帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか? 作:匿名希望
「…………貴方は、どうしてそんなに頑張れるんですか?」
レフィーヤは、ベルに尋ねる。
あの後このベル・クラネルという少年がアイズに修行をつけられていると聞いて憤慨し他派閥のくせにと嫉妬した。
他派閥に修行をつけるなど良くないという『正論』に、しかしアイズは譲らなかった。
彼が頼みこんできたのではなく、自分から言い出したことだからと………。
結局レフィーヤが折れ、昼からは二人きりの訓練と、不埒な真似をしないよう自分も監視することを条件に秘密にすることを受け入れた。
そして始まる修行という名の蹂躙。前衛だとは言え、容赦なくボコボコにされる。
改善点を言われ、直せなければ鞘で殴られ直せば次の改善点が何処か叩き込まれる。
避ける。敵わず叩き伏せられる。
反撃する。通らず叩き払われる。
確かに後衛のレフィーヤからみても少しずつ、だが確実に………この短期間で感じ取れる異様な成長速度を見せている。結果は出ている。だが、彼処までボコボコにされて、どうして頑張れるのだろう。
「……………私も知りたい。君はどうして、そんなに強くなれるの?」
と、アイズ。見目麗しい美少女達に見つめられ顔を赤くしてタジタジになるベル。そもそもベルはボッコボコにされて、強くなっていると言われても自覚がない。
でも、頑張れる理由があるとしたら
「どうしても追いつきたい人がいて………その人に追いつきたくて頑張ってたら、ここまで来て………えっと…」
その追いつきたい人というのがアイズで、貴方の隣に立ちたいなどと初なベルには言えるはずもなく、そのまま固まる。
「それって、柊さん?」
「え?」
と、その名にレフィーヤが反応する。そう言えば彼はベルについて知っているようだった。なにか、謝らなければならないことがあるとか。
「い、いえ、柊さんは………強いですし、憧れてるんですけど………追いつきたいとは違うというか………認めて欲しい、ですかね?」
「認めてほしい?」
「あの人は昔から凄く強くて、僕にとって物語から飛び出してきた英雄みたいで………英雄になりたいから、弟子にしてって言って………傷つけちゃった、みたいで」
「弟子にって、それがどうして傷つくんです?」
むしろ腕を尊敬されるのは、嬉しいことなのでは? 少なくとも、このオラリオにおいて強いと言われて喜ばないものはいないだろう。
「今なら、何となく分かるんです…………あの人は、自分が嫌いだから」
「自分が?」
「何でなのかは、解りません。あんなに凄くて優し………優しい? う〜ん、いや………神様も言ってたし確かにリリも悪い……………だけど…………」
と、何やらウンウン唸りだすベル。どうも優しいと言いたいが言えない何かがあったようだ。
「うん、いえ。優しいです………考えてみれば見逃してくれてるし。はい、優しい!」
何処か自分に言い聞かせるように叫ぶベル。ベルの中では柊は強くて優しい人らしい。だけど誰かに憧れられるのを嫌がるほど自分が嫌い。
「…………………」
アイズは少しだけ解る気がした。
取り戻すために力を求めた。オラリオでも有数のLv.6にもなった。だが、足りないのだ。悲願にはまるで届かず、だから ベルに戦い方を教える代わりに、彼の強さの秘密を少しでも知れればと申し出た。
求めている強さにまるで足りないのに褒められても、あまり嬉しくはないだろう。今のアイズなら仲間に褒められる分には悪い気はしないが、それでも醜い黒い炎を隠して強さを求める姿に憧れられてもいい気はしない。
「あの人は英雄譚は好きなんですよ。でも、英雄を目指す人は嫌いなんです。でも、そんな英雄を目指す僕でも面倒を見てくれてる」
ナイフを取り返してくれたこともそうだし、ヘスティアから聞いた話しだがうっかり読んでしまった
後、シルの料理が辛うじて人が食える範囲なのは柊のおかげだとアーニャが言ってた。
「だから、認めてほしいんです。英雄を目指して死ぬ愚か者じゃなくて、お前なら英雄になれるって………」
柊は村に出たモンスターを簡単に片付けていた。オラリオを目指す道中、オラリオで名を上げようとする恩恵持ちが絡んできても返り討ちにして、エイナはダンジョンの外と中ではモンスターの強さが違うから油断してはならないと言っていたけど一人で深くまで潜っていた。
やっぱりあの人は強くて、あの人は凄くて………だから認めてほしい。そして、自分にも憧れられるだけの価値があると思ってほしい。
「…………? あの、貴方ってもしかして酒場であの人といました?」
「? えっと、まあ………良く一緒にご飯食べますけど」
「っ………じゃあ、ベートさんが言ってた………」
「っ! あ、えっと…………はい。トマト、野郎です………」
サッ、と顔が青くなる。
柊が言っていたことは、このことだったのだ。ベルは気づいていないが、自分は彼を笑った。
まだ駆け出しでしかない少年が、5階層という駆け出しが入るには危険だが降りれなくもない上層でミノタウロスに襲われたというのに、そのミノタウロスを追い立ててしまった自分達は、情けないと笑っていた。
「…………ウィリディスさん?」
「………さい…………」
「……え?」
「ごめん、なさい………ごめんなさい! ごめんなさい、私……わたし!!」
「え!? ちょ、どうしたんですか!? ア、アイズさん!?」
「!!?」
あ、駄目だ。
アイズもオロオロして役に立ちそうにない。結局レフィーヤが泣き止むまで2人してオロオロしているだけだった。
「別に気にしてませんよ」
「わ、私が気にするんです! だって、貴方は危ない目にあったのに、私達の、せいなのに」
「で、でも助けてもらいましたし」
「元々私達の責任です!」
誇りとは自らをそれを名誉とする感情。エルフを誇り高いとするならば、それに伴った行動を心がけるべきだ。
だというのに、あの時リヴェリアにも恥を知れと言われたのにその被害者のことなどすっかり忘れていた。
「貴方はもっと、私達に怒るべきです!」
「今怒ってるのはウィリディスさんじゃ………」
「…………!」
怒るように怒るって、なんか変な感じですねと苦笑するベル。レフィーヤは怒るわけにもいかず黙り込む。
「私に…………私に出来ることはありますか?」
「え? ええっと…………あ、じゃあ魔法の使い方教えてください!」
◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆
「
柊が魔法を発動すると畑の野菜が浮かび上がり荷車に運ばれていく。その際泥もしっかり落とされていた。
「ありがとう柊ちゃん、助かったわあ」
「ふふん! どうだい、凄いだろう柊君は!」
デメテルという女神の称賛に、得意げにならない柊に代わり胸を張るヘスティア。ことの発端は3時間前。
ベル君とデートしたから次は君の番だ! とヘスティアが柊を街に誘い、道中野菜を運んでいたデメテルが顔色の悪い柊にたくさん食べなさいと野菜を渡してきてヘスティアがただで受け取る訳にはいかないからと手伝いを申し出たのだ。
「とは言えこれじゃあ僕だけ何もしてないからね。台車は僕がはこ…………ふんぐぐぐ〜!!」
「あらヘスティア、駄目よそんな風に無理に力を入れると轢かれ…………」
「よしうごほぉ! せ、背中がぁ!」
ゴトン、と動いたと思えばそのまま荷車がヘスティアの背中にぶつかり地面に倒れビクビクと痙攣するヘスティア。
デメテルはあらあら、と背中を優しく撫でてあげる。
「僕はもう駄目だ………愛してるぜ柊君。ベル君にも、愛していたと伝えてくれ」
「ペルセフォネ、氷水を持ってきて。患部を冷やさなきゃ」
「はい、デメテル様!」
と、デメテルの眷属が小屋に走っていった。その後ろ姿を見て、柊は無言で『
「柊ちゃんは可愛い魔法を使うのね〜。限られたスロットが平和な魔法なんて、優しい子なのね」
「………………」
魔法体系がそもそも違う魔法使いと一緒に覚えた暇つぶし魔法なのでスロットは関係ないのだが………。
「いやいやスキル! スキルだよ! 柊君には日常生活を便利に楽しくするスキルがあるんだ! い、色々出来るんだぜ!」
「あらそうなの? 確かに呪文を唱えていなかったわね。そんなスキルに目覚めるなんて、どっちにしろ優しい子ね。良い子良い子〜」
「………………………」
「うわ〜、めっずらしい〜」
柊がたじろぐ珍しい光景にヘスティアが思わず呟く。
柊曰く森とか農業など植物に関わる女神には思うところがあるらしいが、ここまでとは。
「もしや柊君の元カノは植物系譜の女神!?」
あるいは、それこそ英雄譚のように精霊とか?
柊は謎が多い。めちゃクソ強い。恩恵なしで強いといえば、それこそ古代の英雄のよう………いや、好々爺の弟がテンションマックスで伝えていただけでヘスティアは詳しく知らんのだけど。
「う〜ん………?」
でも神の分身たる精霊でも、『神性』を帯びた呪いなど行えるだろうか? それこそ『大精霊』と呼ばれるクラスの精霊が何十……下手すれば何百も身を犠牲にすればあるいは?
精霊とは規格外の力を持ち奇跡を起こすが、それでも神にとっては無限たる自分達のほんの切れ端。決して神には届かない。
「ヘスティア? 難しい顔をしても寝そべったままだと間が抜けているわ?」
「借りはいずれ返す」
野菜をもらったお礼で手伝ったというのに結局お土産まで渡されて、柊は去り際にそう言うとデメテルは困ったことがあれば相談するわ、と笑う。
「…………ミアハといい、ヘスティアの知り合いは善神が多いな」
「えへへ、照れるぜ。まあ、ミアハは薬神だしデメテルは農業神だからね。
「狩猟と貞潔?」
「アテナと合わせて三大処女神なんて呼ばれてたんだぜ! 僕等の前では美の女神だって型無さ!」
「俺とは相性が悪そうだな」
「うっ! ま、まあ………説教はされるかもだけど悪意はないんだ。そりゃ結婚する気はないけど結婚に反対ってわけでもないんだぜ? ちょっと真面目過ぎるというか………と、とにかく。地上の子には解りにくいだけでそれも愛の形っていうか…………」
「別に嫌わん」
恐らく出会った後仲良くしてほしいのだろう。
神の基準を人間と同じ基準に当てはめても意味など無いのは知っている。狂っていたとは言え、それでも己の子である人間を愛しながら滅ぼしかけた神々について知っているのだから。
「仲良くしろと言うなら仲良くする」
「…………仲良くしろとは言わないよ。ただ、彼女の良いところも見て判断してくれると嬉しいな」
「心得た」