帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか?   作:匿名希望

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恋する乙女

 外が騒がしい。直にここにも人が来るだろう。

 

「行くぞ」

「はい」

「はーい」

 

 柊の言葉にシルとリューも付いてくる。アンナもその後について行こうとして、バランスを崩す。

 

「あっ………ありがとうございます」

 

 転ぶ前に柊が支えた。テッドに無理矢理走らされた際、ヒールが折れたようだ。

 今ので足も捻ったか。

 

「歩けるか?」

「は、はい…………っ」

「無理そうだな」

「きゃっ!?」

 

 助けられておいてこれ以上迷惑をかけられない、とでも思ったのか歩けるというアンナを抱える柊。シルがあら、と口元を手で隠す。

 

 チラリとリューを見るシル。

 

「柊さん、女性にみだりに触れるのは……」

「お前が持つか?」

 

 と、柊がアンナをリューに渡そうとするが、アンナはキュッと柊の服を掴む。

 

「……いえ、お願いします」

「………………むむ」

 

 怯えているようですから、と身を引くリューに、何やら言いたげなシル。

 アンナを抱えたまま移動する柊。アンナはぽーっと柊の顔を見つめ、柊と目が合うと慌てて逸らす。

 まあ、そもそも柊は目が見えてないから実際にはあってないのだが。

 

 

 

「人が増えてきたな」

 

 建物の外から出たが、【ガネーシャ・ファミリア】の眷属に包囲されている。対応が早いな………というか、早すぎる?

 

「侵入者は見つかったか?」

「──!」

 

 と、不意に聞こえてきた声にリューが固まる。現れたのは鋭い印象を与える麗人。Lv.5の【象神の杖(アンクーシャ)】シャクティ・ヴァルマだ。

 【ガネーシャ・ファミリア】の団長。

 

「知り合いか?」

「…………ええ」

 

 かつて都市の守護者として何度も肩を並べた相手。戦友と言ってもいい。彼女の妹とも、親友だった。

 リューの顔が曇る。彼女を相手しながら非戦闘員のシルとアンナを抱えて逃げるのは難しいと思っているのだろう。

 

「…………此処は私が受け持とう。人手が足りないようだ、お前達は店の中を手伝ってやれ」

「え、ですが……いえ、解りました!」

 

 と、【ガネーシャ・ファミリア】の団員が店の中へと入っていき、残されたのはシャクティ一人。

 リュー達が隠れる茂みに視線を向ける。

 

「出て来い」

 

 シャクティの言葉にまずリューが出る。

 シャクティはリューを見て、ため息を1つ。

 

「エルフを連れた賊が入ったと言うからもしやと思ったが、やはりお前かリオン」

 

 そして、柊の腕に抱えられ不安そうな顔をするアンナを見る。だいたい納得したのか、もう一度ため息。

 

大賭博場(カジノ)側の蛮行をどう検挙するか、計画を立てていたがすべて水の泡だな…………」

 

 なるほど、対応が早かったのはそもそもテッドを逃さぬ包囲網を敷くために、予め逃げ道となりうる場所を見極めていたからか。

 

「……………私は何も見ていない。多くの者が探しているお尋ね者も、攫われた娘を救う義賊も…………何も、な」

 

 見逃すということだろう。

 彼女なりの礼なのだろうか?

 

「ありがとう、シャクティ」

「良いから行け」

「……これを」

 

 と、リューが『開錠薬(ステイタス・シーフ)』を渡す。シャクティもそれだけで察した。

 

「いい人だね」

「ええ、私の尊敬するヒューマンの一人です」

「なるほど……いい女だ」

 

 ガネーシャの善性から考えて、眷属も善よりの人間だとは思っていたが………。

 その後、シャクティが団員を誘導したのか手薄になった大賭博場(カジノ)を進み、大賭博場区画(カジノ・エリア)を抜けた。

 

「こちらへ………」

 

 と、リューの案内の下路地裏に進むと馬車があった。

 

「リュー、お前治癒の魔法はあるか?」

「はい………癒やすのならば、抱える必要はなかったのでは?」

「あの場で魔法を使えば見つかるだろ」

「それは………そうですね…………」

 

 まだなにか言いたそうだったが、諦め素直に傷を癒やす。

 

「では、この馬車に乗ってください」

「え? で、ですが………」

「大丈夫です。母親達(カレンさんたち)が居る場所へ行くようお願いしていますから」

 

 困惑するアンナは、シルの言葉に更に困惑しつつも柊達を信用したのか馬車に乗り込もうとする。が、不意に立ち止まり柊に向き直る。

 

「あ、貴方には愛する奥様がいらっしゃるのは重々解っております! これから言うことが、貴方を困らせることも……!」

 

 突然の行動に目を白黒させるリューに、おお、と傍観するシル。

 

「でも、それでも私は! 身を挺して守ってくれた貴方のことが………!」

 

 ハッとアンナの目に籠もる熱に気付くリューと、とっくに気づいていたが親友の味方をするか恋する乙女の味方をするかこのまま楽しむか迷うシル。

 

「私は、貴方に恋をしています!」

「………………光栄だな」

 

 例えば甘い台詞を吐いて煙に巻く、程度はできるだろう。悪い夢を見ていた、忘れろなんて歯の浮くような台詞なんざ簡単に出てくる。

 

「………………………」

 

 ただ、適当に流したら恋する乙女の味方をする気らしいシルにネチネチ言われそうだ。今もニコニコ柊の対応を待っている。

 

「偽りのない想いを伝えた相手に、偽り続けるのも失礼か」

 

 と、柊は魔法を解除し髪色と目の色を戻し、整えられていた髪を解く。

 

「改めて、俺は柊。こっちはリューとシル…………妻でもなければ、メイドでもない」

「…………な、なら」

「だが、お前の想いには応えられない」

「───ッ!」

 

 リューが妻ではないと聞き、笑みを浮かべるアンナだったが、柊が続く言葉を遮った。

 

「それは……好きな人が、居るから?」

「そうだな、忘れられない女がいる」

 

 まあ彼女の場合『何時までも死人を引きずって下を見てないで新しい女の一人や二人作って前を見なさい』とか言うのだろう。

 そのくせ『あ、でも私のことを忘れたらぶっ殺しますからね』とか言う女だ。

 

「俺はまだ、未練がましく彼奴を引きずっていたいからな………テッドに言った女好きは事実だが、酒や薬と変わらん……」

 

 ただ一時の快楽を求めるだけ。

 そんな自分が本気の女に応えるなどもっての外だ。

 

「まあお前は中々良い女だからなあ、直ぐにでも良い男を捕まえられるだろ」

「いいえ…………」

 

 と、アンナは首を振る。

 

「私は、貴方に妻がいたとしても、想いを告げました………貴方の心に、誰が住んでいても、同じ事です」

「…………何?」

「断られて諦められる訳がありません。この想いが、助けられた故の勘違いかもしれなくても、それなら今だけは諦めたくないんです」

 

 だから、想い続ける。何時か振り向いてくれるその日まで。

 そう決意に満ちたアンナの顔は、元々リューも美しいと思っていたが、更に美しく輝いているように見えた。

 

「あ〜、これは諦めませんね」

()()は無駄な愛に文句の1つでも述べないのか?」

「無駄な『愛』なんてありません。怒りますよ? 女の子は、恋する乙女の味方です!」

「………ベルに惚れてる女どもは?」

「そ、それは………まあ………ライバルですし?」

 

 少なくとも恋敵の味方にはならないらしい。

 

「だけど今はこの子の味方!」

「……………好きにしろ」

 

 どうせ何を言ったところで無駄なのだ。あったばかりの吊り橋効果。熱が冷めて恋から覚めるのを待てば良い。

 

 アンナは柊に一礼して馬車に乗り込むと、馬車は去っていく。

 

「というか柊さんってそんなに思う相手がいるのに女の人に手を出すんですね」

「恋人が居る時は他に手は出さねえよ」

 

 彼女と恋人関係になる前から、柊は娼館に良く訪れていた。その上で告白してきたのは向こうなのだ。

 そして柊は彼女が生きている間、死んだ後暫くは女を抱かず酒と薬だけに頼っていた。

 

「酒と薬と女にペット………生憎それぐらいしか知らないもんでな」

 

 他の現実逃避の方法………或いはモンスターを殺すのをストレス発散にしている冒険者は居るかもしれないが、柊にとってはモンスターを殺す理由は金稼ぎ程度。

 暴れるに暴れれば少しはストレス発散になるだろうが、()()()()()()()()()()()

 

「つまり恋人ができれば女癖の悪さは治る、と」

「生憎、本気の女を相手する気はねえよ」

 

 覚えておきます、とシル。覚えておいて何になるのかと呆れる柊。恋する女はこれだから苦手だ。

 

「………ん?」

 

 と、大賭博場区画(カジノ・エリア)の出入り口が騒がしくなる。

 見れば数人の男達が【ガネーシャ・ファミリア】に追い出されるところだった。ていうかベル達だ。

 

「ベルに暴れるよう命じたのはお前か?」

「命じるなんてとんでもない! 貴賓室(ビップルーム)は【ガネーシャ・ファミリア】も手を出せないから絶対に近づいちゃ駄目ですよ〜って言っただけですよぉ」

 

 それを『誰も近づけるな』と理解したベルがモルド達に頼み込んだわけだ。モルドからしたら良い迷惑。ベルに掴みかかり泣いている。

 

「…………!」

 

 と、ベルがこちらに気付く。

 

 

 

「リューさん、柊さん、シルさんも………無事だったんですね!」

「ベルさんのおかげですよ」

 

 男泣きするモルド達を置いて駆け寄ってきたベルは特に怪我をしている様子もない柊達を見て安堵する。

 

「柊さん達の方は、うまく行ったんですか?」

「余計な時間は食わずに済んだが…………何も聞かないのか」

「?」

「なんで不思議そうな顔してんだよ」

 

 ベルはえ〜っと、と返答に困ったように唸る。

 

「…………柊さんが、間違ったことをしないと思っているからですかね?」

「買いかぶりも良いところだな。俺だって国を滅ぼすことぐらいある」

 

 実際出来そうだな、と柊が森を召喚したのを直接見ているリューとベルは思う。

 

「でも、柊さんは僕を助けてくれた人だから。リューさんも、僕が18階層でモルドさん達を助けようとしたのを、間違ってないって言ってくれる人ですし……だから、えっと…………二人を信じてますから」

「…………………」

「嫌そう!?」

 

 柊の顔になんで〜と落ち込むベル。そんなベルに、シルが話しかける。

 

「ところでベルさん、先程は感想を聞けませんでしたが、どうですか私のメイド姿! そして眼鏡! 知的で素敵なメイドに見えますか?」

 

 両手を広げアピールするシルにベルは真っ赤になる。ちなみに正統派のロングスカートのメイドだ。

 ベルは祖父の教えからミニスカメイドの絶対領域も好きだが、正統派メイドも普通に好きだ。

 

「は、はい、とっても可愛いです…………あの………一回、回ってみてくれますか?」

「? こうですか?」

 

 クルリとその場で回るシル。スカートがふわりと広がる。

 

「ありがとうございます!」

「喜んでもらえてなによりです」

「今の動きになんの意味が?」

「知らん」

 

 リューの言葉にそう答えながらも、柊は初恋の相手や元カノでメイド姿を想像する。前者はなんか如何わしくなったし、後者は主人の家を乗っ取りそうだ。

 

「まあいい、帰るぞベル」

「あ、はい! 引っ越しを手伝うって約束、破っちゃいましたからね………神様達、怒ってるだろうなあ」

「約束…………?」

「そういえば、柊さんの言ってた予定ってこの事だったんですね」

「………………………」

「柊さん?」

「…………デメテルだ」

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