帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか?   作:匿名希望

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歓楽街の狐

 どうやらミノタウロスは5階層まで現れたらしい。

 ベルはそこで金髪の剣士、アイズに助けられて………どうにも惚れたらしい。本人は隠しているつもりらしいが…………。

 アイズ………アイズ・ヴァレンシュタイン。オラリオについて調べれば出てくる最強の女剣士。

 過去存在した『女帝』や『静寂』の足元が見えた程度で最強なのだから、今の最強とは安いものだ。

 

 今のオラリオは7年前に病や毒に体を侵されなければ順当に『最強』になっていたであろう最強のなり損ない達に漸く追いつき、そこから進めていない。

 黒竜とやらに滅ぼされるのを待つだけの有象無象の集まり。

 それが何時また暴れだすのかは知らないが、少なくともほんの15年前には活動していたのだ。百年周期に暴れる、なんて存在じゃないのならオラリオの眷属の成長速度を見る限りベルが惚れた女に追いつく前にその女は黒竜に殺される可能性が高い。

 というかベルが彼女の背を見る前に死ぬだろう。

 

 とは言えベルは何時か彼女と知り合い、隣で一緒に戦う自分を夢想しているのか目をキラキラさせ頬を赤く染めている。ヘスティアはとても不機嫌そうだ。

 

「僕も、何時かあの人みたいに………」

「あぁ、そうかよぉ………頑張んなぁ」

 

 クファ、と欠伸し地下室から出ていこうとする柊。そんな柊にヘスティアが声をかける。

 

「なんだいなんだい女の子にでも会いに行くつもりかい!? 柊君まで! そんなに僕より他の女が良いのかなぁ!!」

「ああ。だってお前、抱けねえし」

「だっ!?」

「けぇ!?」

 

 柊の言葉に仲良く顔を赤くする主神(ヘスティア)眷属(ベル)。ヘスティアは恐る恐る尋ねる。

 

「ひ、柊君………君は、まさか……夜でかけるのって………」

「ああ、歓楽街に行ってる」

「嘘だろう!? 処女神(ボク)の眷属がぁ!?」

 

 ガーンとショックを受けるヘスティア。貞淑を是とする自分の眷属が、まさかの歓楽街通い。いや、正確には眷属ではないのだけど………。

 

 それでも色々面倒な秘密を抱えるこの子を僕がお世話するんだ、と意気込んでいたヘスティアは息子に反抗期が来た親バカぐらいショックを受けた。

 

「よ、良くない! お金を払って、おお、お、おん、女の人をだっ………だ、抱くのは良くないぞぉ!」

「それが商売として成り立って、それで日々の食い扶持を稼ぐ人類(子供達)がいるんだ。是非を(オマエ)が決めるな」

「で、でも〜………!」

 

 う〜う〜、と見た目の年齢通り駄々をこねる子供のように唸るヘスティア。ベルといえばお、大人だと何処か尊敬した目を向ける始末。

 

「うぅ………じゃ、じゃあせめて! お金を使いすぎないこと! これが欲しい、あれが欲しいなんていう女に引っかからないこと! お金を搾り取ってやろうと考える女には、絶対ぜーーーったい関わっちゃ駄目だからね!!!」

 

 それがヘスティアの最低限の譲歩。そも不老不滅で子を残さぬ神々と違い、人類は元々そういう行為をするのが普通なのだ。

 それがなければ増えないわけだし………それでもお金でなんて、とは思うが………思うが!

 生物に備わった欲の一つを満たす行為を、ただ否定するだけなのは駄目………駄目かなぁ? いや、やっぱり駄目だ!

 

 だからせめて柊が悪い女に引っ掛からないことを願うのみ。神たる自分が誰に願おう? 大神と謳われる弟のゼウス………は、余計に面倒なことになりそう。

 義妹のヘラは…………呪われそうだな。

 神友のヘファイストスも…………恋人の女神に浮気された過去があるし…………そうだ、弟のハデスにしよう!

 

「君が悪い女に引っかかりませんように」

「誰に祈ってんだ?」

「ハデス」

「誰だ………」

「死を司る僕の弟」

「何故…………」

 

 

 

 

 ここ数日買っていた娼婦が休みとのことで、別の女を探すことにした。道中見かけた同郷を思わせる服を見て、詳しく聞き遊郭が立ち並ぶ場所に来た。

 

 極東と呼ばれる、自分に近い顔立ちの国の者達が格子越しに男を呼ぶ。

 ヒューマンだけでなく、獣人やエルフ、パルゥムに………極東にも極東の亜人がいるようだ。

 

「………ん?」

 

 と、狐の耳を生やした狐人(ルナール)の美女を見つける。

 狐………向こうの世界でも一時期飼っていたことがある。というか、勝手についてきて世話を焼いていたのだが………。

 

「お前でいいか、幾らだ?」

「は、はい………えっと………」

 

 狐人(ルナール)は希少種だと聞くが、意外と安い。首についた妙な魔道具が気になるが………まあ居場所を知らせる程度だ。

 

 希少種だから足抜けを警戒しているのだろう。

 案内されるまま部屋に移る。窓から夜桜が見える。悪くない………。

 

「今宵夜伽を務めさせて頂きます、春姫と申します」

「ほう………」

 

 年は16といったところ。美女というよりも、美少女。とは言え中々男を誘う体をしている。

 しかし、いざ事に及ぼうとしたら気絶した。

 

「………まあ良いか」

「良いわけねぇだろクソ野郎!!」

 

 と、襖が開きアマゾネスが飛び出してきた。

 

「気絶した女に手を出そうとしてんじゃねえぞ!」

「おかしなことを言う。同意でなすのではなく、俺は金を払い女を抱きに来た。金を払った以上、女の状態など気にするか。病に冒されているわけでもあるまいに………」

 

 ド正論にぐっと言葉に詰まるアマゾネス。この場合、どう考えても責があるのは客をおいて気絶した春姫だ。

 代わりに相手してやる、なんてのは彼女目当てで金を払った客に対してあまりに無礼。

 

「そも金で売り買いしている時点でまともな行為を求めるな。ましてやお前は別に純潔を尊ぶ種族でもあるまいし」

 

 気絶した春姫の臍の下辺りを中指でグリグリと押す。んぅ、と艶めかしく唸る春姫には、男を誘う才能が備わっている。

 

「まあ、俺が女を買うのは確かに快楽のためだ。おぼこより慣れた女が相手してくれるというのなら、成る程得だろうが」

「なら…………!」

「だが断る。何だ、お前………このガキが可哀想か? 救ってやりたいとでも思ったか? 自分では救おうともせず、『英雄』にでも見つけて欲しいと思ってんのか? 反吐が出る」

 

 うぇ、と舌を出す柊。

 春姫を気にするくせに、救うのは自分じゃないと考え、しかも間違いなく救うと言うなら力を示せというタイプのアマゾネスに文字通り吐き気を覚える。

 

「っ! お前に、お前に何がわかる!!」

「解らねえよ。解る気もねぇ…………てめぇになにか事情があろうと、それはてめぇの弱さが原因だろうが。それで俺にキレるんじゃねえよ」

 

 自分には出来ない。それで諦めるなら、それでいい。そのくせ他人にやれなどと言う輩を柊は気に入らない。

 

「んぅ………?」

「っ………!」

「起きたか……」

「はぇ? えっと………あ! か、可愛がっていただき…………!」

「いや、お前気絶して何もしてねぇよ」

「……ふえ?」

 

 

 

 

 結局あの後耳や尻尾や腰や腹を触って見たが途中で気絶し、飼ってた狐を思い出し満足したので帰った。前回のように女神に絡まれると面倒なので認識阻害を使っている。

 あのアマゾネス………アイシャとかいう女の目からして、春姫は死ぬのだろう。

 

 そしてアイシャは春姫を救う気はない。救いたいのかもしれないが自分では行動に移さない。移せない……だから、誰かが救ってくれと願っている。

 

「はっ………」

 

 煙を吐き捨てながら、唾棄する。

 アイシャは間違いなく多くを傷つけたものの目だ。他者を踏みにじった者の目だ。そんな女が、可哀想に思った女に救われて欲しい?

 

 勝手だ。それを否定する気はないが、ならばこちらとて勝手にそれを蔑むのみだ。

 

「囚われの姫を救う英雄なんざ、現れるかよ」

 

 何せ姫の隣に救いたいと思っていながら、自身の力不足から他者に救えと強要する戦士がいるのだ。なら、姫を救う英雄より戦士から奪いにくる蛮族のほうがまだ道理が通るというものだ。

 

「…………あ?」

 

 不意に感じる視線。

 柊はギョロリとバベルを睨み、背後から向けられた視線にマントから取り出した剣を向ける。

 

「っ!!」

「何だ、お前………」

「あ、えっと………ご、ごめんなさい冒険者様。見かけない人だったので、お店の宣伝をしようかなぁ、なんて………」

「もう一度言うぞ…………()()()()()?」

 

 一見すると鈍色の髪を持ったただの街娘。だが中身が違う。こちらを見透かすような目が気に入らない。

 

「…………街娘ですよ、ただの」

「……………チッ」

 

 彼女の護衛であろう周囲の気配は殺気を向けてくるが、彼女自身はむしろ親しみすら向けてくる。いや、これは情欲の類だ。

 

「抱いてほしいならそういえ。恋愛ごっこがしてえなら、他を当たれ」

 

 剣を収め踵を返す。街娘は背中の剣は使わないんですね、と小首を傾げた後笑顔を浮かべ手を振った。

 

 

 

 

「ベル君のばっきゃろおおお!!」

 

 ダンジョンで適度に稼ぎホームに戻るとヘスティアが泣きながら飛び出してきた。一応ベルには聞かれないようにしていたらしく、柊の姿を見て慌てて口を抑える。

 

「何かあったのか?」

「ベル君が浮気したんだ………」

「ベルとお前は付き合ってなかったと思うが?」

「うぐっ! で、でも浮気だよ! 僕という神が居ながら他の派閥の女の子にぃぃ!」

 

 女のケツを追いかけて別の派閥に行かれるとでも思ったのだろうか?

 

「はぁ、僕の眷属はどうしてどっちも女の子に………いや、ベル君と柊君は何か比べるの違う気がするけど……ああ、もう! 僕はミアハと食べてくる! 柊君は、ベル君と仲良く食事すること! 後できればベル君の恋を諦めさせてくれ!」

 

 妙な願いをしながら立ち去るヘスティア。柊が地下室に入ると困惑しているベルがいた。ステイタスの更新をしていたらヘスティアが急に怒り出したらしい。

 

「神様、どうしたんでしょう」

「知るか。それより飯だ………世話になってる神からのお達しだ、仲良く飯を食えと」

「あ、なら行きたい場所があるんです!」

 

 

 

 

「あ! ベルさん、来てくれたんですね! それと、貴方は今朝の………」

「あれ……柊さんも、シルさんと知り合いなんですか?」

()()()…………()()()()()初めてあった」

 


 

 

柊がアイシャが魅了のせいで春姫を助けられないと知った場合どう思うかって?

 

知るか。それが他人に助けろという理由になると思うな、です。

 

春姫本人が助けを求める場合には失敗しても文句を言わねえなら、程度には思ってくれます。

他の娼婦が私も助けろと言っても無視するし、春姫があの方たちも、と言っても無視するけどね。

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