帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか? 作:匿名希望
ルールは陣地取り。
それぞれ一つずつ陣地が与えられ、マス目に区切られた各陣地には3つの旗があり各々の色の旗を立てることでその陣地は自分達のものとなる。
また、他派閥の陣地を素通りは出来ない。攻めるにも一つ一つ陣地を奪わなければならない。或いは、周りの陣地を奪って孤立させるのも可能。
それぞれ始まりの陣地には玉座を用意し、玉座の旗を入れ替えれば相手の陣地を一気に奪える。
最終的に終了時間で最も多く陣地を持っていたファミリアの勝利。
或いは玉座を全て奪ったファミリアの勝利。
殺しの禁止。
玉座を守る『王』は最初の自陣以外への移動禁止。
柊は強制的に王。
「………柊さんだけ『王』で決定、ですか…………」
と、ベルが呟く。それはつまり、柊のみが脅威と思われているということ。
「まあ、好都合です。柊様が陣地にいるだけで、玉座奪還による敗北はないでしょうから」
何せ、ヘスティア達の話ではあの【
「俺達ひょっとして必要なかったんじゃないか?」
「ルールがある以上、俺だって敗けることは有り得る。それに出来ることも限られている、ベルの力になれるのはお前等だろ」
期待はしないがな、と内心で呟く。普通に考えて、負け戦に近い。負けたところで誰が責められようか。
「本陣の守りは必要ないとして、リリ達が勝つにはやはり玉座を手に入れ相手の陣地を一気に頂くことです」
どちらを、どのタイミングでかが重要だ。序盤で相手の少ない陣地を奪うために、どちらかの派閥が容易に攻め込めない布陣を築く可能性もある。
「この開けた陣地ではリリ達は不利すぎます」
開催場所は、オラリオから適度に離れた砦跡地。盗賊が根城にしていたらしいが【ガネーシャ・ファミリア】により掃討。よりによって、そこを【アポロン・ファミリア】が使っている。
ファミリア同盟はベル達と同じく平野だが持ってきた木材で簡易的な砦を築いている。
「……………開けてなけりゃ勝機はあるのか?」
「……………………あります」
「………良いだろう」
「…………はい?」
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下界において神の力は行使禁止と決められている。だが例外もある。
それが『神の鏡』と呼ばれる遥か遠くの景色すら映す権能。主に
神の力であるが故に手続きをせず使えば送還されるが、逆に言えば手続きして覗きに使う美神とかもいたりする。
そして今、オラリオ各所で
「おお、あれが柊か。主等の話では恐ろしく強いとのことだが…………果たしてどの程度かのぉ?」
と、ガレスが興味深そうに眺める。
聞いた話では18階層に現れたフィン達を蹂躙したモンスターを瞬殺、精霊の分身の瞬殺、オッタルをすれ違いざまに殴り飛ばした。
どれもこれも信じられない。ベートを瞬殺した場には居たが、瞬殺過ぎて彼自身がその光景を見たわけでもない。
「まあ、この程度じゃ底は見えないだろうけど…………ん? あの時とは違う武器だ」
「木製の槍?」
木の枝から雑に削り出されたかのような槍。穂すら、一体化した木製だ。あれで一体何が貫けるというのか…………。
「珍妙な武器じゃのう?」
槍に絡みつく蔓の装飾。見た目はまあ美しいが、もっといい武器をいくらでも揃えられるだろうに………。
誰もが疑問に思う中……………
日陰には苔がむし、木の枝に様々な実がなっている。
「……………は?」
「…………あれはまさか、
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「えぇ……」
場を整えてやると言い、一本の槍を出した柊。それを一振り、花畑が広がり………地面に突き刺す。
森が産まれた。
幹の直径が最低でも3、太ければ8メドルはある巨木ばかりの森。瑞々しい果物が葉の隙間から刺す陽光に照らされ、鮮やかに輝く。
柊は背後に現れた直径15メドルはある大樹を高さ30メドルあたりで切り裂きクルルに玉座を断面まで運ばせる。
「
「ま、魔剣なのかそれは?」
「馬鹿言うな、折れず曲がらず砕けずの武器だ。魔剣如きと一緒にするなよ」
ヴェルフの言葉に少し不機嫌そうに答えた柊は槍をしまう。
「そういやベル、そのネックレスは?」
「え? あ、えっと…………シルさんが、お守りにって………あの、これって…………」
「じゃあ、攻めは任せたぞ」
と、一足で木の切り口まで跳ぶ柊。誰もが森を見て、柊のいる上を見て、もう一度森を見る。
「なんなんですかこれはああああ!? ベル様は知ってたんですか!?」
「し、知らない知らない!! なにこれ!?」
「……………まやかしの類ではない。本物の樹木………苔まで…………あの方は森の神?」
「正気に戻ってくださいリュー殿!?」
「下が騒がしいな」
玉座に座り、下に顔を向ける柊。目が見えていたとしてもどのみち木に邪魔され見えないだろうが。
「キュルルル」
と、クルルが木の実を持ってくる。
褒めてというように柊に額を擦り付けた。
柊はナイフで皮を剥くとクルルに投げクルルは口で受け止める。柊は自分の分を細く切り食べる。
「さて、どっちから来るかな」
ドラゴンの意匠が施された王冠を取り出し頭にかぶる。足を組み、頬杖をつくその姿は尊大なる暴王のようであった。
自分の分の木の実を食い終えたクルルがノソノソ近付き柊の膝に顎を乗せる。柊はクルルの頭を撫でてやる。
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「ほらほら春姫! あんたの男が出るよ!」
「お、男!?」
先輩妓女の言葉に顔を真赤にする春姫。男というのは柊のことだろう。
「え、なになに? 春姫の上客?」
「噂だと、今回手にするお金で春姫を身請けするとか!」
「きゃ〜!!」
キャッキャッと騒ぎ立てる妓女達に春姫はオロオロと狼狽える。
「あ、あの方はわたくしの男では…………」
「え? でも抱けないのに何度も通ってるんでしょ?」
「それって、抱けなくても春姫が欲しいってことだろう?」
男の鎖骨でも見ようものなら気絶する春姫は、店にとっては頭の痛い存在だった。いや、別に妓女の中には芸を売りにして処女の値を釣り上げ、なんなら身受け金に上乗せする売り方もある。
だからといって取り敢えず学んだ事を実行しようとしては気絶されていたのでは、売り物にならない。
他の妓女達が代わりに相手していたが………そんな春姫にとうとう固定の客が現れた。
聞き耳立てた妓女によると春姫の艷やかな声が聞こえたりするらしい。なお、まだ女として抱かれてはいない。
足繁く通う彼は春姫の良い人なのではないかと噂が持ちきりだ。まあ、偶に他の娼婦を抱きに行くらしいがそこは男だしね?
「ち、違います。あの方は………わたくしのことなど愛玩の対象程度にしか思っていません」
耳や尻尾、時折腹を撫でられる。誂われる。暇潰しに極東の話をさせられる。最近だと英雄譚好きの春姫に気を使ってくれたのか英雄譚の本を持ってきて読ませる。
「ペットってことかい?」
「きっと、その程度でございます」
「あ、あの人写った! ほらほら、ペットなら御主人様の活躍見なきゃ!」
と、同僚に腕を引かれる春姫。
神の鏡には………柊に額を擦り付けるドラゴン。
「……………は?」
共に果物を食い、ドラゴンは膝に顎を乗せ柊に頭を撫でられ気持ちよさそうに目を細めた。
「………………………………は?」