帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか?   作:匿名希望

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「は、ははは………マクシミリアン殿は、目がよく見えないのでしょう? 勘違いではありませんかな」

 

 柊の挑発にヒクヒクと頬を引きつらせるテリー。柊もそうだな、と笑う。

 

「しかし、なるほど。どうやらマクシミリアン殿は奥様を差し置いてこのアンナに相当ご執心の様子。ならば、賭博(ゲーム)をしませんか? 勝者は敗者に願いを聞き入れてもらう。勝者が望むものを手に入れるのです」

賭博場(カジノ)だしな………とはいえ、私が持ってきた資金では心許ない」

「ははは、お貸しますよ。せっかくの賭博(ゲーム)ですからね」

 

 と、運ばれてくるチップ。

 一枚一枚が最高額賭札(チップ)で、柊が稼いだチップではまるで足りない金額。

 周囲に集まるスタッフ達にリューが目を細める。

 

「富や地位。名声も勝ち得た私達が新に欲するもの。それは命を懸けた緊張感。違いますかな?」

「全てを得た後に欲するもの、か………私は、友が遊びに来れる空き部屋がある小さな家で、毎日花を買い、業突く張りな商人から時折新商品を買い、妻と過ごせれば、それ以上は求めませんかね」

 

 後は、身の程知らずのうさぎの面倒を暇潰しがてらに見てやるか。

 

「はははは、マクシミリアン殿は謙虚な御方だ」

「まさか、私ほど欲深い者はいないでしょう」

 

 どうあっても手に入らないものを心から願うなど、それ以上の強欲が何処にあろうか。

 

「とは言え、折角の賭博(ゲーム)ですからね。受けますよ」

 

 馬鹿な獲物がかかった、とでも言いたげなテリー。

 

「皆様もどうですかな? ここは最大賭博場(グラン・カジノ)。私とマクシミリアン殿の一騎打ちでは味気ない。条件は皆一緒です! 勝者の願いは私が叶えましょう! おっと、流石にお前の命を寄越せなどと物騒なのは無理ですが」

 

 はっはっは、と朗らかに笑うテリー。

 

「勝敗はチップの有無。元手のチップが無くなった時点で、敗北となります」

 

 他の客も乗る。全員テリーの共謀者(グル)。四面楚歌、敵しかいない。

 つまり、この戦いは…………

 

 

「ふむ………」

 

 柊に不利。

 誰が勝つかは、当然ランダム。だが、柊ばかりがチップを取られる。

 シルは落ち着いているが、リューは不安そうだ。

 カードのすり替えをしているわけではない。不正らしき不正は見つけられない。

 

 だけど、柊ばかりがチップを奪われている。

 

「ああ、そうそう。まだ私が勝った時の願いを言っていませんでしたな」

 

 隣に侍らせたアンナの腰を撫でながら、ニヤニヤと笑うテリー。視線の先に居るのは、リューとシル。

 

「私が勝った暁には貴方の伴侶、隣の奥様と………その美しいメイドを暫くお貸し頂けるでしょうか?」

「──!!」

 

 自分のみならずシルにすら下卑た視線を向けるテリーにリューが思わず立ち上がりかけ、シルが肩にそっと手を置き抑える。

 

「お美しい方々に囲まれて羨ましい限り。私も是非そのお零れに預かりたいと思いましたなぁ。なあに、私が暇な時に晩酌に付き合ってもらうだけですよ。二人っきりのね」

 

 ニチャア、と湿った音が聞こえてきそうな笑み。

 成る程、これが『洗礼』。

 チップを借りて負けた以上、どうしたって借金を背負う。その借金を盾に無理やり言うことを聞かせる。

 その上で、頭を垂れた相手に美姫達を貸し懐を潤わせることで懐柔してきたというところか。

 

 それでも懐柔できなければ、後ろで控えている他の護衛より頭1つ程度は抜け出ている2人の護衛に処理されているというところか。

 

「生意気な者や欲に目が眩んだ者、貴方のような正義感を突き動かされる者………私は全て食い物にしてきましたよ」

「………生憎眩む目も無ければ、正義感なんざ捨てているが…………この2人を欲しいと?」

「私も愛する者を賭けるのです。それで対等というものでしょう?」

「咆えるな」

 

 ピリッと空気が張り詰め手練れの2人が思わず獲物に手を伸ばす。

 

「お前が集めた女を何人揃えようと、この女に釣り合うものかよ」

 

 シルがまぁ、と手を口元に当て、リューは言葉の意味を理解し顔を赤くする。

 

「は、はは。アンナを欲しがる方の台詞とは思えませんな…………」

 

 慌てて取り繕うテリー。大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。

 勝つのは自分だ。そうなるよう、手を回しているのだから。

 

 

 

「はい、おつかれ」

「…………………」

 

 年老いた獣人のチップが尽きる。

 受け取った柊は退屈そうに欠伸をする。

 シルはニコニコ微笑み、柊に手札の絵を耳打ちするリューは困惑していた。

 

 明らかに上役でもあっさり勝負を捨てた。そして、その際相手は必ず柊より上の組み合わせ。

 逆に柊が勝負すれば必ず勝つ。

 

「何をしているのですか?」

「イカサマ」

 

 小声で尋ねるリューに、小声で返す柊。

 ますます困惑するリュー。イカサマと言われても、柊に怪しい動きはなかった。

 

「向こうのイカサマを利用させてもらってるだけだがな」

 

 勝負前に、必ず誰か一人が酒を頼む。疑えと言っているようなものだ。

 だから最初の勝負を捨て、彼等が頼む酒とその際のカードの組み合わせを覚えた。

 

「マ、マクシミリアン殿………急にお強くなられましたな。まるで我々のカードを透かして見るような」

「そうだな」

「っ! な、なにかイカサマでもしているのではないでしょうな?」

 

 と、柊を睨みつけるテリー。当然そのような脅しなど柊に通じるはずもない。

 

「そうか、方法が見つけられると良いな。ああ、アルテナワインの三十年もの」

「っ! わ、私も………」

 

 と、ドワーフの富豪が柊とは別の酒を注文する。

 柊の勝利。カードはJのスリーカード。その手役(ハンド)を見てテリーや他の客が目を見開く。

 

「どうかしたか?」

 

 柊が自分達の手役(ハンド)を明かした不正の指摘、出来るはずもない。

 それを認めるということは、自分達のイカサマを認めるということだから。

 

「い、いえ……」 

 

 すぐに周りの客に目配せするテリー。これ以上手役(ハンド)を明かすわけには行かない。だが、それはつまりお互いのカードも解らないと言うこと。

 いや、たとえそうだとしても勝つのは…………!!

 

 

 

 

「ストレート!」

「フルハウス」

 

 勝つのは柊。

 単純に、引きが強い。

 

 逆転を狙い強い手役(ハンド)で挑んでも柊が勝つ。理由? そもそも柊は賭け事大好きな聖女に運だけで勝てる豪運の持ち主だ。

 

 途中幾ら負けても最終的に勝つ。聖女は涙目で二度と対戦しないと言っていた。

 

「……………………」

 

 一人、また一人とチップを失い、柊の前に積まれるチップの山。

 残るはテリーただ一人。

 

「どうせ俺が勝つんだったら、参加費(アンティ)を増やして搾り取ればよかったな」

 

 紳士然とした態度は鳴りを潜め、本来の口調に戻っている。富豪達はそれだけで馬鹿にされているとムキになり挑んでくるが、それでもそこそこ時間がかかった。

 

「……………!」

 

 ふざけるな、何だこれは!?

 自分を誰だと思っている! ギルドですら介入できない最大賭博場(グラン・カジノ)経営者(オーナー)! 上級冒険者すら恐れ慄く裏社会でも名高い猛者を従えた賭博の楽園の王!

 いいや、迷宮都市(オラリオ)の王だ!!

 

 それなのに、良く見えていないという瞳はテリーを全く映さない。ただ面倒だと言いたげな瞳。

 

 気に入らない!

 気に入らない気に入らない気に入らない!!

 自分を見下すその態度、美しいエルフを妻とし、美しいメイドを侍らせるその在り方が………!!

 

「……! ふ、ふふ……ふはははは!!」

 

 そして、配られたカードを見て高笑いするテリー。

 勝った。この勝利で、流れを変えてやる!!

 

「そこまで早く終わらせたいのなら、いっそ全賭札投入(オール・イン)と行きませんか?」

「ああ良いぞ」

「ひっ………あ、貴方!?」

 

 柊があっさり乗ったことに困惑するリューは、しかし柊の手役(ハンド)を見て固まる。テリー達に聞こえぬように耳打ちし、なら問題ないなとチップを前に出す。

 

「はははははは! 馬鹿が! どれだけ強い手役(ハンド)だろうと! 俺に勝てるものか!! 生意気なクソガキめが、身の程を弁えろ!」

 

 本性をさらけ出し豪快に笑うテリー。他の席の客も何事かと視線を向ける。

 

「礼儀知らずの貴様に教えてやる! 敗者は勝者の足元に這いつくばれば良いのだ!」

 

 ロイヤルストレートフラッシュ。♣のA、10、J、Q、K。今回の賭博(ゲーム)において最強の手役(ハンド)

 

 テリーの共謀者(グル)がおお、と笑みを浮かべアンナの顔が絶望に染まり、シルはニコニコリューは困惑。

 

「ファイブカード」

 

 4枚の9に、兎に跨る道化師が描かれた特殊札(ワイルドカード)。この賭博(ゲーム)における、真の最強の手役(ハンド)

 

「ファウスト!!」

 

 テリーの言葉に呻きながらも首を横に振るヒューマンの用心棒。不正はなかった。ただの豪運。

 

「どうした、礼儀を知らないようだな………? 跪けよ、それが敗者の礼儀だろう?」

「きゃー! 旦那様、かっこいいー!」

 

 先のテリーの言葉に対する意趣返し。シルがパチパチと拍手を送る。

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