帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか?   作:匿名希望

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正義の妖精

「ここが僕達の新しいホームだ!」

 

 と、ヘスティアが誇らしげな胸を張る。

 そこは、元【アポロン・ファミリア】のホーム。アポロンへの処遇は脱退を求める眷属の脱退を認めることと、財産の7割没収。そして、オラリオからの半年間の追放。

 ホームは財産として【ヘスティア・ファミリア】が手に入れた。

 

「あそこに小屋を建ててくれ」

「俺はあの辺に鍛冶工房を………」

 

 改装工事を受け持ってくれた【ゴブニュ・ファミリア】に注文する柊とヴェルフ。

 ヘスティアはまず中を見よう! と扉を開く。

 

「なんじゃこりゃあああああ!?」

 

 アポロンがいた。

 柱一つ一つの間隔に置かれた様々なポーズをしたアポロン像。

 探索すれば、部屋の一つ一つに『君を何時でも見ているよ』と言わんばかりにアポロン像が置かれていた。

 

「ヘスティア、ここに隠れアポロンが…………」

「げぇ!? ほ、本当だ…………アポロンはアホロンなのか!?」

「結構高い素材使ってんなぁ………いっそ【ゴブニュ・ファミリア】に売るか?」

 

 こうして、ヴェルフの鍛冶工房とクルルの小屋だけを建てる予定だったが、中の改装工事もお願いすることに。

 ついでとばかりに各自の要望を聞き入れるとヘスティアが言うと命がとても食いついた。なんでも風呂にこだわりがあるとか。

 

 風呂場にあった両手に顎を乗せうっとりした表情を再現し寝転びながら口からお湯を流すアポロン像は、【ゴブニュ・ファミリア】の職人が原型わからぬほど砕いて持っていった。

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 

 荷物は一旦宿に置いて、各々引っ越しに備えて準備する中柊はメレンから侵入してきたアマゾネスに襲われるも路地裏に捨て、エルフが何やら偉そうに話しかけてきたが無視して豊穣の女主人を目指す。と………

 

「柊………少し、時間をいただけないだろうか?」

 

 漸くまともに話が出来るエルフが現れたので豊穣の女主人にそのまま誘う。

 後からこっそりついてくるエルフ達。これまでの一方的な会話からして、店についてきた挙げ句なんの注文もせずこちらを監視した上、注文聞きに来た店員に文句を言うのは目に見えているので魔法を使ってエルフ達の目から映らないようにしておく。

 

「で? 槍を譲れってなら、無理だが………」

 

 エルフは焼かれたかつての里の復興だの王族が持つに相応しいだの言ってくる。中には無理矢理奪おうとする者もいたが、オラリオに木が一本増えただけだ。

 

 路地裏に現れた果実のなる木に大人も子供も大喜び。実をもぎ、木に登り枝を降り葉や小枝だらけで家に帰り孤児院の院長に叱られる。

 

「槍か………関連してることは確かだが、私が欲しいのは森の木の実だ………」

「木の実?」

「ああ。霊薬実(タプアハ)という………」

「あの森の今の所有者は【デメテル・ファミリア】だぞ?」

 

 柊が面倒だから渡した。なんか精霊が住み着いているらしい。

 

「精霊郷でも手に入れたのだが、1つだけでな。まさかオラリオ付近であんなに手に入れられるようになるとは………」

 

 と、リヴェリアがふっと笑う。

 

「あの森に生える薬草なんかは【ディアンケヒト・ファミリア】と【ミアハ・ファミリア】に卸されてる」

「そうか。ありがとう………礼と言っては何だが、この店は私が出そう」

「そうか、なら………」

 

 

 

「じゃあ何かい!? アンタ、アンナを売ったっていうのかい!?」

 

 不意に聞こえてきた声に、耳の良い柊が一瞬顔を歪めた。周りの者達もなんだなんだと視線を向ける。

 

「売られたんじゃねえ、取られたんだ」

「同じことだよ! だから賭博なんてやめろって言ったのに、この駄目男!!」

 

 亜麻色の髪の女の叫びに無精髭を生やした男は力なく項垂れる。

 

「実の娘を質に入れる親が何処にいるのさあ!?」

 

 柊は向こうじゃ結構見かけたな、とどうでも良い話だったとチキンの香草焼きを食べる。

 リヴェリアや他の客が男に視線を向けていると視線に気づいた男が周りを睨みつける。

 

「何見てやがる! 見世物じゃねえ、お前らはまずい飯でも食ってろ!!」

 

 と、コップを掴み水を撒き散らす。広がる悲鳴………水は床に付く前にピタリと止まり、男の口に突っ込んだ。

 

「ごぽ!? がば………!!?」

「迷惑な客だ」

 

 柊がクルリと指を回すと男の口に残っていた水が一気に男の食道を通り抜け胃に入る。

 

「あれって………魔王か?」

「魔王だな」

「魔王だよな。一緒にいるのは、【九魔姫(ナインヘル)】?」

 

 ザワザワと柊に視線が集まる中、男が口元を拭い立ち上がり柊に食ってかかろうとするも、ガシリと両肩を掴まれる。

 邪悪な笑みを浮かべたクロエと、怒り心頭のアーニャだ。

 

「人様んちの水や食べ物を粗末にする奴は」

「神様に呪われて地獄に落ちると良いニャ」

 

 息ぴったりに両足を払い転ばせる2人。転がった男は、直ぐに立ち上がる。というか浮き上がる。

 

「うちの飯を食ってもないのにまずいなんてケチつけるとは、いい度胸してるじゃないか」

「ひ、ひぃぃ!?」

 

 ミアが片手で男を持ち上げていた。

 

「他の客に迷惑なんだよアホンダラァァァァ!!」

 

 そして、店の外までぶん投げた。

 柊は気にせず食事を続け、リヴェリアは気になるようだが店の店員を一目見て店を後にした。

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 結論から言うと、娘を質に入れたヒューイ・クレーズという男は嵌められた。いや、脅されたからと娘をかける時点でだいぶアレだが。

 

 だが、ヒューイに娘を賭けさせた冒険者達は元から彼とカレンの娘、アンナを狙っていたのだろう。元々評判の美人で、神にも求婚されたことがあるらしい。

 

 ギルドや【ガネーシャ・ファミリア】は動かない。動かないというか、すぐには動けないと言うべきだろう。

 この手の問題は昔からあり、ギルドはサポーターの地位改善にも忙しい。

 

「こんな時【アストレア・ファミリア】が居てくれたら!!」

「おいやめろよ、もうなくなった【ファミリア】の名前出すなんて」

「でもアストレア様が居てくれたら、こんな私達にも手を差し伸べてくれたはずさ!」

 

 シルはチラリと柊が座っていた席を見る。帰った後で良かった。ミアの料理を気に入っているようだし、嫌な思いで食事してほしくない。

 

 続いてリューを見る。

 何やら決めた表情のリューに仕方ないなぁ、と言うように微笑み………何かを思いついたかのようにいたずらっぽく笑った。

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 アンナ・クレーズを買ったのは大賭博場(カジノ)………それも娯楽都市(サントリオ・ベガ)最大賭博場(グラン・カジノ)『エルドラド・リゾート』の経営者(オーナー)テリー・セルヴァンディス。

 

 ダンジョン以外に娯楽のなかったオラリオに神々の要望で建てられた無数のカジノの運営は、あくまで外資を投資した他国の施設。

 

 各国から足を運ぶ大富豪達に何かあればオラリオの威信と風評に関わるため、【ガネーシャ・ファミリア】が守衛をしている都市内の治外法権にして守りの硬い施設。侵入は、まず不可能。

 

 諦めるべきだ、と情報を集めてくれたアスフィはいう。

 

 情報を手にして2日。

 資金と武器は集めているが、問題はカジノに侵入する手段。

 どうしたものか、と考えていると何やら話し声が聞こえた。まだ早朝だと言うのに、と覗いてみれば片方はシルだ。もう一人は、ちょうど帰るところ。

 

「シル?」

「あ、リュー」

「こんなところで一体何を?」

「そんなことより、見てリュー!」

 

 リューの質問を遮るように、シルは両手でその用紙を開く。舞踏会の招待状にも見えるが………。

 

「じゃーん、大賭博場(カジノ)招聘状(しょうへいじょう)!」

「──!?」

 

 冷静沈着のリューも、これには動揺を隠せない。

 

「……これは、どういう………」

「実は一昨日のリュー達の会話が聞こえちゃって。無理かなって思ったんだけど、大賭博場(カジノ)に入れませんかって知り合いに聞いてみて………これがあれば、入れるよね?」

「先程の男性ですか? 獣人のようでしたが………」

 

 通行証にもなる招聘状。これさえあれば、侵入せず堂々正面から入れる。そんなものを譲り受けれる知人なんて、シルの人脈の広さは底が知れない。

 

「あ、でもお金持ちじゃないと入れないから、ここに書いている人達になりすましてほしいんだって。小さな国の伯爵様らしいよ?」

 

 他国の貴族と繋がりがある。本当にどういう知り合いだろう? いや、今は助かったが。

 

「ありがとうございます。助かります…………」

「…………………」

 

 招聘状に手を伸ばすと、シルがサッとかわす。

 

「…………シル?」

「…………あのね、リュー。リューが一人で行っちゃうのは、私不安だな」

「!? まさか、ついてくる気ですか! 危険です、いくらなんでも!」

「え〜、でも。ほら、貰った招聘状には伯爵夫妻2名様って書いてあるから、一人だと怪しまれちゃう」

 

 ね? と首を傾げるシル。最初から、2人分の招聘状を頼んでいたのだろう。

 

「解りました。手段を選んでいられません、シルにも協力してもらいます」

「うん!」

「ですがくれぐれも私の側から離れないように、これは危険な捜査になります」

「はーいっ!」

 

 楽しみ〜と去っていくシルに、リューははぁ、と肩を落とす。

 アーニャやクロエがシルを魔女と呼ぶ理由が良く分かる。

 

「…………ん? 待ってくださいシル。さっき言っていた『夫妻』というのは…………」

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 オラリオ南方、繁華街の一角大賭博場区域(カジノエリア)の入口メインストリート沿いの巨大アーチ内。

 金をかけて作られた馬車から降りてくる地位と富を手に入れた富豪達。そんな馬車の列に加わり、国外から来たふりをする一つの馬車。

 

 やがて自分達の番になり、まず降りてきたのは()()()()()()()。豊満な胸を持ち、愛らしくも美しい容姿を持つ従者に富豪の男達が主たる馬車の中に居るであろう主人に羨望の眼差しを向ける中、現れたのは一人の男。

 

 長い青髪をした極東風の顔立ちの男。

 赤と黒のコートには金糸が編み込まれ、純銀の装飾といい、一目で金がかかっているのが良く分かる。それでいて、上品な仕立て。

 ほぅ、と貴婦人達が思わず見惚れる。

 

 カツンと烏を模したグリップのついた杖で石畳を叩き、振り返り手を差しだした。

 その手を取り現れたのは、メイドの女性にも劣らぬ美女。

 金髪のエルフだ。

 

 花の髪飾りから垂れたヴェールが顔の半分を隠しているが、それでも場馴れしていないかのように頬を赤く染めるエルフの容貌は見るものを魅了する。

 

「それでは旦那様、奥様、行きましょうか」

「ああ」

「………っ………はい」

 

 メイド………シルの言葉に髪を染め文字通り目の色を変えた柊は何処か面倒くさそうに、リューは羞恥に震えながら大賭博場(カジノ)へと歩き出す。

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