帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか? 作:匿名希望
「ここが、オラリオ…………」
「あれがバベルねぇ……」
嘗て柊が滅ぼした国のある柊が救った世界にも同じ名前の塔があった。自動翻訳で近い概念は元の世界の単語に変更されるため、正式名称が本当にバベルだったか分からないがあっちのほうが凄かった。
龍との戦闘でただでさえ崩れかけの塔を完全に崩してしまったが………。
「あ、彼処! ほら、並びましょう!」
と、ベルがワクワクと目を輝かせながら走り出しそうに振り返る。柊は御者に金を渡すと歩き出し、ベルも駆け出した。
「たく、手間ぁ取らせやがって………」
ベルはあっさり通したくせに、柊は色々質問された。
まあ、それだけ真面目に仕事をしているということだろう。
村では見かけなかった亜人も沢山いる。向こうの世界で見かけたエルフ、獣人、小人、ドワーフ………竜人や半魚人、亜巨人の類はいないようだ。
如何にもお登りと言わんばかりのベルを鴨だと思ったのか、ニヤニヤと笑う男達がチラホラと。柊がジトリと睨むと舌打ちしながら去っていく。
子供だけならともかく剣を持った大人相手では、集団で襲おうと面倒だと思ったのだろう。それも、憲兵が仕事している証拠。
「……………………」
嘗ての街の治安だけを守り怪物退治に赴くこともしなかった兵士共の国を思い出し眉間にシワを寄せ煙管の煙を吸う。
「行くぞベル、まずは宿だ」
ぼったくろうとしてきたので睨んで正規の値段で泊まり、ギルドに向かう。そこでファミリアを探すらしい。
柊は別に冒険者になるつもりはないのでギルドの図書室に向かった。
「ふぅん、くだらねえ………」
ダンジョンに潜るには神の恩恵が必要。潜在能力を引き出すというそれは、世界を超えた際に人としての器が壊れ限界がなくなるという英雄召喚にも似ている。
尤もこちらは器の更新を神に行ってもらわなければならず、神が神界に戻れば手にした力は封印されるらしいが……………あくまで封印。外付けの実力ではなく、あくまできっかけということだろう。
「【ゼウス】に【ヘラ】………」
ペラリと本をめくる。嘗て千年近く頂点に君臨し続けた最強の派閥。
ただし、黒竜なる最強の怪物に敗れた。
三大
失敗した英雄がいらないというのはどこでも同じらしい。今の最強達はその嘗ての英雄達の足元にしか及んでいないようだが………。
「で、断られたと?」
「…………はい」
ギルドから【ファミリア】に関して説明を受け、いざと【ファミリア】の門を叩けば門前払い。弱そうなガキを入れる気はないと追い出されたらしい。
まあ、柊に憧れるも弟子入りは出来ず棒切れを振り回すだけしかしてこなかった子供だ。
何処ぞの【ファミリア】に所属できても死ぬだけ。
蔑みもあるのだろうが、その中には優しさもあったのだろう。
「ふぅ……」
「ど、どうかなされたのですか?」
オラリオに訪れて三日目。
柊も柊で神の恩恵を刻んだ事にしてくれる神を探してオラリオをぶらつき、それだけなら可能だろうがそれを理由になにか命じて来そうな神々に辟易とし歓楽街に訪れていた。
安いという理由で買った金糸の如き髪を持つエルフは退屈そうな柊にオドオドと話しかける。聞けば借金で売られたらしい。
他種族との接触を嫌うエルフは、しかし生真面目故に自身の失態で堕ちた現状から逃げることも選べない。
ただしLv.2で肌を重ねることに忌避感を示すエルフ。要するに初い者としての価値よりも、暴れる危険性があるから安いのだ。
そういう説明も受けた。
歓楽街では色に溺れたエルフも見かけたが、彼女は新入り。少なくともまだ色を知らない。
「ふ、不愉快なのは百も承知です………で、ですが……」
「安いからと買ったのは俺だ、今更文句もねえ。ただ、この地には面倒な神々ばかりだと思ってな」
もちろん真面目な神もいる。いるが、だからこそ柊の求める人材ではないというか………。まあ、少なくともこれから女を抱こうというのに考える事柄では無かった。
娼婦を手招きし、吸っていた煙を吐きかける。咳き込みながらも睨んできた女はしかし次第にトロンと呆ける。
「はぁ………いい気分で帰らせてほしいものだ」
最高の、とは言い難いが良い女を抱いて帰ろうとすれば醜い蟇蛙の化け物が襲ってきたので手足を圧し折り宿に戻った。ベルはまだ寝ているらしい。
「やった! やりました、柊さん! 僕、【ファミリア】を、神様を見つけました!!」
尻尾を振る子犬を思わせるベル・クラネル。その後ろにゼイゼイと息を荒げながらついてくる小柄な女神。
「ぜぇ、べへぇ………ベル、君………そ、その子が君の言っていた?」
「はい! 柊さんです!」
「よ、よろしく………僕は、ヘスティア! 炉の女神さ!」
「ヘスティア………?」
調べた限りは名前すら出なかった。零細ファミリアかと思えば、そもそも出来たばかり………というかベルが初めての眷属。
ふむ、と柊はヘスティアを見る。人の………いや、この場合神の良さそうな少女……。
「神ヘスティア、少し話せないか?」
「それで、二人っきりで話ってなんだい? おっと、愛の告白なら嬉しいけど生憎と僕はそういうのはお互い良く知ってから──」
「ファミリアに入る気がなくて恐縮なのだが、俺に神の恩恵を刻んだことにして欲しい」
フリーの冒険者、というのはいる。
派閥に属さず金を払い恩恵の更新をしてもらうだけの関係。
「え、えっと……でもそれって、別に刻んだことにする必要はないんじゃ……」
ヘスティアとしては、そりゃ自分の派閥に入って欲しい。ただ事情があるなら汲んでやりたいと思っている。
「ああ、違う違う。そもそも俺、多分恩恵刻めないから」
そう言って、左腕の袖を捲り巻かれていた何やら文字が描かれた包帯を取る。そこには女の手形のような痣が………
「っ!?」
それを見て、ヘスティアは顔を青くする。それは間違いなく、『神性』を持つものが呪った証。何処ぞの神が規約を破った証拠。
「この身は神に呪われている。それで、恩恵は刻めるか?」
「…………無理だ。しかもこれ、命の繁栄を司る神の呪いだろ? 相性が悪いわけでもないけど、良い訳でもない………いや、でもこれ…………呪いだからかな? うまくすれば…………!」
「それを行うと、お前地上から去ることになるんじゃないか?」
「だからって、こんなの放っておけるわけないだろう!!」
「………………」
想像以上に善神を引き当てたらしい。この女神は、やる。やるかやらないかと問われれば、自分の身を犠牲に柊を救おうとするだろう。
「これは復活の呪いだ」
「え、そ………そうなのかい?」
そして生き返る度にかつて過ごした誰かの記憶が色褪せる呪い。何をしたか、どんな事をしたかは思い出せるのに、そこに感じていた喜びも愛も失わせる呪い。
「そして俺は強いから死なない………」
これは本当。
堕ちた怪物とも違う、ただの怪物達とも殺し合う事があったが、仮にも世界を創った神々を滅ぼした柊を殺せるものなど、誰も居なかった。
「だから呪いを解く必要はない」
「で、でも例えば君が年老いたら………」
「寿命なら別の方法で無くなってる」
具体的に言うなら恋に憧れる精霊の姫をだまくらかして手にするように言われた秘薬を精霊の女王に飲まされて永遠の寿命を与えられた。
「嘘はないけど………ううん………うう〜ん! わかった………わかったよ! ただし、君が一度でもその呪いで嫌な目にあったら僕は絶対その呪いを解くからね! たとえ僕が下界にいられなくなってもだ!」
「…………ああ、解ったよ神ヘスティア」
ちなみにベルが寝ている間に襲ってきた盗賊などがいたが、柊がベルを起こさぬよう対処しその地の獣は肉にありつけた。
錆びついた異剣
元々は現在も人間に信仰される朝と夜の時間が変わるようにし、月により満ち引きを生み出し天空も統べるようになった星の運行を司る神が人類に与えた不死性を待つ怪物達を殺せる神殺しの兵器。堕ちた怪物よりも人の血を吸い続けた結果、柊が手にした頃には変質していた。人間って愚かね。
女物の煙管
柊が両親が死んでから暫く世話を焼いてくれたもう顔も思い出せない娼婦が持っていた煙管。最後に燃やした葉の効能を再現し続ける魔道具。
現在は中毒性の強い多幸感を得る葉を再現している。因みに女性が使うと不妊の効果がある。1回ぐらいじゃ中毒症状はでないよ。
柊はこれがないと寝られないしこれが切れると悪夢で飛び起きるから目の下の隈がすっごいよ。
妖精の隠し袋
悪戯好きの妖精が物を隠す際に使う袋。たくさん物が入る。旅には必須のアイテム。これを改造したマントに武器や防具が収まっている。ただし容量を超える錆びついた異剣は入らない。
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