帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか?   作:匿名希望

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太陽の眷属

「すごーい! 御伽話の魔王みたい!」

「それって褒めてるの?」

 

 玉座に座り、尊大な態度で冒険者達を跪かせる柊にティオナが子供のように興奮しティオネが呆れる。

 

「森の次は人を支配する力か………道具の力じゃろうが、何処であんな破格の魔道具(マジックアイテム)を………」

「或いは、英雄譚に登場する天授物(アーティファクト)か………」

「あの狙撃もアイテムの力かの?」

「そう思うのが普通だけど………」

 

 木々の枝や葉の隙間を縫い魔剣を砕いた超精密射撃。森の奥など姿が見えぬだろうに………いや、たとえ木々がなくともあの距離ではまともに当てられまい。

 

「森の戦士としては、どうだいリヴェリア………リヴェリア?」

「っ! あ、ああ………どうした?」

「どうしたはこっちのセリフだけど…………」

「いや、あの森の実…………」

 

 と、リヴェリアが神の鏡に映る木の実を見つめる。

 

「伝承にある霊薬実(タプアハ)によく似ているのだが…………」

「タプアハ?」

「万能薬の材料となる木の実だ。エルフと精霊の絆の証、非常に希少な…………」

「希少? どっさり実っとるしドラゴンが美味そうにムシャムシャ食っておるぞ?」

 

 黒いドラゴンが時折森の樹の実を採取し、柊に届け撫でられている。よく懐いた犬のようだ。モンスターだけど。

 

「………………」

「あれ、アイズどうしたの〜?」

 

 と、ティオナがアイズに話しかける。アイズの視線が向いているのは、黒いドラゴンだ。

 

「あ〜、あの子。可愛いよね〜」

「可愛いって貴方ねぇ、モンスターよ?」

「モンスターでも良い子そうだよ? ほら、撫でられて気持ちよさそう!」

 

 そこに関してはティオナに同意するものはいなかった。モンスターは人類の敵。

 モンスターと殺し合う冒険者だからこそ、その認識は変わらない。幼少期からモンスターと殺し合いをさせられ、なんなら同胞が殺されたりしたのにモンスターに対する憎しみを抱いていないティオナが異端なのだ。

 

「雑魚どもがそいつの相手になるかよ。兎野郎はどうだ?」

「ええっと…………」

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

「…………魔王だな」

「魔王ね」

「ああ、魔王だ」

「あれ、ガネーシャがこれはガネーシャだって叫ばないぞ?」

「あの(ひと)は実況の方だろ」

『これはガネーシャだ!!』

「「「あ、言った………」」」

 

 神の鏡に映る玉座にて足を組み頬杖をついた柊を、神々は魔王と呼ぶ。

 

「きゃー魔王様ー!」

「攫ってー!」

「踏んで蔑んで罵ってぇ!」

「でも時には優しくして!」

「そして付け上がらないように躾けしてー!」

 

 一部のあれな女神達は喧しく叫ぶ。いや、男神も混じってたな。

 

「あれは、王冠の力よね? あの槍といい………何処であんなもの見つけてきたの彼?」

「さ、さあ………し、知らないなぁ」

 

 ヘファイストスの言葉にヘスティアは目をそらしながら答える。多分、あの王冠が一番手加減に使えるものだったのだろうが、それにしたって破格だ。

 様々な神が欲しがりそう…………いや、どんな眷属が来ようと無駄だと示すためにあえて森を作るような規格外の力も見せたのか?

 

 少なくとも【アポロン・ファミリア】を殺したという柊の噂を考えれば、迂闊に眷属を送る者は居ないはず。

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 勝たなくて良い。大きな怪我をしなければ、それでいい。

 それがアポロンからの新しい命令。それでもヒュアキントスは、勝利を諦めるつもりはなかった。

 

 ベル・クラネルに手を出したことと、話に乗った神々の手を借りたことを後悔していたアポロン。

 傷心の彼を慰めきることは、ヒュアキントスには不可能だった。

 ベル・クラネルが代わりになるとも思わない。これは嫉妬ではなく、アポロンという神を誰よりも愛しているという自負があるからこそ、アポロンが死した者の代わりを求めないことを知っているから、

 

「それでも、少しでも貴方の心が癒やされるのならば………!」

 

 勝利をあの方に届ける。その為に勝つために動く。

  防衛役に50名。陣地奪取に50名。

 攻勢部隊の指揮はリッソス。防衛部隊の指揮はダフネ。

 

 

 

「たく、何なのよこれ!」

 

 と、ダフネが愚痴る。

 突如現れた巨大樹の森。人が乗ってもまず折れない枝は、城壁より高く、城壁を越え伸びている。

 これでは侵入が容易いしせっかくの見晴らしが良かった立地は今や見晴らし最悪。

 

「もう駄目………もう駄目ぇ…………」

「何時まで言ってんのよカサンドラ」

「だ、だってダフネちゃん………こんな事できる人に、勝ち目なんて無いよぉ」

「それは…………いや、これをしたのが柊なら自陣から出られないはず」

 

 ならば相手するのは最大Lv.2の数名と、都市外の冒険者だけ。それなら十分勝ち目がある。

 

「とにかく警戒しなさい」

 

 当初の予定では砦付近の陣地に一定間隔で旗を守る人を置く予定だったが、この見晴らしが悪い森では間隔をおいて配置しては連携はまるで取れない。

 

「!?」

 

 と、森の奥から炎の津波が木々を焼き払いながら突き進んでくる。

 城壁に当たり爆ぜる炎。熱波が肌をチリチリと焼く。焼け焦げた地面の奥には、赤い大剣を持った白髪の少年。

 

「【未完の新人(リトル・ルーキー)】!! いきなりやってくれんじゃない!」

 

 おそらくはクロッゾの魔剣。伝説通り、森を焼き払って城壁を焦がすなんて……。

 

「迂闊に近づくんじゃないわよ! 距離を取りながら、陣地を奪って孤立させなさい!」

「おう!」

 

 ダフネの命令にすぐさま行動に移る【アポロン・ファミリア】。魔剣の直撃を喰らわぬように散開しながら迫る。

 ベルは、それを見て逃げ出す。

 

「!? 逃がすな! 奇襲されれば厄介だぞ!」

「ちょっ!? 勝手に………!」

 

 魔剣の威力に冷静さを奪われた眷属達がドンドン森の奥へと消えていく。あの馬鹿共が!

 牽制に放たれる魔剣で思うように追えていない。あれならLv.1だって逃げ切る。砦に残っていたほうがまだ役に立つというのに。

 

「ああ、だめ………偽物の兎をおったら、本物が太陽を………!」

「こんな時にまた夢の話!? 良いから、残った連中で周辺陣地の護衛………を………?」

 

 と、木の上から何かが落ちてくる。熟れた樹の実? いや、小瓶!!

 

「【ファイア・ボルト】!!」

 

 赤い稲妻………雷光のような炎が瓶を砕く。同時に、大量の煙が辺りを包み込む。

 

「!? ケホッ………!!」

 

 喉に絡みつくような煙。毒というよりは、煙そのものの持つ性質。

 喉が乾く。声がうまく出せない………。

 

「…………………」

 

 煙を避けるように降り立つのは2人の影。口元を布で隠した命…………そして()()

 

「リリ、大丈夫かな?」

「ヴェルフ殿もついています。そう簡単にやられることはないでしょう……」

 

 と、森の奥から爆音が聞こえてきた。

 ベルに化けたリリと、ヴェルフが戦っているのだろう。

 本来身長を変えられぬリリの魔法ではベルに化けるのは不可能であったが、この遠近感の狂う巨大樹の森を利用し見事に騙し抜いた。

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

「くっそ〜、だりぃ〜」

 

 お前は旗を守ってろ、と命令されその場に残されたルアンは頭をかきながら愚痴る。

 ついてこいと引っ張り出されたらこれだ。チビだからって良いように使おうとしやがって。

 

 彼は………彼等は油断していた。あるいはダフネがいれば気付いたかもしれない。

 自陣とした陣地の1つ隣にしか移動できない。なら、移動したあと旗を変えられたら?

 

 簡単だ。旗を変えるまで動けない。つまり、そこに隠れていても問題ない。

 コン、と何かが落ちてくる。木の実かと思ったら、火の付いた球体。ボンッ! と爆ぜ辺りを煙が覆う。

 

 

 

「いたぞー! 【リトル・ルーキー】だ!」

 

 背後から聞こえた声に、【アポロン・ファミリア】の冒険者達は慌てて引き返す。ルアンが森の奥を指さしながら再び叫んだ。

 

「あっちだ! 魔剣はもう折れてる!」

 

 見れば確かに旗が変えられている。おそらく、何処かに潜んでいたのだろう。

 だが、魔剣が折れたならたかがLv.2一人。数で押せる!

 

 そして、全員がルアンに背を向け走っていく。

 

「……バーカ!」

「? お前、今何…があああ!?」

 

 ルアンが短剣をふるい、放たれる雷がアポロンの眷属達を気絶させた。

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

「…………順調、か。まあ、勝たねばヘスティアが泣くからな」

 

 後、リューが大怪我すればシルが泣きミアに叱られるだろう。

 柊は切り株に刺さる剣を指で摘み、そのままナイフでも投げるように森の奥へと投げる。

 

「…………来たか」

「!? な、何だこの状況は!」

 

 叫ぶのは【アポロン・ファミリア】のリッソスという名のエルフ。切り株の上で跪くファミリア同盟の冒険者達に混乱していた。

 

「丁度いい、クルル」

「アギャン?」

 

 柊の言葉に玉座の後ろで欠伸をしていたクルルが立ち上がり、柊の真横に顔を持っていく。

 

「食後の運動に遊んでこい………遊びだ、殺すなよ?」

「クウゥ……」

 

 柊の言葉にクルルが前に出てくる。黒いドラゴン……冒険者……いや、人類からしたら中々因縁深い姿をしたモンスターに警戒心を燃やしながらも、リッソスは柊に向かって叫ぶ。

 

「玉座に座り、己は戦わぬとは………王にでもなったつもりか!?」

「? 王だと? たかが玉座に座っただけで王に見えるなら、お前達の王とは随分安い。椅子1つで事足りるな」

 

 ちなみにこの光景を見たほとんどの神々が「いや、だってオーラがパネェもん」と呟いた。

 ヘスティアだけは「いいぞー! かっこいいぞ柊く〜ん!」と叫び、デメテルとフレイヤは何故か誇らしげ。

 

「ヘスティアめ、調子のいい………」

 

 不意に神の鏡越しに目が合う………そう錯覚するように向こうには何も見えぬはずの神の鏡の視点に顔を向ける柊。

 

「王の御前だ、話があるというなら、まずは俺を興じさせろ」

 

 と、柊は何処からか取り出した酒瓶を口に付ける。よくよく見ると玉座の近くに目茶苦茶酒瓶が転がっている。

 こいつ、酔ってやがる。

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

「私が造りました」

「ソーマ!? じゃああれは、神酒(ソーマ)か!?」

「なんだか紛らわしいわねぇ………」

「デメテルのところから買った材料と、俺の技術を合わせた。これまでにない出来だった………柊は、溺れなかったがな」

 

 とはいえ飲みまくれば普通に酔う。というか柊は酔うために酒を飲むから、酒が大量にあるなら酔うまで飲む。

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