帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか? 作:匿名希望
「【
「はい、ランクアップで初めて目覚めたスキルなんですけど、良くわからなくて………」
柊なら説明文を見てなにかわからないか、とのことだ。
ランクアップ……そう、ベルはランクアップした。期間はこれまでの
今後誰にも塗り替えることは出来ないだろう。
そして、ランクアップ………器の昇華時には大抵発展アビリティという新しいアビリティ欄や、スキルが目覚めることがある。
発展アビリティは『幸運』、『狩人』………そして『幸運』。今まで確認されたことのない新アビリティ。それを選択しランクアップしたベルに目覚めたスキルが【
「………『
「読んだ通り?」
「要は力をためて、次の行動に対してためた力を乗せるんだろ。チャージ時間次第ではLv.2以上の火力も出せるかもな。格上殺し………道化のアルゴノゥトがなんやかんやあって行った偉業だ」
本当になんやかんや、としか表現できない。王に騙され人に笑われたアルゴノゥトがなし崩し的に英雄になる話。
何気に柊が一番好きな英雄譚。民衆の掌返しがムカつくが、なにせ登場人物に死者が出ない。
「それよりヘスティアはどこだ?」
「あ、えっと………神様達の集まりです。そこでランクアップした冒険者に二つ名をつけるんですよ!」
「二つ名…………ああ」
因みに柊の前の世界での二つ名は『未熟な英雄』『英雄』『神殺しの英雄』『仲間殺し』『役立たず』『虐殺者』『堕ちた英雄』の順に変化した。
「かっこいい二つ名がつくと良いなぁ……【
「……………そうか」
柊は、1年後ぐらいにランクアップしたことにしておこうかと思っていたが一生しなくていいやと思い直した。
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柊が痛々しいと感じている二つ名。冒険者達は、それらを人には思いつかない洗練された素晴らしい神の名付けと思っている。では神々はどうか?
「うん、じゃあヤマト・命ちゃんの二つ名は【絶†影】にしよう」
「ヘルメスてめぇぇぇぇぇ!!」
普通に痛いと思ってる。
その上で、素敵な名前を有難がる
この屑どもめ!
初参加のヘスティアはそんな神々を睨むが、とうとうベルの番。裏を確認したりめくったりしてるのは、たぶん柊の情報を探しているのだろう。
「1ヶ月半でランクアップ、か………ヘスティア、お前の眷属はどうなっている」
と、問いかけてきたのはイシュタル。
「さ、さあね。何分僕も眷属持つのは初めてだからなぁ」
成長系スキルが有ることは絶対に言えない。言えばベルは神々の玩具にされる。
「そんな言葉で納得できるか。貴様の抱えている秘密、話せ」
「そうだそうだ〜! 隠し事は良くないぞ〜!」「スキルか!? なんか強いスキルに目覚めて格上殺しをしたんだろ!」「ふっ、その代価に右腕を常に封印しているんだろ?」
他の神々を騒ぎ出す。恐らくイシュタルが予め手を回していたのだろう。
「是非知りたい、教えてくれるか?」
微笑み、流し目を送るイシュタル。神すら魅了する美の女神の誘惑………ただし
「断る」
処女神のヘスティアには通じない。その事実に忌々しそうに舌打ちするイシュタル。
「ふん、貴様の眷属………柊だったか? あれにも魅了が通じなかったな」
「………は? 今、なんて言った?」
「ああ、もしや改造でもしたか? 全く、私の眷属達は命がけで鍛えているというのに、楽して強くするなど──」
「イシュタル」
と、イシュタルの言葉を遮るヘスティア。イシュタルが無視して言葉を続けようとした瞬間………
「今何て言ったか聞いたんだ」
焼け付くような神威が溢れ出す。
不死不滅なる神々の中でも、その上で『不滅』を司るヘスティアの神格から放たれる神威。矮小な人間への脅しではなく、神に抱いた怒りから放たれる威圧感に多くの神々が戦慄する。
「やめなさいヘスティア! 貴方なら、ここからでもダンジョンに気付かれるわよ!?」
「!!」
と、ヘファイストスの言葉に我に返ったヘスティアが神威を隠す。地上にあっても、その高い神威は気取られかねない。
「っ! 貴様………!」
怒りを向けられた張本人であるイシュタルは、自分が零細ファミリアの主神に竦んだ事実を振り払うようにヘスティアを睨み付ける。
「怒っているのはこっちだイシュタル。君、柊君の心を汚そうとしたな?」
「………獣性に身を委ねることが穢らわしいなどと、処女神らしい価値観だな。男と女の交わりの何処が汚らわしいと言うのか」
「少なくとも、自分に興味を持ってない子を無理矢理振り向かせようとするのは見苦しくて浅ましいだろ」
「何だと!!」
「そこまでにしなさいイシュタル、見苦しいわよ?」
ヘスティアの言葉に怒りに顔を染め立ち上がったイシュタルだったが、透き通るようなその声に更に忌々しそうに顔を歪めそちらを睨む。
睨まれた女神……フレイヤはニコニコと微笑んでいる。
「彼についてはガネーシャが調べたはずよ? 不正はなかったのでしょう?」
「うむ、ステイタスも確かに一度もランクアップしておらず、神による改造も行われていない。ならば何故強いのか、それは彼もまたガネーシャだからだ!」
「ガネーシャではないでしょうけど、彼が不正を見逃したりはしないでしょうね。下界にはまだまだ未知があるのね………それこそ、恩恵を持たず数多の怪物を打ち倒した古の英雄みたいに」
「…………チッ」
ガネーシャという大手派閥に加え、このままではフレイヤも敵に回る。それは
「さっきはありがとうフレイヤ」
ベルの新しい二つ名も決まり、解散する神々。ヘスティアはフレイヤに駆け寄りお礼をいう。正直苦手な神だが、借りは借りだ。ちゃんとお礼を言わなくては。
「気にしないで、柊には私も借りがあるから」
「柊君に? 知り合いだったのかい? ま、まさか………!」
「ああ、安心して。あの子は確かに気に入っているけど、そういう愛で方はあの子の正しい愛し方じゃないもの」
一時の慰めにはなるでしょうけど、と笑うフレイヤ。
「私が求める関係ではないわ………」
「フレイヤ…………」
同じ美の女神だがイシュタルより好感度が上がった!
というかイシュタルの好感度はゴキブリと同等だ!
「あの子を先に見つけたのが、貴方で良かったわ。私じゃ逆に、傷つけてたかもしれないから」
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豊穣の女主人。
ベルのランクアップを祝いちょっとした宴。といっても、5人だけだしリリは柊をチラチラ見ては俯いているが。
「それではベルさんのランクアップをお祝いして、カンパーイ!!」
音頭を取るのはシル。無言で酒を飲む柊と、柊に酒をつぐリュー。
「柊さん、友人には料理を振る舞うものだと聞きました。こちらをどうぞ」
「………………これは炭か?」
「料理です」
食べる。ガリゴリと硬い音がした。
「さあさあベルさんもどんどん食べてください。今日の主役なんですから!」
「あ、ありがとうございます。なんか、嬉しそうですね………」
「えへへ、そう見えます? その………ベルさんのランクアップに魔法が関係してたら、私も力になれたのかなって………ちょっとだけ嬉しくって」
「………シルさん」
照れたようなシルの笑顔にも思わず見惚れるベル。そんなベルにムッとし足を抓ろうとしたリリだったが指先スレスレをフォークが飛んでいき床に刺さる。
「………………」
柊はリューから新しいフォークを受け取っていた。
「しかし驚きましたクラネルさん。まさか一人でランクアップに足る偉業をなすとは。貴方を見くびっていたようだ」
「い、色々な人に助けてもらったからですよ。リューさんにだって僕は………」
「謙遜しなくて良い。ミノタウロス討伐は壮挙と言うべきだ。貴方はもっと誇って良い………」
その言葉に照れくさそうに頭をかくベル。
「それで、今後はどのようになさるおつもりですか?」
「えっと、とりあえず明日は装備を整えようと思って………色々壊れちゃいましたから」
ミノタウロスとの戦いはそれだけ激戦だった。無事なのはヘスティア・ナイフぐらい。リリも買い物に誘おうとしたのだが残念ながら用事があるらしい。
「じゃあ、私がご一緒しましょうか?」
とシルが立候補するもミアにサボるなと叱られた。
「その後は? 準備を整え『中層』に挑むつもりなら、貴方達にはまだ早い」
「それは………リュー様はベル様やリリでは中層に太刀打ちできないとおっしゃりたいのですか?」
と、自分ならまだしもベルを軽く見られたと判断したのか、不機嫌そうに問い掛けるリリ。
「そうは言いません。単純に、経験が足りない………『上層』と『中層』は
その言葉にちらりと柊を見つめるベル。柊は酒を飲みながら何も返さない。ようするに誘うな、ということだ。
「パーティをお探しかい、【リトル・ルーキー】!!」
と、突如割り込んでくる人影。
無精髭を生やした見るからにガラの悪い男と、その仲間らしい二人の男。
3人の男達はドカドカと無遠慮に近付いてくる。
「仲間がほしいんだってなぁ、今話題を掻っ攫ってるお前なら、特別に俺達がパーティに入れてやってもいいぞぉ!?」
酒に酔い赤くなった顔で宣う冒険者に、ベルは困惑する。
「え、えっと………どういう?」
「助け合いってやつだ助け合い。まぁその代わりのよぉ、その別嬪のエルフの姉ちゃん達を俺達にも貸してくれよ! 仲間は助け合いだからなぁ!」
「放っておけベル。助け合いってのは力が近くねぇと成り立たねぇ………足を引っ張るだけののろまを連れてると、お前の性格なら庇って死ぬだろ」
と、柊。目茶苦茶口が悪いが、助言なのだろうか?
突然そんな言い方をされれば冒険者達も黙っていない。
「てめぇ! もう一度言ってみやがれ!」
「お、おい待てモルド! そいつ、もしかして例の………」
「ああ? ギルドから正式にLv.1だって報告されてたろ! どうせ見間違いだ!」
どうやら連れは柊の噂を聞き信じ、モルドは信じていないらしい。むしろLv.1と発表された時点で柊を知らない冒険者は殆どがベートを瞬殺しただの【ロキ・ファミリア】が手も足も出なかったモンスターを倒したと言う話をただの噂だと割り切った。
それだけありえないことだからだ。
「仮に柊さんに噂程の力がなかったとしても、彼我の差を理解出来ないのなら柊さんの言う通り足手まといにしかならない。何より、貴方達は彼に相応しくない」
と、今度はリュー。ベルも女をまるで道具のように寄越せと言う男達と組む気はなかった。
「おいおい嬢ちゃん、そりゃあねえだろ。こんなカスみてぇなガキや口先だけの男よりも俺等のほうがよっぽどいい思いを………」
モルドと呼ばれた男がリューの肩に触れようとした瞬間、柊がリューの肩を掴み引き寄せる。
「酒………」
「………………」
「…………? おい」
「リュー………? っ! こ、これは………」
空になったジョッキを向ける柊だったが、反応しないリューに首を傾げシルも不思議そうに近付く。
「気絶してる」
「ええ、何で!?」
ベルが思わず叫んだ。
「たぶん、柊さんに肩を掴まれて抱き寄せられて困惑して、エルフの価値観による忌避感が出なかったことにも困惑して、神様たちでいうキャパオーバーを引き起こしたんです!」
「………………………」
柊は仕方ないので自分で酒を注ごうとする。と………
「俺達を無視してんじゃねえよ!」
モルドが叫び柊が手を伸ばした酒瓶を机から落とそうとして………
「…………あぇ?」
腕の関節が外されダランと垂れる。
「!? うぎあああ!?」
「ミアの店で血を流せねえからなあ………さっさと失せろ。次は関節増やすぞ」
「!? お、覚えてやがれ!!」
「うわ〜、捨て台詞までありきたり!」
「シ、シルさん!!」
モルド達は慌てて逃げ出した。柊は改めて酒をジョッキに注ぐ。
「柊さん! パーティメンバー、見つかりました!」
「はじめましてだな旦那。ベルから話は聞いてるぜ、ヴェルフ・クロッゾだ。よろしく頼む!」
「ランクアップして『鍛冶』アビリティを得るまでの契約ですけど、これでスリーマンセルです!」
「帰ってもらえ。自分の都合に付き合わせる相手の背中を持てる力全てで守ろうとしない自己優先の職人気取りなんざ邪魔なだけだ」