帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか? 作:匿名希望
「ここです。ここは、オラリオの外がよく見える。時間もちょうどいい」
オラリオに存在する市壁の中でも外に近く、他の市壁よりも高い市壁から景色を眺める。
さぁ、と風が吹きエルフの短い髪を揺らす。
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「……………?」
静寂が続く。リューはくっ、と不甲斐なさそうに呻く。
「…………何を、話せば良いのでしょう」
「それ俺に聞くか?」
「考えなしで動くのは私の悪い癖だ。くっ、私を笑うな輝夜、ライラ………!」
無言でついていくのは健全ではないとして、しかし何を話すかまでまるで決めていなかったらしいリューは何やら此処に居ない誰かに嘲笑われ悔しがってる。
「…………そうですね、ここは共通の話題………クラネルさんは………ううん……今は良くない。ああ、そう言えばシルに料理教室を開いているとか」
「…………………」
とても嫌そうな顔をする柊。『ベルさんの胃袋を掴むんです!』とか言って無理矢理引っ張ってきた。
シルは失敗したのを外に持っていき隠れていた連中にこっそり食わせているが、あれは流石に同情した。
「シルは、一人でいようとする者を放っておけませんから…………」
「彼奴の目には俺が濡れた犬か猫にでも見えてんのか」
「…………私も拾われた猫なのでしょう………いえ、やはり犬にします。猫は駄目だ、一緒にされるのは、少し………」
豊穣の女主人の頭の足りない
「少なくとも、シルは貴方を一人には出来ないと見ているようです。そして、私も」
「余計な御世話だ」
「知っています。でも、私はその余計なお世話に救われた」
「俺とお前は違う」
「はい、そのとおりです………ですが、私は貴方に救われてほしいと思っている」
「………………………」
「誠意には誠意を、敵意には敵意を返す貴方の生き方は……逆に言えば貴方の本質が無意味に人を傷つけるものではない証拠だ」
この世には理由なく殺意をばらまく者も居る。かつて正義の使者として戦ってきたリューはそれを良く知っている。
「斬るための理由を人に求める者はいます。だけど、人を斬るのに理由を必要とする貴方が悪人のはずはない。そんな貴方が苦しんでいるというなら、貴方は救われるべきだ………たとえ貴方が望まなくとも、私やシルがそう思う」
「死んだ俺の仲間達もそう思ってるとか言わねえのな?」
「私は、その人達を知らない」
煙を忌々し気に吐き出す柊。ここでそう思います、などと寝言を言うのなら聞く価値がないと切り捨てられたものを。
「ですが少なくとも、私の仲間ならば私にそう言うでしょうね。まだ死ぬな、そう言ってくれます」
「ああ、俺もそうだろうなあ」
確信のこもった、何処か悲しい声。復讐を終え、このまま死んでもいいと思ったリューはシルに拾われ、彼女の言葉で友が残してくれた今の平和を友の代わりに見届けようと決めた。
彼もまた、亡き友を思い生きているのだろう。
「なら、柊さんの仲間が残していったものに目を向けてください。残していったものの今後を、代わりに見続けてあげてください………」
「ああ、そりゃ無理だなあ」
「………何故?」
「俺が全部壊したからなぁ」
その言葉の真意を、リューは知り得ない。だけど解ることもある。復讐に取り憑かれ、私怨で殺し、疑わしきを全て襲撃し
柊は、あの時たまたま窓に写ったリューと良く似た目をしている。
「…………何故、と聞いても?」
「力があるなら守れと責任を問われたことがあると、お前言ってたな? 俺にとってそれが過程じゃなく結果だったんだよ」
その後、戦ってくれていたのに俺達はなんてことを、と反省することもなかった。役立たずの英雄として名を刻まれ永劫蔑もうとした。無理矢理役目を押し付けて、石を投げ、彼等との旅を汚そうとした。だから老若男女に至るまで殺し村を沈め城壁を穿ち街を飲み城を砕き、そこに文明があった痕跡を一切残さず滅ぼした。
まあ色々と世話になった武器職人の墓は残してやったが。
「…………………」
「教えるのはここまでだ。俺とお前は、そこまで親しくねえ」
柊はそう言うと市壁から飛び降りた。
一人残されたリューは、ただ立ち竦む。
過程ではなく結果と、彼は言った。
理解できるとは言わない、先程そう述べたが、心の何処かでは彼の気持ちは解ると思っていた。
「…………あぁ、アーディ………」
貴方なら、どうしましたか?
失った友の残したものを、その目で見た。支えてくれる仲間が、その時はいた。だからあの時前に進めた。
それすらなかった彼に自分が…………救われた自分が、救われなかった彼に何と声をかければいいのだろう? 何を、してあげられるのだろう?
「…………いえ、答えは出ている」
そうだ、答えは変わらない。救われてほしいと、自分は思った。声のかけ方を知らないけど、彼の苦しみをほんの一部しか分かちあえないけど…………。
してあげることは決まっている。後は何と声をかければ良いのか…………
◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆
「え? さあ………?」
とりあえず自分達の中で一番柊に近く、なおかつ自分を救ってくれたシルに尋ねるもシルはキョトンと首を傾げる。
「………貴方は、彼を救おうとしてるのでは?」
「リューったら、大袈裟だよ。私はもう少し外に目を向けてほしいって思ってるだけ」
「外に?」
「向けられた感情を向けられたまま返す。それって、本当はなんの感情も向けてないってことだから。
ああ、でもそこは人間だから、英雄になりたがるベルさんとか、弱さを理由に強い人に強く出る人とかには本心が見えるけど………」
それは不健全だしねぇ、とため息を吐くシル。
「では、どうすればいいのでしょう?」
「ふふふ。それは簡単よ、リュー。いい? 心を閉ざした人を救う方法は唯一つ!」
「それは………?」
「そう、それは愛!」
「何故そこで愛!?」
もしかして揶揄われているのだろうか? 私は真面目に、と頬をふくらませるリューにシルはクスクスと笑う。
「別にからかってないよ。本当に、そう思うの。あの人を誰かが愛して、あの人が誰かを愛する。それぐらいしないと、あの人は世界に目を向けてくれない」
「で、ですがそれは不健全だ! 救うために愛し合うなど、相手にも失礼だ!」
「そう? 救われてほしいっていうのは、愛がなければできないと思うけど?」
「な、ち、違う! それなら貴方はどうなる! シルは、クラネルさんを好いているのでしょう!?」
「ちょ、ちょっとリュー!? ま、まあそうだけど………それでも、柊さんだって愛したいと思っているよ?」
「な!?」
まさか、シルがそんな多情な!? とショックを受けるリュー。
「愛して、なぐさめて甘やかして頭を撫でて毛布をかけて寝かしつけたいの、私は!」
「………………それは母性愛では?」
「そうだよ?」
「シル、柊さんは年上だ。後、どちらかと言うとあの人に包容力があると思う」
ヘスティアや近所の子供に対して行う態度的に、おそらくだが。
「まあ、愛すると言ってもいろんな形があるから。恋愛、親愛、家族愛に友愛………それも愛だよ、リュー」
「…………シル?」
一瞬だけ雰囲気が変わったような?
「ですが解りました。私は、柊さんと友になれば良いのですね?」
「恋人になってもいいと思うけど?」
「そ、それは駄目だ! そういうことは、まず文通から始めなくては!」
「………え? あの、リュー………? その、リューって、男の人とデートするのは、どう思う?」
「何を言っているのですかシル? まずはエルフの森で婚姻の誓いを立ててからに決まっているでしょう。それまでは、手すら繋いではならない!」
「うわぁ…………」
今度は別の意味で雰囲気が変わったような?
◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆
赤くなり動けないが、それでも密着することにもだいぶ慣れてきた春姫。帯を解かれ、何時もより薄い布越しに腹を撫でられる。
「ひ、柊様? なにか、あったのでございますか………きゅう!」
グッと腹を強く押され鳴く春姫。柊は昔飼ってた狐を思い出しながら頭を撫でる。
「何かあった、と?」
「何時もより、ら、乱暴でございます…………」
「………朝に嫌なのにあって、昼に踏み込まれた」
「……………恋人でございますか?」
と、何処か期待したような瞳を向ける春姫。年頃だし、そういう話題が好きなのだろう。
「ただの知り合い」
「貴方様はただの知り合いに心を動かされる人でございましたか?」
「…………知り合ったばかりの男の心をもう見抜けるつもりかインチキ娼婦」
「コン!? み、耳を引っ張らないでくださいませ〜!」
耳を引っ張られ涙目になる春姫。柊がはぁ、と手を放し煙管を吸う。
「そういうところもコンそっくりだ」
「私は春姫でございます」
「…………………」
「貴方様のペットの狐ではありません。ここで働く、娼婦の娘でございます」
「……………じゃあ娼婦として扱わせてもらうか」
スルリと柊の腕が帯のほどけた着物の隙間から入る。指先が腹を撫で、反対の手が布越しに胸を……
「キュ〜〜ン…………」
「…………やっぱペット枠だなこいつ」
コンも懐いてくるくせに、柊達の強さを知ってるからあまり撫ですぎると気絶した。そのくせ擦り寄ってきたが。