帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか? 作:匿名希望
「やあやあお勤めご苦労さまです」
「……………」
ヘルメスの出迎えを無視してスタスタ歩く柊。その背について行くクルル。
地上で卵から孵ってから人の手により育てられただけあり誰にでも懐くが、柊を群のボスと認識したのか柊の命令を優先し、かつ強化種となったことで彼を抑える牢がないのでなしくずし的に柊のペットとなった。
「肉でも食いに行くかぁ」
「クルル………」
モンスターであるクルルに飯を出してくれる店となると、豊穣の女主人ぐらいか。後、クルルを飼えるだけの広さがある部屋………馬房でも探すか。
「柊く〜ん!」
「ヘスティア……」
「クルル君も元気そうだね!」
「キュル………」
ヘスティアに撫でられ喉を鳴らすクルル。どうやら仲良くなったようだ。
「ベル達は?」
「ベル君は修行中。他の皆は………今はサポーター君の救出」
「救出? ああ、【ソーマ・ファミリア】か…」
そう言えばきていた。アポロンと手を組み賠償金でも払わせに来る気かと思えば、狙いはリリそのもの?
リリの価値があるとしたら…………変身魔法くらいか。
「僕も合流したいから、任せた柊君!」
「了解」
ヘスティアを抱えクルルの背に乗せ、柊も飛び乗る。クルルは翼を広げ空へと羽ばたいた。
「ところで、ヘルメスが今回の
「出会い頭にふざけてきたから無視した」
「……………そっか」
ヘルメスらしいや、と呆れるヘスティア。
「サポーター君は帰ってくると思うかい?」
「帰るも何も向こうが彼奴のファミリアだし………
何せリリは逃げたのだから。
冒険者など全員同じだと言い訳して、相手を調べず、知らず、奪われたのだから奪って良いと楽な道に。
「俺と同じだ………堕ちた奴は、堕ちたままの楽さを知っている」
全部周りのせいにして、自分の責任なんて背負わず、這い上がるなんて面倒なことをしないほうが楽に決まっている。
「僕はそうは思わないよ」
「……………」
「そこが楽でも、這い上がるのが苦しくても、それでも真っ当に生きたいと思う子はいる」
「憧れた日向が、暖かいとは限らないのにか?」
「それは這い上がってから気にすることだよ。それに、僕は君だって何時までも堕ちたままなんて思わない」
というか君って自分で思っているより意外と優しいからね、と笑うヘスティア。
「サポーター君を信用してないくせに、ベル君のパーティでいさせたり、嫌いな相手でも相手に責がないとまず攻撃しないし」
リリの場合は、実際ベルからものを盗むという犯罪行為をしている。それを除けば柊から手を出すところを、ヘスティアは見たことがない。
冒険者というのは、力に任せて言うことを聞かせるものも多いと聞くのに。
「普通のことだと思うが」
「その普通を出来ない冒険者が多いから、ギルドは冒険者のイメージ管理に苦心してるのさ」
具体的には【ロキ・ファミリア】の名声大好きフィンを使ったりミノタウロスの件を被害者が(表向きには)いないからと有耶無耶にしたり【フレイヤ・ファミリア】に奉仕活動を(形だけ)命じたり……。
「人は変わるよ。不変の神とは違う……でもね、きっと根っこの部分は変わらないと思うんだ」
柊とベルの出会いは、ベルをモンスターから助けたことだとヘスティアは聞いている。
誠意には誠意を返すのは、逆説的に人と人は片方が与えられるだけの関係では無いと思っているから。
「それに! 君とベル君は結構似てるからね! だから、心配なんだろう? 大丈夫だよ………君が彼を見てくれるなら、彼は君にはならない」
「……………似てねえよ」
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「…………あれは、俺が恩恵を授けた少女なのか?」
ヘスティアが辿り着いた頃には混戦状態。リリがソーマに直訴し、神ソーマの出した条件である
「そうだろうよ、俺達が勝手に失望していた、無力なはずのガキだ」
「…………失望」
「ま、俺はお前と違ってはなから期待なんざ寄せてねえが」
と、ソーマを気に入らないと睨む柊。それ以上はしない。出来ないのではなく、しない。
「相手を見もせずに期待を押し付けるな。等身大を見て期待するのは勝手だが、器を超えられる人間なんざ限られている」
煙管から煙を吸い込む柊をソーマはジッと見つめる。
「溺れるほうが楽なんだ。ましてや何の説明もなくこれを飲めと麻薬を渡されりゃ、それに溺れるのも当然だ」
「あれは酒だ」
「ああ、麻薬なんぞより余っ程快楽のあるな」
と、棚に置かれた酒瓶を一つ取るとそのまま飲み干す柊。
「な、何やってるんだ!? 今すぐ吐き出せ!」
「この程度じゃ酔わねえよ…………なるほど、材料による味は向こうが上だが技術はこっちが上だな」
デメテルにたのんで材料を譲ってもらい、ソーマに酒を造らせるのも良いかもしれない。いや、そういえばギルドに運営自粛を言い渡されているのだったか。
「………………………」
「たとえ零能に身を落とそうと、神の尺度で人を量るな……」
「そうだね…………ソーマ。君があの子を知らなかったのは、君が見てこなかったからだよ……そういう意味では、君達は似ているね」
冒険者を見下し、全て同じだとベルを見ようともせず奪うものから奪うだけと言い訳して近づいてきたリリ。
眷属を見限り、全て溺れるだけと己の酒で苦しむものに目を向けなかったソーマ。
なるほど、ある意味
「……………喜んでほしかっただけなんだ」
酒を造りたいという自分の趣味のために金を集めてくる眷属達。最初は、彼等に対する労いのつもりだった。
趣味に付き合わさせて済まない、ありがとうと……報酬として渡し、誰もが虜になり酒を求め、他者を蹴落とし、手にしては溺れる。
「………ああ、喜んでくれると思うよなぁ。その結果がこれだものなぁ…………人間、最初から見下しておけば意外と失望は小さくなる」
「………なくなりはしないのだな」
「………ま、だからこそ予想を覆すガキ
「………不安なのか」
「………………人の予想を超える奴には、何時の間にか期待が乗っかるからなぁ。勝手に押し付けた期待に責任があるかのように、馬鹿どもは騒ぐ」
はたしてその光景に対して自分はどのような振る舞いをするのか。
嗚呼きっと、自分で思っているより人に失望しきれてないのだろうな。だから、その光景が未来にないと思いたいから、見てしまえば理不尽に怒りを覚えるのだろう。
「訂正する。期待しないってのは、難しいな」
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「柊君、大丈夫かい?」
と、ヘスティアが声をかける。
柊の過去は詳しくしらない。異なる世界で神を殺し、その後その世界から自分の意志で去ったと言う事までだ。
だけど、ソーマはそんな昔を思い出す一因になったようだ。
「人を助けてれば無条件に喜ばれると思っていた過去を思い出しただけだ」
「……………それは」
彼は神を殺して世界を救ったと言っていた。堕ちた神性………神としてのあり方を失いながら神としての権能を保持した怪物達。
其れ等を倒し、その上でその結論……感謝されなかった? 世界を滅ぼす要因を廃したのに? 崇めないから、神性を失った神を殺したのだ。信仰されていた邪神を滅ぼしたわけでもないのに………どうして?
「じゃあ、俺は寄るところがあるんで」
「あ、うん…………朝御飯までには帰ってくるんだよ」
「ああ………」
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「…………………」
太ったエルフ、ロイマンはダラダラと脂汗を流す。ウラノス直々に対処するよう言われた客は、柊。
レベルを偽っているに違いないと当たりをつけ、しかし新興ファミリア故にまだ大した金を取れないとあえて放置していたのにウラノスの命でランクを調べ、偽りなしと金を搾り取れず、しかもつい最近問題行動を起こした冒険者。
「ただでさえ俺と【アポロン・ファミリア】のせいで非難が来てるだろうに、これが出されたら大変だよなあ?」
初対面で「ほっそ」と言ってきた柊は資料を見て顔を青くするロイマンに語りかける。
それは冒険者によるサポーターへの暴行、恐喝………ロイマンが把握しながらも、暗黒期には手が回らず、現代では今更と放置していた案件。
「サポーターへの嫌がらせだけに収まらず一般人にも暴力行為。しかも、当時暗黒期だから咎めてる暇はなし…………」
これを知られたら困るよな、と柊。
とても困る。ただでさえ破落戸という認識の冒険者のイメージを保つのが大変なのに、こんな情報流されたんじゃ冒険者を管理するギルドの信用にも関わる。
「わ、私にどうしろと………」
「仕事しろ」
その後春姫の尻尾と耳を堪能して、朝帰りでクルルにブラッシングしてストレス発散した柊くん