帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか? 作:匿名希望
「私を捕らえにきたのか?」
「別に?」
柊の仕事は後片付け。
白装束の死体や持ち物、極彩色の魔石………持って帰るものは一先ずそれで十分だろう。
「………私の体を知っている者にあった」
「へえ、そうか」
「お前は何故、私が別の体に入っていると知っていた」
「魂を扱う術なら心得てるからな」
柊が全ての怪物を倒した後国を滅ぼし、その国の魂をエネルギーに変え世界を渡った。故に柊は、この世界において神の次に魂の扱いを心得ている。
なんならあの白装束達の魂を回収してエネルギーに変え輪廻に戻れなくし、二度と再会できぬように出来るのだ。殺そうとしていたから殺すだけですませたが。
そして、魂の扱いを心得ているからこそ柊はレヴィスの魂が肉体にあっていないのを見抜いた。
「まあ肉体の記憶に魂が引っ張られることもあるだろうから、気をつけろよ」
と、レヴィスに手を貸す。手を借り起き上がったレヴィスは、ジッとその手を見詰める。
「お前は……私を否定しないのか?」
「死んだ仲間の魂を別の人間に植え付けようとした俺が否定できるはずもねえからなぁ」
生き返るつもりはないと断られたが。
共に生きてくれないなら、せめて自分の蛮行を、愚行を止めてほしかった。責めて欲しかった。お前など仲間ではないと言ってくれれば、何もかも捨てられたのに。
「………どうした?」
「昔の仲間を思い出した」
「そうか………」
立ち上がったレヴィスは砕けた剣を引き抜く。半ばから折れていても、彼女ならこの辺りのモンスターに遅れを取ることもないだろう。
「この地を離れるつもりはないのか?」
「ないね、稼げるし。何より世界の中心だけあってうまい飯も多い」
あと、酒もうまい。歓楽街もある。
酒といえばリヴィラには掘り出し物があることもあるらしい。
「………俺にここから離れてほしいのか?」
「そうだな」
「…………………俺に死んでほしくないのか?」
「…………そうかもしれん」
この体ではなくレヴィスという魂に宿る記憶が、柊との会話に………誰かとの会話に懐かしさを覚えさせる。
白髪の男? 知らん。
「お前程度が百人いようと、俺は死なねえよ」
「だろうな…………だからこそ、計画の邪魔になる」
「ならどうする?」
「…………あれが死ぬなら、それも良いだろう。エニュオとか言う神の計画が崩れるのも、見ものだ」
くっく、と笑うレヴィス。エニュオとやらは知らないし『あれ』が何を指すのかもわからないが、忠誠心などは皆無らしい。面倒だが従っているといったところか。
「よくやる」
「頭に響く声に逆らってまで、抗ってやるほどこの世界に思い入れはない」
「そうか……」
「こんな体になって、唯一の充足感と言えば戦いぐらいか…………まあお前とは戦いにすらならないだろうが」
「これでもかつては世界最強と呼ばれていたからな」
尤も、今なら単騎であの怪物達と戦えるというわけではないが………。事実二度目も確実とは言えないが単騎で討ち取った魔族の王と母神なら兎も角、他は神器込みなら一体ぐらい相打ちに持っていけるかもしれない程度。
「少なくともこっちに来てから俺に勝てそうな奴の気配を感じたことはねえなあ。
「そうか………」
「俺はリヴィラで飯にするが、お前はどうする? 暴れないってんなら、ここで会ったのも何かの縁ってことで奢ってやるが」
「………………………」
清掃中の酒場は諦め、以前出会った
知る人ぞ知る、そんな酒場らしい。半分だけ入ったボトルが並ぶ棚が店の片隅にある。
「あれは………ゲン担ぎか」
「ああ、良くやったな俺達も………お前もか?」
「昔の話だ………私も、
「へえ……」
因みに柊の仲間の場合、自腹で祭りの準備をさせてから神官、怪物退治に挑み終わったらめいっぱい楽しむという金の使い方。だから柊は祭りが好きだった………。
誰かが死んでも喪に服すより、死んだ仲間にも届けとばかりに馬鹿騒ぎをしようと皆で決めていた。そう言えばオラリオには祭りが多い。たしか、神月祭やグランド・ディが近々あるのだったか…………。
「祭りも多いのがオラリオの良いところだなぁ」
「そうか、せいぜい楽しめ」
「ああ、そうさせてもらう」
◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆
フェルズに酒場の清掃費を届けさせ、余った金で春姫で遊びに行き、ホームに戻ると書き置きがあったのでその店に向かう。
「くううぅ! このぉ、ベル君から離れろ泥棒猫、いや、泥棒犬めぇ!!」
「ヘスティア様こそ! ベル様の優しさに付け込んで無理矢理くっつかないでください!!」
「あ………?」
姦しく騒ぎ立てるヘスティアと
「ぶぎぃ!?」
「え、リ、リリ!? っ! いきなり何を………って、柊さん!?」
「ベル、【ガネーシャ・ファミリア】呼べ」
「柊君、いきなり何を!? って、酒臭!」
酒と煙の匂いに顔を顰めるヘスティア。鼻を押さえながら立ち上がる少女にベルが慌てて駆け寄る。
「柊さん! いきなりなんてことをするんですか!?」
「あ? ああ…………そうか、忘れてた。お前その盗人助けるんだっけ」
盗人という言葉に少女………リリが再び震える。柊は煙を吸い込み空へと吐き出した。
「前にお前のナイフ盗んでたからなぁ。恥ずかしげもなくお前にひっついてるもんだから、つい足が出た」
「ついって、そんな………! リリに、リリに謝ってください!!」
「嫌だね」
ベェ、と舌を突き出す柊。
「ひ、柊君はサポーター君に会ってたんだね」
「ああ、蹴り飛ばしてナイフを取り返した。感謝しろよベル」
「っ! そ、それについてはありがとうございます………!」
「おう、ちゃーんと礼言えて偉いな」
「でもリリは女の子ですよ!?」
「ふーん、で?」
だからどうした、と煙を吹かす柊。ベルが何かを言おうとして、リリが止める。
「い、良いんですベル様。悪いのは、リリなんですから………柊様、でしたよね。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。リリは、これから心を入れ替え──」
「0点、ちゃんと罪悪感持ってやり直せチビ」
と、笑顔を作ってへりくだるリリの言葉を切って捨てる柊。
「なぁにが自分が悪い、だクソガキが。思ってもねえこと言うんじゃねえ、ベル以外の冒険者は全部同じとでも言いたい目をしやがって。アホか、
良心的な冒険者など探せばいる。柊が知る限りでは、ティオナとか言うアマゾネスなどがそれに当たる。
「てめぇが勝手にくくって見てたくせに、助けてもらえた、この人は特別、すってきーってかぁ?」
騙して罠に嵌めた男に厚顔無恥にも体を押し付け発情して懸想してこの人のために生きる? 気持ち悪い。
「心を入れ替えてんならなんで此処にいるんだてめぇ。これまでの冒険者共に頭下げるか【ガネーシャ・ファミリア】に出頭しろよ」
それが一番確実に心を入れ替えたという証拠だろう。だけど彼女は未だに冒険者が嫌いで、冒険者相手に遜れば気分を良くして切り抜けられると思ってる。
「作り物の笑顔も、見上げながら見下す視線も、気持ち悪いよお前。
なあ盗人、ゴミカス、役立たず、何でこれからこの人のために生きますって恥ずかしげもなく言えるんだてめぇ。そこまで堕ちて、どうして他人のために生きる資格があると思う? 教えてくれよ、参考にしてみたいからなぁ」
リリを庇うように立ちはだかったベルの横を何時の間にかすり抜け、片手を踏みつける。
痛みがする程度に体重を掛け、しかしリリの顔が青く染まる。
「柊さん!!」
「ベル君、待った!」
「!? 離してください、神様!」
柊を止めようとするベルをヘスティアが止める。ヘスティアを振り解こうとするが、冒険者の力では本気を出すわけにもいかず引き剥がせない。
「何だよベル、さっき俺に礼を言ったくせに………ヘスティアから貰ったナイフが要らなかったなら最初からそう言えよ、取り返してやって損した」
「それとこれとは!!」
「ああ? お前、ヘスティアから貰ったナイフ盗んで売っぱらおうとした相手を責めるなって言ってんだろ?」
「そこまで、柊君…………君らしくないよ」
と、ベルに抱きついたままヘスティアが柊に言葉を紡ぐ。
「だって君は
「………それもそうだな」
ヘスティアの言葉に柊はリリの手から足をどける。
「まあ此奴が俺を嫌わなくても俺は普通に嫌いだけどな此奴。金を騙し取ったり奪ったりした冒険者相手なら、お前が言うなで済ませてやるよ。だがこいつはベルを標的にした………薄汚え盗人が、他人から奪っておいて
柊は知る由もないが、その言葉はリリが盗品を売りにいく店の店主にそれとなく冒険者相手に働く盗人の話をされた時言った言葉。グッと歯軋りし俯くリリに柊はふん、と目を細める。
「リリ……だって………!」
「……ああ?」
「リリだって、本当はこんな生き方したいわけじゃなかった! 貴方に、貴方に何が解るっていうんですか!? そんなに強くて、欲しいものは何でも力で手に入れられるような人にリリみたいに搾取されるしか無い能無しの気持ちなんて解るわけありません! 貴方に解るっていうんですか!?
親に奴隷の如く働かされて、死なれて、残されて、奪われて!! 少しは、少しは惨めに生きるしか無い人の気持ちを考え───!!」
ゴッと蹴り飛ばされる。周囲から悲鳴が上がる中、柊はリリの頭を踏み付ける。
「惨めに生きるしか無い? 強いからわからない? てめぇ今、自分の弱さを言い訳に使いやがったな」
「ま、柊さん!!」
ミシッと力が籠もる。ベルが慌てて止めようとして、しかし間に合わ──
「そこまでです、柊さん」
ベルの横を通り抜け、柊の肩に手を添える緑髪のエルフ。リューが柊を見据え、首を振る。
「理解出来るとは言いません。しかし、力あることの責任をとれと言われた経験は私にもある………理解してあげてくれとも言いません。ですが、
「……………はぁ」
リューの言葉に柊は足をどけ、肩に置かれた手をそっと掴み肩から外す。
「大丈夫ですか?」
柊が無言で去り、リューはその場でしゃがみリリを起こし泥を拭ってやる。
「………私は今、柊さんが貴方を通して他のなにかを見ているから止めました」
「な、なんですか急に………」
「話をすべて聞いていたわけではありません。私自身、あの方とよく話すわけでもない………それでも一つ確信している事があります」
と、唐突に語るリューにリリが困惑する。
「例えばあの人は何故かシルを警戒している。酒場で騒ぐ冒険者に、稀に嫌悪の視線を向ける。ですがそれだけです……基本的に、あの人から手を出すのを見たことがない」
シルを警戒しつつも、シルが料理を食べさせようとした時ぐらいしか頼み事を拒否しない。自分に害がなく、その上で好感を向ける相手には割と甘い。ミアとか…………偶に街で見かけた薬を渡す神とかにその一面が現れる。
冒険者に人気なシルと話し睨まれてもそれだけなら何もしない。その態度に臆病風に吹かれたと勘違いし動く冒険者には容赦がないが。
「貴方も、リリが悪いって言うんですか………?」
「
自分を睨んでくるリリ、しかし気にせず言葉を続けるリュー。
「貴方は自分が惨めだと言った。ですが、忘れないでください。惨めに生きた過去は、貴方の傷でしか無い。他者を傷つける理由になどなりえないのだと」
では、とヘスティアやベルにも一礼して立ち去るリュー。リリやベルが何も言えない中、ヘスティアが口を開く。
「…………サポーター君。僕はそれでも、君が心を入れ替えるという言葉を信じるよ。
「か、神様!?」
「止めてくれるなよベル君。こればかりは君の頼みでも撤回しない」
真っ直ぐにリリとベルを見詰めるヘスティア。
「君がどれだけ傷ついたか知らないし、柊君もどれだけ傷ついて来たか話してくれない。だけどあの子の本質は、君より優しい」
ただ嫌いなだけで奪ったりしない。今回のように余程傷をえぐられぬ限り、手を出すことも無い。
「僕はあの子が大切だ、幸せになってほしい…………僕が知る限り誰よりも傷ついている彼を、どうか傷つけないでやってくれ」
◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆
「………で? 何か用か?」
と、柊が立ち止まり振り返る。無言でついてきていたリューは立ち止まり、考え込む。
「………用は特に………ただ、今の貴方を一人にしないほうが良いのかと思いまして」
「誰の受け売りだ」
「シルとアーディです。アリーゼは、もっと騒がしくからみつく………そうですね。ただついていくだけでは不健全だ、少しだけ見習います。
柊さん、私とお話しましょう。いい景色を知っている」
柊が不機嫌だった理由。
昔の仲間を思い出していたタイミングで弱くて惨めな自分は強くて何でも出来る奴には何しても良いと思ってるチビにあったから。
実はベルだけではなく、ベルの主神であるヘスティア相手にも申し訳無さそうにしていたらヘスティアの義理で少しは優しくなっていた。