ARMORED CORE VI 外典 ~猟犬の追憶~(凍結)   作:DX鶏がらスープ

7 / 9

お待たせしました!
今回もフロム脳全開です!!

ちなみに流血シーンはありませんが、少々エグい演出などはあります
ご注意ください




7.

 

 

――始まりは混沌だった

 

僕が…いや、わたし・・・が初めて自己を認識した時、既にわたしと彼女・・との境界線は混じり合っていた

 

(え?え?な、なに!?)

 

自分が自分でない自分と重なり合うという奇妙な感覚

唐突に流れ込んでくる膨大な記憶と感情の奔流

そして同時に自分の中の大切なナニかが急速に失われていく感覚

 

それらは生まれたばかりの・・・・・・・・わたしを混乱させ、狼狽させるには十分すぎる程の異様な状況で

 

(な、何!なんなの!?)

 

理解の限界を超えた状況に困惑する

流れ込んでくる莫大な情報をもて余し、失われていくナニかに途方に暮れる

 

何が起きているのか分からなかったあの時のわたしは、状況にただただ流され、自身に起きる変化を前にして戸惑う事しか出来なくて

 

だけどそれでも何か別のモノが自分を塗りつぶしていく感覚が…

わたしと、そしてわたしでないわたしとの間で、お互いに流れ込む、流れ出すナニかが

まるでコップの中に注がれたフィーカとミルクのように混じり合い、別のナニかになっていく感覚が、筆舌に尽くしがたい程におぞましく、そしてあまりにも恐ろしいものだったから

 

(…い、いや!やめて!)

 

思わず血の気が引く

本能から生じる生理的な嫌悪と恐怖に身震いしたわたしは、堪らず声を上げる

 

誰でも良い、助けてくれと

この状況をなんとかしてくれと

 

自分という存在に何を無理矢理注ぎ込まれ、同時に大切なナニかを失い、別のナニかへと変質していく中で、わたしは必死に助けを求める

 

恥も外聞も関係ない

力の限り叫ぶ

お願いだからこれ以上わたしを奪わないでくれと

わたしに注がないでくれと

わたしをわたしじゃないナニかにしないでくれと

そう泣き叫ぶ

 

だけど、その願いは届かない

 

(あ、あぁ…)

 

少しずつわたしがわたしでなくなっていく

氷の彫刻が溶けて水になっていくように、わたしの原型がゆっくりと溶けて消えていく

そして同時に流れ込んでくる何かがそうして欠けた部分に流れ込み、次第にわたしの一部になっていく

 

(あ、ああああぁぁぁあああぁぁあっ!?)

 

まるでコップの中の液体を撹拌するように、わたしと、わたしでないわたしが徐々に混じり合い一つになっていく

それがどうしようもなく怖くて恐ろしくて

それでもどうすることも出来なくて

もうどこからどこまでが自分なのかも分からなくなり、段々と自我を保つ事すら難しくなる状況の中で、わたしは絶望の声をあげる事しかできなくて

 

だけど

 

『…ごめんね』

(………え?)

 

それでも消えていく自我の中で

薄れる意識の中で

 

『…守れなくて、ごめんね…』

 

わたしはわたしではないわたしが…今思えばこの体の元々の持ち主の自我が、パキリという音ともに砕け散り、粉々になっていく音を聞いたような気がして…

 

 

 

 

 

 

(………………………ぁ?)

 

次に気が付いた時にはすべてが終わっていた

 

目を覚ますと同時に、わたしはわたしであるという事を自覚する

 

わたしはアリア

アリア=コールレイン

 

それは疑いようのない事実であり、同時に真実である

現に今わたしはここにいるのだし、それに今こうしている自身の肉体と記憶がそれを証明している

 

それを疑う理由なんて本来あるはずがない

 

だけど…

 

(…本当に?)

 

ふとした違和感に思わず自分の手を見る

確かに自分にはアリアとしての記憶があり、この体もアリアのものだ

客観的に考えて自身はアリア=コールレインその人でしかあり得ないし、その自覚もある

  

だけど

 

(…違う)

 

どんどんと自身の中で増していく違和感と不快感

確かにわたしはアリアだが…同時にアリアではない

そんな矛盾した確信が徐々に自分の中で大きくなり、それと共に段々と気分も悪くなってくる

 

(なんだろう…何か、何か…)

 

大切な事を忘れているような気がする

 

込み上げてくる吐き気と目眩の中で、わたしはそんな謎の確信を頼りに記憶を遡る

生まれてからスラム街で過ごし、紛争に巻き込まれ、仲間を失い、一人さ迷う中で突然拘束され、この研究所に連れてこられモルモットとして扱われ、あげく成功率が小数点を下回る手術を受けさせられ

 

そして、そして…

 

(…………………………………………………あ)

 

思い出すのは目を覚ます直前の記憶

誕生の記憶と直後の混沌の記憶

自分が自分でない自分と重なり合う感覚に、自分が自分でない自分になっていく感覚

 

そして

 

――『…ごめんね』

 

それはもう届かない謝罪

必ず守ると決めた存在を守れなかった事への絶望と、そんな存在を残して自分一人が行ってしまう事への罪悪感が込められた小さな少女の最後の言葉

 

――『…守れなくて、ごめんね…』

 

自我を塗り潰され、自分ではない自分へと変質されながらも存在として安定していくわたしの自我と反比例するかのように、次第に弱り、縮小し、最終的に消えてしまったもう一人の自分の存在で…

 

(………まさか)

 

思い出した

それと共にとある可能性に思い至り、一気に血の気が引く

ガタガタと、寒いわけでもないのに勝手に体が震え出す

 

根拠なんてなにもないのに、それが事実であると確信する

正直今の自分がどういう存在なのかは正確には分からない

それでも、状況証拠と何より直感が、自身の行き着いた推論がどうしようもなく正しいという事を如実に肯定していて

 

(わたし…わたしは…もしかして…)

 

最悪の想像が脳裏を過る

しかし、それを止めることはもう出来ない

だからこそ、既に限界を向かえた不快感と吐き気の中で、わたしはその答えをはっきりと自身の中で言葉にしてしまって

 

――この子の人格を塗り潰して………記憶と体を乗っ取った?

 

瞬間耐えきれず、わたしは嘔吐した

 

 

 

 

 

…あれから少しの時間が過ぎた

この体の元の持ち主、アリアが生きていた時と同じく、相変わらずわたしの扱いは実験用のモルモットそのものだが、それでも研究者達の話を聞く分に替えのきかないモルモットではあるらしい

監禁と実験の日々ではあるが、少なくともわたしの体に過度な負担をかけるような無茶な実験は行われておらず、捕らわれの身という境遇に目をつぶれば、ある程度は平穏で余裕のある生活を送っていた

 

そんな生活の中で研究者達が出す課題を淡々と消化しながら、彼らの会話を盗み聞いた結果として、わたしは以下の事実を理解した

 

すなわち、まず今の自分が第六世代強化人間手術というものを受けたという事

この手術の肝は一つ前の世代の手術手法の模索の中で偶然発見されたというC型変異波形というものであり、情報生命体である彼らを現実の肉体に受肉させ、コーラルとしての特性と現実世界への物理的干渉力をあわせ持つ最強の強化人間を作ることにあったという事

 

そしてやはり…C型変異波形との融合により元の肉体の持ち主の精神は死んでしまうという事

より正確に言えば、C型変異波形が宿主の肉体と拒否反応なく融合し一体化できるように、元の肉体の持ち主を一度殺すところまでが手術の手法であるという事

 

(狂ってる…)

 

自身に起こった正確な事実と現状を理解したわたしの正直な感想はそれだった

だってわたしが受けたそれは、そもそも死者が出るという前提で理論が組まれている 

結果的に生き返るとはいえ、やっていることはほとんど生け贄の儀式に等しい

そのおぞましい事実に強烈な嫌悪感を感じる

 

だけどそれ以上にわたしを打ちのめしたのは、当初の自分の推論が完全に正しかったという事

一人の人間の人生を肉体ごと奪ってしまったという事

 

そして自分の正体が人間ですらないという事

加えて、なまじ彼女の生前の記憶と肉体をそっくりそのまま引き継いでしまっただけに、今は亡きアリアとしての有り方に自我が引っ張られてしまい、もはや自分が一体どういう存在なのか自分でもよく分からなくなってしまっている事であり…

 

(わたしは…誰なんだろう?)

 

独房のガラス扉の表面に映った自分に問いかけるも、そこに映っているのは自分の顔だけ

だが、果たして今の自分はどこからどこまで自分があり、そして自分でないのだろう

 

そもそも今のわたしはどっちなのか

 

金星のスラム街で育った少女、アリア=コールレインなのか

はたまた偶然誕生してしまった、名も無きC型変異波形なのか

 

どちらでもあり、そしてどちらでもない

自分でさえどこからどこまでが自分なのか、あるいは本当は自分でないのかが分からない

自分とは何なのか、誰なのか

分からない

 

そして何より…

 

(わたしは…どうすれば良いんだろう?)

 

そう、何より自己認識が揺らぎ自分が誰か分からなくなってしまったとしても、それでもわたしは知っていてる

この体の持ち主がもはや死んでしまっている事を

いくらわたしにアリアとしての自覚があったとしても、それはよくできた精巧な偽物であり、本物の彼女は既に息絶えている事を

 

それにわたしは覚えている

あの日、彼女が最後に遺した言葉を

わたしと彼女の存在が重なり…そして彼女の存在が次第に薄れて消えていく感覚を

あの時、間違いなく本物のアリア=コールレインは死んでいて…

 

(わたしは…)

 

一人の少女の人生をまるごと横取りにするという最悪の形で始まったわたしの人生

そんな呪われた存在の人生はどんな人生であるべきなのか

それ以前に一体何を目的に生きて行けば良いのか

 

寝静まった研究所

監視カメラによる監視があるとはいえ、夜になり流石に誰もいないその一角にある自身の部屋のベッドに体を投げ出しながら、わたしはそんな事を考える

 

しかし答えは出ない

 

暗闇の中、時間だけが静かに流れていく

そして私もまた、ただ静かに天井を見上げる位の事しかできない

 

「…」

 

――このまま、この研究所でモルモットとして朽ちていくのかな?

 

ふとそんな思考が頭を過る

だけど、それで良いのかもしれない

 

自身の存在がいかに歪で業深いものなのかは、わたしが一番良く分かっている

生まれてはいけない命

存在してはならない命

それがわたしで、それを考えるならこのままここで飼い殺しにされるのは悪くない選択かもしれない

 

何せ存在自体が罪なのだ

であればその人生は常に罰せられ続ける人生であるべきではないのか?

そう考えるとこの命が尽きるまで永遠に自身の体を実験体として弄ばされ続けるこの人生は、わたしには決して悪いものではないように思えて

 

(それなら…良いか)

 

このままここで死んでしまっても

 

そんな事を考えている時だった

 

 

 

「…人道に背く悪魔の研究の成果

神をも恐れぬ下道の産み出した禁忌の産物

そう聞いていたのだがな…」

 

 

 

カツカツと、誰もいないはずの外の廊下から靴音が聞こえる

 

「だからこそ、さぞやおぞましいものがあるのだろうと

そう覚悟していたのだが…」

 

そんな声と共に扉が開く

そして入ってきたのは一人のくたびれた男性

いつもわたしの様子を見に来る白衣の大人達とは明らかに違う、表面上の穏やかな言動とは裏腹に冷たく重い威圧感を漂わせる一人の老人で

 

「まさかこんな年端も行かない少女がターゲットとは…

まったく、世も末だねぇ…」

 

そう言いながら懐から一丁の拳銃を取り出した彼は、それをわたしに向けながら穏やかに微笑んだ

 

 

 

「なるほどな…まぁ、こういう事もある」

 

 

 

 






本作における617は…そうですね
例えるなら自分が偽物だという確信があるスワンプマンですね

自分が本物ではない事は直感で分かっている
それでも自身の心が、肉体が、記憶が自分は確かに本物だとも言っている
偽物であり本物であるが故にどうすれば良いのか分からない
そんな感じです

最初はスッラと同じ第一世代の最後の生き残りという設定だけだったはずだったのですが…
いつの間にかこんなくっそややこしい設定になってしまっていました…(白目)

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