ARMORED CORE VI 外典 ~猟犬の追憶~(凍結)   作:DX鶏がらスープ

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はい…一週目で解放者ルートを選び、初手でごすずんを裏切った薄情者は作者です

はい…「あれ?これってテスターAC君倒すより効率良くない?」と思い、ごすずんをしばき回して金作してたド下道は作者です

はい…そして今回も相変わらず独自解釈多めです

でも解放者ルートのあの機体って、設定的には絶対ゲームより強いと思うんですよね




5.

ところで、今更だがウォルターの所持しているIB-C03:HAL826は、どちらかというと最終兵器の類に分類されるものである

 

こう言われても、何も知らない人ならピンとこないかもしれない

たかだか一騎のACを過大評価し過ぎではないかとさえ思うかもしれない

 

だがこれは考えてみれば当たり前の話であり、かつて技研が作成した恐るべき超兵器群アイビスシリーズ

――ロールアウトから半世紀は経過しており、しかしそれでも尚現在の技術力と兵器類を凌駕する程の超高性能機体達

その系譜の集大成にして最終機体であるこの機体の性能が低いはずがなく、それを考えるならこの機体に対する評価が決して過大なものではなく、むしろ適正なものである事はもはや自明の理であろう

 

単にACを木っ端微塵に吹き飛ばすだけでは飽き足らず、着弾箇所に大規模なクレーターを作る程の規格外の爆発力と威力を発揮するミサイル兵装、IB-C03W3:NGI006

 

高性能ライフルとしての運用も可能な殲滅兵器であり、一瞬で広範囲の敵を地形ごと焼き払う事が可能な大口径ビーム砲のIB-C03W1:WLT011に、

タイマンから集団戦闘まで幅広いレンジでの攻防に対応できる万能型超高出力ブレード、IB-C03W1:WLT011

 

それだけでなく、そもそも機体性能そのものが従来のACの数世代先を行っており、十全に使いこなす事が出来れば、それこそ単騎で小国程度なら簡単に落とせる

それこそがかつてウォルターが託された最後のC兵器であり、彼の最大の隠し球、文字通り最後の切り札であるIB-C03:HAL826の実態である

 

だが、だからこそその運用には細心の注意を払わなければならないのもまた事実であり、故に彼はその存在を秘匿していた

 

自身が扱いきれないとはいえ単に倉庫に放置しておけば良いというものではなく、だからと言って出自が出自なだけにおいそれと他人に預けることもできない

そもそも、アイビスシリーズ特有の高すぎる機体性能は、いかに有人を想定したこの機体であってもそうそう簡単に御しきれるものではなく、熟練のAC乗りでも振り回されてしまう程のもの

 

だからこそ、ウォルターはこの機体をギリギリまで秘匿し続け、その存在がどこにも漏れないように情報を徹底的に隠匿し続けた

例え自分が使えなかったとしても、それでも衆目に晒すにはこの機体は危険過ぎる

例え前提からしてほとんどの人間が乗れないような暴れ馬であっても、それでもその存在は隠し続けなければならないのだ

 

そうウォルターは思っていたのだが…

 

 

 

 

 

「スゴい!スゴいよ、ご主人!!」

 

 

「お、落ち着け617...!」

 

 

 

いつもの尊大な口調と態度はどこへやら

ガタガタと揺れるコクピットの中、目を輝かせ、まるで年相応の子供のようにはしゃぐ617を、ウォルターは何とか宥めようとするのだが彼女は止まらない

静止の声をまったく聞かず、自身の好奇心と感性の赴くがままに機体を駆るその浮かれっぷりと笑顔は、ハウンズ猟犬というよりはまるでパピー子犬を見ているようで端から見ている分には微笑ましい

 

だがそれは、あくまでも端から見ている分にはの話であり…

 

「この機体は最高だね、ご主人!」

「い、良いからスピードを落とせ617!

お前一人で乗っているんじゃないんだぞ!!」

 

全力で振られている尻尾が幻視できる程にテンションが高い617は止まらない

そしてそんな彼女と同じACに乗っているウォルターはと言うと…ミシミシと体にのし掛かる強烈なGに耐えながらも、ぐんぐんと加速していく機体の速度を緩めるように彼女を必死の思いで説得していた

流石の彼も同乗しているACが時速4桁を越えるスピードでかっ飛んでいき、更にそれが天井知らずに加速していく光景を目の当たりすれば肝が冷えるというもの

なんとか操縦席の後ろにしがみつきながらも617を静止する彼の脳裏には、割りと本気で死の一文字がちらついていて

 

「…あぁ、すまないご主人!

すっかり忘れていたよ!!」

 

しかし幸いにもウォルターの言葉は届いた

ようやく状況を把握した617は、高速移動をしていた機体の速度をゆっくりと下げる

それを見てまったく…と呆れと疲労を含んだため息をつきながらその場に座り込むウォルターは、ふと617と同乗しているコクピットの外に目を向ける

するとそこには無数の星々が煌めく広大な宇宙が広がっていて

 

(俺は、本当に何をしているんだろうな…)

 

それを見ながら、ウォルターはもう一度深いため息をついた

 

 

 

前述した通りIB-C03:HAL826は最終兵器である

一つ一つが戦略級の兵器をいくつも搭載し、それを他のACの追随を許さない規格外の性能で柔軟に運用することができるという悪魔のような兵器

人型決戦兵器の完成形と言っても良い

 

だからこそウォルターはこの機体を今日まで封印していたのだが…しかし先に結論から言うと、今彼はまさにその封印していたはずのIB-C03:HAL826に搭乗していた

 

それも何をとち狂ったのか、今まで封印してきたそれで、さっきまでいた自身の拠点の一つの周辺を高速で飛び回っているという始末

 

ウォルターからして見れば、一体何がどうしてそうなったのかと頭を抱えたくなるような事態なのだが、その根本的な原因は無論彼本人にはない

むしろ彼はそれを止めようとした方であり、それでもこの一騎当千の最終決戦兵器でのお散歩イベントという狂気の沙汰が実現してしまったのは、一重に彼の子飼いである強化人間、617にすべての原因があった

 

 

 

「あー、楽しかった!」

「…それは何よりだ」

 

IB-C03:HAL826のコクピットの中

通常のAC程度に機体性能を抑え、基地周囲を周回する軌道で飛行するACを制御しながらも、なにかやりきったような笑顔で微笑む617に、皮肉げにそう返すウォルター

しかし、この程度で何か感じるような繊細な少女なら、そもそも最初からこんな頭のおかしい事を言い出さない

617は自身の飼い主のささやかな嫌味にまったく気付くことなく彼にお礼を述べた

 

「それにしてもご主人!

今回は感謝するよ!

僕の無茶なお願いを聞いてくれて!!」

「…無茶だと自分で分かってるなら、最初から頼むな」

「ははっ!それもそうだね!!」

 

まったく悪びれる事なく朗らかに笑う617

その姿を見て改めて頭が痛くなるウォルターだったが、呆れながらも彼は617の操縦技術については感心していた

 

(まさかこのHAL826を乗りこなすとはな…)

 

前述した通り、現行人類の科学技術の何歩も先を行く超兵器群であるC兵器の系譜を受け継ぐこの機体は、その例に漏れず極めて高い機体性能を保持している

 

だからこその最終兵器なのだが、それは逆に言えば機体の出力が現代の基準からしてもあまりにも高過ぎる事を意味しており、それ故にその規格外の出力をフルスペックで発揮させるには非常に高い操縦技術が求められる

その難度はそれこそジェットブスターをつけた三輪車でF1レースに参加しろと言うような物であり、それ故に障害でACの操縦がまともに出来ないウォルターでなくとも機体を十全に操る事が非常に困難であり、それもまたウォルターがこの機体を秘匿していた理由の一つだった

 

それでも617はそんなじゃじゃ馬を乗りこなした

並みのAC乗りならそのあまりの機体性能に振り回されるところを、それでも最初から最後まで彼女はこの機体を抑えきった

完璧にコントロールしてみせたのだ

 

(機体を動かしてみたいと言い出した時にはどうしたものかと思ったが…まさかここまで出来るとはな)

 

そんな彼女に内心舌を巻くウォルターだったが、当の本人はどこ吹く風

自分がした事の意味に気付いているのかいないのか、鼻歌まじりにACの操縦を続けている

そんな617はいつもより数倍楽しそうで、生き生きとしていて

 

「しかし617、お前がここまでこの機体に興味を持つとは思わなかったな」

 

そんなウォルターの思わず漏れた素朴な感想に617は上機嫌で応える

 

「ふふっ、元からACは好きだしね」

「…そうだったな617

確かに考えてみればお前は結構なAC狂いだったな」

「ははは!

誉めても何も出ないよ!!」

 

いや、誉めたつもりは無いんだが…

 

という言葉を口にしかけたウォルターだったが、彼は直前でそれを止める

それは一重に言っても617が止まるとは思えなかったと言うのもあるのだが、何より617が楽しそうからだ

 

実はこう見えて、617は普段の言動以外は真面目過ぎる程に真面目で、意外過ぎる程に忠実な性質だ

戦術的観点からの意見具申をする事はあっても、基本的にウォルターに逆らう事はないし、任務でも彼の指示に素直に従い常に冷静沈着に敵を打つ

その常に落ち着いて淡々と獲物を屠る姿はまさにハウンズ(猟犬)のリーダーに相応しいものであるのだが、同時にハウンズのメンバーと一緒にいない時の彼女は普段とは打って変わって静かであり、また信じられない程の努力家である

 

実際休日など、他のメンバーが少なからず休息を取ったり外出などで気分転換をする中で、彼女は延々とACの操作教本を読み込んだり、シュミレーターで戦闘訓練に打ち込み続けるのが常

更にその熱心さは並みではなく、ハウンズの誰かに外出に誘われたりしない限りは、それこそ朝から夜までノンストップで没頭し続ける始末

 

勤勉と言えば聞こえは良いし、彼女を傭兵として運用しているウォルターの立場としては、それは決して悪い事ではない

…ないが、それでも必要最低限の休み以外取らず、これと言った趣味らしい趣味もなく、ただただ延々と戦闘訓練を繰り返す617の入れ込み具合は、ウォルターとしても流石に見ていて心配になる程であり

 

(だからまぁ…これはきっと悪いことじゃないのだろう)

 

改めて楽しそうにはしゃぐ617を見たウォルターは密かに歎息する

それが甘い考えだと分かっていて、それでも普段の言動に反して、意外にもハウンズの誰よりも本当の意味で自分の意見や感情を出さない彼女の年相応な笑顔を見たウォルターは安心する

 

(HAL826を出した甲斐もあったというものか…)

 

そしてウォルターは改めて、今現在自分が最終兵器でお散歩などというトンチキイベントの渦中にいる事を再度認識するが、そう思うとあながち彼も現状が悪いものではないように思えてくる

何せ普段は何だかんだ言ってもウォルターの命令に逆らわない617の、世にも珍しいわがままだったからだ

 

誰も乗っていないのなら少し位使っても良いだろう?

こんなにも立派な機体を一度も乗らずに死蔵するのはもったいない

 

そう言って迫る617の熱量に根負けしたというのも一応ある

だがそれ以上に、普段は恐らくハウンズのリーダーとして他のメンバーの為に気を張っているのであろう彼女に、たまには息抜きをさせてやっても良いのではないかとウォルターはふと思ったのだ

 

(…まぁ、たまにはこんな日があっても良いのかもしれないな)

 

無限に広がる星の海

コクピットの外に見えるそれを見つめながらウォルターは内心密かにそう独りごちる

 

それに思えば617に限ったことでもない

最後に自分が休みを取ったのはいつだったろうか?

 

大事な時期であることは分かっている

それでも、いやだからこそこういう日が自分にも617にも必要なのかもしれないな

そう思うことにしたウォルターに617が声をかけた

 

「ところでだ、ご主人?

今更で悪いが、何か気分が悪いとか吐き気がするとかなんて事はないかい?」

「…生憎と、どこぞの天才パイロット様の素晴らしい操縦のお陰でな」

「ふむ、それは重畳!

まぁ、この僕の卓越したAC捌きなら当然のことだがね!!」

「…本当にお前のその底なしの自信は一体どこから来るんだ…」

 

笑う617に呆れるウォルター

しかし前述した通り617の腕前は確かに優秀だ

だからウォルターもその点は素直に誉める

 

「だが、お前の腕前が優れていることは事実だな」

「ほぅ?珍しいじゃないかご主人、そんなに素直に僕を誉めるなんて」

「事実だ

言動はともかく、少なくともその点に関しては誰も文句をつけないさ」

 

お前のたゆまぬ努力の賜物だな

これからもよろしく頼むぞ

 

そう続けるウォルターに、617は少しだけポカンとした顔をしたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ

 

「ふふ、我らがご主人がそう望むなら!」

「あぁ、期待している」

 

そう返すウォルターだったが、そのついでに彼は少し付け足した

と言っても大した事ではない

彼からしたら単に少し気になった事をついでに聞いてみたというだけの事で

 

「ところで617、お前はどうしてそんなにACの鍛練に打ち込むんだ?」

「?

僕らはAC乗りだ

それ以外に理由なんていらないだろ?」

「まぁそれはそうなんだが…

それにしてもお前は入れ込み過ぎている感が否めない

ハウンズの他の連中が声をかけなければ一日中でもやってるだろう?」

「まぁ、僕にとってこれは仕事であると同時に一種の生き甲斐だからね」

「そうなのか?」

「あぁ

さっきも言っただろう?

僕はACが好きだと」

 

そう言ってコクピットの座席に座っていた617は改めてそこに座り直す

その翡翠の瞳の中には、目の前の無数の星の輝きがまるで鏡のように煌めいていて

 

「…ご主人の事だ

どうせ僕らの境遇位、とっくに知ってるんだろう?」

「それは…」

「いいさ、別に隠してるわけでもない」

 

気まずげに顔を反らすウォルター

しかし617はカラカラと笑いながらも続ける

 

「君も知っての通り、僕達は戦災孤児なわけだけど…

ところでご主人、ご主人はトイレでゴキブリを見かけたらどう思う?」

「…不快に感じるだろうな」

「具体的には?」

「……汚い、触りたくない

そんなところか」

「そう、それがあの頃の僕達の社会的評価さ」

 

さらりとそう述べる617

それに対して何かを言いかけたウォルターを目で制し、617は少しだけ寂しそうに笑った

 

「残念ながらそんなものさ

君が僕らをどう見ようと、僕らが薄汚いスラム街の片隅で育った孤児であることに変わりはない

そして、そんな子供達がそうでない者達からどんな扱いを受けるか、それがその答えさ」

 

そう言いながら617はコクピットの操縦席の縁をそっと撫でる

そうしてコクピットの外を眺める617の瞳はしかし、目の前に広がる宇宙ではなく、どこか遠い別の場所を見ているようで

 

「臭い、汚い、触りたくない

…当然さ

誰だって自分から進んでトイレのゴキブリに触りに行ったりはしない

例えそのゴキブリがどんなに善良で、人間に対して友好的であっても関係ない

掃き溜めは汚いもので、そこにあるものに触れると汚れる

それが現実で、だからみんな僕らを遠ざけた

まともに人間扱いしてくれなかったんだ」

 

そうして改めて語られる617の過去は、事前に619が話してくれたものと大差ないもので

既にその内容をウォルターは知っていて

だが…

 

「嫌な目で見られるなんて事は日常茶飯事

ひどい時は罵声を浴びせられ、暴力を振るわれ、唾を吐かれて、水をかけられた」

「…」

「まるで獣のように追い立てられながら、それでも生きるための僅かな食料と水を求めて各地を転々とする日々

常に飢えと渇きに苛まれ、生きるために身を寄せ合っていた同じ境遇の仲間達も、気が付けば戦闘に巻き込まれて離れ離れになっている

何の意味も価値もないゴミのような人生」

「…」

「そんな日々の中で、ある日突然紛争のドタバタに巻き込まれて、強化手術を受けさせられた上に、ほぼ廃棄処分同然の扱いを受けて今に至る

 

これが薄汚いスラム街の片隅で生まれた一人の孤児の生涯のすべてさ

 

…わざわざ語るような大層な話でもなかったかな?」

 

「…いや」

 

それ以上ウォルターは何も言わずに黙り込む

 

(…)

 

改めて本人の口から聞いた彼女の過去は想像通り過酷なもので

だが事前に知っていても聞くに耐えないその内容に、ウォルターはそれ以上何も言うことが出来なくて

 

 

 

「――それでも一つだけ僕らには幸運な事があった」

 

 

 

それが君に拾われた事だよ、ご主人

 

その言葉に顔を上げたウォルターを振り返る617の表情は穏やかで

その緑の瞳には確かな感謝の光が宿っていて

 

「ご主人が拾ってくれたから、僕らは今ここにいる

 

ご主人がAC乗りにしてくれたから、こんな僕らの人生にも意味と価値が生まれた

 

それに何より、ご主人は僕らを一人の人間として扱ってくれたから

肥溜めの汚い孤児としてでもなく、哀れな紛争の犠牲者としてでもなく、等身大の一人の人間としてご主人は僕らを扱ってくれたから――」

 

だから僕らは胸を張って言えるんだ

僕達は人間だって

617、618、619、620

僕らハウンズは人間なんだって

 

そう語る617の瞳はキラキラと輝いていて

まるで大粒のエメラルドのようなその瞳はウォルターを真っ直ぐに見つめていて

 

「だからね、ご主人

僕はACが好きなんだ

まぁ、単純にカッコいいのも理由の一つなんだけど…僕にとってACはご主人がくれた生きる意味で、同時に大切な人を守れる力だから

新しい人生をくれた恩人みたいなものだから」

 

だから、僕はこの力を極めたい

ご主人がくれたACを誰よりも乗りこなせるようになりたい

世界で一番のAC乗りになって、ご主人の恩に報いたいんだ

 

そう言って微笑む617の笑顔がウォルターにはあまりにも眩しくて

それが彼女達の純粋な想いを、命を、自らの悲願の為に薪にくべる自身の所業の罪深さを糾弾しているように彼には思えて

 

「…俺はお前達に感謝されるような人間じゃない」

 

思わず彼が吐き出した言葉はそんな言葉

 

「…俺は決してお前達を救ってなんかいない

むしろ地獄に叩き落としている側だ」

 

冷たく突き放すような言葉

だがその内には血を吐くような後悔と罪悪感

しかし、それでも成すべきことを成さなければならないという使命感と責任感

相反する二つの感情が混じりあった

複雑な感情が込められていて

 

「…分かっているだろう?617

年端もいかない子供達に銃を持たせて戦場へ送り込む

その行為がどれ程残酷な事か、どれ程罪深い事か

実際に送り出されたお前なら…」

 

故にウォルターは苦悩する

かつて託された約束

その為に背負う十字架の重さ

二つの間に板挟みになった彼は、普段なら絶対に表に出さないそれを、今この場所、この瞬間だけ僅かに外に覗かせていて

 

「俺は…俺は………」

 

ずっと見ないようにしていた

目を背けていたそれから遂に逃げられなくなってしまった老人は、何十年分ものその重みに今まさに押し潰されかけていて…

 

 

 

「…そうだね

確かに、ご主人は客観的に見れば良い人ではないのかもしれないね」

 

気が付くとウォルター達の搭乗しているACはその場に止まっていた

あたりに満ちる沈黙

無音のコクピットの中央で、座席に座った617はそのまま真っ暗な外に目を向けていて

 

「僕らのような戦災孤児を兵隊として戦場に送り込む行為

きっとそれは世間的に見て悪い行為で…」

 

だからきっとご主人は悪い人なんだ

それもかなり

 

「だから本当なら僕はご主人の被害者で、ご主人を糾弾しなきゃならない立場なんだろうね」

 

そう呟く617の視線の先にあるのはルビコン3

ウォルターの最終目的地であり、ハウンズ達にとっても悲願の地

彼女達にとっての存在意義をまっとうすべき土地であり

 

 

 

「…だけど、それでも僕らが君に救われた事は変わらない」

 

 

 

思わず617へと目を向けるウォルター

そんな彼の視線を真っ正面から受け止めて彼女は言葉を紡ぐ

 

「そうさ、僕らはご主人の最終的な目的は知らない

どうしてルビコン3を目指しているのか、そこで何をしようとしているのか

僕らは何も知らない

何も知らないんだ」

 

だけどね

そう続ける617の瞳には強い意思の光が宿っていて

 

「だけど、それでも君のその行為が僕らを救った事は事実で

例えそれが世界を滅ぼす程の大罪であっとしても、それに僕らが救われたのは疑いようのない事実なんだ」

 

だから気にすることなく進むと良い

 

「僕らは自分達の意思で君に着いていくだけだ

一人の人間として、ハウンズあなたの猟犬としてね」

「…お前…」

 

その真剣な617の表情にウォルターは思わず息を飲む

彼女の決意に満ちた言葉を前にして、ウォルターはそれ以上何も言い返せず――

 

 

 

――奇しくも突如617が消息を絶ったのは、その日から3日後の事だった

 






執筆スピードが欲しい今日この頃…

他のハーメルンAC6二次創作を読んでると、よくあんな速度であんな素晴らしいクオリティのものを書けるなと尊敬の限りです

もっと書く速度が上がらないかな…

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