帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか? 作:匿名希望
「柊く〜ん!!」
ホームに帰還するとヘスティアが飛びついて来た。
「心配したんだぞ!?
グルグル回り、ペタペタ体を触ってくる。まるで泥だらけで帰ってきた我が子にそうする母親のように。
まあ見た目のせいでヘスティアの方が親に甘える子供にも見えるが。
「怪我はない。祭りで、ちょっと昔を思い出すのを見て苛立ってダンジョンに向かっただけだ」
「そうなのかい? う〜ん、ダンジョンに潜るなら一言言ってほしかったよ」
心配するからね、と頬を膨らませるヘスティア。柊の事情は何も知らない。神に似た………というか自分達とは異なる神に呪われていたり、Lv.5を一方的に叩きのめしたりしたらしいが、強いんだから何の心配もするな、なんてヘスティアは出来ない。
まあ心配していたベルを落ち着かせるためにその言い訳を使ったが、少なくともヘスティアは目茶苦茶ハラハラしていた。
「ところで、ベルは何をしている?」
「ああ、ベル君にナイフをプレゼントしたんだ」
ベルは漆黒のナイフを見てうっとりしていた。ちょっと危ない雰囲気だ………。しかし、なるほど。
偶にショーウインドーに並ぶ武器を見て目を輝かせては落ち込んだりしていたが、とうとう上質な武器を手に入れたのか。
「それと、柊君にはこれ!」
そういってヘスティアが渡してきたのは煙管入れ。装飾は見事なのに、縫い方が何処か拙い。
「僕も手伝ったんだぜ!」
「最後に縫う部分か」
「うぐ! そ、そうだけど…………下手だからわかったんだよね?」
実はヘスティア、神の宴があった日からヘファイストスに頭を下げていたのだ。ベルがあまりに心配していて落ち着かない様子が鬱陶しかった柊はヘスティアを探し当て、その際面識を得た。
「あの時頼んでいたのは武器だけじゃなかったのか?」
ベルの成長速度は異常だ。だが、武器がそれに追いつけない。ベルの適正階層に合わせて武器を取り替えていけば、手になじまずかと言って上等な武器を買う金などない。なので土下座して頼み込んでいたらしい。
「ああ、まあ………あの時はヘファイストスに内緒にしてもらってたけど、柊君にもプレゼントをね………いやまあ、こっちは作り方を教えてもらうだけのつもりで…………見かねたヘファイストスが………」
鍛冶師の仕事ではない気がするが、まあレザーアーマーや革の鞘などに装飾を施すこともあると考えれば妥当だろうか?
柊の武器を作っていた武器職人も、武器はともかく鞘などには拘っていた。なんでも見てくれを良くしないと買わない奴等が多い、とか。
「なるほど………しかし良いのか?」
柊は別にヘスティアの眷属ではない。バレた時リスクがあるのはヘスティアだけなのに、名を借りているだけ。むしろ柊の方こそ礼をするべき…………いや、それはしてるけど。
「勿論さ! 確かに君と僕は色々複雑な関係だ。でも、君がここに住んで、一緒に寝て起きて、朝ご飯を食べて夜ご飯を食べて……なら、それで十分だ。今の君は、親も居ない子供。そんな子供とそこまでしたなら、僕にとってはもう家族も当然さ!」
ヘスティアは子供が好きだ。人類という括りでも、幼い子供という意味でも。そんな子供達を守ってやりたいとも思う。
だってどれだけ強かろうと、柊はまるで迷子の子供のようだから。
「だからお兄ちゃんとしてベル君を鍛え──」
「それは断る」
「ちぇ〜………」
本気ではないので大人しく引き下がるヘスティア。そのままベルに声をかける。
「ほらほらベル君! 僕の上げたナイフを大事にしてくれるのは嬉しいけど、そろそろ絵面が危険だぜ!」
「はっ! あ、か、神様………柊さん!? 無事だったんですか!?」
「ああ……」
「あ、肝心なことを言い忘れてた! ほら、ベル君も言うことがあるだろ!」
「あ、はい!」
と、ヘスティアの言葉にベルが柊に向き直る。
「「おかえりなさい!」」
「…………………ああ………ただいま」
「あ、柊さん! ご無事だったんですね!」
と、街を歩いているとシルが駆け寄ってきた。隣には緑がかった髪のエルフ………いや、染めてる?
「ベルさんから聞いたんですよ! お祭りの日から行方がわからないって。大丈夫でした?」
「お前がそれを言うのか」
「? それはどういう……まあ、ご無事で何よりです」
「柊さん、良くぞご無事で」
と、エルフ。
「意外だな、お前俺を嫌っていただろ」
少なくとも、リヴェリアを年増と言ったりベルがダンジョンで死のうと関知しないと言っていたあたりでは嫌っていた。
「否定はしません。ですが、貴方はシルの友人だ………それに、貴方の目を知っている」
「…………………」
「運良く
一瞬だけ目に宿るは、嘗て民衆に抱いた疑問の残り火。彼女もまた石を投げられ、その上で今を選んだのだろう。
「貴方が、貴方の答えを出せる日が来ることを祈ります」
「答えを出した結果だと思わねえの?」
「思いたくない、が偽りのない本音でしょうが………そうですね。思いません……だって貴方は、言葉に言葉で返したから」
民衆に何の期待も持っていないのなら、あの時エルフ達に対して不快感を向けた時点で全員どうにでも出来るだけの強さが彼にはある。そうでなくとも、どうせ言葉が通じないと話を切り上げれば良かった。
「アーディならあるいは、貴方に答えを示せたかもしれない…………」
「もう、駄目よリュー? 誰がその人の前に現れようと、結局答えを出すのはその人なんだから。自分ではなく、なんて考えない!」
「す、すいませんシル……」
「………………」
「………あ」
柊が無言で歩きだし、シルが声をかけようとしてやめた。
彼にとってリューが
「私は、余計なことを言ってしまったのでしょうか?」
「う〜ん、この場合………リューはいつも言いすぎちゃう、とか?」
それから数日。
ベルが新しい装備を手に入れたりミイシャからエイナとベルがデートしたことを教えられたり………あと最近、誰かにつけられている。
敵意はない。観察している。あの18階層の事件、それとも………
「あ……?」
と、
柊は
「がっ!? あぐぅ!!」
ズザザ、と地面を滑る
「ぎぐぅぅ!?」
「…………」
柊はナイフを拾うとその場から立ち去った。
「こんにちは、柊さん」
「シルとリューか、丁度良かった」
と、柊はリューにナイフを渡す。
「これは、クラネルさんの?」
「さっき拾った。俺はこれから用事があるから、ベルを見かけたら渡しておいてくれ」
「用事?」
「ああ………」
柊はそう言って煙を吸い込む。
向かった先は、バベル。
「……査定が終わったわよ。取り敢えず、1億ヴァリス」
「取り敢えず?」
「新種だからね…………モンスターの強さとかドロップ率ででも変動するけど、取り敢えず中層の新種なら………」
「強さか………」
「貴方大したことないって言ってたけど、何か基準になる冒険者いないの?」
漆黒のモンスターの爪を柊から受け取ったヘファイストスは新しい素材ということもあり後日来るように言って、今日がその日。値段は1億とかなりの値段で売れたが、ヘファイストスとしてはもっと詳細な情報から適正価格を決めたいらしい。
「あ〜…………【ロキ・ファミリア】の団長とアマゾネス姉妹と【剣姫】が手も足も出てなかった」
「…………はああ!?」
値段は14億ヴァリス。ついでに、切れ味は鋭いが硬さがないので補強するための素材を持ってくるように
明日から行くかと、その帰り………
「俺が、ガネーシャだ!!」
不神者が現れた。
「君は、ガネーシャか?」
なんだコイツ。