帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか? 作:匿名希望
金食い豚と呼ばれる醜いエルフがいた。
エルフとは見目麗しいが性格があれでそのくせ強く、他種族から関わりたくない人類種筆頭とされているが要するに見た目だけは文句のつけようがない程完璧な人類種。
そんなエルフとは思えぬほどでっぷり太った贅肉は贅沢の証。人の世界では、金を稼ぐほど偉い。
かといって貴族や王族になったりして何もせず税金を得る気もなかったエルフは、若き頃の見た目を利用し話術を利用し人に取り入り商会を立ち上げた。
エルフが商会などと、と嫌厭されることもあれど、流行を調べ季節の行事はもちろん、どの季節に何歳の男女が何を理由で怪我や死者が出るかなど必要なものを調べ上げ寒い国には豊富な緑の国からの薪を、塩が不足する内陸に海から塩を売り、鉄を打つ技術が拙い国と製鉄技術はあれど隣国に安く買い叩かれていた国を繋いだ。
稼いだ金は自分のもの。金を持つほど偉く、金を使えば権力者の力も買える。
後上手い飯も。味の薄いくせに自然の恵そのままとか言う言葉をつけたエルフの料理とは比べ物にならない美食。たっぷり味わい、蓄え、でっぷり太った身体は自分の成功の証でもあるのだ。
「帰れ帰れ!」
見目麗しい少女………否、見目だけで年齢は違う偽幼女達に着替えをさせ、今日も蓄えたと鏡に映る己を見る。と、そんな声が聞こえてきた。
最近雇った門番の声だ。この屋敷の使用人全員の顔も名前も勤続年数も把握している。
「………見てきなさい」
「はい」
暫くすると拳とエプロンを真っ赤に染めた小人族のメイドが客人を連れてきた。ボロ布を纏った人物。だが、なるほど……彼を追い返そうなどと、首だな。
「失礼いたしました。門番は屋敷の顔だと言うのに、不敬な真似を」
「………今や俺はこの国一番の嫌われ者だからな。来ておいてなんだが、商会としてリスクが高いだろ?」
「ぶひゅひゅひゅ。世界が滅びる以上のリスクなどありませんよ」
ならばこそ、世界を救った彼には返しきれぬ恩がある。特に、最後の戦いは彼の………
「それで今日はどのような?」
「昨日人を殺した。最近良く嫌がらせしてくる彼奴等だ………言ったことあったか?」
「……………………ええ、前回の酒の席で」
当たり前のように言われ、暫く言葉を理解するのが遅れた。
柊は世界を救った。だが愚かにも仲間を失った彼を謗る者の多いこと。完璧性を求め、仲間一人失わぬ勝利を夢見ていたらしい。
自分達では仲間諸共消し去られて終わりだろうに。
「…………確認しますが、殺したのですか?」
「ああ」
それでも柊は、彼等を殺さなかった。最早彼こそが絶対強者にして、世界を滅ぼしうる存在なのに。
一度でも盗賊以外の人間を殺してしまえば、自分を止められないと知っていたから。
「これで、何か装飾品を作ってくれ」
そう言って取り出したのは、火の様に赤い獣。
彼の飼っていた火狐の…………死体。
「後銀行の金もやるよ、もう使わないから」
「………それは」
「お前も、早いうちに引っ越せよ」
そう笑う。笑っていない目で、顔で、壊れたような笑顔を浮かべる。
「俺は、逃げられなかっただけなんだ…………逃げたくなかったんだ。父さんと母さんが守ってくれて、皆が託してくれて………守られたから死にたくなかった、だから強くなって。託されたから守ってやりたかった、だから………愛そうとした。でも、やっぱ無理だったわ」
だってこの世界は、何処迄も彼を否定した。
ポキリと、何かが折れる音を男は聞いた気がした。
国が滅ぶ、一ヶ月前の出来事だ。
◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆
「………………」
時折思う。両親の死、仲間の死、恋人との敵対………そのどれかで心が折れていれば、国一つ滅ぼすなんて事態は免れたのだろうか。
まあ、当時の自分には無理な話だったが……。
自分の愚かさもあるのだろうが、たった一度………最初の一回を折れずに乗り越えてしまえば、周りが折れることを許さない。
柊の仲間達は違ったが、この英雄の街とやらはそうだろうな。だからLv.4という偉業をなしながら目立った活躍もなく、象徴となる魔法やスキルも持たず【
何のスキルも魔法もなく、Lv.4に到れる時点で異様なのに。
「…………………」
速攻魔法に、異常な成長速度。そして今果たそうとしているミノタウロスとの死闘の勝利。
現在のステイタスとミノタウロスへのトラウマを考えれば、1年という2人しか居ない世界記録を大幅に塗り替えるだろう。
「ああ、面倒だ」
そんな面白い存在を神々が放っておくハズもない。暫くは勧誘の嵐だろう。殆どのファミリアが門前払いしただろうに………。
そして何よりも厄介なのは、次を求められること。
一度偉業をなしたのだから次を、より苛烈な試練を、より凶悪な敵を、安全圏から眺め求める。
暗黒期ならいざしらず、恐怖を忘れた民衆ほど英雄の敵はいない。
「勝ちやがった………」
「………………」
大凡無様と言える泥臭く、レベルの低い戦い。だが、その志だけは誰にも否定できない。柊はため息を吐きベルを抱える。
「あ、ま、待って!」
「ああ?」
アイズが呼び止め、柊が立ち止まる。彼女がベルを運ぶというのなら、まあ修行をつけていた縁もあるだろう。
「そのガキのアビリティは………?」
と、ベート。雑魚だなんだと見下したベルが何者か見定めようとしているらしい。アイズも気になっている。
元々服もボロボロ、背中もあらわになり、
「オールS」
厳密にはSを
全アビリティオールS、異常な成長速度………その秘密が、隠れて見えないスキルに………
「そこまでだアイズ、それ以上は道理にかなわん」
追い掛け、服をめくろうとしていたアイズをリヴェリアが止める。
「あの、この子忘れてるよ〜?」
「ベ……ル、様………」
「ああ、そいつは仲間じゃねえ。他派閥だ」
「え? いや、でも! アルゴノゥト君のために頑張って助けを探してたんだよ!」
「自分で何もしねえ奴に…………アルゴノゥト?」
「うん! その子の名前、英雄アルゴノゥトみたいだったから! って、それよりこの子! アルゴノゥト君助けてくれるなら何でもしますなんて言うほど頑張ってたんだよ! ボロボロなのに、必死に探してたの!」
「………そいつが
いや、意識が朦朧としていたのとそれだけベルが大事だったからだろう。クロエの調べでこれまで標的にした冒険者がどんな連中か解った。
向こうがギルドに訴えようと、ギルドのサポーターへの対応を持ち出せば勝つ自信もある。ただし【ファミリア】関連の問題も残っている。
「…………………」
暫く考え、トラウマだらけだったベルが接敵時点で逃げなかった理由がリリルカを逃がす為だろうと結論付ける。ある程度傷が回復されていたので、片足をつかんで引き摺りながら地上を目指した。
「えぇ………」
「ティオナ………彼と、仲はいいのかい?」
「え? いや、そんなことはないと思うけど………どうしたの?」
「彼、オッタルを一撃でふっ飛ばした」
ダンジョンの中で走ってきたと思えばオッタルが止めようとして、声をかける前に頬を殴って………。
オッタルは回転しながら壁に激突し、壁や天井に亀裂が走り崩れ埋まった。
オッタルは瓦礫から這い出るとフラフラした足取りで地上に戻っていった。
「え………嘘、だってあの人Lv.1なんでしょ!? いや、18階層でも目茶苦茶強かったけど!」
「……本当に、何者なんだろうね。ところでアイズ、君はあの白髪の少年を知っているのかい?」
「うん、あの子の名前は…………」
◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆
「ベルさんは、大事有りませんか?」
「明日にはまたダンジョン潜るだろうよ」
「……怖い目にあったのに?」
「むしろだからこそと言うか…………つーか、どの面下げて言ってやがる」
「コノ面です」
なるほど面の皮が厚いらしい。
「……………【フレイヤ・ファミリア】は、新人育成のためにミノタウロスを鍛え運ぶ道中、誤って上層で放ってしまいました」
「ああ?」
「ところがギルドはこれを隠蔽、話題に出すことを禁じるそうです。代わりに、巻き込まれたファミリアにギルド及び【フレイヤ・ファミリア】から賠償金が出ます」
「…………そうか」
「……………ベルさん、早く元気になると良いですね。私のお弁当、味わってほしいですし!」
「……………………病み上がりに?」
と、柊はピクピク震える気絶した女を見る。シルの料理を食った結果だ。
「その狂信者に伝えておけ、お前も、お前の派閥の人間も、女神を救えやしないとな」
「女神様は………貴方を救えますか?」
「知るか。愛したまま迷惑をかけやがって、面倒くさい…………」
「…………伝えておきますね」
シルは困ったようにはにかんだ。
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今回の件は女神の愛が絡んで起きた。それでも愛なのだ。人間の基準ではまるで理解出来ない。
そして、神の善悪もまた人の価値観では理解出来ない。
ここに一人の眷属が居る。
彼女はとてもとても辛い目にあった。現在進行系で辛い目にあっていると言ってもいい。
そんな彼女を愛するという神がいた。
愛してやるという神が居た。
苦しむ姿を、狂う様を、笑い、嗤い、嘲り、しかしそれは神の愛故。
愛してくれると言った。こんな穢れ切った自分を!
それを、それを!!
「ああ、ああああああ! ああああああああああっ!?」
女は狂ったように叫ぶ。事実女は狂っていた。
「■■■■■■■■様、■■◇◇■○◆様!◐▲◇☆★■■様ぁぁぁぁ!!」
声にならぬ声で愛した神の名を呼ぶ。もう下界の何処にもいない神の名を…………。
「殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺してやる! 絶対に…………絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に殺してやる!!」
殺意に伴いあふれる魔力は、神の恩恵を失ってなお膨大。歪んでこそ居るが古代の英雄達のような加護故に。
「いや、いや駄目だ殺さない………殺してなるものか! あの方の居る天界になど行かせてたまるか! 私と同じにしてやる、死ねぬ身で焼いて潰して砕いて凍らせて喰わせて汚して貫いて引き裂いて犯して千切って切り刻んで裂いて割って溶かして磨り潰して削って苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて………永劫終わらぬ地獄を味わわせてやる!!」
「あの方の求めた
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「分身か…………本体には逃げられたか」
神を殺したことにより恩恵が封印され魔法が解除されたようだ。まあギルドに言って手配書を出させればいいだろう。
「…………柊ちゃん、貴方一体………
柊は神を殺した。下界において神殺しとは基本的に神に致命傷を負わせ神の力を発動させ天界に戻すことを言う。
或いは、ルールが定められた下界では本来あり得ぬ事だが神造武器を用いて殺す。その神という存在を終わらせ長い空席を生み出す。ただし、いずれ同じ名を持つ
何方でも、光の柱が天に登る。
神、あるいはその神だった存在を引き戻すために下界を超越した膨大なエネルギーが通過地点の何もかもを消し飛ばし世界に穴を開け、天へと登るはずなのだ。
だが、死体は焼かれ光の柱は登らない。
それが意味することは、柊が殺した神は天界にも戻っていない。神としての力が消えた、真なる神殺し。
「…………俺が怖いか、
一歩近付き、女神デメテルは思わず後退る。が、堪え2歩進んだ。
「ありがとう、皆を助けてくれて………」
「…………………」
「今度、美味しいお野菜持っていくわね」