帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか?   作:匿名希望

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アポロン

「神の宴?」

 

 定期的に開かれる神の宴。

 今回は、珍しいことに自慢の眷属を連れて参加してくれとのこと。

 

「そして、僕のところは眷属を二人連れてきて良いってさ」

 

 理由としては、たった2人の眷属。差を作りたくはないだろう、とのこと。

 

「そこはその通りなんだけどねぇ」

「俺は無所属(フリー)のはずだが……」

 

 普通に考えてヘスティアはベルだけを連れていけば良い。

 

「アポロンはまあ……同郷だからね、僕が柊君を連れていきたいのを気付くだろうし…………色々問題はあるけど子供思いではあるんだ。問題はあるけど………」

 

 その問題の部分がよっぽど受け入れがたいのかうぬぬ、と唸るヘスティア。しかし、アポロンといえばベルが問題を起こしたファミリアではなかったか?

 ヘスティアを侮辱したらしい。

 何故手足をへし折っておかなかったのか。

 

「う〜ん。まあ良いか、僕の自慢の子供達を皆にも自慢できると思えば!」

「そう単純でいいのか?」

「良いのさ。何かあっても僕が守る!」

「俺の方が強いのに?」

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 神の宴当日。

 商人から借りた馬車を降り、緊張しながら手を差し出すベル。ベルの手を取り嬉しそうに降りるヘスティア。

 

「うんうん、流石ベル君。きちんとエスコート出来てるじゃないか!」

「で、ですかね?」

「いちいち緊張するな、ベル」

 

 ただでさえ服に着られているのに、余計に子供っぽく見られるぞ、と柊。

 柊の手を取り褐色肌の美女が降り、もう一人ヘファイストスもエスコートする。

 

「ありがとう柊。随分手慣れているのね」

「言葉通り、慣れているからな」

「わはは、ヴェルキチが見れば嫉妬の一つでもしそうだな」

 

 褐色肌の女の名は椿・コルブランド。【ヘファイストス・ファミリア】の団長だ。

 皆で行こうとヘスティアがミアハ達を誘ったので、柊がヘファイストス達を誘ったのだ。ヘスティアは嬉しそうだった。

 

「うむ、では手前は良さそうな冒険者や商人を探してくる。柊程の上客がいれば良いのだが………」

 

 と、椿はさっさと行ってしまった。ヘファイストスははぁ、とため息を吐く。ああいう女なのだ。

 そして、ヘファイストス達はタケミカヅチや命、ヘルメスやアスフィとも合流した。命とタケミカヅチは結局桜花が謝らず申し訳ないとまた頭を下げていた。

 気絶させたのは自分だから良いと断る。

 

「あ、そうだ柊さん。こちらを………」

 

 と、アスフィが差し出したのは2つの片眼鏡(モノクル)。ヘスティアはまさか、と何処か嬉しそうな顔をする。

 

「…………【戦場の聖女(デアセイント)】に聞いたところ……問題はそう簡単ではないようです」

 

 ベル達に聞こえぬようこっそり耳打ちするアスフィ。

 

「彼女曰く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのような状態………神経や脳に異常はなく、ただ見ることが出来ないと。移植も無意味、とのことなので間に合せですが……………」

 

 視覚がないなら、間借りすれば良い。

 これは片割れの片眼鏡をつけたものが見える景色をもう一つの片眼鏡をつけた者と共有する。自分の視点ではないが、取り敢えず見ることはできる筈………らしい。

 

「…………ぼんやりと色なら」

 

 が、その程度。しかも範囲は1メートル。

 他人から借りるという発想は良かったのだが、それだけで失ったものを戻せたりは出来ない。

 それこそ共有ではなく片方が失明状態になるなら、もう少しだけ見えただろう。

 

「そう、ですか…………」

 

 失敗ですか、と落ち込むアスフィ。と、不意に周りが騒がしくなる。

 騒がしくなる、というのも少し違うかもしれない。何せすぐ静かになる。老若男女問わず、()()に見惚れて。

 

「あら、貴方達仲が良いのね」

 

 美の女神フレイヤ。

 美の概念の具現化にして、オラリオ最強の冒険者であるLv.7の【猛者(おうじゃ)】オッタルを引き連れ現れた。

 

「…………久しいな」

「………………………お前………誰だ?」

 

 柊を見据え声をかけてきたオッタルに、柊は訝しみ首を傾げた。フレイヤはふふっ、と吹き出し口を押さえ肩を震わせる。

 

「え、知り合いなんですか?」

「知ってはいるがあった覚えはない」

「っ………ふ、ふふ。柊、以前貴方がダンジョンの壁に埋めた冒険者よ、オッタルは……」

「「「え?」」」

 

 都市最強を? と固まる一同。柊は少し考え、ああと思い出す。

 

「お前がオッタルか」

「…………ああ」

「そうか、久し振りだな」

 

 と、どうでも良さそうに返す柊。歯牙にもかけられないその態度に、オッタルは幼い頃自分達の上に立っていた最強達を思い出す。

 

「柊君! 何してるんだい君は! ごめんよ【猛者(おうじゃ)】君!」

「いえ………」

「怒っちゃ駄目よヘスティア。言ったでしょう? 借りがあると………迷惑をかけちゃったのは、こっちなの」

 

 だから怒らないであげて? と困った顔で頼み込む。

 強いて例えるなら、泥だらけで帰ってきた子供を叱る親に落し物を探してくれたからと説明し宥める近所のお姉さん、とヘルメスが訳の解らない事を語る。

 

「お詫びと言ってはなんだけど、その目でも問題なさそうだけど、私が手を引いてあげましょうか?」

 

 と、柊の頬に手を添えるフレイヤ。声が、触れ合う感触が、匂いが、姿が見えずともあらゆる要素が人々を………否、神すら魅了する美の女神の戯れに………

 

 柊は手を取り指先に触れる程度の口付けをする。

 

「光栄です女神よ。しかし私達は新米にして吹けば飛ぶような矮小の身。神々の嫉妬が恐ろしい、どうか今夜はこれでご容赦を」

「あらお上手……フフ。なら、仕方ないわね…………」

 

 ヘルメスは思った。え、誰? この女神。と………。

 フレイヤの誘いをあっさり断る柊は、成る程、かの『ろうじん』から聞いていたように完成した英雄の器。意外だったがまだ良しとしよう。

 だけどフレイヤの浮かべた笑みが………なんというか、眷属に向ける笑みや気に入った子供達に向ける者とも何処か異なる………こう、優しい上から目線というかマジで近所のお姉さん、あるいは母親とか………。

 

 親愛も愛の形なれど、母性はフレイヤの領分ではない筈。

 そんなヘルメスの疑問は晴らされることなく柊は食事と酒の置かれたテーブルに向かった。普通、美の女神の体に口づけすれば大概の存在は暫く何も口にしない………酷ければ飢え死にすら選ぶだろうに、柊はそんな事無いようだ。

 

「ヘスティア………本当に変わった子を眷属にしたのね」

 

 とヘファイストス。タケミカヅチやミアハもウンウンと頷いていた。

 ベルは大人だ、とキラキラした目を柊の背に向ける。

 

 

 

 

「あら、柊ちゃん」

「んぐ?」

 

 肉を食ってる柊に話しかけてくる声。デメテルとペルセフォネだ。柊の皿に載っているのが肉や果物だけなのを見ると困ったように微笑む。

 

「駄目よ柊ちゃん、お野菜もちゃんと取らなきゃ」

「問題無い、ちゃんと喰った」

「お肉に少しだけ添えられているだけでしょ? バランス良く食べなきゃ駄目よ。ペルセフォネ」

「はいデメテル様!」

 

 と、ペルセフォネが野菜の入った皿を持ってくる。仕方なく食べる柊。

 

「最近、変わったことは?」

「あんな事件の後だもの、今はガネーシャが眷属を回してくれてる。今のところ、問題はないわ」

「そうか」

 

 なら良い、と食事を再開する柊。そんな柊に、ペルセフォネが話しかける。

 

「柊さん、これはうちの畑で取れた野菜なんですよ。見てください、色もきれいでしょう?」

「ああ…………あ」

 

 と、反射的に呟いた言葉に口を押さえる柊。ペルセフォネが首を傾げ、デメテルは訝しむ。

 

「………柊ちゃん、この野菜は……何色?」

「デメテル様………?」

 

 視力を失ったように見せない演技が裏目に出た。ペルセフォネは気付いてないが、嘘が通じぬ神には違和感を覚えられた。

 

「………貴方、もしかして…………」

 

 と、デメテルが問いかけようとすると女の叫び声が2つ聞こえた。

 赤髪の女神とヘスティアだ。アイズとベルが踊っている姿に二人して叫んでいる。

 

「何をしてるんだ彼奴等は。悪いなデメテル、また今度………」

 

 柊はこれ幸いとその場から離れた。

 

「ほら落ち着けヘスティア、眷属の自由意志を尊重しない神に未来はないぞ」

「うう、解ったよ………ぼ・く・は! ロキと違って眷属思いだからねぇ、くそう!」

「なんやとぉ!」

 

 そう言われてしまえばロキもアイズを止めることが出来ない。ヘスティアなりの援護………いや、素だなこれは。

 

「やあ諸君、楽しんでいるかな?」

 

 と、不意に会場に響く声。宴の挨拶をしていたアポロンだ。左右には眷属の少女達。

 片方が柊を観た瞬間ピッ、と鳴き声を上げ目をそらした。

 

 アポロンはベルへと近付いて行き、アポロンの悪癖を知るヘスティアが庇うように前に出た。

 

「やあヘスティア、私の眷属が君の眷属に随分酷い目にあわされたようだね」

「!? どういう意味だい! ベル君だって怪我をして帰ってきたんだ、そんな一方的な話が………」

「これを見てもそんな事が言えるかな?」

 

 と、アポロンが指した方向には包帯だらけの小人族(パルゥム)

 

「いてぇ〜よ、ちょういてぇよ〜!」

「べ、ベル君本当に……こんな?」

「何やってんだ、痛めつけるなら後腐れがないよう証言ができないぐらい痛めつけておけ」

「してませんし、しませんよ!?」

 

 ヘスティアの視線と柊の言葉に突っ込むベル。アポロンは構わず話を続ける。

 

「ほう、しらばっくれると? 先に仕掛けたのはそちらだと聞いている。証人もいる、言い逃れは出来ない」

 

 と、そんな様子をニヤニヤ笑いながら見つめる数人の神。なるほど、嵌められたらしい。

 

「冗談じゃない! こんな茶番付き合っていられるか、行くぞベル君! 柊君!」

 

 ヘスティアは二人の手を掴みさっさと帰ろうとするが、面白がった神々が前に立ちふさがる。

 

「どうあっても罪を認めないつもりか、ヘスティア? くっふ、ならば仕方ない! 【アポロン・ファミリア】は、君に戦争遊戯(ウォーゲーム)を申し込む!!」

「おおおお!」

「まじか、アポロン容赦ね~!」

「そこにシビれるあこがれるゥ!!」

「ふぅ〜!」

 

 と、アポロンの宣言に大盛りあがりな神々。

 

「我々が勝ったら、ベル・クラネルをもらおう! でゅふふふ!」

 

 柊は目が見えず、形を感じ取る事しかできないがそれでもその声からきっと気持ち悪い目をしているに違いない。

 

「付き合ってられるか!」

「おや、受けないつもりか? 後悔するぞ、ヘスティア」

「するもんか! 行くぞ、ベル君、柊君!」

 

 ヘスティアはベル達の手を引きその場から立ち去った。

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 柊が歓楽街に向かった翌日、ベルはヘスティアに何時もより気をつけるよう言われホームから出ようとしたら、【アポロン・ファミリア】に襲われた。

 襲ってきたダフネ曰く、これがアポロンのやり方。国を変えようとどれだけ逃げても手に入れるために追い続ける。執念深い神、それがアポロン。

 ベルがヘスティアの手をひき逃げるが、徐々に追い詰められていく。

 

「【ファイアボルト】!!」

 

 ベルが放った魔法がアポロンの眷属の一人の足を焼く。倒れたアポロンの眷属は忌々しげにベルを睨み剣を投げ………

 

 キンッと金属音が響いて剣を投げたアポロンの眷属の首が飛ぶ。遥か後方の石造りの壁にアポロンの眷属が投げた剣が深々と刺さる。

 

「行動が早いな」

「ひ、柊さん!? え、今………こ、殺………」

「よくも、貴様!!」

 

 と、アポロンの眷属達が激昂し魔剣や魔法を放ち………柊が取り出したのは漆黒の剣。

 

殺戮する剣(ジャガンナート)

 

 柊の魔力を吸い込み紫紺に輝く刀身。魔法に触れた瞬間、魔法が何倍にも膨れ上がり打ち返された。

 

「え……ひぎゃ──」

「ま!」

「ぎゃああ!!」

 

 炎に飲まれ悲鳴すら焼かれるアポロンの眷属。柊は背後から奇襲を仕掛けたアポロンの眷属達に剣を振るう。

 盾を持った大柄な眷属が押し潰し、後ろから槍で攻撃する訓練された布陣を………盾もろとも切り裂いた。

 

「いい剣だ、流石椿………良い仕事をする」

 

 死体が落ちる。その光景に顔を青くするベルと逃げ遅れた一般市民。

 

「ベル、ヘスティア、無事か?」

 

 パチャリパチャリと血溜まりを踏み近付いてくる柊にベルは思わず逃げそうになり、悲鳴を飲み込む。

 

「だ……ぃ、大丈夫です………でも、あの…………」

「柊君、僕達は大丈夫。でも、殺しは駄目だ」

「向こうは殺す気なのにか?」

「それでも、だよ………事情を知らない子達が、無責任に君に石を投げる。僕達のために、君がそんな目に遭うのは嫌なんだ」

「…………解った」

 

 と、柊が嘆息し剣をしまう。続いて取り出したのは鎖で繋がった2つの黒い三日月刀(シミター)

 

命喰らう魔蠍(アンタレス)

 

 鎖に絡みつかれたアポロンの眷属達が魔力や体力を吸われ気絶する。柊は鎖を振るい道端に積み上げ、後続に舌打ちする。

 

「は、え? し、死んで………」

「だから言ったのに! だから言ったのに〜!」

 

 仲間の死体に困惑するダフネ。涙目になって蹲るカサンドラ。

 

「………?」

「どうしたんだい、柊君?」

「……………いや」

 

 気配のしない視線を感じた。いや、これは………過去から見られている? 予知の類………あの蹲ってる女か。

 未来を予知できるのに止められないとは………信じてもらえないのか?

 

「まあ良い」

 

 ピュイ、と柊が指を咥え音を鳴らす。アポロンの眷属達の一部が仲間の死体に顔色を変え襲いかかってきた。

 

「殺すなよ」

 

 そんな彼等を黒い流星が吹き飛ばす。それは、黒いドラゴンだった。

 

「グルルル……………グギャアアアアアア!!」

「な、は!? モ、モンスター!? 調教師(テイマー)!? な、何がどうなってんのよ!!」

 

 次から次へと起こる予想外の自体に混乱するダフネ。彼女が指揮を取っていたのだろう、混乱が伝播する。

 

「クルル、ヘスティアを乗せて飛べ。神は神どうしで話し合いさせる。邪魔してくる奴が居たら殺さない程度に壊して良い」

「クォ!」

 

 柊の命令に肯定するように吠えるクルル。と、クルルに大量の魔法が当たる。

 

「汚らわしいモンスターが、我が物顔で地上を闊歩しおって!」

「薄汚いダンジョンに還るがいい!」

 

 潔癖のエルフ共。その顔に怒りや嫌悪を宿している。

 魔法に優れた種族で、上級冒険者の魔法。それを食らったモンスターは、中層でも大ダメージを負うだろう。が………

 

「キュゥゥ………」

 

 水でもかけられたかのようにプルプル顔を振るうクルル。少しも効いていない。

 追撃をしようとしたエルフ達の杖を、腕ごと切り裂く柊。

 

「いけ、クルル!」

「クォ!」

「え、わあ!?」

 

 クルルはヘスティアを咥え器用に背中に乗せると空へと飛び立った。

 

「良しベル………殺さない程度に痛めつけるぞ」

「え、いや………あの…………」

「言い方が悪かったか? ヘスティアがアポロンのアホを止めるまで、時間を稼げ」

「っ! はい!」

 

 

 


 

 

ジャガンナート

ジャガーノートの爪から作られた武器。鋭い切れ味に加え、柊の魔力を吸い相手の魔法攻撃を倍加して跳ね返す特性を持つ特殊武器。

 

 

 

アンタレス

アンタレスの鋏から作られた武器。生命力、魔力を吸収し使用者に還元する力がある。

 

 

クルル

かわいい

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