帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか? 作:匿名希望
デュオニュソス。
ぶどう酒と酩酊の神。
だがいざ下界に降りて見れば大人しく、むしろ秩序を守る側として行動していた。彼を知るデメテルやヘスティアなどは発作がおさまったのだろうかと首を傾げたもので。
ただ、天界でトリックスターを名乗り暇つぶしで神々に殺し合いをさせていたロキが
デメテルが、神の宴であの笑顔を見るまでは。
久しく見ていなかった狂気を孕んだ笑み。不審に思ったデメテルは、デュオニュソスについて調べ始めた。
とは言え彼女は農業系ファミリア。戦力など持っておらず、そもそも眷属を危険に巻き込むわけにもいかず
農業の神であり大地の恵みの化身である彼女に当然そんな技能はない。だから、バレた。いや、或いは自分が行動しなくても同じだったのかもしれない。
ホームに戻れば、陶酔し倒れる眷属達。そして、椅子に座らされた数人の眷属。子供や、女ばかり。
「君は差別などしないのだろうが………やはり私としては同じ泥臭い者達でも愛らしいものを選ぶよ」
「デュオニュソス………!」
我が
「そう怖い顔をしないでくれデメテル。美しい君にそのような顔は似合わない」
「私の眷属に手を出しておいて、よくそんな台詞が言えるものね」
「仕方ないだろぉ? 君が私について探るのが悪いんだよ」
ニヤニヤヘラヘラと、こちらを見下す笑み。久しく見ていなかった彼の本性。
「貴方が何を企んでいたとしても、こんな事をして………ギルドが黙っていないわよ」
「ギルド………ギルド、か…………ふん、ダンジョンを
「そんな事、出来るわけがないでしょう!?」
デュオニュソスの目的は解らない。だが調べられこのような事をする時点で、オラリオ……ひいては下界に仇なす行為には違いないだろう。或いは
暗黒期を知る故に、下界に悪意を持つ神を放置など出来ない。
「そうか、残念だよデメテル。君に沢山の眷属がいてよかった」
「? ……っ! まちなさ──」
あまりに自然に出た言葉に、一瞬戸惑うも直ぐに理解し止めようとする。そんな彼女を邪魔するように、黒装束が人外じみた上級冒険者の身体能力で邪魔をする。
「待って! やめなさい!」
「おいおいデメテル、そんなに慌てるなよお。まるでこの子だけが特別みたいじゃないか。だが私は信じているぞ、君の愛は全ての眷属に平等。誰が、何回目に殺されようと等しく
ナイフが振り下ろされ…………鮮血が舞う。
「……………は?」
ボタボタと血が流れる
「か、は………! がった!?」
両肩に突き刺さる椅子の足。体を貫き、壁に縫い付けられる。
「!? フィルヴィス! 己、何者だ! まさか、黒拳!?」
「え、ルノア?」
デュオニュソスが叫んだ言葉にそこまで調べられていることよりここに彼女が来てしまったことに反応するデメテル。だが、そこに居たのはルノアではなかった。
「柊ちゃん………?」
「柊……? 柊!! ヘスティアの眷属か! おのれ、ここでも私の邪魔を!!」
ゴッと頬を殴られ右の歯が砕け床を転がる。そのままボギリと足の骨を踏み折られた。
「!? ぐあああああ!?」
「デュオニュソス様!」
「……………」
黒装束が椅子を引き抜こうとするが柊が手を向けた瞬間見えない何かの力によって壁に押し付けられた。
「お前が酔っ払い共の裏にいたやつか」
「っ! ま、待て! 待ってくれ! 話し合おうじゃないか!」
ギロリと睨まれ慌てて片足で後ずさりながら叫ぶデュオニュソス。
「その目、知っているぞ! 世界が憎くて仕方がないんだろう!? 殺しても殺しても、内に燃える復讐心が消えないんだろ!? 私の手を取れ、この汚れきった、間違いだらけの世界を破壊して…………」
反対の腕が肩から切り落とされた。
黒装束が暴れるが、壁に押し付ける力は一向に弱まらない。
「取る手がなくなっちまったな………まあ、取る気もねえけど」
「っ!? 何故、何故だ………憎くはないのか!? 幸せに生きる連中が、自分だけ苦しむ現実が! 憎い筈だ、お前は世界の被害者だ! この世界は、間違っているだろう!?」
「思ってもねえこと口にするな。それに………俺の過去に何があろうと無関係な誰かに一方的に剣を振る理由になるか」
その言葉に黒装束も震える。
自身の不幸を無関係の他者を傷つける理由に使ったのだろう。
「………ふ、はは………はははは! 笑わせるな、笑わせるなよ偽善者が!! そんな真っ当な考えなどとっくに捨てているくせに!!」
と、柊の言葉を、お前が言うのかとデュオニュソスが嘲笑する。
「真っ当ぶるなよ、殺したのだろう? 老い先短い老人から、何も知らぬ赤子まで! 怒りに任せ、殺意に身を委ねて! ひひ、はははは! そんなお前が、私を止める!?」
「だから、俺の過去が何でお前に手を貸す理由になるってんだよ」
「理由? 民衆の苦しむ様は、お前の心を一時癒やしただろう? ならもう一度、他人では無理か試してみ………ろ?」
ズブリと腹を貫く剣。柄の装飾からして、柊がつねに背負っていた剣。
何時抜いたのか、誰にも見えなかった。
「ぐ、がぁ!? あ、はは………ははははは! ああ、嗚呼、滑稽だなぁ! 世界を憎まぬように、世界を愛さないつもりか!? ヘスティアも、とんだ獣を抱えたものだ! なら私は、お前が獣と落ち何もかも滅ぼすのを天界で……てん、か…………まて、何だ……何だ
デュオニュソスが腹に刺さった剣を見て顔を青ざめさせる。この剣は、何かが違う。下界にあって良いものではない!
「止まれ! 今すぐ、この剣を抜け!!」
血を吐きながら、懸命に叫ぶ。下界の全ての存在を屈服させる神威を放ち跪かせようとする。だが、柊の目から殺意は消えない。
「と、取引だ! 何を願う、私ならお前のいかなる願いも叶えてやる!」
「じゃあもう喋るな」
「なっ、待て!!」
煩わしいそうにデュオニュソスの腹に刺さった剣を握る柊。デュオニュソスの顔に浮かぶのは、下界で感じるはずのない事柄への恐怖。
「とり ひき」
柊が剣を振り上げ、上半身が真っ二つに切り裂かれる。神が死に恩恵を失った黒装束は上級冒険者も押さえつける力に潰されるかと思えば魔素となり消えた。
「分身か………本体には逃げられたな」
デュオニュソスの死体は、消えていない。
まるで人の死体のようにその場で血を流す。
「
デュオニュソスの死体が燃え上がり、神の送還のエネルギーから眷属達を守ろうとしていたデメテルが慌てる。しかし炎はデュオニュソスの死体と飛び散った血以外燃やすことなく消えた。
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「以上が、昨日起きたことよ」
「…………神デュオニュソスが………いや、しかし………送還されずに、どういうことだ?」
祈祷の間。
創設神ウラノス、大衆の主ガネーシャ、フェルズ。そしてデメテル。
柊が何かを伝えたのか、フェルズが迎えに来たのだ。
「…………神の送還は確認できなかった。デュオニュソスは
「…………そう」
「……或いは
「…………有りえぬ話だ」
ガネーシャが腕を組みながら呟く。そう、ありえない。神という存在を消しされる存在など下界に居るはずがないのだ。彼はウラノスの言う神殺しとは、神造武器による神殺しだと思い込んでいた。
何故なら大抵の存在がそれ以上のことを行えないからそれが可能とするのはごく限られた存在か、
前者はゼウスやシヴァのような大神。後者なら、今もなお燃え盛る
「いいや、あり得るのだろう」
ガネーシャの言葉に、しかしウラノスが目を細める。
「神々を『消滅』させる力は存在する。彼は、それを用いてデュオニュソスを殺害……消滅させた」
「異邦の民とは言え、人の身で行えるのか?」
「事実行われている。とはいえ、面倒なことになったな」
デュオニュソスの眷属達の恩恵の同時封印。しかし天界に還った神はいない。この矛盾に神々が気付けば、必ず面白がるものが現れる。
そうなれば、柊は間違いなく容赦しない。
「それなんだが、隠せるかもしれない」
と、フェルズ。
「………行方をくらませた『
「!? どういう事、あり得ないわ! だって、殺されたのは間違いなく………」
「デュオニュソスではないんだ…………殺された神ではなく、彼等の主神が」
「………………え?」
「どういう訳か、ペニアの眷属なんだ、彼等は」
「ペニアが協力者ということか? しかし、何故………」
いかなる理由があってそんな契約を結んだのか。貧窮を司る彼女が取引に応じるとは思えないし、彼女も彼女なりに下界の民を愛しているはず。
「多分、これよ………」
と、デメテルが取り出したのはぶどう酒。デュオニュソスがデメテルの眷属達を酔わせた酒だ。ただの酒ではない。神の酒。
「………
神は地上ではその権能を使えない。ただし、技術は別だ。武神なら『武』という観点で見れば第一級冒険者を凌ぐ絶技を持ち、鍛冶神なら『鍛冶』のアビリティを待つ鍛冶師より遥かに優れた武器を打つ。
農業を司る大地の女神たるデメテルが作る作物は、超一流すら超えた一品。
なるほど、これならばソーマもいまだ成し遂げていない神をも酔わせる程極まった酒が造れる。
というより、神の手製の素材を使わず
「たぶんこれでペニアや、自分の眷属を酔わせていたのね」
「何のために………」
ペニアを天界に送還したとして、デュオニュソスの死を偽装できるのはほんの僅かな間だけ。その背にはペニアの恩恵が刻まれているのだから………。
「考えられるとしたら、死体を全て同時に消しされるような殺し方を用意していたのだろう。問題は、それが何処まで進んでいたかだ」
デュオニュソスが居なければもう実行できないのか?
それとも………
「デュオニュソスがエニュオならば………奴の残した『破滅』はまだ残されている可能性がある。柊が手を貸してくれるのが、一番確実なのだが」
「駄目よ」
と、デメテルがピシャリという。
「……デメテル?」
「ごめんなさい。でも………お願いだから、あの子に
柊は言っていた。無関係な誰かに一方的に剣を振る訳にはいかないと。
デュオニュソスは嗤っていた。世界を憎まぬよう世界を愛さないと。
きっとどちらも柊の本質。デメテルは、柊に世界を嫌いになってほしくない。
「確かに……彼が敵になるのは避けたいな」
「それもあるわ。でも、世界の敵になるまでに…………
「……………解った。要請はしない。だが………」
「解ってる。あの子は優しいから………巻き込まれないか、心配だわ」
いっそ、自分がヘスティアより先にであっていたならずっと畑仕事でもさせていたのに。
人と神の欲望渦巻くオラリオを見せないように………
ヘスティアに相談してみようか………いや、ヘスティアが気づいてないとは思えないし……
「私って、過保護なのかしら?」
「ふむ?」
「柊ちゃんもすぐ帰っちゃったし、頼りないのに関わろうとしすぎたのかしら? 包容力はあるつもりなんだけど」
「………………まあ、包容力は確かにあるな。それもまたガネーシャ!」
「…………柊に必要なのは、傷を癒やしてくれるものだろう。だが、奴自身が欲するのは、罰してくれる存在だ。今のままでは、噛み合わない」
「…………………」
ウラノスの言葉に悲しそうな顔で顔を伏せるデメテル。柊は、今何処で何をしているのだろうか?
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「や、やりすぎなんじゃ…………」
「ああ? 痛めつけて言うこと聞かせようとしてきやがってんだ、痛めつけて黙らせるのが手っ取り早いだろ」
ミノタウロス撃破によりランクアップし
ヘスティアは2人は渡さないって言ってるだろーと神々を威嚇していた。柊が黙らせようと思ったがヘスティア曰く神は神が対処するとのことだ。
「うう、迷惑かけてすいません」
「迷惑なのは此奴等だ。他人の責任まで背負うな英雄になる前に潰れちまうぞ?」
「え、今………英雄になる前にって」
「英雄になりたいんだろ?」
「………はい!」
認めてもらえた!
ベルは嬉しそうに破顔する。
「ダンジョンに行ってきます!」
柊は煙をふかしながらその背を見つめる。
「褒めてねえんだがな」
「じゃあ片方だけで良いからくれよ!」
「やるもんかー! 帰れ帰れー! ぶん殴ってやるー!」
取り敢えず神々を軽く殴って黙らせるか。