帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか?   作:匿名希望

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秘境の蠍

 日が昇ったはずの世界が夜になる。その異常事態に、地上にいた者達は誰もが空を見上げた。

 

神の力(アルカナム)!? どこの馬鹿が………いや、何でまだ発動してんのや!?」

 

 理の書き換え。世界を思いのままに歪める神の力に、ロキが叫ぶ。

 明らかな規則(ルール)違反。これを行った神は即座に送還され、歪みも正される筈。

 

 

 

「ウラノス、これは!?」

「………精霊の奇跡を超えている。神が喰われたか」

「そんな事が………?」

「…………これも、下界の未知か……………」

 

 オラリオ創設時からいるウラノスですら知らない異常事態(イレギュラー)。モンスターが神を取り込む………この光景を見なければ、まず信じない。

 全知の神すら未だ知らなかった最悪の可能性。

 

「どうする!?」

「これがアルテミスならば、矢が放たれれば今のオラリオにいる神に防ぐ手立てはない。かけるしかない、異邦より訪れたもう一つの未知に………」

「柊か…………」

「…………無力なものだな、神というのは」

 

 と、拳を強く握りしめるウラノス。

 

「…………貴方が神の力(アルカナム)を使えば、邪神共も使い始めるだろう。そうなれば、神の力(アルカナム)に晒された地上はダンジョンではなく神によって滅ぼされる」

 

 約束の時を待つまでもなく、ダンジョンが限界を迎える前に、下界は取り返しのつかぬ程に滅ぶ。故に、ウラノスはただ祈るしか出来ない。

 

「報酬を、上乗せせねば。世界を救った報酬が、どの程度かは解らぬがな」

「ああ、叶えられるだけの要望に答えよう」

 

 きっと彼なら、下界を傷付けるような事は望まないだろうから。

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 月光が質量を持って降り注ぐ。熱はなく、しかし触れた瞬間には全てを消し去る。

 触れずともその衝撃が大気を渦巻かせ、地表をかき混ぜる。

 ただの余波ですら歴代最強の魔法すら越える圧倒的な破壊力。その暴威の雨は、柊の防御魔法を容易く貫く。

 

「チッ………」

 

 流石は曲がりなりにも神。単純に強い。

 

万物を切り裂く魔法(スパルゼイン)

 

 遠隔発動でアンタレスの前方から汎ゆる者を切り裂く魔法を放ち、同時に背後に回った柊が山すら切り裂く斬撃を放つ。

 

「■■■■■■■■■■!!」

 

 アンタレスの体が月光の如き蒼銀の光を放ち、魔法と斬撃を弾く。正真正銘の神の盾………神であるが故に行う絶対防御。

 

「■■■■■■ッ!!」

 

 だが、何でも出来るが故に動きは単調。使い勝手が良過ぎるが故に、使いこなせていない。

 白痴となろうと使い慣れていた堕ちた怪物達とは違う。逆に言えば、時間をかければ彼等と同等、或いはそれ以上の脅威となる。

 

「■■■■■、■■■■■■!!」

 

 狙いは柊の持つ剣。あれこそが自分を殺し得ると本能で理解しているのだろう。

 大地を穿つ月の光。女神の矢。

 光速のそれらを回避し、内1つを剣で弾く。

 

「!!?」

 

 神の矢が神の鎧と相殺する。

 

「疾ッ!」

 

 アンタレスの右足全てを切り裂き、バランスを崩したアンタレスの首を切り飛ばす。

 宙を舞うアンタレスの首が柊を睨み、目が輝く。次の瞬間腹を光が貫いた。

 

「!?」

 

 前兆の一切ない、攻撃転移。防御も回避も間に合わず、まともに受けた柊の真上に転移する再生したアンタレス。

 そのまま踏みつける。地面が砕け、大陸が揺れる。質量以上の衝撃。

 まともな生物なら原型すら残さぬ一撃に、勝利を確信した瞬間足が斬り飛ばされる。

 

「腹ぶち抜いて潰した程度じゃ、一度だって死にはしねぇよ。雲超える大きさになって出直せチビが」

 

 傷を癒やし、血を吐き捨てる柊。チラリと剣を見る。

 

「■■■■■■■■■!!」

 

 柊を囲むように現れる無数の魔法陣。放たれるのは魔法ではなく、神の御業。

 無数の矢を、柊は切り払う。

 

「■■■■■■■!!」

「あ?」

 

 と、アンタレスが振り返り口内に光を溜める。狙いは、アルテミス!

 即座に首を切り落とすも、飛ばされた首が向きを変え、溜めていたエネルギーが柊に向かって放たれる。

 

 

 

 

 

「ああ、クソ………強いな」

 

 制限なく神の力を使うだけなら、まだ対応できるが姑息にもアルテミス達を狙い、柊の行動を制限する。

 

「■■■■■■■■■ッ!!」

「オリオン!!」

「……は?」

 

 と、その声に振り返る。そこにはアルテミスが居た。何故居る!?

 

「オリオン、戻れ! 矢を………アンタレスにはそれがなくては!」

「………矢?」

 

 持ってきていない?

 いや、そうか。持ってこれなかったのだ、結界から出せないから。

 今のアルテミスは矢の近くに己を映す残留思念。一度己を消して、結界の外に映し出したのだろう。

 

「■■■■!!」

 

 と、アルテミスに反応するアンタレス。柊が舌打ちしてアルテミスに向かう矢を弾く。亀裂が走り、剣が砕ける。

 

「■■■■■■■■■ッ!!」

「オリオン、私は良い! ただの影だ、それより、このままでは貴方が………!」

「うるせぇ黙れ」

 

 アルテミスを抱えて其の場から飛び退く柊。

 

触れたものを砂に変える魔法(サザンルーザンズ)砂に飲ませる魔法(ルズーンザイザード)

 

 魔法の連続発動。地面が砂に変わり、アンタレスの体が底なし沼にハマったように沈んでいく。

 

「何でき──」

「何で貴方は一人で戦っているんだ!」

 

 と、アルテミスは自分を睨みつけてくる柊に掴みかかる。

 

「…………!」

「私を救うつもりなら、諦めてくれ。そんな事、不可能なんだ…………神の力は古のモンスターには通じない、人の力は神に通じない。これは絶対の『(ことわり)』だ………お願いだから、私を救おうなんてしないで。このままじゃ、貴方が……」

「知るか」

 

 柊は泣きつくアルテミスを剥がし、砕けた剣を構えた。

 

「もう、剣だって………」

 

 と、砂が爆ぜアンタレスが再び姿を現す。これまで以上に力を溜めて放とうとしている。剣を壊し、勝利を確信したのだろう。

 

「………()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「──────」

 

 放たれる大陸をも吹き飛ばす一撃は、しかし消え去る。

 

「■■■!? ■■■■!!」

「………何だ、それは」

 

 アルテミスも、アンタレスもそれを見て固まる。

 折れたはずの剣。その鞘から伸びた、この世に穴があいたかのような漆黒の刀身。

 

「聖剣………名を与えられることもなかった人々の願いの集合体にして、穢され歪み欲望を写した鏡となった剣だ。ただまあ、普段は鞘に封じられてんだが叩き起す為には神の力に晒し続けなきゃならねえ」

 

 鞘にしまっていた状態でも、神を殺すことはできる。この剣の本質はそこではない。

 

(ことわり)がどうこう言ったな、アルテミス」

「あ、ああ………アンタレスは、あの矢でなくては…………」

「■■■■■■■■■■■■ッ!!」

 

 恐怖か、或いは勝ちを確信したが故にまだ抗うことへの怒りか………アンタレスが叫ぶ。

 

「なら()()()()()()………久方ぶりの仕事だ、起きろ」

 

 刀身から黒い稲妻が放たれる。

 否、それは世界に走る亀裂。

 

「万理両断……」

 

 一閃。

 アンタレスの体を切り裂く。だが、その肉体は斬られていない。代わりに、確かに切り離された。

 

「返してもらうぞ、彼奴等に」

 

 一糸まとわぬアルテミスを腕に抱え、アンタレスの背後に立つ柊。

 

「???」

「 はじめましてか? 俺のことは解るか?」

「あ、ああ…………」

 

 忘れてくれても良かったのに、とアルテミスを結界の中に転移させる柊。

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

「行かせるかよ」

 

 と、アルテミスを目指すアンタレスを蹴り飛ばす柊。

 アルテミスを失っても取り込んだ精霊やまだ体に残った神の力(アルカナム)を迸らせるアンタレス。

 神と呼ぶには些か弱く、精霊と呼ぶには強すぎる。

 亜神とでも呼ぼうか。

 

「■■■■■■■■!!」

「神の力がそれほど恋しいか? なら、神の力で殺してやる」

 

 と、柊が呼び出すは羽を模した弓。滲み出る神の力にアンタレスが反応した。

 

「神格再現………大気をかき混ぜる風神(フレスヴィーグ)

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

「ぬあああ!? 今度は何やあ!? どこの馬鹿や!!」

 

 オラリオに夜風が吹き荒れる。

 世界中の大気が掻き回される。それは間違いなく、神の権能。

 

 バベルが軋む。神々の建築物でなければ既に倒壊していたことだろう。

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 それは鳥のような姿をしていた。

 それは人のような姿をしていた。

 黒と白の翼に、嘴をもした金属の仮面。鋭い爪が生えた両腕を構えると、世界から風が消えた。

 

「まだ夜のままか…………」

 

 何時の間にか現れた弓。番える矢は、渦巻く風。

 

「■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」

 

 残った神の力(アルカナム)も、精霊の力も全てここで使い切る覚悟で生み出される光の弓矢。

 本来の性能に数段は劣る、天界最強の矢の再現。

 

凍てつく夜風の弓(ナハトラステア)

 

 放たれる月光の矢と夜風の矢。

 拮抗はない。紛い物の処女神の矢は一瞬で削り砕かれ、アンタレスを突風が貫く。

 

 大地が白く染まり、空気中の水分が凍りつきキラキラと月光に照らされ輝く。

 腹に大穴を開け白く凍りついたアンタレスの体が崩れた。

 

 柊は魔石の欠片を手にし、体から暁の弓を剥がす。

 

「…………夜が明けたか」

 

 陽の光のぬくもりを感じた柊は少しふらつきながら野営の場所に戻った。

 

 

 

 

「終わったぞ」

「…………ああ、アンタレスを倒したのだな」

 

 大きな揺れで目が覚めたら柊は居ないし外には出られないし、アルテミスが飛び出したと思ったら素っ裸で戻ってくるしでてんやわんやしていた【アルテミス・ファミリア】。

 柊が戻ってそう伝えると眷属の服を借りたアルテミスが困惑しながらも返す。

 

「え!? じゃあ、アルテミス様は!」

「………抜け出せた」

 

 本来ならあり得ぬことだが、と呟くアルテミス。

 

「あれは何だ? 君は、カオスの落し子か?」

「カオス?」

「神々の理すら超えた未知………多くは、時間軸、世界軸を超えるのが殆どだが…………」

「多分違うな」

 

 世界軸、恐らく平行世界だろうが起源そのものが異なる世界から来ている。

 

「………そうか。いや、深くは聞くまい………だが、良かったのだろうか?」

「ああ?」

「結果的に下界は救われた。だが、私が下界を危機に晒した事に変わりはない」

 

 だから、裁かれるべきではないのか、そう言いたげなアルテミスに、柊は舌打ちする。

 

「下界のルールなんざ知るか。そもそも、お前が天界に還ったところでモンスターの脅威からオラリオ、下界を守るファミリアが一つ消えるだけ」

 

 それに、アルテミス達の装備や性格を見る限りほぼほぼ無償に近い形で行っていたのだろう。下界を守りたいのは私の意志だ、とでも言って。

 

「未払いの報酬を払わせたとでも思っとけ。どうせ何時か、守られるのが当たり前と思い感謝すら忘れる」

「そんなことはないよ………私は、少なくともそう信じてる」

「そうかよ、俺には無理だな」

「…………レトゥーサが言っていたが………柊は、私を気遣っているのか?」

 

 柊はレトゥーサに顔を向ける、レトゥーサは無言で視線を逸した。

 

「…………んな訳………いや、そうだな。そういうことにしておくか………だから、俺に恩を感じているなら残れ」

「…………ああ、解った。残るよ……今度改めて、お礼を言いに行く。ヘスティアにもよろしく言っておいてくれ」

「ああ………クルル」

 

 と、柊がクルルを呼びアンタレスの魔石を喰わせる。

 古代の力あるモンスターの魔石………クルルが感じた全能感は、きっと今までの強化種達の中でも味わったものは居ないだろう。

 何でもできる気がする。誰にでも勝てる気がする。だからこそ、調教師(テイマー)は不用意に魔石をやったりしない。

 

 感じたことがないほどの力が体を満たすクルルは……口を開け柊に噛み付く。そのままベロベロ舐める。

 

「…………なんも変わらねえな」

「いやいや、毛の色とか真っ黒に変わってますよ!?」

「ああ、毛の艶が良くなってるな」

「その程度!?」

 

 柊に撫でられ気持ちよさそうに目を細め身を擦り寄せるクルル。傷は、もう治ったようだ。

 

「行くぞクルル………じゃあな、【アルテミス・ファミリア】」

 

 返事を聞く前にクルルが飛び出す。早く飛びたくて仕方がなかったようだ。

 

「クゥ………」

「? ああ、俺に景色を見ろってか? いいさ、行きにたっぷり見た。全力で飛んで良いぞ」

「クオオオ!」

 

 その言葉にクルルは嬉しそうに吠え、空に黒い流星が突き抜けた。

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

「おかえり柊君! 見てくれ、リヴィラで買った本だ。地上じゃもう買えないんだって!!」

 

 と、ヘスティアが本を抱えて駆け寄ってきた。

 

「柊君は英雄譚が好きなんだろ? 武器とかダンジョンの花とかお酒とかは、自分のお金で買えちゃうけどこういう掘り出し物は君でも手にしにくいと思ってね!」

 

 ふふん、と誇らしげに胸を張るヘスティア。柊は本を撫でタイトルを確認する。

 

「………騙されてるぞヘスティア」

「へ?」

「新しいのが売ってないだけで、古本屋で普通に買える」

「ば、馬鹿な!?」

 

 まあ絶版しているというのは嘘ではない。だから騙されたのだろう。

 

「うぐぐ、せっかく読み聞かせようと思ったのに」

「読み聞かせる?」

冒険者依頼(クエスト)帰りで疲れているだろうからね、僕が寝付くまで読んであげようと思ったのさ」

「そうか、じゃあ頼む」

「…………へ? ひ、柊君がデレた!?」

 

 と、大袈裟に驚くヘスティア。だが直ぐに驚愕より喜びが勝ったのか任せてくれと叫んだ。

 

「よし膝に乗せてくれ! 一緒に読もうじゃな…………」

 

 ヘスティアは、不意に固まる。

 ジッと柊の目を見つめた。

 

「………ねぇ、変な事を聞くけど……………その目、見えてる?」

()()()………()()()()()()()()

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