帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか?   作:匿名希望

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追われる兎

「それで、どういうことですかヘスティア様!」

「いや、その…………ベル君のナイフを作るのにちょっとヘファイストスに…………」

「………やっぱり、あの人の作品だったか」

「因みに俺の煙管入れもヘファイストスとヘスティアの合作だ」

 

 こちらはそこまで値を張らなかったが。

 

「柊様は知ってたんですか!?」

「ただの端金だろ」

「………………………」

 

 そう言えば柊は深層まで潜れるので、大量の金を持っているのだった。

 

「その借金はヘスティアのものだ。手伝うと言うなら俺を巻き込むな」

「それは、まあ…………意気込んだ瞬間返済終わりですしね」

 

 と、リリ。

 眷属皆で返します! と宣言しその中に柊を混ぜたら、ポンと返される。

 

「でも、僕達には手伝わせてください」

「うう、でも………いいや、駄目だ! ヘファイストスの約束もあるしね、これは…………ごめん、僕の借金だ」

「…………神様」

 

 それでも支えたいというベルにより、もう借金をしないよう金を貯めることになった。

 ヴェルフ達も手伝うつもりらしい。

 基本方針は探索。なるべくダンジョンでしか取れない素材やドロップアイテムを集めることを優先する、らしい。

 

「となると家政婦(メイド)執事(バトラー)も雇えんな………このだだっ広い屋敷を自分達で管理するのか………」

 

 まあいざとなれば精霊達にでもやらせるか、とエルフが聞けば発狂間違い無しの方法を考える柊。

 メイドと聞き、シルでも思い出したのか顔を赤くするベル。

 

「ベ〜ル〜く〜ん? 何を顔を赤くしてるんだい! 何を考えている!? 言え!」

「ち、違います神様! 別にメイド服姿のシルさんが可愛かったな〜とか、眼鏡も似合ってたな〜とか思ってません!」

「神に嘘が通じるかー!」

「ベル様ー! シル様はいけません! ベル様みたいなお子様、骨の髄までしゃぶられますよー!」

 

 と、ヘスティアとリリが叫ぶ。ベルが女にうつつを抜かすのを我慢出来ないようだ。

 

「柊様からもなにか言ってやってください!!」

「あ? あ〜………ベル、お前が恋人になりたい女はそいつ等じゃねえし、あの女が嫌がらない限りは好きにすりゃいいだろ」

「柊君!?」

 

 柊が味方しなかったことにガーンとショックを受けるヘスティア。

 柊としてはベルが好きなのはアイズであって、ベルの女関係に口出ししていいのもアイズだろうと思っている。これに関してはヘスティアの味方をしない。

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 

「男女の仲ってのは面倒だ」

「?」

 

 柊にブラシで毛繕いされクククと喉を鳴らしていたクルルは柊の言葉に首を傾げる。

 地上に出たモンスターは繁殖するらしいが、クルルにもその内番を見つけてやるべきだろうか?

 

「キュ〜ン」

 

 まずはそのモンスターを人間に懐かせるところから始めなくてはならないが。

 いや、何時だったかあったあの知恵の有りそうなモンスター共なら別か? 次彼奴等にあったら雌のドラゴンがいないか聞いてみるか。

 

「………まあそれは何時かでいい」

 

 ブラッシングを終えた柊はクルルによりかかる。そのまま煙管に火を付けようとして、止まる。

 脳裏に浮かべるのは、先程の和気藹々とした【ヘスティア・ファミリア】のやり取り………。何処か懐かしい、あの騒がしさ…………。

 

「……クル?」

「………………」

 

 火をつけず、煙管入れにしまう。

 

 

 

 

 

「っ………あぁ、くそ…………未練がましいな俺も」

 

 結局悪夢に魘された。

 煙を吸い神酒(ソーマ)を舌で味わうより早く胃に流し込む。因みにディオニュソス製だ。ソーマのはキチンと味わいながら酔うまで飲む。

 酔いが回ってきたのでソーマ製のものに切り替える。

 

「キュウウ………」

「あー、心配するな……夢見が悪かっただけだ。いや、良かったのか?」

 

 彼奴等が絶対に言わないことを言ってくれたのだから………いや、やっぱり悪いな。自分で嘗ての仲間を侮辱した。

 

「出かける」

「ク〜ン」

 

 心配そうにすり寄ってくるクルルの顎を撫でてやり、柊は歓楽街へと向かった。

 

 

 

 あのアマゾネス共、やはり【ファミリア】に引き入れていればよかったか………。

 などと考えるも、多分不要な時にも求めてくるしベル達に突っかかるだろうしヘスティアの教育に悪い。

 

「柊様?」

 

 エルフの娼婦、アルミアは何やら考え込む柊に不安そうに声をかける。

 

「ああ、別にお前に不満があるわけじゃねえよ。考え事だ……八つ当たりみたいに抱いて悪かったな」

「い、いえ…………」

 

 その言葉に赤くなり俯くアルミア。娼婦へと身を落としてまだ半年すら経っていないが、この程度の言葉には過剰に反応しなくなった。

 

「まだ気が晴れぬようでしたら………」

「いや、だいぶ楽になった」

 

 とは言いつつも薬は手放さない柊。

 ふぅ、と煙を引き出す。アルミアはおずおずと話しかける。

 

「柊様は、お気に入りの娼婦が遊郭に居るというのは、本当ですか?」

「ん? ああ、春姫か…………」

 

 名まで出たということは、本当なのだろう。極東の娘のようだ。

 自分もそれなりに買われているのに、その娘ばかり噂になるのは、その娘の方により多く通っているからだろうか?

 

「あの…………」

「ゲゲゲゲゲゲ! 逃さないよぉぉ!」

 

 アルミアが意を決して声を紡ごうとすると、外からヒキガエルのようなしゃがれた声が聞こえる。

 

「ひいいいい!!」

 

 窓の外、屋根の上を兎のような少年が駆け抜け、その後ろをアマゾネス達と巨大なヒキガエルが追いかける。

 

「…………………あの馬鹿が」

 

 柊は一瞬で着替えると金を置いて窓から飛び出した。

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 ベルは逃げていた。

 彼が歓楽街に居るのは、様子のおかしい命に気付いたから。なんだか不安でヴェルフとリリとともに後を追えば千草と合流した命がやってきたのは歓楽街。

 

 『サービスターイム!』という女の言葉に男達の波が押し寄せそれに巻き込まれたのだ。

 その後極東風の区画で美しい狐人(ルナール)の美少女に見惚れているとヘルメスと出会い精力剤を渡され、慌てて返そうと追いかけたらアマゾネスに捕まった。

 

 そして【イシュタル・ファミリア】のホームに連れて行かれたと思えば巨大なカエルが現れた。

 訂正しよう、ヒキガエルのようなアマゾネスが現れたのだ。自分を美しいと言って憚らない彼女はベルに肉食獣のような瞳を向け、ベルは逃げ出した。

 

 だが、ベルを狙うヒキガエルの化け物とアマゾネス達はしつこく追ってくる。

 

「ゲゲゲゲ! まちなぁ、忘れられない夜にしてやるよぉ!」

 

 ところでカエルが鳴くのは発情期って知ってる? 番が欲しくてケロケロ鳴くんだぜ、カエルって。まあ、鳴くのは雄だけど。

 

「逃がすなぁ!」「追い込め!」「白髪の冒険者だ!」

 

 此処は【イシュタル・ファミリア】のテリトリー。娼館の殆どが、【イシュタル・ファミリア】の経営する店。

 

 非戦闘員も居るが、恩恵を持った娼婦は何もアマゾネスだけではない。

 ただし身の危険を覚えるのはアマゾネス!

 

「ゲゲゲボラァ!?」

 

 なんか後ろで悲鳴が聞こえたが、ベルは振り返る時間を惜しみ全力で逃げようとして捕まる。

 

「ひぃぃ!? って、あれ………柊さん?」

 

 腕を掴んだのは柊だった。

 アポロンの一件からLv.3となったベルがピクリとも動けない。本当にLv.1とは何なのだろうか?

 

「………こっちだ」

 

 柊は追ってくるアマゾネスの大群に面倒くさそうな顔をしてベルを担ぐと走り出す。

 

「兎が連れてかれたぞ!」「え、嘘!? 男同士でそういうぶぎゅ!」「うわああ!? 飛んできた屋根のかけらが!」「大丈夫、この鼻血は前から出てた!」「フリュネが息してない!」「ほっとけ! その内目を覚ます!」

 

 後ろから聞こえてくる声が、ドンドン小さくなっていく。柊は走りながら看板を引き剥がしアマゾネス達に向かいぶん投げる。

 

 屋根から落ちるアマゾネス達。冒険者だし生きてるだろうけど、多分骨とか折れたよね?

 

 柊はそのまま極東風の建物が集まる区画に来ると(リボン)が結ばれ開いた部屋に飛び込む。

 

「こん!?」

 

 中からそんな悲鳴が聞こえた。見れば、先程の狐人(ルナール)少女。

 窓からの侵入者に目を白黒させる少女は柊の顔を見て、ベルを見て、口元を抑えて顔を真赤にさせて気絶する。

 

 と、ドタドタと外が騒がしいのに気付いた柊はベルを部屋の隅に放り投げ、気絶した少女の服をはだけさせ布団に投げて押し倒す。

 

「春姫! こっちに男が……………あ、すいません」

「春姫が、とうとう肉体関係に!?」

 

 何処か嬉しそうに部屋を出ていくアマゾネス達。

 柊の耳には、アマゾネス達が部屋にしばらく誰も近づかないよう言って回っているのが聞こえる。

 

「…………もう良いぞベル、出てこい」

「は、はい………あの、その人は?」

「春姫だ」

「あ、はい………」

 

 知り合いということは、柊はあの人を買っているのだろうか?

 ここって、そういう場所なんだよね、と唾を飲むベル。

 

「う、うう〜ん………柊様が、白髪の冒険者様と………し、衆道………みせ、つけ…………こん!?」

 

 柊に花瓶の水をぶっかけられ目を覚ます春姫。混乱してキョロキョロあたりを見回す。

 

「あ、ひ…柊様? えっと、そちらの方は…………! 金髪の剣士様の恋人の…………」

「え? 金髪の剣士って…………ア、アイズさん!? ち、違いますよ!」

 

 と、顔を真赤にして否定するベル。春姫は首を傾げる。

 

「ですがダンジョンで助けられた後、二人で夜の街に」

「それはお前の妄想だろうがムッツリエロ狐」

「コン!」

 

 柊の言葉にショックを受ける春姫。ションと俯く。

 ところで、春姫の今の格好なのだが…………着物ははだけた上に、水をかけられ乱れた髪が肌に張り付き、水を吸った着物は体の輪郭を顕にしている。

 柊の言葉に、赤くなった頬を追加しておこう。後柊を上目遣いで見ている。

 

「クシュン…………一先ず着換えてよろしいでしょうか?」

「そうだな…………ベル、一旦別の部屋に──」

 

 ベルは顔を真赤にして気絶していた。

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