帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか? 作:匿名希望
感想見て皆春姫大好きやなって思った
「まずこの森があっても、リリ達には不利な戦いであることには代わりありません。しかし、有利な部分もあります」
まず、少数であるということ。
元々旗を立てなければ陣地の移動ができないというのに、障害物だらけのこの森では更に素早く動けないだろう。
「撤退は考えず、旗を立てたら次の陣地に移動。これを繰り返し敵の陣地を目指します」
本陣は一片200メドルの正六角形。その他の陣地は一片30メートル。
旗が陣の中央にあることを考えればだいたい30メートルが一度に行ける距離。
「確かに、少数の方が動きやすいでしょうね」
「はい、そして玉座さえ奪還できれば相手の陣地を一気に奪えます」
それが逆転のチャンス。後は、どう攻めるか。
「魔法や弓矢に関しては陣地内から他陣地に向けて放つことは可能です。リュー様はヴェルフ様の魔剣で薙ぎ払いながら進んでください」
「俺達は?」
「…………ベル様は、【
「うん………」
今回の騒動の発端。ベル達に手を出させようとしたアポロンの眷属は最初にベルや仲間を侮辱し、それでも耐えたベルに対して、ヘスティアを侮辱した。
結局乱闘になるもベルはヒュアキントスに敗れ、訂正させることは叶わなかった。
「ヒュアキントスさんは、僕が倒します」
「解りました。ではリリ達は【アポロン・ファミリア】を…………リュー様は、同盟をお願いできますか?」
「リュー殿一人に!?」
「問題ありません。向こうは、精々Lv.2のみですから」
つまりLv.2なら何人相手でも勝つ自信がある、ということだろう。
「もちろん未知のスキルや魔法があるかもしれませんが………」
と、柊のいるであろう大樹の上を見つめるリュー。
「大丈夫でしょう………」
「………? では、二手に分かれましょう」
◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆
「キュルル………」
玉座の近くで丸くなり柊に撫でられていたクルルが目を開け立ち上がる。柊が片手で制すると、数人の冒険者が現れた。
30メートルもある大樹を登ってきたが、冒険者だ。その程度では息切れしていない。
「おい貴様! この森はなんだ!? 誰の魔法、スキルだ!?」
と、エルフの男が叫ぶ。森に住まうだけあり、気になるようだ。他の冒険者は後にしろと言いたげたが文句を言わないのはこの中で一番強いから、
他の派閥も混じった派閥同盟だが、他の派閥も文句言わない。それだけ強さが知られているのだろう。
「何故答える必要がある?」
とはいえ、柊には彼の質問に答える理由がない。
ベル達が玉座を奪うか、制限時間が来るまであまり出歩けないので暇なだけ。
「っ! 王にでもなったつもりか……いや、例え王であろうとハイエルフに連なる私にヒューマン風情がそのような態度を………!」
そのエルフは王族でこそ無いが貴族の出。そこそこ遡れば王家の血も交じるエルフであった。
偉大なる始祖セルディア、美しきリヴェリアのように自身もオラリオにてエルフの偉大さを知らしめてやると訪れ、Lv.2で燻るオラリオに似たようなのがいくらでもいる『ランクアップしたんだから凄いよな〜』と神に褒められる程度の冒険者。
ただしプライドは高い。他の冒険者が口を噤んでいたのは、口を挟んだ後面倒くさい事になるのもあるのだろう。
「放て! 身の程をわからせてやれ!」
放たれる魔法に矢に石……。
エルフが放つ魔法には殺気が混じっている。クルルを狙った、とでも言い訳するのか狙いはクルルに近く柊に必ず当たる場所。
殺したら駄目というのは、本当に面倒だ。だからこそこの王冠なのだが。
「…………は?」
魔法が、矢が、投石が………柊に触れる前に
「火と鉄は文明の象徴。故にこそ、あの神の権能………」
「な、何をした!? 魔法!? いや、詠唱は………結界魔法か!?」
スキル、だとしたら余りに破格。魔法と考えるほうがまだ自然だ。
しかし詠唱どころか、柊は指一つ動かすことすらしなかった。ならば事前に発動していたと考えるのが自然。
「放ち続けろ! あれだけの魔法、
鉄の鱗に灼熱の息吹を持つ竜へと転じた最も人を近くで見守っていた女神。鉄の鱗も、炎も、元より彼女が持っていた権能。
だが、彼女が本来持ち得た権能は竜となることで封じられた。
「『平伏せ』」
「「「──────!?」」」
例外なく、その場の全員が跪く。混乱する自意識は残っている。体の自由だけが奪われる。
「そう殺気を向けるな、殺したくなる」
混乱しながら殺気を向けるエルフに柊が面倒くさそうに言う。その気になれば意思さえ操れるが、それはしない。
すれば
『
永遠帝国を築く筈であったが、支配の権能を持ちながらも人の心まで支配せず人に裏切られ言葉を失いやがて神性すら失い怪物に成り果てた女神。
その名を関した王冠。声の届く範囲全ての生き物を支配する力を持つ。
「去るなら自由にすれば良い。玉座は渡さんがな」
これで引くなら動けるが、誰も動かない。魔法かスキルか、どちらにしろ何時か解けると思っているのだろう。
だがこれは権能。美の女神の『魅了』に近い。ただそうあるだけの在り方。
時間稼ぎには十分だろう。
「或いは抗い剣を取るなら、敵として認めてやる」
取れたらな、と笑う柊。
誰も立つことができないのを確認し、風に揺れる葉擦れの音に耳を傾けながら複数の鉄の剣を生み出した。
◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆
ファミリア同盟にやる気があるかと言われれば、微妙なところだろう。
神の悪癖にうんざりする者も居る。弱い者いじめがしたい奴も居る。やる気があまりなかった派閥の一つの団長のエルフがなんか興奮して飛び出した。
「【ヘスティア・ファミリア】も居るし、最下位にはならないだろうが陣地はとっとけよ〜」
「団長、攻撃部隊からの連絡がありません」
「え〜?」
今回の陣地争奪戦の面倒なところは、数で圧倒していても一時的な孤立になりやすいところだろう。
旗を変えられた時点で、その陣地を超えるのに旗を変え直す作業が入る。1つ2つならともかく、複数やられたら手間だ。だからこそ、Lv.2か1のベテラン数名に旗を守らせているのだが………。
「【
彼は【アポロン・ファミリア】の指揮を得意とする女を思い出す。アポロンへの忠誠が高く暴走しがちな団長よりも、アポロンに恨みを抱きながらも恩に対する義理で動く女の方が余程厄介だ。
「どうします?」
「他のファミリアを煽れ。倒した数だけ金を分けてやるとな」
「いいんですか?」
「金で動く連中が他派閥と上手く連携できるかよ。あの女の指揮する部隊は倒せねえ、数を減らして疲れさせてくれるだけで万々歳さ」
男の言葉に部下は他の派閥の冒険者に声を掛けていく。直に我先にと飛び出す冒険者達。
突風に吹き飛ばされた。
「なぁ!?」
一気に何十人も!?
長文詠唱だとしても、明らかにLv.2や3ではない。何者だ!?
そして、森の奥から現れたのは一人のエルフ。旗を立てる。色は白………【ヘスティア・ファミリア】!?
確か、都市外から呼ばれた助っ人冒険者。
「速っ……!?」
そのまま突っ込んでくる。その速度は、明らかにLv.2ではない!
「都市外の冒険者の筈だろ!? ヴィーザルでも呼び戻したか!?」
嘗て【
「っ! 魔剣だ! 防御魔法でも迎撃に攻撃魔法でも良い! 消費させろ!」
エルフが持つ剣を見て即座に叫ぶ。あれだけの威力。威力重視の魔剣………放てる回数は少ないはずだし、零細ファミリアが一本用意するのだって大変な筈………!
「うあ!?」
「ぎゃあああ!!」
「はあ!?」
が、攻撃魔法も防御魔法も吹き飛ばされる。威力を殺しきれず、柵の一部が吹き飛んだ。
「【
【ヘスティア・ファミリア】に入った冒険者の名前を思い出す。馬鹿なやつだと嘲っていた冒険者達の名前。
その1つに、Lv.2になったからではなく、ちょっとした伝説故に知っていた名前があった。だが、
打てたとして、
「ク、クロッゾの魔剣!?」
嘗てエルフの里を数多に焼き払い精霊の住む大森林を滅ぼして、海すら焼き払う最強の魔剣。
エルフにとってその子々孫々に至るまで殺し尽くさねば怒りが収まらぬはずの不倶戴天の血族のみが打てる魔剣。
その力を、エルフの戦士が振るう。
「ふ、ふざけんな! こんなの、【
しかも詠唱の間隔が存在しない。
なるほど、これは悪夢だな?
「っ! 散開しろ! 一方向に固まるな!」
「……成る程、優秀な指揮官が居る」
男の号令に散らばる冒険者達を見て、エルフ………リューは目を見開く。神が愉快犯と言えど、それに巻き込まれた眷属までもが俗物とは限らない。
「謝罪しましょう。ヘスティア様から聞いていた貴方達の神だけで、貴方達の人となりまで判断してしまった」
スラリと抜かれる
「貴様! エルフで有りながらそのような穢らわしい武器を手にするなど、恥を知れ!!」
「友を助けるのが恥だというのなら、いくらでも恥知らずになりましょう」
と、突っ込んできたエルフの剣を木刀で圧し折るリュー。直接相対したのは、彼女なりに同胞を思い憤った者に対する敬意。
上に投げた魔剣を再び握り、振るう。
「……………っ」
魔剣が砕けた。限界のようだ。
もう一つの魔剣も、同じぐらいあった。そろそろ砕けるだろう。
「【今は遠き森の空──】」
「詠唱!? とめ………並行詠唱だとぉ!? くそ、都市外の冒険者なんて大したことないとかいった
戦闘を行いながらも詠唱を続けるリューに団長が叫ぶ。他派閥の団長も動くがまるで相手にならない。
「【無窮の夜天に
「止められねえか………くそ!」
「団長!?」
男の武器は、分銅鎖。まともに近付くなど馬鹿なことだと距離を取り戦う中距離型。
「【来れ、さすらう風、流浪の
「おおらあああああ!!」
長年使い続け使い慣れた武器。縦横無尽に迫る分銅は、並のLv.2なら既に倒せていただろう。
「【星屑の光を宿し敵を討て】 」
「【ルミナス・ウィンド】!!」
詠唱の完成。紡がれる魔法名。
緑風を纏った光玉が四方に散る広範囲攻撃魔法。
「っ! 今だお前等!! って、うぎゃあ!!」
近距離で出来るだけ撃ち落とそうとし武器が砕け魔法に飲み込まれながら叫ばれた団長の号令に後ろに控えていた魔道士達が魔法を放とうとする。しかし、魔力で気付いていたリューは魔剣を振るい………
「!?」
乱戦の中移動し木陰に隠れていた冒険者達が飛び出す。手に持つものは、魔剣。
団長が囮になっている間に詠唱を完成させた魔道士達──
詠唱を必要としない代わりに本来の魔法に劣るとは言え、それでもこの数は………!
(すいません、シル………!)
耐えられないことはないが、シルと約束した怪我をしないという誓いを果たせそうにない………そう思った瞬間高速で飛来した何かが魔剣を砕き木を抉り地面に突き刺さる。
「は!?」
「ちょっ!?」
混乱する冒険者達の隙を逃さず気絶させるリュー。地面に突き刺さった飛来物を見る。
剣だ………。飛んできた方向からして………彼だろう。
「一人相手に何をしている!?」
と、砦の奥にこもっていた冒険者………偉そうな態度からして、恐らく何処かの派閥の団長が叫ぶ。
「………生憎ですが、私は一人ではありませんので」
頼もしい仲間が、後ろから見守ってくれている。