帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか?   作:匿名希望

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不自由

「………あれは、アイズさん?」

 

 とある日、24階層で己の無力を知ったレフィーヤは改めて鍛えるために、どうせなら憧れのアイズに師事してもらおうと朝早くから起きて待っていた。だが人目を凌ぐように塀を飛び越えていく姿を見つけた。

 

 気になって追うも、見失う。

 道中白髪に赤目の兎を思わせる少年とぶつかった。

 

「す、すみません! 大丈夫ですか?」

 

 と、手を差し出し固まる。よくよく見ればレフィーヤの耳を見て困ったような顔をしている。

 エルフが基本的に肌との接触を嫌うのを知っているのだろう。

 

「え、えっと………」

「大丈夫ですよ」

「!?」

 

 手を掴むと顔を赤くする少年。

 女の子が苦手なのだろうか? 腰が低くて純朴そう。いい意味で冒険者らしくない。優しそうな少年(ひと)だ。

 

「そうだ! この辺りで女の人見ませんでした? 金髪で金の瞳をした……」

「………え」

「【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインです! 貴方も冒険者なら知ってますよね?」

「あ、はい………えっと、貴方は【ロキ・ファミリア】の………?」

「? はい、そうで……………え?」

 

 兎のような少年は、脱兎の如く逃げ出した。

 逃げた? え、何で? まさか、アイズに関してなにかやましいことが!?

 

「まちなさあああい!!」

「ひええええ!?」

 

 

 

 

 逃げられた。相手のステイタスはLv.1ベテラン程だった。後衛とは言えLv.3の自分のほうが脚が速やかったのに逃げられた。

 逃げ慣れている?

 

「ん?」

「きゃ!?」

 

 と、下を向いて歩いているとまた人にぶつかる。

 

「あいたた、す、すいません…………あ!」

「あ?」

 

 甘い香りの煙、目の下の隈、目尻に塗られた朱………柊がそこにいた。

 リヴェリアを小娘と呼んだり年増と言ったりした無礼なヒューマン!

 

「っ! こ、この辺りに白髪赤目のヒューマンが来ませんでしたか!? 教えてください!」

 

 それでも背に腹は替えられず、尋ねる。まだ早朝のこの時間、出会えたのは彼だけ。目撃したとしても彼しか居ない。

 

「…………あ」

 

 だけど思い返せば、彼はエルフが嫌いだった。

 

「こっちだ」

「え?」

「あ?」

「な、なんで………貴方は、私達エルフのことを嫌いなはずでは?」

「種族で嫌っていても個人で嫌っちゃいねぇよ。ああ、お前は嫌いだぞ? そもそもお前が俺を嫌いだしな」

 

 と、濁った瞳を向ける柊。その目には確かな嫌悪を宿し、面倒くさいと表情にありありと出ている。

 

「じゃ、じゃあ何で教えてくれるんですか?」

 

 それともまさか、人気のない場所に誘って? いや、それなら嫌いなんて言わないほうが良い筈。

 

「別にお前に何もされちゃいねえからなあ」

「…………え?」

「昔を思い出すムカつくこと言われたわけでもねえ……嫌いだからって一方的に何でもしていいなんて言やぁ、俺が大嫌いな連中と一緒だからなあ」

 

 何もされてないから、何もしない。たとえそれが嫌いな相手でも……………。

 

「………あ、貴方……変、ですよ…………おかしいです! だって………だってそんなの!」

 

 嫌いなら拒絶するべきだ。知るかと無視して立ち去れば良い。なのに、嫌ってくるだけだから嫌い返すだけ? 嫌うだけで、接し方を変えない?

 

「そんなの、まるで………人じゃない。貴方、貴方は……」

 

 うまく言葉が出てこない。なんで言い表せばいいのか解らない。考えて考えて、漸くその言葉を絞り出す。

 

「不自由、です…………」

「だからどうした。お前を嫌ってる俺が不自由で、お前に何の不利益がある」

「っ!!」

 

 リヴェリアを侮辱し、同胞たるエルフを嫌悪している。深い森の奥にずっと住んでいる閉鎖的なエルフよりは柔軟なレフィーヤでも、やはり嫌悪感を禁じ得ない。

 

「何よりあのチビを団長にしておいて俺の生き方を不自由とか言うな」

「え?」

「この街で一番不自由なのは彼奴だろ」

 

 まあ自分でその生き方を決めてるみてぇだが、と笑う柊。煙を吸い、輪っかをつくりながら吐き出す。

 

「ほらこの上だ」

 

 と、市壁に辿り着くと足で軽く蹴る。

 

「………あのヒューマンは、何なんですか?」

「ああ? 【剣姫】みてぇに謝るために探してた………訳じゃなさそうだな」

「あ、謝る? 私が、何で………! って、アイズさんにまで謝らせたんですか!?」

「…………あ〜」

 

 と、何処か納得したような声を出す柊。何故謝らなくてはならないのか、その質問に答えず歩き出す。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「うるせぇ、黙れ」

「っ!!」

 

 空気が張り詰め、思わず固まるレフィーヤ。

 

「向こうよりマシかと思えばこれだ。いやぁ、マシではあるが? ああ、ムカつく。その態度、ムカつくなぁ………だから、話しかけるな。何もしてねぇ奴にまた手を出しちまう」

「────」

 

 柊が背を向け、その姿が見えなくなりその場で崩れ落ちるレフィーヤ。何時の間にか止めていた呼吸を再開し、ヒューヒューと肩で息をする。

 

「わ、私が………何したっていうんですか………」

 

 いや、違うか。何もしてないから、何もされずにすんだのだ。あの時感じた怒り、殺気………それこそ彼がエルフを嫌う理由になったエルフ達へ向けた感情。

 

「あ、そうだ………アイズさん…………」

 

 考えを切り替える。あるいは現実逃避だろうか。

 アイズについてなにか知ってるヒューマンの少年のいる市壁の上へと向かった。

 

「ぐがぁ!?」

「え?」

「………あ」

 

 ヒューマンの少年がアイズにボコボコにされていた。

 

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

「はい、これ報告書」

「ん………」

 

 豊穣の女主人の2階の部屋で、柊はクロエから貰った報告書に目を通す。

 

「多いな」

「【ソーマ・ファミリア】って恩恵更新するのにもお金がかかるらしいニャ。同時に、お酒飲めるかも稼ぎで決まる。皆が皆お金を稼ぐから価値を際限なく上げられるからとにかく稼がないと………はぁ、あの頃のろくでなし共にも引けを取らないのニャ」

 

 元々暗黒期と呼ばれる時代に暗殺者として通り名が生まれるほどの腕前だった『黒猫』クロエ・ロロ。

 現状たった一人の【ヘスティア・ファミリア】所属であるベルにつく小人の少女の過去を彼女の腕を見込んで調べさせた。

 リリも相手を選んでいただけあり、大手には手を出さず、故に調べやすかったそうだ。

 

「ものの見事に屑ばかり。そういう奴等から盗んでたみたいニャ。そんな連中に近づくんだから、当然暴言暴行、恐喝に未払何でもありニャ。

 お返しとばかりにもの盗んで、良くやるわねぇ、この子」

 

 クスクスと笑うクロエ。何時もと雰囲気が異なるが、すぐに元に戻った。

 

「かといってまっとうに稼いでたんじゃ同派閥に奪われてはいおしまい。中々詰んでるニャー」

「だからどうした。ベルを狙った時点で、此奴等と同じだろうが。ただの屑として生きるなら屑と絡んでれば良いものを」

「ふ〜ん、少年は屑じゃないと?」

「あれは馬鹿だ。

 …………あの馬鹿がどうなろうが知ったことじゃねえが、ヘスティアにまで迷惑がかかると俺にも面倒が来る」

 

 ヘスティアは、絶対にベルも………そしてリリも見捨てない。犯罪行為を先に行ってる奴等がヘスティアに迷惑かけようもんならこれで脅迫すりゃ良いが、問題は【ソーマ・ファミリア】………。

 団員を攫ったとでも訴えられればそれこそ面倒だ。

 

「先に潰しちゃえば万事解決ニャ!」

「まだ何もされてねえよ」

「よく市民やギルド職員を脅してるニャ?」

「俺には関係ねえ」

 

 取り付く島もない柊にクロエが肩を竦める。

 

「ま、おミャーがなにしようとミャーには関係ないニャ。それより、約束のブツ」

「ほらよ」

 

 と、取り出したのはダンジョン内で取れる果物で作られるリヴィラ限定の酒。時折地上に出回るが、通常のものとは違いこの酒は地上の方が高いのだ。

 

「毎度〜。暗殺はもうしないけど、こういう仕事ならまたしてやるニャ!」

 

 ボトルに頬ずりするクロエ。柊は機会があればな、と部屋から出ていった。

 

「…………どうせなら一緒にの………ありゃ、居ないニャ」

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