帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか?   作:匿名希望

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戦争遊戯の勝者

「うわぁ、勝った! 勝ったよアイズ、アルゴノゥト君が!!」

「……うん、凄い……ね」

『なんとなんとぉ!! 大番狂わせの格上殺し! 『巨人殺し(タイタンキラー)』の異名を奪うかのごとく、勝利したのは【リトル・ルーキー】だぁ!』

『これもガネーシャだ!』

『真面目にしろよあんた!』

 

 その光景を見て、ベートが鼻を鳴らし部屋から出ていこうとする。

 

「あれ、ベート? 何処行くの?」

「なんで言わなきゃならねえんだ」

 

 ダンジョンだな、と誰もが思った。そんな中、フィンが少し言いにくそうに言う。

 

「………あの、まだゲームは終わってないよ?」

「「「え? ……………あ」」」

 

 ヒュアキントスとベルの勝負を見て、誰もがゲームを終了だと思っていたが、そう言えばこれ制限時間か玉座を取るまで終わらないんだった。

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

「にゃっはっはっー! 大儲けなのにゃー!!」

 

 【ヘスティア・ファミリア】の勝利にかけていたクロエは代金を受けとりながら叫ぶ。ミアにぶっ叩かれ店の奥に連れて行かれた。

 

「でもさぁ、柊の奴あんな風に本陣狙えるなら、もっと色々支援できたんじゃ…………」

「う〜ん。たしかにそれなら、ベルさん達はもっと楽に勝ててたね。でも、きっとやらないよ」

「なんで?」

「だってこれは、ベルさんのリベンジだもの」

「じゃあなんで最後だけ手を貸したのよ?」

「蛇足はいらないんじゃないかな?」

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 『太陽はお前が落とせ』。

 それが、ヒュアキントスにリベンジしたいと言ったベルに柊が言った言葉。

 結局最後の最後には柊が手を貸してくれたが、ヒュアキントスを倒したからだろう。

 

『あ、えっと………【ヘスティア・ファミリア】の勝利です!』

 

 と、放送が聞こえてきた。つまりリューもファミリア同盟を倒した……いや、ベル達より先に倒していたのだろう。

 

「疲れたなぁ、帰ってベッドに飛び込みたいぜ」

「自分は風呂に………しかし、まずは馬車に」

「尻が痛くなりそうだ。勝者にはふかふかの椅子が欲しいものだ」

「あはは………」

 

 ヴェルフの愚痴に、ベルが苦笑する。

 とはいえ、ベルも疲れたという部分には同意だ。と………

 

「ん?」

 

 不意に影が差す。何事かと上を見上げれば、馬車が降りてきた。

 

「ギャウ!」

「モンスター!? って、旦那のところのクルルか………」

「クルルル………」

 

 馬車を持ってきたのはクルルだった。その背には柊が乗っている。

 

「皆さん、ご無事ですか?」

 

 と、馬車の中から顔を出すのはリューだ。

 

「柊さんが『酒が後一瓶だ、チンタラしやがって。さっさと帰るぞ』………と」

 

 くあぁ、と背中で欠伸する柊。つられて欠伸するクルル。敵が狙う自陣の玉座を守る『王』であるのに、怪我をした様子はない。

 それは柊に『飲酒騎獣は危険です』と酒瓶を取ろうとしているリューも同じ。

 

 ベルやヴェルフ、命とリリにとっては必死に戦い勝利したこのゲームも、この2人と一匹にとっては大したことがないのだろう。柊に至っては暇すぎて酒を飲んでるし。

 

「もう飲んでんだから同じだろ」

「ならせめて、馬車に入ってください」

「嫌だね」

「入ってください」

「嫌だね」

「入ってください」

「あ、あの!」

 

 柊を馬車に入れようとするリューとそれを断る柊。遊んでいると思っているのか傍観しているクルル。

 と、そんな柊にベルが話しかける。

 

「ありがとうございました…………」

「…………………」

「柊さんなら、直ぐに終わらせられたのに………待っててくれて、ありがとうございます」

「………確かにお前が俺に全部任せりゃ、余計な時間もかからなかったな」

「はい。でも………それは、頼り切ることは………きっと柊さんが嫌がるから」

「? よくわかりませんが、人の嫌がることをしないのは良いことです」

 

 と、リューがベルを肯定する。

 

「それに、柊さんは僕にとって凄い人だけど、だからこそ頼り切ってたら追いつけないっていうか」

「……………………」

 

 柊は目を細め、クルルから降りるとベルを馬車の中に投げ入れる。

 そのままリュー達もぶん投げた。

 

「うぷ…………ッ!?」

「!? も、申し訳ありませんクラネルさん!」

 

 丁度ベルの顔が慎ましやかな胸に埋まる。慌てて跳ね退き柊に文句を言おうとしたら、馬車が揺れる。

 顔を出してみれば、クルルが抱えて空を飛んでいた。

 

 流石に今から文句を言いに行くのは危険だろう、と嘆息し馬車の中に戻った。

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

「目立った外傷は、なしか…………」

 

 と、椅子に腰を落とすアポロン。カサンドラのすぐ真横を剣が通り過ぎた時に思わず立ち上がったのだ。

 

「……………勝者の命令を聞こう、ヘスティア」

「アポロン………で、君達も覚悟は良いかい?」

 

 ヘスティアはそろ〜りそろ〜りと口で言いながら忍ぶ気もなくこの場から去ろうとしていた神々を睨む。

 

「まあまあ、落ち着けよヘスティア!」

「そうよヘスティアちゃん! 天界でも屈指の慈悲深き女神の優しさを見せて!」

「へいへいへいへい! ヘスティア様の、ちょっと良いとこみてみたーい!」

「ヒュー!」

「黙れ」

「「「フヒヒ、サーセン」」」

「……………………」

「「「すいませんでした」」」

 

 幼女の無言の「にらみつける」に土下座し無抵抗の意思表示のために両掌を上に向ける神々。なるほど、まだふざけるらしい。

 

「うん、じゃあ…………追放」

「「「パードゥン?」」」

「ファミリアを解散して有り金全部置いていけ。ああ、素行の悪い眷属は連れて行ってもいいよ。その子達の当面の生活費は持っていいけど、ちゃんと申請してね」

 

 と、笑顔のまま言い放つヘスティア。

 

「それとアポロンの方は」

「ちょっと待て、アポロンは別なの!?」

「ずるいぞ! 差別だ!」

「はっ!? まさか、実は出来てる!?」

「子供を心配した神と、してない神の違いだよ。僕は子供を守る神だからね…………アポロンの件も正直ぶん殴ってやりたいけど、アポロンの行動に対する対価は柊君が払わせた」

 

 言外に、だから柊君を恨むなと言っていると察したアポロンはヘスティアの視線に無言で頷く。

 

「はいはーい! 実は俺、こいつに脅されて!」

「違うわ! 脅したのはこいつよ!」

「提案したのは俺だぜ!」

「実は俺は無関係なんだ。この中に嘘つきが居るぜ」

 

 ブチッとヘスティアの中から何かがキレるような音が聞こえた。

 

「……………ねえアポロン、ファミリアの財産って神の懐に入ったのって含まれない?」

「あ、ああ………ファミリアと、神個人の金は別だ」

「よし、じゃあ君達の元眷属の面倒を見るお金はそこから払うこと。ファミリアの有り金は、やっぱり全部おいていってもらう」

 

 この時のことをヘルメスはこう語る。

 

「ヘスティアを怒らせるなんて大したものですよ」

 

 と………

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 オラリオに戻った柊はデメテルから勝利のお祝いにワインを貰い、歓楽街に向かう。

 今日は最近手慣れてきたエルフでも抱こうかと歩いていると複数の娼婦に捕まり春姫の居る店に連れて行かれた。

 

「少々お待ちくださ〜い」

「……………なんなんだ」

 

 極東の高い酒を渡されたからついてきたけど、と酒を飲む柊。禿がやってきて別の部屋に案内され、そこには………

 

「こ、こんこんこ〜ん! 御主人様………こ、今夜は春姫をいっぱい可愛がって欲しいこん!」

 

 腹を見せるように寝転がり両手で狐を作り、片目を閉じぎこちない笑みを浮かべる春姫がいた。

 音や空気の流れから読み取れる情報はここまでだが、柊の目が見えれば赤面して潤んだ瞳の表情も追加される。

 

「……………………」

「こ、こん…………」

 

 柊の背後で禿が頑張れ、と拳を握り立ち去る。しばしの静寂。

 

「…………何やってんだド天然ムッツリエロギツネ」

「………こん」

 

 柊の態度にしょんもり落ち込む春姫。しかし直ぐに意を決して四つん這いで柊に近付いてくる。

 片手を指を閉じ、猫の手を作り………

 

「キュ、キュ〜ン………」

「……………………」

 

 柊は何がしたいのかわからず首を傾げる。

 誘惑? 男女のその手のことを考えたら動けなくなり、考え過ぎれば気絶するような春姫が?

 それに、誘惑にしてはマニアックすぎる。まるで動物…………

 

「………ああ、お前クルルに………あの竜に嫉妬したのか」

「!」

 

 ギク、と身を震わせる春姫。周りの娼婦達の反応は…………彼女達が春姫に入れ知恵したのだろう。

 

「あ、あの竜は柊様の…………」

「ペットだな」

 

 一応戦力にもなるが、まあ柊からしたら愛玩用とあまり変わらない。いや、馬の代わりにはなるか? 実は自分で飛んだほうが速いけど。

 

「わ、わたくしは………?」

「ペットみたいなもんだな」

「………………わ、わたくしの方が毛並みが良いと思います!」

「まあ、そうだな」

「ひゅん!?」

 

 柊に耳を触られ変な声が出てしまったと口を抑える春姫。

 

「じゃあお望み通り、一晩たっぷり楽しませてもらおうか」

「こ、こんこん…………」

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 

「…………………」

「リューの奴なんで機嫌が悪いの?」

「それがね、柊さんがオラリオ戻るなり歓楽街に行っちゃって」

「にゃー、旦那に浮気されたわけにゃ」

「だ、だん──!? 私と柊さんは友人です、夫婦などではありません!」

「ぎにゃー!?」

「クロエー!?」

 

 クロエが吹き飛ばされた。

 

「全くおミャー等気が速いのニャ。ふーふになるにはまずはデートからニャ。奥手のリューには無理ニャ!」

「ですから、別に夫婦になりたいわけでは………」

「え? なになに、リューってば柊さんと夫婦になりたいの?」

「え!? ち、違いますシル! 私は………!」

「まずはデートから始めるらしいニャ!」

「吼えるな!」

「グニャー!!」

「アーニャー! お前等揃いも揃ってなんてアホなんだ!」

 

 アーニャが吹き飛ばされた。

 

「うーん。でも、私はお似合いだと思うけどなぁ」

「シル、何度も言うようですが私が柊さんと築きたいのは友情であり、愛情ではありません。私は友人になりたいのであって、決して夫婦になりたいわけではありません」

「ふ〜ん?」

「気のせいかな? なんかシルに角と尻尾と蝙蝠みたいな羽が見えるんだけど」

「壁に埋まってるミャー達が見えるわけねーニャ」

 

 そう、リューが柊と築きたい関係性は友人関係。決して夫婦になりたいなどとは、思っていない。

 

 

 

 なのに………!

 

「このような場所にお招きいただき感謝します。私はアリュード・マクシミリアン。こちらは妻のシレーネです」

 

 一体何故こんな事に!?

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