帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか?   作:匿名希望

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酒場の娘

「おかえりなさい柊さん!」

 

 夕方になり、ベルがダンジョンから戻ってきた。

 ヴェルフやリリとも一緒だ。

 

「……………」

「何だ?」

 

 と、ヴェルフが何か言いたげに柊を見ていた。

 

「…………すいませんでした」

「………ああ?」

「あんたの言う通り、俺が意地を優先したからベル達を危険に晒した………魔剣は嫌いだ、血に頼りたくもねぇ。それでも、もう仲間より意地を優先しない」

「……………そうか」

 

 もう少し早く気付いてほしかったものだな、とは口にしない。全員五体満足で帰ってきて反省する機会もあった、一先ずそれで十分だろう。

 

「…………あの、柊さん。良かったら、一緒に食事しませんか?」

「悪いが食事は別の約束がある」

 

 残念そうな顔を伏せるベル。柊は一瞬だけ手を上げ、やはり止め踵を返した。

 

 

 

 

「ベルとヘスティアが世話になったな」

「いえ、クラネルさんはシルの将来の伴侶だ、助けに行くのは当然です」

 

 豊穣の女主人。ベルの救助に向かい、ヘスティアの護衛もしてくれたというリュー。礼として食事を奢った。何故かシルも居る。

 

「しかし来てそうそう買い物を頼まれるとは」

「てへ☆」

 

 メレンで魚を買ってくるようメモを渡され、仕方なく向かいなんか喧嘩売ってきた女達を適当にぶちのめした。

 オラリオと違い冒険者の街ではない。オラリオより死が遠いだろう住民達に気を使い海まで吹き飛ばした。

 

 戦意はあっても敵意も悪意も殺意すら無い戦闘狂達。殺意はないから殺してないが、時間があれば二度と戦おうなんて思えぬよう痛めつけられたものを。

 

「厄介事に巻き込まれたようで……シルがご迷惑を…………」

「ええ、巻き込まれたのは私のせいじゃないよ!」

 

 もう、とむくれるシル。

 

「具体的には何があったのですか?」

「女しか居なかったし異国の言葉話してたし、多分アマゾネスの集団に襲われた」

 

 メモを魚の店主に見せ、魚がある店を聞いていると隣で女が魚を勝手に取り食おうとしていたから止めたら殴りかかってきたので、海まで殴り飛ばした。

 

「多分?」

 

 褐色全員がアマゾネスとは言わないが、襲ってきた女全員が褐色なら取り敢えずアマゾネスと思っても問題ないと思うが、とリューは首を傾げた。

 

「ふふ。でも柊さんが買ってきてくれた魚のお陰でミア母さんの新メニューが出来ます。お礼に、ただで良いそうですよ」

「だ、そうです。魚に好き嫌いはありますか?」

「いや、何でも食える」

「ふふふ、新メニューがあるなんて意外でしょう? ちょっとしたサプライズです。驚きました?」

「作るのミアだろ」

 

 と、柊の返しにシルはクスリと微笑む。

 

「店の外の立て看板に書いてますよ? 見てなかったんですね」

「シル?」

 

 シルの変化にリューが首を傾げ、柊は内心舌打ちする。

 

「ねえ柊さん、貴方目が見えてませんよね?」

「…………ヘスティアといい、()()()はよく気付く」

「…………え」

 

 と、リューが固まる。

 

「メニューを見るふりだけして、頼んでいるのは知ってる料理だけでしたからね。それに、何時もより音に敏感でしたよ」

 

 今のところヘスティア以外にはバレず、他に知っているのはウラノスとフェルズぐらいだったのだが………いや、恐らくタケミカヅチ辺りは気付いているな。

 ヘルメスもヘスティアの発言から察しているだろうが………。

 

「ただの街娘にしては勘が良すぎる」

「知らないんですか? 酒場の娘は、人を良く見てるんです」

「そういうことにしておこう………」

 

 肩を竦める柊。リューはまだ話についていけずオロオロしていた。

 

「目が見えないとは………だ、大丈夫なのですか? 【戦場の聖女(デア・セイント)】に診てもらったほうが………」

「診断結果が無理だと………」

 

 悔しそうな声だった。立体物である以上表情も感じ取れていたが、本当に悔しそうだったな。

 見ず知らずの他人の視覚だろうに、世話焼きなことだ。暗黒期によく生き残れたものだ。

 いや、彼女もまた譲れぬ信念があるのだろう。

 

「それに目が見えないだけなら別段不便はねえ。精々遠くの景色と本が見えないだけだ」

「あ、じゃあ読み聞かせてあげましょうか? リューが!」

「!?」

 

 私、と驚いた顔で振り返るリュー。

 

「そうか、頼む」

「!?」

 

 と、料理が運ばれてきた。魚料理なので運んできたアーニャがダラダラよだれを垂らしている。

 ミアにこれ以上は娘を貸せないよ、と言われているので仕事に戻ってもらった。

 

「その、柊さん………視力を戻す手立てはないのですか?」

「人には無理だな」

「え〜、じゃあ神様とか精霊とかなら、出来たりします?」

 

 シルが銀色の双眸でジッと柊を見つめる。隠し事はさせないつもりなのだろう。柊は舌打ちして酒を飲む。

 

「神なら出来るだろうな。方法は教えねえけど」

「私の知り合いの神様紹介しましょうか?」

「どうせ方法聞けば無理だと返す」

 

 他人の子供のために目を失える神など柊の知る限りヘスティアとヘファイストスとアルテミスとミアハとタケミカヅチとデメテルと、条件付きでウラノスぐらいだ。

 

「う〜ん、じゃあ……私に出来ることがあったら言ってくださいね? もしまた迷惑をかけた時のために、今のうちに貸しを作っておきます!」

「また? シル、柊さんになにか迷惑を………?」

「え、あ………あははは、そんなことないよ〜?」

「…………良く解りませんが、シルがご迷惑を」

 

 と、頭を下げるリュー。シルの保護者か何かだろうか?

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