帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか?   作:匿名希望

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一万年後の約束

「アルテミス様! 殿方の天幕で一晩過ごすなんて駄目です!」

「駄目か?」

「何時もの貴方ならこんな事しないでしょう!」

「どうしても?」

「可愛いけど駄目!!」

「むぅ……」

 

 アルテミスは眷属達に連れて行かれた。

 眷属達が柊に向ける視線は、恐怖と不安。アルテミスを殺すオリオンに対して、敵意を向けないだけマシだろう。

 

「アルテミスを殺す矢、ねぇ………」

 

 恐らくこれはベルでも使えるだろう。むしろ相性としてはベルの方がよっぽど良い。あのお人好しなら最後まで見捨てずに…………見捨てないところでどうなるのか。

 心に傷を負って終わりだ。

 

 神を殺すだけなら柊でも行える。古代の怪物という蠍の気配は、あの黒い骨に似ている。

 柊を神と勘違いしたダンジョンが送ってきたなら、恐らくあれも神の力に対する無効化能力を持っているはず。

 

 神器の力は効いていた。

 その上で神の力なら、殺せる。

 

「……………ヘスティアが、悲しむだろうな」

 

 なら救うか? 方法がないわけじゃない。ただし確証はない。

 殺す方が余程確実で、相手が力を封じた神ではなく、力を振るう穢れた神である以上、成功しようと失敗しようと代価は払う。この世界には、代価を帳消しにする方法もない。

 

 厳密にはあるが、その方法をどちらをとっても面倒なことになるだろう。

 

 

 

 

「クルル」

「おう、おはよークルル」

 

 欠伸をしながらクルルの頭を撫でてやる。アルテミス達は………数人が残り、他は森に散っている。

 追われる小動物の気配…………狩りか。

 

「おはよう、オリオン」

 

 と、森の奥から最初に戻って来たのはアルテミス。

 兎を捕まえたらしい。他の眷属も鹿やら樹の実やら別の兎……保存する気はない、最低限の量を持ってきた。

 

「早速食事にしよう」

「…………料理は手伝おう」

 

 ただ飯ぐらいになるつもりはない。

 

 

 

 

「うみゃーい!」

「ランテ、うるさいぞ!」

 

 ランテとか言う少女が団長のレトゥーサに叱られていた。ランテという少女は、どこかふざけた神を思わせる言動を取っている。

 

「…………私は食べれないんだ。オリオン、食べるか?」

 

 と、皿を差し出してくるアルテミス。と、ランテがハッとする。

 

「アルテミス様、そこはあーんです! 食べさせてあげるんです!」

「この不埒者!」

「ぎゃー! 団長、やめてー!?」

 

 仲良くさせてどうする!? と叱られるランテ。

 普段から神のような振る舞いをして、癖になってしまったのだろう。

 アルテミスはといえば…………

 

「あーん………?」

 

 野草のウサギ肉のスープを匙で掬い差し出してくる。バクリと喰った…………クルルが。

 木製の匙ごとボリボリ食べる。

 

「キュウゥ」

「………美味いとよ」

「そうか。ではクルル、沢山食べなさい」

 

 アルテミスはニコニコ微笑み皿を差し出す。皿の縁を咥え、器用に口に運ぶクルル。

 

「このトカゲ! 良くもアルテミス様の厚意を!」

「キュゥ………」

 

 ゲジゲジ蹴ってくるランテを鬱陶しそうに翼で押しのけるクルル。本気ではないようだが、それでも鬱陶しいものは鬱陶しいようだ。

 

「ランテ、喧嘩はダメだ。クルルも、匂いに誘われたのだろう」

「キュ」

 

 アルテミスに撫でられ、ランテにふん、と勝ち誇るような笑みを浮かべるクルル。ランテがぐぬぬ、と唸る。

 

「そう言えば、昨夜聞きそびれてしまった。オリオン、『恋』とはどのようなものだ?」

 

 ブフ、と【アルテミス・ファミリア】の面々が吹き出す。ランテだけはキラキラした目をアルテミスに向けていたが。

 

「アルテミス様も遂に恋に興味を!?」

「おい、俺とこいつの恋が成就したら矢がこいつを殺すだけの力を得るぞ」

「はっ!」

 

 そうだった、と落ち込むランテ。柊は食事を終えると煙を吸い込む。

 

「お前もお前だアルテミス。心を通わせようなんて言っておきながら、最後には殺せだと?」

「それは………すまない。だが、それしか方法がないんだ」

 

 柊はチッと舌打ちするとその場からさった。

 

 

 

 

「少し良いだろうか」

「お前は………レトゥーサか……」

 

 アルテミスと合流して三日目。

 何かを察したのか、深くは踏み込んでこないもののそれでも絡んでくる。

 鬱陶しいと振り切って一人になっていた柊に声をかけてくるレトゥーサ。

 

「なんのようだ? アルテミスと話してくれってんなら、お断りだ」

「アルテミス様がすまない………本来はあのような方ではないんだ。いや、今も今で可愛らしいが………と、そうではなかった」

 

 柊がくだらない話かと去ろうとすると慌てて話を切り替える。

 

「私達は、貴方を恨まない」

「ああ?」

「貴方がどのような選択をしようと、恨まないと決めた」

 

 私達………ということは、レトゥーサだけでなく【アルテミス・ファミリア】全員で話し合ったのだろう。

 

「正気かお前等………」

 

 敬愛する女神を殺すという選択や、あるいは別の使い手に押し付ける選択、どちらも選ばず下界を見捨てる選択も恨まぬと言うのか、と訝しげに睨む柊。

 

「そこで正気を疑ってくれる貴方だから、アルテミス様も惹かれていってるんだろう」

「お前達の言葉に従い、最期の時までに恋を知ろうとしているだけだ。別段俺である必要はねえ」

 

 それこそアルテミスとは別の処女神にも恋心を教えたベルでも良い。

 

「それでも、ここにいるのは貴方だ。私達を、アルテミス様を気遣ってくれているのは、貴方なんだ」

「…………俺が気遣う? はっ、とんだ勘違いだな」

「そうなのか? 私達には、貴方がアルテミス様に生きたいと思ってほしいように見えたが」

「お前達の望みだろ。アルテミスに生きてほしいと願うからそんな勘違いをする………そんなお前等が、アルテミスを殺した俺を恨まないだと?」

 

 出来るものか、と吐き捨てる柊。その嘲笑を受け、それでもレトゥーサはしかし微笑む。

 

「ああ、アルテミス様を気遣ってくれていると、勝手に思っているからね。貴方だって、その選択に苦しむのに、どうして私達だけが辛いと責任を押し付けられようか」

「──────」

 

 その言葉に柊は固まる。レトゥーサはそんな彼の様子に首を傾げた。

 

「………そろそろ夕餉だ。戻ろう柊殿………今日も、アルテミス様の相手を頼む」

 

 

 

「つまり恋とは、それはもう世界の見え方が変わるんです!」

「それはもう聞いた」

「そしてそれを成就させるためには抱きついたり手を重ねたり──」

「ふむふむ」

 

 アルテミスは今日もランテの恋愛講座(洗脳)を受けていた。柊を確認すると早速実践しようとしていたので距離を取る。

 

「………アルテミスもお前らも、本気なのか?」

 

 いや、本気なのだろうな。だから最期の思い出作りに皆してアルテミスに絡みに行ってる。

 

「本気だ。これは私の罪だから………貴方にその一端を背負わせて、すまないオリオン」

 

 と、自ら犠牲になろうとするアルテミスは言う。

 

「下界がアルテミスの力で滅ばされるのを、アルテミス様が一番望まない」

「アルテミス様が愛した下界を救う方法が、それしか無いなら………」

「………皆。すまない、辛い思いをさせる」

 

 辛い思いをする者の中には、柊も入っているのだろう。

 

「オリオンも、どうか背負わないで欲しい。これは、私の罪だ」

「………罪、罪だと? お前の行動が?」

「ああ………私の浅慮が下界に危機を招いた。これが罪でなくて、何だと言うんだ?」

「愛だろ」

「何故そこで愛!?」

「うるさいぞランテ」

 

 大袈裟に叫ぶランテを黙らせ、柊はアルテミスに………アルテミスに向き直る。

 

「大切な者達への思いを世界より優先することが罪であってたまるか。両親の(あの)選択が、間違いなものか! 俺の(あの)選択が正しかったなんて認めない! 正しかったはずだ、間違っていた筈なんだ……… そうじゃないなら、俺は……………!」

「オリオン………私は、貴方を追い詰めていたか?」

 

 と、アルテミスが不安そうに見つめてくる。

 矢の使い手と心が通じぬ事を心配してくれているのなら、どれだけ楽だったか。

 

「すまない……そんなつもりじゃなかったんだ。泣かないで………どうしよう。どうしたら、貴方は泣き止んでくれる?」

「泣いてねえよ………」

 

 と、その手を払う。

 

「…………やはり私は、オラリオに向かうよ。人が、冒険者が沢山いるんだ。そこで、新たなオリオンを探す」

「無理な話だ。俺はともかく、お前と会う誰かがお前を殺せるとは思えない」

「……………」

 

 矢を握りしめ目を伏せるアルテミス。柊は、アルテミスの眷属を見つめ問い掛ける。

 

「お前達も、本気で俺を恨まないと言えるのか?」

「…………わからない」

「ああ?」

「私達は、アルテミス様をまだ殺されていないから」

「覚悟は決めたつもりだけど、実際にその時にならないと解らないかな」

「はいはーい! 私は絶対に泣きます! でも、恨まないよう頑張ります!」

「泣くのは私も一緒だよ」

「お前達…………」

 

 眷属達の言葉に嬉しそうな、それでいて悲しそうな顔をするアルテミスは、それでも精一杯の笑みを浮かべた。

 

「大丈夫だ、神も生まれ変わる。約束する、必ず………必ず皆を見つけてみせる」

「それって、何年後ですか?」

「それは解らない。百年後かもしれないし、千年………一万年かもしれない」

「誰も生きてねえだろ」

 

 柊は不老だから生きているかもしれないが。

 

「それでも、生まれ変わった皆が下界にいる。顔も、性別も、種族が違っていても必ず見つけるよ」

「…………………………」

 

 

 

 

 

 朝になる。

 他の全員がまだ寝る中、柊のテントの直ぐ側にいたクルルが目を覚ます。

 柊が指を口元に添えると声を挙げずそっと近付く。

 傷はまだ消えていない。

 

「ちょっと待ってろ。魔石を取ってきてやる」

「キュゥ…………?」

神の盾を模倣する魔法(アギルスバヤ)

 

 【アルテミス・ファミリア】とアルテミス、クルルを丸ごと包む球体型の結界。アンタレスが破るにしても、それはこの結界の破壊に集中しなくてはならないだろう。

 そんな隙を与える気はない。

 

 術者である柊のみが出入り可能な境界をすり抜け、日が昇り始めた森を歩く。

 直ぐに草木の枯れた命の気配がない『死の森』が現れ、その中央に座す遺跡。

 

「………………………」

 

 封印ごと打ち抜く。地下にいる存在にも多少のダメージは通るかと予想したが、瓦礫を吹き飛ばし現れたのは無傷の漆黒の蠍。

 

「■■■■■■■■■■■■■ッ!!」

 

 世界が歪む。

 日が昇ったばかりの朱色の空が黒く染まり、異様な大きさの月が空の中央に座した。

 天体レベルの操作。正真正銘神の力をもって、アンタレスは『敵』を睨む。

 

 次の瞬間アンタレスの腹がぶち抜かれる。

 一瞬で背後に移動した柊の腕の中には、アルテミス。

 

「………チッ、そう簡単にはいかないか」

 

 舌打ちしその場にアルテミスを残し飛び退く。アンタレスの体が水にインクが滲むように消え、逆再生のように空間から滲み出てアルテミスを飲み込む。

 

 アンタレスとアルテミスは完全に融合している。

 アルテミスという不滅の神を媒介に、この世界に何度でも復活する。

 

「…………さて、何を失うか」

 

 神を殺す剣を抜き、柊はアンタレスに剣を向けた。




次回
本気モードアンタレス
    VS
 苛つきモード柊
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