帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか? 作:匿名希望
「漸く完成だ! ここが僕らの新しいホーム!!」
元【アポロン・ファミリア】の館………新たな名を竈火の館が完成した。アポロン像も隠れアポロンもベッドの下とか屋根裏にいた潜みアポロン像も全部破壊したのだ。
「思った以上の出費だったけど、良かったのかい?」
「俺が住む家だしな」
それに音や空気の流れなどで周囲の世界を認識している柊にとっては、隠していようと潜んでいようと鮮明に感じ取れるので、全部破壊してもらった。
「ヘファイストスに地下室に押し込まれた僕が、とうとう屋敷持ちに!」
とうとうどころか、一気にだが。因みに教会は柊がゴブニュに直させた。あの場の空気が好きなのだ、たまに昼寝しに行くつもり。
「よおヘスティア、完成したんだって?」
「めでたいな」
「ミアハ! タケ!」
と、タケミカヅチとミアハがお祝いに来てくれた。
「貴方ねぇ、そもそも貴方が働かなかったのが悪いんでしょ?」
「ヘファイストス!」
「ヘファイストス様!」
ヘファイストスもやってきて、嬉しそうな顔のヘスティアとヴェルフ。
ヘファイストスが「どうせだから貴方の新しい仕事場を見せてちょうだい」という言葉にヴェルフがヘファイストスを案内する。
「しかしすっかり抜かれてしまったなあ」
「だが、喜ばしい」
つい最近まで零細ファミリアである自分達と同じだったのに、今や屋敷を持つに至ったヘスティアに、
柊は2人があの世界の神でなくてよかったな、と思った。きっと骨の髄まで神性を搾り取られていたことだろう。
「あら、ひょっとして私が最後かしら?」
「デメテル! 来てくれたんだね!」
最後に来たのはデメテルだ。ペルセポネーが作物などが入った台車を引いている。
「あら、私が約束破ると思ってたの?」
「いや、でもほら………デメテル今、忙しいんだろ?」
「そうね。その事で柊ちゃんに相談があったのだけど………」
柊が生み出した森は、武装融合すらしてない簡易的な力とは言え神の死体から作られた槍で生み出された。
宿る神秘に下級精霊達が集まり精霊の住処となっている。そこで取れる希少なはずの果実や薬草、そこに新種も加わり様々なファミリアやエルフが欲しがった。
特にエルフは自分達こそ精霊に近しい種なのだからと主張し森を寄越せと宣う。そうなれば折角の果実も薬草も採取出来ないか、高い金で売られるか………。
それを嫌ったロイマンは森の今後は生み出した柊が決めると発表。柊は絡んでくるエルフを無視してデメテルに渡したのだ。
「それでも無断で侵入しようとしてくるエルフや盗賊……そっちはまだいいのだけど、新種の植物について相談したかったのだけど…………」
その約束を柊がすっぽかした。
「うふふ、柊ちゃんったらまだまだやんちゃね」
「おいおいおい! 何やってるんだい柊君! デメテルは怒らせると怖いんだぞ!?」
ニコニコ笑うデメテルに怯えながらコソコソ耳打ちするヘスティア。同郷だけあり良く知っているらしい。
一度彼女を怒らせあのゼウスが謝罪し続けるはめになった。
地上でも懲りずに彼女の眷属に手を出し、ブチギレたデメテルによって【ゼウス・ファミリア】が暫くダンジョンで取れる食材に頼り切った時期もあったとか。
「今度埋め合わせをするならと許してもらった」
あのとき何か思いついた顔は、シルに似ていたな。豊穣の女主人の店員と豊穣の女神………それ以前に、まあ、似てるところがあるのだろう。
「デメテル、あまり無茶なお願いはしないでくれよ?」
「解っているわよ、ヘスティア」
「ふふふ! さあ、それじゃあ次の発表だ!」
広間に全員集め、ヘスティアが宣言する。
「これが【ヘスティア・ファミリア】のエンブレムだ!」
掲げる羊皮紙に描かれるのは、開いた本、その上に燃える鐘。
炎はヘスティア、鐘はベルだろう。なら本は?
「この本は英雄譚の本なのさ」
「じゃあ柊さんなんですね!」
「は?」
英雄譚の本で何故自分になるのか、と眉根を寄せる柊。
「柊君はベル君にとっての英雄だし、デメテルにとってもそうなんだろ? だけど敢えて白紙! 柊君の英雄譚は、ここから始まる!」
「…………!」
ベルが満面の笑みで拍手する。柊は面倒くさそうな顔をする。
「まあ別に英雄譚じゃなくてもいいんだけど。君の過去は知りたいけど、聞かない………だからこれから一緒に作っていこう、ってね」
エンブレムが意味するのはヘスティア、ベル、柊。
【ヘスティア・ファミリア】始まりの3人。
「でもこれだと柊殿が燃えてしまうのでは?」
「柊君ならマグマに落としても燃えないでしょ」
「ヘスティアよ、マグマより炎のほうが熱いこともあるぞ」
「そうなの!?」
「うむ、炎の温度に上限はないからな」
「そ、そうだったんだ………」
なんで炎を司る神なのに知らないんだ。
「そう言えば僕も昔、マグマを蒸発させたことがあったような………!」
「何があった………」
ハッ、と何かに気付いたような顔をするヘスティアに柊が思わず突っ込んだ。流石は聖火の神、やることが半端ない。
◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆
「……………お祝い、お祝い」
ロキに薦められた花を持ち、ベルの………【ヘスティア・ファミリア】の新しいホームを目指すアイズ。
そう、お祝い。戦争遊戯の勝利とか、新しいホームとか………後、どうしてもベルに…………
「あ………」
「!」
と、曲がり角で人にぶつかりそうになった。見れば、花束を持った女の人だ。
奇麗な人………素直にそう思える美少女。
「もうしわけありません、冒険者様」
「ううん、こっちも急いでいたから。ごめん」
お互い謝罪し、歩き出す。
同じ方向に。
「…………………」
「…………………」
不思議そうにお互いを見て、偶然かと歩いているが、同じ曲がり角で曲がる。
「………あの、もしかして、【ヘスティア・ファミリア】にようがあるんですか?」
「はい! 冒険者様も?」
「私は………【ヘスティア・ファミリア】じゃなくて、その一人に………」
「奇遇ですね。私もです!」
と、奇麗な顔で笑う少女。
この人も………ひょっとして…………
「ベル、ですか?」
「ベル……? ああ、【
あの鍛冶師の人か、柊さんかな?
ベルじゃなくて、良かった…………良かった?
「ところで………その花はどちらの意味で?」
「意味? えっと………ロキが、持ってくならこれだって」
「…………冒険者様。花言葉はご存知ですか?」
「花言葉?」
アイズがロキに持っていくならと薦められた花の名はスノードロップ。花言葉は「希望」「慰め」「切ない恋愛」そして……「貴方の死を望む」。
アイズは帰ったらロキを殴ると決めた。
「わざわざありがとう」
「いえ、私としてもあの花が届けられても困りますし………それに」
結局、少女が新しい花を選んでくれた。良い子だ、感謝。
「それになんだか、私達似てる気がしたので」
「…………?」
「少しだけ、貴方が羨ましいです。同じ冒険者だから、会いやすいんだろうなって………」
「会えないの?」
「会ってくれるとは思うんですけど、まだこうやって口実を作らないと、恥ずかしくて………」
そう言って恥ずかしそうに笑う少女の顔は、さっきよりも………
「綺麗………」
「はい?」
「!? ご、ごめんなさい。つい………」
「いえ、ありがとうございます」
あの人に会うのに、綺麗でいられたら嬉しいですからと笑う少女。やっぱり、さっきより綺麗に見える。なんでだろう?
ここに街娘がいれば『恋する女の子はきれいになるんですよ』とでも言っていただろう。
「
「ほ、本当にありがとうございます、アイズさん。すごく、嬉しいです! あ、えっと……貴方は柊さんに会いに来たんですよね? 待っててください!」
と、ベルは屋敷の奥に走っていた。花は、喜んでもらえた。
「良かったですね」
「うん、ありがとう………」
暫くしてベルに連れられ柊がやってくる。彼を見るアンナの顔は、アイズが今日見た中で一番綺麗だった。
潜みアポロン像
伝えたいメッセージ『隠れて君を見守ってるよ』『私がそこにいなくとも、私は君のそばにいるよ』『見える形だけが愛ではない』