がない
暗い倉庫の中でただ一人、その只人の身には過ぎた力を振るうことなく、静かに眠り続けるだけだ
そしてその姿は
自らの本懐を自身の手で果たすことが出来ず、他者の手にそれを委ねることしか出来ない憐れな姿はまるでとある男の
――自身の手を汚すことなく、子飼いの強化人間達の血と涙の上に自身の悲願を成そうとする卑怯物
どうしようもない偽善者の姿そのものであり…
「…ご主人?」
その言葉にウォルターはハッと我に帰る
慌てて視線を声の方に向けると、そこには彼の顔を心配そうに見上げる617がいて
「どうしたんだい?どこか具合でも悪いのかい?」
「…いや、なんでもない」
「そうかい?心なしか顔色も少し悪いように思えるが…」
「…本当になんでもないんだ617
気にしなくて良い…」
ウォルターは617から顔を反らす
617もまた、そこまで言うならとそれ以上の追及を控える
しばしの沈黙
しかしそれは思いの外あっさりと破られる
「ふむ...
しかしこの機体見たことがないパーツばかり...
再現するのは難しそうかな?」
「…そいつは特別な目的で作られた特別なACだ
だからパーツも全て一点ものだし、そもそも市販などしていない」
「そうか…それは残念だ」
とガックリと肩を落とす617だったが、それでも彼女はせめて武装やパーツの性能について教えて欲しいと喰い下がる
その翡翠の瞳の奥にあるのは純粋な好奇心と、そして向上心
もっともっと強くなりたいという真っ直ぐな思いで
「…なぁ617」
「ん?なんだい、ご主人?」
「…お前は何故ACに乗るんだ?」
「?
それをご主人は望んでいるんじゃないのかい?」
「…質問を変えよう」
――621、お前はどうしてこんな地獄みたいな場所でも前を向ける?
――どうして只の雇い主でしかない俺の為に命を掛けられる?
――どうして…何を信じて何のためにACに乗っているんだ?
また二人の間に沈黙が流れる
しかし、先程とは違い暫く617は何も答えない
秘匿された地下室
佇む二人
鎮座した血のように真っ赤に塗装されたACだけがそんな二人を見下ろしていて…
「………ご主人
少し散歩に行かないかい?」
ただし、ちょっとばかり特別な奴でね
そう言って617は視線をウォルターの後ろへとズラし、ニヤリと微笑んだ
ちなみに617は他3人と違って五体満足ですし、身体能力も一般人と比較しても高い方です
…なんで?