帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか? 作:匿名希望
金で女を買うようになったのは、両親を失ってからだった。
悲しくて苦しくて、そんな召喚英雄が使い物にならなくなるのを恐れて国が寄越したのが娼婦であった。そのまま女に溺れてくれれば英雄の血を残しやすくなるという打算もあった。
まあむしろその娼婦は女の扱い方を教えこみ、彼が容易く女に操られないようにしたのだが。
彼女曰く血筋の証明のために処女を保って置かなければならない貴族の子女が娼婦に魅力で叶うわけがない、らしい。
娼婦と客、無意味と知りながらも柊の初恋は彼女だった。立ち直った後も、彼女の店に訪れた。まあ見習いの相手とかさせられたけど。
彼女にとって柊は、大人になるまで育ててやれなかった息子のようなものだった。結局、今の柊が吸っている草より安全だがそれでも人にとって毒の煙を吸い続け衰弱して死んでしまったが。
その悲しみから逃れる術を幼い頃から快楽であるとすっかり覚えさせられた柊は恋人が出来るまで色んな女を抱いたが、彼女の教えを守り近くに来る女は抱こうが抱くまいがまずは警戒する。その上で言おう、此の女は何かをするつもりで来た。
目的はまあ、30階層で拾った胎児入りの宝玉だろう。心当たりはそれぐらいだ………。喋るモンスターを見た方の可能性もあるか……。
「で、宿は何処にする?」
「お前が決めろ」
「利用したことねえから知らねぇ」
別に情報を引き出せず殺せば良いのだが、流石にここは人の目がある。
「? お前、荷物は持ってないのか?」
「ああ、この外套が魔道具でな。色々入る。取り出すのにコツが居るが、なれりゃ便利だ」
「コツだと?」
「それさえ掴めば一々手を突っ込まずほれ此の通り」
と、柊の掌に現れたのは胎児の入った宝玉。女は目を見開き飛び退く。
「ああ、やっぱりこれが目的か…………」
「っ!!」
「良いぜ、別にやっても」
「…………なに?」
柊にとっては別にどうでもいい。
オラリオの未来も、世界の命運も。そんなものこの街に掃いて捨てるほどいる英雄がなんとかすればいい。
自身に害が及ぶなら、その時に潰せば良い。
「じゃあこれでお前を買おう」
手に待っていた宝玉が消える。収納したのだ、これで女には取り出せない。
「チッ、ならどうする? 外でやるか?」
「金払って買った娼婦ならともかく、いらねえものをやる程度で抱かれる気のねえ女抱くか」
「なら、どうする?」
「今リヴィラで高価買取中の商品をリストアップしたから集めてこい」
俺は酒飲んでくる、柊はそう言って酒場に向かう。残された女は忌々し気に柊を睨むも、柊のいうマントから宝玉を取り出す方法も解らない。そもそも、本当はコツなど無くて柊だけが取り出せる場合、永遠に回収できない。
「ああくそ、面倒な…………」
女は舌打ちをして、街の外へと向かっていった。
◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆
女の名は、レヴィスという。
その現状を、現代の人間に解るように簡潔に言うと、「中間管理職」。
『彼女』に空を見たいとせっつかれ、探し人まで命じられ、『彼女』を信仰する白髪の男はうるさいし『彼女』の開放を手伝うからシナリオ通りに動いてくれとやかましい神も現れた。
全員ぶち殺してやりたいが、自分一人でそれが出来ると思うほど思い上がってもない。
時間をかけ念入りに戦力を準備すれば可能かもしれないが、おそらくそうなる前に地上に眠る『終焉』が全てを滅ぼす。結局、今はあの神の計画に乗るしか無い。
その為にもあの
最悪取り戻せずとも良いのだが、かけた時間を無駄にするのは癪に障る。あの男から無理に奪うことが出来ないとは言え、あれがなにか知らぬから簡単に返すのが幸いか。
返す条件がクソ面倒だが………。
指定のものを集め、換金し酒場宿に向かう。
個室兼宿として使えるかなり高めのリヴィラの宿だ。
男の特徴をいい部屋を聞き出すと何やら複雑そうな顔をして部屋番号を教えられる。
「おい、持ってきたぞ!」
「………え?」
部屋の中にいたのは、あの男だけではなかった。まだ幼さを残す顔立ちのアマゾネスが、ベッドで横になる男にしなだれかかっていた。
「ちょっと何? 悪いんだけど、今この雄は私と──ヒッ!?」
レヴィスがギロリと睨むと顔を真っ青にして窓から逃げ出す。なお、下しか履いてない。外から男の野太い歓声が響く。
もう殺さない程度に殴って無理矢理言うことを聞かせるか? とレヴィスが拳を叩きつけようとして……
「ん………んぁ? ああ、お前か………さっきのアマゾネスは?」
腕を掴み、捻り、床に押さえつける。
くぁ、と欠伸をして、そんな間の抜けた態度でしかし1セルチも動かせない。
「殺気はなかったから見逃すが、別に殴られる謂れもねえ………お、これか」
と、床に落とした袋を手に取り中の金を確認する。
「思ったより早かったな………ん? この代金」
「お前の言う店で、お前の言う値段で交渉した。反故にする気か?」
「いや、魔石はただで売ったのか?」
「………捨てた」
「強化種生まれるかもだからやめたほうが良いんだがな………」
と、ドアがノックされる。
店員が酒や飯を運んできた。飯と言っても干し肉やダンジョン産の食料だが。
「あ〜………あのアマゾネスが勝手に注文したのか。食ってけよ」
眠気眼をこすりながら干し肉を手に取り食い千切飲み込むと、独特な甘い香りのする煙を吸う。
「食わねえのか?」
「…………」
少なくとも、今の自分では寝ぼけているこいつにも勝てない。余計な不興を買うのは避けたい。
椅子に腰を下ろし、酒を呷る。
……………そういえば、何時以来だろうか? こうして人の食い物を口にするのは。
「良い飲みっぷりだな」
「貴様こそ、肉ばかりで酒は飲めないか?」
「馬鹿言うな、飲むなら酔うまで飲む」
瓶をあけ、中身を飲み干す。
酒と煙の匂いが部屋に立ち込める。
「……………なにか話せ」
「何だ唐突に」
何時か以来の誰かとの食事に、レヴィスは無言に耐えきれず声を発する。白髪の男? 誰だそれは。
「暇だ。貴様の暇つぶしに付き合ってやっているんだ、なにか話せ」
「じゃあ………そうだな、恋人の話でもするか」
「惚気か?」
「語弊があったな。恋人が作った話だ…………」
「お前の恋人は、間違いなく性格が悪い」
「そりゃそうだ。初めて告白された時も、思わず拒否したからな」
「………だが付き合ったのか、変わったやつだ……彼奴等よりも複雑だ」
「彼奴等?」
「ああ………普段は喧嘩ばかりのくせに、何時の間にか──」
はて、彼等はどんな顔をしていただろうか?
もう、思い出せない。こうしたという記憶はあるのに、声も、顔も、名前だって………。
「いずれ俺もそうなるのかもな」
「何だと?」
その言葉に訝しみ、しかし何処か苛立ったように男を睨み………何もせず次の酒を取った。
なるほど、この男もまた生きているだけの亡霊か。
自分が『役割』に逃げたように、酒や女に逃げている。
「死のうとは思わなかったか?」
「生憎と、死ねないようにされていてな」
「そうか……私と同じか」
「そうなのか?」
「そうだ…………」
「ほらよ」
食事も酒も無くなり、宿を出た男が
「…………お前、名前は?」
「柊」
「そうか、柊…………街を去れ。ダンジョンから離れろ………お前の仲間を覚えているのは、お前しかいないのだろ?」
「そうだな」
「なら、なるべく遠くの………モンスターの脅威がない場所で余生を過ごせ。死ぬその時まで、そいつ等をお前が覚えていてやれ」
少なくとも、オラリオの外にいれば長生きはできるだろう。
「ここでも問題ねえよ。俺は最強だから」
「………チッ。なら好きにしろ」
レヴィスがそう言ってさろうとした時、
「っ! 今すぐ、この街を出ろ………」
「何……?」
「5分………5分だ………5分以内に街をでろ。わかったな!」
「……………何だ彼奴?」
レヴィスが走り去ったのを見て、柊は首を傾げる。あの胎児がなにかに反応し、レヴィスに何かを訴えかけていたようだが。
「昨日の査定がまだなんだよな………」
取り敢えずそっちの換金だけしてくるか、と柊は店に向かって歩きだした。
「………どうかしているな、私は」
何故あんな事を言ったのか。
「楽しかったのか、私は?」
顔も名前も声すらも思い出せないかつての仲間たちと過ごしていたような、何も考えず酒を飲み飯を食っていたあの時を思い出したのか?
今更、何の意味もないというのに。
何もないから『彼女』に命じられるまま行動していたというのに。
「…………もう、いったか?」
5分経った。忠告はした。
「出ろ」
口笛が響き渡る。待機させていた『同族』達が目を覚ます。
リヴィラの街に………食人花の大群が襲来した。
とある娼婦
柊の初恋の相手にして初めての相手。柊にこれは気持ちいいことだと教え込んだし、女に手玉に取られないよう教えた。
元貴族の令嬢で教養が高く、柊の未来を憂いていた
娼婦達
同じ店の娼婦達。柊を可愛がったり可愛がられたり。
柊から依頼を受けた金食い豚が柊のお金を渡して国外の田舎に避難させた
ちなみに宿の店主は柊が恋人がいながらアマゾネスを連れて宿に来たと思った。
後、レヴィスは変装しないので髪は長髪のまま。