帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか? 作:匿名希望
柊にとって人の本質を見抜くのは得意だ。
交渉が得意な金食い豚や実はギャンブルが得意な聖女、世話になっていたお姉ちゃんぶる娼婦達から教えを受け、盗賊だの貴族だのを相手にしている内に覚えた。
どれだけ巧妙に偽ろうと本質、性格を正しく見抜き、だからこそ我慢出来なくなったのだが。
その上で明らかにレベルに見合わない何かの力を宿した男は、自身に対する劣等感……いや、ある程度自信はある。なら、宿した力への嫌悪。
力の正体は炎。属性は違うが性質はアイズに似ている。
「はじめましてだな旦那。ベルから話は聞いてるぜ、ヴェルフ・クロッゾだ。よろしく頼む!」
クロッゾ………呪われた魔剣鍛冶師の一族。元々は強力な魔剣を生み出す血族だったがエルフの森を………違うか、それまで幾らでも焼かれていたから、精霊の森を焼き精霊の怒りを買い呪われ魔剣を造れなくなり没落した一族。
初代が炎の精霊を助け得た力と聞く。つまりこいつは力が復活してる。
だがクロッゾが復活したなどという噂は聞かない。こいつがラキアにいれば、隠されているのだろうと思えるが、魔剣が高く売られるオラリオで名を聞かないとなればこいつ魔剣を造ってないな?
そして、ベルの性格を考えれば知り合いのすごいところを自慢するだろうに条件付きでパーティを組んだという報告のみ。隠し事をすれば罪悪感を覚えるはずだからそれもない。つまり…………
「帰ってもらえ。自分の都合に付き合わせる相手の背中を、持てる力全てで守ろうとしない自己優先の職人気取りなんざ邪魔なだけだ」
こいつはランクアップに必要な偉業をなそうとしながら、それに付き合わせる相手の背を本気で守る気はない。
「な、何だよいきなり!?」
「言葉通りだ。お前、これから遊びにでも行くのか? ダンジョンに潜って、『中層』に挑むつもりなんだろうが。だってのに出来る事何一つやらねえとか、舐めてんのか?」
「っ! あんたも魔剣が欲しいのかよ。ベルからすげえ強いって聞いてたんだがな………」
「ああ? てめぇの鈍ら魔剣なんざいるか。売って金に変えるぐらいしか使い道がねえ」
少なくとも、今の段階でこいつが造れる魔剣の威力はリヴェリアと同等程度だろう。ならぶっちゃけ邪魔にしかならない。
「これから命かける仲間を本気で守る気がねぇなら失せろ」
「俺が、ベルを見捨てるってのか!!」
「事実お前は、ベルがダンジョンで危険な目に遭おうと魔剣を使わねえんだろ?」
出来ることをやらず、したいことだけやる。そのくせランクアップの偉業をなすために中層に行かせてくれなど、寄生虫と何が違うのか。
「俺は、あんな力に頼らねえ!!」
「そうか、大した志だな。で? お前、それで死んだらどうすんだ?」
「んなもん………」
「お前がじゃねえよ、ベルの話だ」
例えば中層でモンスターに囲まれた時。火力の足りないベル達だが、魔剣があれば助かるかもしれない状況。だが魔剣を造りたくないから造らず、仲間は死ぬかもしれない。
「持てる力全部出しきって死ぬならてめぇを信じたベルの責任だ。
使いたくねえ力を使わず、てめぇだけ死ぬならてめぇの勝手だ。パーティ組むなら、仲間の命背負ってる自覚持てよ。それとも、レベルが上のベルに全部押し付けるかぁ? Lv.2のお前がしっかりしてねぇからって」
まあ、そういう事をするタイプではなさそうだが。
どっちにしろダンジョンに上のランクを付き合わせておいて自身の出来ることしないのは、柊的には舐めてんのかとしか言えない。
「俺だって………俺だって、こんな力望んじゃいなかった!!」
と、ヴェルフが吠えた。
「あんたに解るか!? 求めたわけでもない力を手にして、望んじゃいねえ立場を強要される俺の気持ちが!!」
「望んだ力と望んだ立場だけが与えられると思ってんのか? 傲慢なガキだ」
周りが自分の都合に配慮してくれると思っているなら、ダンジョンなんてモンスターが溢れる死地に誰かを巻き添えに挑まなければよいものを。
「何も知らねえくせに、勝手に言ってろ!」
「さっきからそうしてんだろ?」
馬鹿かお前、と言いたげな顔をする柊。
「俺は、あんな力に頼らずもっとすげぇ武器を造ってやる!」
「最高の武器ってのは血も素材も才能も命も、持てる全てを使って造れんだよ。魔剣を造れとは言わねえが、血を否定するために造る鈍らに命を預けさせんじゃねえよ」
もっとも、鍛冶師を名乗らないなら好きにすればいいがと暗にお前を鍛冶師と認めないという柊にヴェルフが拳に力を込め………
「ひ、柊さん!!」
ベルが二人の間に割り込む。
「こ、この鎧を見てください!」
「ん? ああ、新しいのか。信念は感じねえが、技術はそこそこだな」
「あ、えっと………ぼ、僕は気に入ってます。これは、ヴェルフさんが造ってくれて………」
「……………そうか」
ベルは、ヴェルフが本来の力を使わずとも信じて命を預けると言いたいのだろう。なら、ここからはベルの勝手だ。柊の関与するところではない。
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「ま、また不機嫌でございます………」
こういう日には耳と尻尾をいじめられると耳を手で抑え尻尾を足の下に隠す春姫。
「今日は何があったのでございますか?」
「意地と仲間を天秤にかけて、意地に天秤が傾く奴にあった」
「その方には譲れないものがあるのですね」
「仲間の命よりな」
チッと舌打ちする柊。春姫はん〜、と考える。
例えば知り合いのアイシャなどは、死を恐れてないように見える。むしろより強い敵との戦いを望んでいる。
それは、意地なのだろうか?
意地だとして、仲間の命より優先するだろうか?
「わたくしには、良くわかりません」
「…………………」
「その方の意地もですが………その、それに怒る柊様も………」
春姫に死んでも譲れないものなどない。むしろ、どちらかと言えば死を望んでいる。
そういう部分では柊と似ているだろう。
尤も彼女の場合は自分は周りを不幸にするからと考え、柊は不幸な目に合いすぎたからだが。
「…………はぁ」
「あの、どちらへ?」
「別の娼婦」
「え!? な、何か不手際が!?」
「お前抱けねえし」
抱こうとしてもすぐ気絶する。そういう様はコンを思い出すが、今日はとにかく酒を飲んで女を抱いてイライラを解消したい。
「…………ど、どうぞ」
と、背中を向け尻尾を差し出す春姫。手も膝の上に乗せ、耳をピコピコ動かしアピールする。
「…………………」
「まあ、基準がおかしいのは認めるがな」
「き、基準?」
耳をクニクニ、尻尾をニギニギされぐったりした春姫は、少しは落ち着いたのかため息交じりに吐き出された言葉に首を傾げる。
「最強の武具を造るために死んだ男」
ドンドンやつれて、別の鍛冶師に頼んだほうが良いんじゃないかと思わず言ったらものすごい剣幕でブチギレられた。
堕ちた怪物の一部というあの世界で最も優れた素材を死ぬ程度で使わせぬというのなら、ここで死ぬと言っていた。
最後に彼女の遺体で造った武器を柊に渡し、それを一振りする姿を見せたら微笑んだまま死んだ。
「まあ、あれ程にはならなくても、このオラリオで鉄を打つには彼奴には熱が足りない」
少なくとも、ヘファイストスに素材を売りに行く際見かけた武具は技術以上に、熱意を感じた。特にハーフドワーフ作の武具。
なるほど、団長をやるわけだ。
「柊様は、クラネル様が心配なのですね」
「英雄目指す馬鹿を心配するだけ無駄だ。ただ、世話になってるヘスティアに迷惑がかかる」
「フフ、そういうことにして………コン!?」
柊は無言で春姫の尻尾を握る。
「うう、ごめんなさいごめんなさい!」
「まあ付き合いがそれなりにある。英雄目指さねえなら、心配してやってもいいが……………あん?」
と、不意に柊が外を見る。夜空に浮かぶ月をみて、目を細めると金を放り建物の屋根をつたい【イシュタル・ファミリア】のホームである塔の屋上まで登る。
「……………チッ。面倒な………何処の間抜けが堕ちた」
遥か遠方から感じる気配。神であり、この世界を破壊する者の気配。厳密には違うが、これと良く似た力を知っている。
堕ちた怪物。
神格を持ち、神性を失った者の気配。いや、この力の質はもっと弱い…………神の分身………精霊か?
その気配が少しずつ漏れている。恐らく、復活が近い。
屋上から飛び降り、柊はギルドに向かった。
柊とヘルメス会わせたら、ヘルメスはあくまで逆恨みしてる奴等を煽っただけだし謝罪金とかで許してくれるかもだけど冒険者達が死ぬなァ。せや、柊にはちょっと都市外に行ってもらおう!
てか何時か書きたい神を討った柊の強さの一端を出せるのなんて、神の力使うモンスターぐらいだし。