帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか?   作:匿名希望

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24階層の騒動

 ベルは魔法が発現し、喜び勇んでダンジョンに潜った。ヘスティアに止められたのに、調子に乗ってダンジョンで魔法を使い、玩具をもらった子供のようにはしゃぎ精神枯渇(マインドダウン)で気絶したという。

 

 その後のことは語ろうとしない。

 それから追い打ちをかけるように魔法が突然発現したのは実は魔導書(グリモア)という超高級な魔法発現機。その値段は億を有に超える。

 ヘスティアは無かったことにしようとしたがベルは本を貸してくれたシルの下に走ってしまった。

 

「うう、ベル君のくそ真面目〜!」

「たかが億だろ?」

「柊君と僕達の稼ぎは違うんだい!」

 

 とはいえ、ここで柊に金を借りようとしないのは柊がヘスティア・ファミリアではないからだろう。恩に着せてせびることも出来ように………。

 

「まあ()()()()()()()()俺が払ってやるよ」

 

 どうせ現れないだろうが、と柊はベルに魔導書(グリモア)を渡したという鈍色の髪をした街娘がテヘペロとしている姿を思い浮かべる。

 

 

 

 

「ベル君ぜえええったい面倒事に巻き込まれてるよね?」

 

 ベルがサポーターとして雇ったリリという犬人(シアンスロープ)の少女を救いたいと言い出した。なんでも質の悪そうな冒険者に狙われているらしい。

 そのサポーターは信頼できるのかというヘスティアにベルは思わず叫びそうになっていた。あって数日で何をそこまで気を許すのかと思えば、寂しそうな目をしていたからだという。

 

「放っておけ、可哀想だから助けたいとか………これまでの被害者を無視して()()に走るガキに何を言おうと無駄だ」

「………柊君は、やっぱりサポーター君が怪しいと思うかい?」

「怪しくない要素があるか?」

 

 冒険者に追われていた、だけならともかくその後直に瓜二つの種族違いの少女と出会い、その日にナイフを紛失………怪しむなという奴がいたらそいつが怪しいレベルだ。

 

「そもそも俺はベルの言う特徴と種族以外が一致してるガキがナイフを持ってるのを目撃してる」

 

 大方稼ぎの低いただのサポーターをするより、冒険者から物を盗んで稼ぎにしている小賢しい盗人だろう。

 

「むむぅ………柊くぅん…」

「冒険者がサポーターを見下しているのは事実だ。マトモに金も払わない奴がいるのも、脅して奪う奴がいるのもな………が、ベルを狙った時点でそのサポーターは不当に奪われたものを取り返そうとする被害者じゃなく不当に相手から奪う屑」

 

 それでも可哀想だからという理由で救うアホに手を貸すつもりなど一切ない。

 

「何でそんなの助けるために俺が手を貸さなきゃなんねえ」

「…………ごめんよ、僕は……それでもベル君もその子も救われたら良いと思ってる。これは、僕の身勝手だ」

 

 柊は何も言わない、ただ本に目を向けるのみ。

 

「でも、君が嫌がるならもう言わないぜ、君だって僕の子供なんだから」

「…………………………」

 

 柊が座るソファの後ろに回り込み抱きしめ頭を撫でてくるヘスティアに、柊はされるがままだった。

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 ヘスティアの予想通り、ベルは面倒事に巻き込まれていた。具体的には血肉(トラップアイテム)でモンスターを呼ばれ、その隙にヘスティア・ナイフを盗まれモンスターの相手をすることに。

 切り抜けられないことはないが、リリを追えない。そう思っていると誰かが助けてくれた。ベルは明らかに自分より格上の冒険者に感謝し、リリを追った。

 

「…………いっちゃった」

 

 そして、その冒険者とはアイズだ。ベルの担当ギルド職員、エイナに頼まれベルを助けに来たのだが………強くなってた。

 見かけた時とは比べ物にならないほど、あり得ない速度で。

 

「………あ」

 

 と、落とし物を見つけた。彼のだろうか? 届けたほうが良い? エイナは恐がってないと言ってくれたけど。

 そんな風にグルグル思考を巡らせていると、アイズはふと気配に気付く。

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◆

 

 

「【剣姫】に冒険者依頼(クエスト)を出してきた。可能なら、その手伝いに行ってもらいたい」

 

 ヘスティアがバイトに向かい、柊も教会を出てダンジョンに向かう途中ここ最近柊を監視していた人物が接触してきた。ウラノスの私兵、フェルズというらしい。

 

「前払いで五千万、成功で追加一億だそう」

「詳しく話せ」

 

 24階層でモンスターの大量発生………厳密には大移動。30階層で起きていた現象と同じことが起きているらしい。

 

「またレヴィスか?」

「レヴィス? ああ、赤髪の調教師(テイマー)だったか………まあ、宝玉とやらが関わっているのは間違いないだろう」

「【剣姫】と言ったな、他には?」

「【ヘルメス・ファミリア】が関わっている。数は15」

「そうか………で、具体的には?」

「騒動後の調査と行ったところか…………君はどうにも、団体行動に向かないようだからね」

 

 まず間違いなく、【ヘルメス・ファミリア】がピンチになろうと助けない。フェルズではなく【ヘルメス・ファミリア】が助けを求め報酬を提示したのなら別だろうが、それは確実に不和を生む。

 

「【剣姫】がランクアップしたとはいえ、ランクアップ前の【剣姫】を圧倒した相手が待ち構えている可能性があり、しかも無限に湧き出るLv.3相当のモンスターともなれば人を助けようとしない君は、むしろ一人で行ってもらったほうがいい」

「なら何故最初からそうしない?」

「例の宝玉は【剣姫】に反応していたようだからね」

 

 宝玉の正体を探るため、ということか。

 

「君は、あれについてなにか心当たりは?」

「この世界由来のものだ。解るか」

 

 例えばエルフだって、形が似てるだけの別物だ………いや、傲慢なところは良くにているが………。

 少なくとも柊の世界に似ているものがあったとして、それがこちらでも同じ存在とは限らない。

 

「ふむ、それもそうか………では、リヴィラで待機し【ヘルメス・ファミリア】や【剣姫】達が戻ってきたタイミングで出発してくれ」

「ああ、解った」

 

 

 

 

 そしてリヴィラの街に移動した柊。

 モンスターの大移動に巻き込まれたであろう傷だらけの冒険者がチラホラ見受けられる暗い雰囲気の酒場で酒を頼む。

 

「こんな状況で良くそんな風に酒が飲めるな」

「別に俺が怪我したわけじゃねぇし………仕事はこれからだが前金もたんまり貰ったしな」

 

 全員がこの状況から意識をそらすために酒を飲む中、途中からリヴィラに来て酒を飲む柊にマスターが周りの目を気にした方がいいと言外に伝えるも、柊は気にしない。

 と………

 

「ん?」

 

 ガン! と机に勢いよく木のジョッキが叩きつけられる。

 

「良くもまあ、そんなこと言えたもんだな………!」

「何だお前?」

「知らねえか? 知らねえだろうな! 俺は知ってるぞ、お前はこの前【ロキ・ファミリア】でも勝てなかったバケモンをぶっ倒した奴だよな!? 仕事ってのは24階層のモンスター共か!? なら、何チンタラしてやがんだ!!」

 

 片腕を失った男は、肘から先がなくなった腕を見せつけるように掲げる。

 

「下はどんな状況が知ってるか!? モンスター共で溢れかえって、ひでえもんさ………俺の仲間も殆ど死んだ! 眼の前で食われた!」

「お、オレだって………見ろよこの足! この体で、これからどうやって冒険者やってきゃ良いんだよ!?」

 

 と、両足のない男が叫ぶ。

 

「やっと………やっとLv.3になれたんだ………まだまだこれからだったんだ。それを………ちくしょう………ちくしょう!! そんだけ力がありながら、いざという時何の役にも立たねぇ! 解ってんのかてめぇ!!」

「そ、そうだ! てめーが地上でチンタラしてる間にこんな事になったんだぞ!」

「責任取れよ責任!」

「そのうえのんびり酒なんか飲みやがって! 弱者甚振って楽しいか!?」

「俺等ばっか苦しい思いさせやがって!」

「とっととなんとかしてこいよ!」

 

 柊はそんな罵声を気にせずマスターに新しい酒を頼む。

 

「ごちゃごちゃ喚くんじゃねえよ………質問には一つずつ答えてやる。まず、冒険者やってきてえなら義足でも手に入れろ。あるだろ………役に立たないことが解ってるか? 何でお前等の役にたたなきゃならねえ」

 

 罵声という言葉に、不愉快そうに言葉で返す柊。酒場がシンと静まり返り、しかし柊の言葉に空気が張り詰めていく。

 

「後よぉ………仮にも【ロキ・ファミリア】の幹部を殺しかけた怪物をぶち殺した俺にキャンキャン喚くお前等は、弱者じゃねえよ………立派な力を振るう強者だ。俺の助けなんざいらねぇよ」

 

 ふぅ、と煙を天井に向かい吐きながら、柊は冒険者達を見て嘲笑う。

 

「何より、お前等の危機に何をしていたか責められなきゃなんねぇのは、お前等のお仲間だろうが。今頃地上で何をしてるのやら」

「! お、俺達のファミリアは関係ねえだろ!」

「関係ないなんて冷たいことを言ってやるな。大事なファミリアの仲間だろ? そもそもそいつ等が関係ないなら他派閥の俺にはもっと関係ないね」

「だから! 強いくせに何もしねぇのが………!」

「………はぁ」

 

 熱くなっていく冒険者達は気づかない。近くで柊を見ていたマスターだけが気付いた。

 冒険者達が怒りの炎を燃やす中、柊の目にもまた凍えるほど冷たい炎が灯るのを。

 

「強いなら全部守れってか? 馬鹿を言うなよ、お前等が死んで悲しむ奴がいるなら、お前等に死んで悲しい奴がいるなら………他人に任せる前に自分の無力を嘆け」

「てめぇ!!」

 

 一人の冒険者が立ち上がり剣を抜く。怒りは伝播し、他の冒険者達も立ち上がる。

 

「何で………お前等馬鹿は自分達に出来なかったことを解決出来る相手に、喧嘩売れるかねえ」

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 アイズから冒険者依頼(クエスト)を受けたという報告を受けたロキはベートとレフィーヤ……ついでに、食人花について調べていたディオニュソスという神の眷属であるフィルヴィスでパーティを組み、リヴィラで情報を集める。

 

「…………あ?」

 

 と、不意にベートが顔を顰める。視線の先には、酒場。モンスターの大量発生で死者が出て街が暗い雰囲気とはいえ、やけに静かな………。

 

「…………っ!!」

 

 その入口から、ポタリと液が垂れる。ワインかと思った、しかし………それは………

 

「ん?」

 

 ベートがウエスタンドアを蹴りつけ中に入ると、噎せ返るような血の匂い。冒険者や………()()()()()()()()が転がっている。

 そんな床一面の血と肉の海の中、カウンターで酒を飲む一人の青年。

 

「てめぇ!」

「? ああ、あの時の………」

「こ、これは………貴方がやったんですか?」

 

 ベートの怒りに首を傾げ、レフィーヤの投げかけた言葉に煙を吸いながら、ああ、と肯定する。

 

「酒場で堂々襲撃をかまして来やがったからな。返り討ちにした………生き残りは後で神の前で自分達から手を出した証人になってもらおうとな」

「だ、だからって………こんな………!」

「何で俺が来るのが遅いとか訳分からん理由で殺そうとしてくる奴等を生かしてやらにゃならねえんだ」

 

 先に襲撃を仕掛けたのは彼等。痛めつける、なんて程度ではないのもいた。それを生かす理由などあるのか? そう問い掛ける柊にレフィーヤは言葉を失う。

 

「だって、生きて………それなのに………」

「こっちの命を考慮しねえ奴等を、何で俺が気を使わなきゃならねえ」

 

 柊はそう言って酒を飲む。ベートは足元にしがみつく冒険者を睨んだ。

 

「た、助けて………助けてくれぇ! た、頼む【ロキ・ファミリア】ぁ!!」

「あぁ? てめぇ等から喧嘩売ったんだろうが、なんで俺がてめぇ等の代わりに戦わなきゃなんねぇんだぁ? おい、それよりお前」

「ん?」

「アイズを見なかったか?」

「24階層に向かった」

「なんでそれは知ってんだよ………」

 

 と、ベートは舌打ちして踵を返し、去り際に柊を睨む。

 

「あの時の借りは何時か返す」

「そうか………まあ頑張れよ」

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