帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか? 作:匿名希望
「ベル君がヴァレン某どころかエルフの女の子と朝早く修行していたんだ! 他派閥と! これは良くない! 良くないよね!?」
「プライベートもあるだろうが…………まあ、他派閥なら主神たるヘスティアにも文句は言えるんじゃないか?」
「でも強くなりたいっていうベル君の邪魔するのもさぁ…………」
どうやら既に折り合いはつけたらしい。それでも不満があるから愚痴を言いに来たのだろう。
ユメミールなる妙な薬で理想の夢を見て気分も幾らかマシになったし。
「明日は僕も不埒なことをしてないか監視するんだ! 柊君はどうする?」
「…………嫌いなエルフが居るからやめておく」
「………………そっか。仲良くなれなくても、嫌いじゃなくなると良いね」
ヘスティアはよしよしと頭を撫でてくる。
「ベル君は凄い速さで強くなってるんだ…………きっと、これからもどんどん。だから、急ぎ過ぎないか心配だよ」
「強くなったからって自分から死地に飛び込む冒険者を心配するだけ無駄だ」
「う〜ん………否定はできない。じゃあ、ベル君が飛び込んだ訳じゃなかったら助けてあげ………ああいや、違うね。少しは考えてあげてくれないかな?」
そして翌日、歓楽街からの帰り道。ふと覚えのある複数の気配がした。ベルとヘスティア……アイズにエルフ。囲むのは、ある女神の護衛やってたりする奴等。
ベルと仲の良いアイズやエルフに嫉妬した女神の命令だろう。そして、たまたまではあるが柊が近くに来たからか現れるエルフとダークエルフ。
「ここを通すわけにはいかない」
「く、くくく。此処より先は、女神の与えられた試練。あの無垢なるものが………」
「此奴は何言ってんだ?」
「無視してくれて良い。貴様は大人しく要求をのめ」
「…………お前等のところにゃ都市最強がいるはずだろ。そいつはどうした?」
言外に、自分に当てるべきは最強戦力であるべきでお前達じゃないと言い切る柊の言葉に2人の雰囲気が変わる。
「……あれだな。神ってのは、敵意がねえくせに面倒事を持ってくる……………とは言え、
「…………何の話だ」
「これで借りは無しって話だ。ヘスティアに迷惑かけないようにするのと…………後は、料理の味見は自分でするよう言っておけ」
「「!?」」
オラリオでも屈指の実力者であるはずの2人の背後から声が聞こえた。慌てて振り返る2人だが、柊は気にせず歩く。二人の存在などまるでどうでもいいというように。
「通さぬと言ったはずだ!」
「女神の試練の邪魔はさせん」
「──
短文詠唱よりも剣の一閃よりも疾く、雷が落ちる。殺気がなかったので気絶させるつもりだったが、普段から雷でも浴びてるのかダークエルフの方は意識を失っていない。
だが痺れて動けないようだ。柊は二人をおいて立ち去った。
「…………………」
ベルが落ち込んでいる。アイズ・ヴァレンシュタインのLv.6へのランクアップの報告を見たからだ。
思いがけず近づいたと思った背がまた遠のいたと思ったのだろう。
「柊さん、何かベル君を元気づける言葉はありませんか?」
と、エイナが尋ねてくるので柊は面倒くさそうにベルの肩を叩く。
「同業者の成長に喜べねぇなら冒険者なんか辞めちまえ」
「ちょ!?」
「っ!!」
「あ! ベル君!? な、なんてこと言うんですか!?」
「ただ凹んだり、嫉妬するだけで強くなれるかよ。負けられねえと走んならともかく、何で先に行くんだと思ううちは…………いや、そもそも最初からか」
最初から、ベルは冒険者に向いていない。
ヘスティアは隠しているつもりのようだが、過去の冒険者の成長記録を見て推測するに間違いなく成長増強スキルを持っているだろう。
故にベルの成長は過去類を見ない速度………その上で断言する。ベルは冒険者になるべきではない。身体が強くなろうとも、心が弱いから。
心が折れてしまえば人は簡単に死ぬ。
心が折れずとも人は死ぬが、心が折れて死ねよりはマシだろう。
「…………いっそあの時死んでりゃ心も折れたりはしなかったろうが」
罵倒を受け奮起したあの酒場での一見。あの場で死んでいれば、下手に強くなった今より心のダメージは少なくすんだろうに。
「死ぬって、そんな………助けようと、思わないんですか………!」
「他人に言われるとやる気でねえ。本人なら、気が向いたら助けてやるよ、他にも何かしろとか言わないならな。だが、才能もねえくせに英雄に夢見る馬鹿は理想で目隠ししたまま死んだほうがマシだろうよ」
『弱者の権利』を主張しないなら、気分が乗るなら助けてやっても良い。ただし強者は弱者を助けて当然とかいう態度は気に入らねえし絶対に気が乗らないから見捨てる。
そして、そんなのを助けなきゃいけない英雄になろうとするなんざ馬鹿な行為をする奴を助ける気など毛頭ない。
「お前も、知り合いなんだから助けて当然とか言うんじゃねえぞ」
なにか言いたげなエイナに先に釘を刺す。
「…………英雄が、嫌いなんですか?」
「いいや、好きだが? だって彼奴等は
もっとも、なるのは二度とごめんだが。
「……………はぁ」
今度はシルが落ち込んでいた。
「どうもクラネルさんに「冒険はしなくてもいい」と言ったことを気にしているようです」
「聞いてねえよ」
何故かリューが説明してくれた。何やらソワソワしている。
「柊さん………貴方は冒険者だ」
「まあ………」
「そして私も、元々冒険者だ」
「そうか……」
「ならば、何か共通の話題があるはずだ」
「どんな?」
「…………………」
固まり、冷や汗を流し目を逸らす。思いつかないようだ。
様子がおかしい、何があった?
と、考えがまとまったのか真っ直ぐ見つめてきた。
「…………私は、貴方と友人になりたい」
「俺は別に友人なんざいらねえ」
「………………………」
「………………………」
「いえ、私はそれでも…………!」
シルの入れ知恵なのだろうが、シルはシルで何やら物思いにふけていて話を聞き出せそうにない。
「私は貴方に………そんな顔で生きてほしくありません。貴方の仲間を知らない、代わりになる気などありません………ただ、貴方が孤独だと目を伏せるなら、手を差し伸べたいのです」
「………自己満足だな」
「ええ、あなたがこの手を取ってくれれば、手を引けば共に歩いてくれるのなら、
真っ直ぐに見つめてくるリュー。
これはあれだ、手を取るまで何度だって伸ばす奴の目だ。
面倒くさい。
「お前を満足させてやる程の義理はない」
「そうですか…………ではこの話はまた」
リューはそう言うと仕事に戻った。
◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆
「…………数を揃えて報復か?」
翌々日。ダンジョンに向かおうとすると一昨日のエルフとダークエルフに咥え
「俺相手に時間稼ぎしたいなら都市最強でも呼んで…………」
と、そこで言葉を止める柊。
「図に乗んな。妙な技を使うようだが、あの猪じゃねえと相手にならねえとでも思ってやがんのか」
「その猪は何処だ?」
この期に及んで殺気は感じないが、それでも2人のLv.6を瞬殺した柊の足を止めたいのなら最強の眷属を呼ぶべきだろう。
だが居ない。別のようじ?
そして、シルがベルに言ったという言葉…………強い戦士を欲する眼の前の連中の主神フレイヤ……ベルのトラウマ…………。
「…………考えすぎか?」
「ああ?」
「…………まあ、ベルがミノタウロスに殺されようが、ダンジョンに潜ったベルの責任だ」
ピクリと僅かに動揺する戦士達。柊は煙を吸い、空を見上げる。
「ヘスティアを悲しませるのもベルの責任だ………ダンジョンじゃ何が起こるか解らねぇからなあ」
「チッ………勘の鋭い野郎だ。だが、解ってんなら大人しく」
「──どけ」
「「「─────!!?」」」
ミシリと空間が軋むような威圧感。オラリオ中の鳥やネズミ、虫が逃げ出し繋がれた犬が暴れ室内の猫が窓にぶつかり【ガネーシャ・ファミリア】のモンスターが檻の中で暴れ地下の怪物達が狂乱し周囲の人間や同胞に牙や爪を振るう。
「ダンジョンじゃ
槍使いも、魔法使いも、魔法剣士も、四人組も………誰一人として動けない。不幸にも近くを歩いていた一般人は殆どが気絶している。
柊は彼等を無視してダンジョンへ向かう。
「柊さん!」
「あ?」
と、そんな柊に声をかけてきたのはシルだ。
「………ベルさんを………いえ、何でもありません」
「…………チッ」
言葉に詰まり、申し訳無さそうに俯くシル。自分でも何を言えば良いのか、そもそも何故飛び出してきたのか判ってないのだろう。
「これだから──って奴は………お前をどうするかは、ベルが決める」
「……………はい」
恋に狂った女ほど自分を制御出来ぬものはないと、彼女は言っていた。そんな彼女を受け入れたのは自分だ。なら、彼女と良く似た表情をしたシルを見逃すのは、どのような理由なのだろうか………。
「ああ、クソ………イライラする」
道中ダンジョンの中で何やら小人やエルフと武器を構え睨み合っていた
「………中途半端は俺もか」
と、漸く見知った白髪を見つける。
接近し胸を穿って魔石を抜き取る。それで終わり………ベルはもう折れている。ヘスティアの前にぶん投げて、後はデメテル辺りに仕事を斡旋させれば………
「…………あ?」
心が折れていたベルが………初めてあった時、怪物に襲われ泣き、震え、蹲っていた時と変わらぬ状態だったベルが…………立ち上がる。
闘志をその目に宿し、格上の怪物を睨み付けた。
「…………いかないんだ…………もう!」
ナイフを構える。数週間前とは比べ物にならない、堂の入った構え。
「もう、アイズ・ヴァレンシュタインに助けられるわけにはいかないんだ!!」
未熟、惰弱、脆弱………大凡大成しない凡百な十把一絡げの少年は…………その日初めて、冒険に挑んだ。
「…………………」
怖くて恐ろしくて、逃げ出したい。
柊はその気持ちをよく知っている。出来なかったのは、逃げる場所など何処にも無かったから。
逃げられるはずの少年は、逃げずに立ち向かう。
「………そうか。お前、立てたのか」
折れたら終わり、二度と立ち上がれないと思っていた。それでも立つというのなら………
「認めてやる。お前は、目指す資格を手に入れた……お前の末路は、英雄だ」
堕ちるか、名を残すか、何方かなど知らんがな………。