帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか?   作:匿名希望

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女神の怒り

 不殺が面倒、というのは実力が近い場合だと思われる。手加減する余裕がないから、うまく出来ないのだと。

 なので柊はベルを観察しながら【アポロン・ファミリア】を相手できる余裕がある。

 元々は痛めつけるだけの命令。しかし仲間を殺され激昂したアポロンの眷属は本気で殺す気でかかってくる。

 その上で、全員殺さぬよう手加減している。

 ベルは必死に相手する。と………

 

「やってくれたな、【リトル・ルーキー】………!」

「っ! ヒュアキントスさん」

 

 柊は煙管をふかしヒュアキントス達を見る。

 あれが【アポロン・ファミリア】の団長。Lv.3だが………ランクアップ間近というところか。

 

「ベル!」

「ベル様!」

 

 と、ヴェルフとリリがやってくる。柊は自分に向かってくる【アポロン・ファミリア】の眷属達を命喰らう魔蠍(アンタレス)で縛り体力と魔力を吸い上げる。

 

「数が増えてきやがった………ベル、急げ!」

「…………ん?」

 

 と、ベル達が走っていく。向かったのは、ギルド。保護を求める気だろう。と、柊は飛んできた矢を掴み放った弓兵の足に向かって投げる。

 

「…………【ソーマ・ファミリア】?」

 

 【アポロン・ファミリア】ではない。

 【ソーマ・ファミリア】………リリのファミリア。とうとう絡んできたか。

 

「…………………」

 

 言い分としては誘拐された団員の奪還………とでも言うつもりだろう。

 

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 

「………?」

 

 空からオラリオを観察していたヘスティアは、違和感に気付く。

 【アポロン・ファミリア】の数名が何処か別のファミリアの眷属に邪魔をされている。

 

「………クルル君」

「キュゥ?」

「行き先変更。ギルドじゃない………」

 

 ウラノスに相談しようと思ったが、やめだ。これはそれでは収まらない。収められない…………もう、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

「貴様等、何のつもりだ!!」

 

 アポロンは本拠(ホーム)の前に陣取った神々に向かい叫ぶ。ベル・クラネルを手に入れるため手回しし、味方につけた神々。それが今、アポロンの邪魔をしている。

 

「怒るなよ〜、アポロ〜ン」

「だってお前がやめるなんて言うからさ!」

「ふざけるな! 中止に決まっているだろう! 先の一瞬で、どれだけ私の眷属(こども)が死んだと思っている!!」

 

 Lv.2一人のファミリア。所属こそしていないが義理から手を貸すLv.1の眷属が居ることは調べた。

 それが殺意を向けぬ限りは殺さない事も。だから手を出すなと命じた。しかしLv.1という事実が、眷属達の目を曇らせてしまったのだろう。

 

「ベルきゅん一人を手に入れるために、私の眷属が一人でも殺されるなどあってたまるか!」

 

 アポロンは眷属を愛している。新しい子を迎えたがろうと、その愛に偽りはない。執着し、追い求め、追い詰め、苦しめても、それは彼の愛ゆえに。下界に死を振りまきゲラゲラ笑う邪神どもとは違う。

 

 事実無理矢理眷属にされたダフネも不自由ない暮らしを与えたことには感謝している。

 イエスストーキング! ノータッチ! を弁えた(変態)紳士だ。

 

「今すぐ止めなくては………! そこをどけ! 作戦中止だ!」

「駄目だってアポロン! こんなに面白いことはそうそうねえぞ!?」

「そうだそうだー! 無双ゲーかな? 集団リンチかな? 賭けようぜ〜!」

「いえ〜い!!」

 

 アポロンは下界の子供たちを愛している。特に小さい子は良い、将来が楽しみだ! 成長しきった子も何時かかわいい子を生んでくれるぞでゅふふふふ!

 それこそがアポロン。運命の相手と定めた相手に出会わなければ意外と真っ当な神なのだ。

 

 が、この下界にいる神々は大半がそれに当てはまらない。皆暇つぶしのためなら子供が死のうが気にしない。どうせほっといても増えるし死んだ子達だってその内転生する。

 

 だから、今を楽しもうぜ!

 そうゲラゲラと笑う神々は、ふと影が差したのに気付く。

 

「……………は?」

 

 巨大な黒い影。下界で見ない、とは言わないが少なくとも街中で見るはずのないそのシルエット。

 ドズゥンと中庭に着地する。

 

「モ、モンスターだぁ!?」

「ド、ドラゴン!? 黒いぞ!」

「落ち着け! 小さい、隻眼でもない!!」

 

 混乱する神々やその眷属達。主を守るべく眷属達が構えた瞬間、ドラゴンが大きく口を開き何かを吸い込む。

 

「…………ぁ?」

「ぐ、ぁ………」

 

 ガクリと倒れる冒険者達。精神疲労(マインドダウン)にも似た感覚に、体力が尽きるまで走りきったかのような疲労感。

 ドラゴンはクルルと喉鳴らす。

 

「クルル君、こんな事も出来たんだね」

「キュウン」

 

 背中から降りてきた小柄な女神が首元を撫でてやると気持ち良さそうに目を細めるドラゴン。

 降りてきた女神………ヘスティアはアポロンと神々を見据える。

 

「…………ヘスティア」

「アポロン………言っておくが、僕は謝らないぜ。襲ってきたのは君達だ」

「ああ………ああ、わかっている。解っているんだ! 私の負けでいい、負けだ! ベルきゅんは諦める!」

「……………無理だろ、それ」

 

 と、ヘスティアが他の神々に視線を向ける。神々はあちゃ〜、ロリ神様怒ってる〜、と笑い合う。

 

「同情はしてあげる。そのうえで、言ってやる。ザマァみろってやつだ………他人に迷惑をかけるために、神々に頼るからこうなるんだ」

「そうそう、良いこと言うね!」

「ようしヘスティア! 俺はお前にかけるぞ!」

「私も! だからアポロン、今更なしなんて、今更なしだぜ!」

 

 協力してやったんだから、最後まで面白いものを見せろと笑う。彼等には今この瞬間アポロンの眷属が生きているのか殺されているのかも解らないのに、無責任に囃し立てる。

 

「黙れ」

「────!!」

 

 ヘスティアに褒められたことが嬉しかったのかもっと褒めろとばかりに擦り寄っていたクルルがバッと飛び退く。

 ニヤニヤ笑っていた神々も固まる。

 

「良いだろう、君達の思惑通り戦争遊戯(ウォーゲーム)、受けようじゃないか。ただし………不滅の炎を司るヘスティアが命じる。君達も参加しなさい」

「え、は………お、俺達も!?」

「私達関係ないじゃーん!」

「関係ないわけ無いだろ」

 

 アポロンだけなら、とっくに終わっていた。

 ヘスティアが柊を止めて直ぐにでも眷属へ撤退命令が出ていただろう。それを止めたのが、この神々の眷属達。

 

「僕等が勝てば、君達全員に罰則(ペナルティ)を科す………」

「お、俺達が受ける意味なんて………」

「受けないなんて選択肢は君達にはない」

 

 と、クルルがヘスティアの隣に戻ってきて神々を睨みながら唸る。

 

「…………君、頭がとってもいいね」

「キュウン」

 

 ヘスティアが感心したように頭を撫でてやる。

 

「それで?」

「……………う、受ける」

「私も……」

「俺も! この際楽しんでやるぜ!!」

「だ、そうだよ?」

 

 と、ヘスティアが茂みを睨むとガサッと震え、恐る恐る神々が現れる。

 

「…………ロキ。丁度いい、君は最強派閥の主神だからね。宣言を頼む」

「ア、ハイ……………戦争遊戯(ウォーゲーム)成立! ギルドに連絡回せ!!」

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)は10日後。大分伸びた………その条件としてヘスティアは『柊の行動範囲制限』を飲んだ。

 ベルは、秘密の特訓。

 【アポロン・ファミリア】対【ファミリア同盟】対【ヘスティア・ファミリア】………柊は【ヘスティア・ファミリア】所属じゃないという文句もあったが柊が「じゃあ所属する」という一言で解決。

 とは言え、行動に制限がかかるのは確かだ。

 

 三つ巴の戦い、何処が勝つかと賭け事を始めるオラリオ。

 

 【ヘスティア・ファミリア】はまず無理だろ、と誰もが言う。負けの確定したファミリア………そんなファミリアに訪れる、3つの影。

 

 

 

 

「………本気かい?」

「はい、この程度であの時の借りが返せるとは思いませんが、少しでも助力になればと」

「ダチが危ない目にあってんすよ、力になりたいのは当然です」

 

 【タケミカヅチ・ファミリア】所属、ヤマト・命。

 【ヘファイストス・ファミリア】所属、ヴェルフ・クロッゾが【ヘスティア・ファミリア】への改宗(コンバート)を申し出る。

 

「私は、オラリオ外部のファミリアから一人だけ呼んでも良い事になったとヘルメス様から………」

 

 最後の一人はリュー。あくまで、助っ人。

 リューはキョロキョロと周囲を見回す。

 

「あの、柊さんは?」

「………………拘留されてる」

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 罪状は殺人とモンスター脱走の手引………が、そもそも仕掛けたのが【アポロン・ファミリア】で、クルルも檻をぶっ壊して外に飛び出す際柊がその場にいなかったのは実証済み。

 不安に思う市民への配慮だ。3日後には出られる。

 

「というわけでごめんよ、君だけ制限がかかる」

「まあ、ベル達が勝てばいいだけの話だろ」

 

 ガネーシャに買ってこさせた点字の本を読みながらそう返す柊。ちなみにリリが姿を晦ませたことについては言ってない。多分そうか、だけですませるだろうが。

 

「ところで向こうは負けたら何でも言うことを聞くそうだけど…………その」

 

 と、ヘスティアは恐る恐るといった風に問い掛ける。

 

「神の目は、君の視力の代わりになるのかい?」

「……………何時知った?」

「だって君、神ならなんとか出来るって言葉否定しなかったろ?」

 

 ヘスティアがダンジョンに潜り、その原因について話させられたりして有耶無耶になった会話。神に嘘はつけないから、あの時柊は誤魔化していたのだろう。

 

 とは言え確証があったわけではない。

 だから、カマをかけた。そして、反応からしてやはり神の目なら深い縁がなくとも代わりになるようだ。

 

 正直どうかと自分でも思うが、それでもヘスティアは柊に視力を取り戻してほしかった。

 

「…………この目は仲間からもらった」

「………………………」

「視力を失ってまで視力を戻したんだ。どうせ、気にするなと言うんだろうが…………そいつ等の目を代わりにしたくはない」

「…………解った」

 

 安心したような、残念そうな笑みを浮かべるヘスティア。よし、と拳を握る。

 

「じゃあ彼等は、出来るだけ財産を搾り取って追放してやる!」

 

 元気に宣言するヘスティアに、柊はパチパチと拍手を送った。柊が目が見えないのを隠したいらしいので眷属達の制止をなだめヘスティアを連れてきたガネーシャも拍手をおくる。

 

「いい宣言だ、さてはお前もガネーシャか!?」

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